第五話「容疑者の聞き込み」
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前回、エドガーは5件の連続盗難事件を調査し、
屋根の上で犯人らしき若い男を目撃しました。
しかし、犯人は逃走——
今回は、その犯人の正体を突き止めるため、
エドガーが村中を回って聞き込みを行います。
そして、意外な人物が容疑者として浮上——!?
第五話「容疑者の聞き込み」、どうぞお楽しみください。
犯人を目撃してから、一夜が明けた。
俺——エドガー・クロウは、早朝から行動を開始した。
昨夜見た犯人の顔。若い男、おそらく十代後半。痩せた体型、素早い動き——
あの特徴を持つ人物を、村で探す。
セバスチャンに朝食の支度を任せ、俺は身支度を整える。
「若様、今日も調査ですか?」
「ああ。犯人を見つけるまで、諦めない」
「お気をつけて」
セバスチャンが心配そうに見送ってくれる。
俺は村へ向かった。
*
まず向かったのは、衛兵詰所だ。
バーナード隊長に、昨夜の報告をしている。
「若い男、痩せた体型、素早い動き——そうですか」
バーナード隊長が考え込む。
「その特徴に当てはまる者……村には何人かいるでしょうな」
「手配はしていますか?」
「ええ。衛兵たちに伝えて、村の出入り口を監視しています。ですが、まだ見つかっていません」
俺は地図を広げる。
「バーナード隊長、この村の若い男性で、その特徴に当てはまる人物をリストアップできますか?」
「やってみましょう」
バーナード隊長は、村の住民台帳を取り出す。
十代後半の男性——
名前が、次々と挙がる。
「まず、パン屋のトマスの息子、ピーター。十七歳です」
「次に、鍛冶屋の弟子、マルコ。十九歳」
「それから、農家の息子、ハンス。十八歳」
「あとは——」
バーナード隊長は少し躊躇する。
「グレゴリー商会の使用人、ルーク。十八歳です」
「グレゴリー商会?」
俺は眉をひそめる。
グレゴリーは、俺が最初に盗難事件を解決した商人だ。
その屋敷の使用人が、容疑者?
「ただの偶然かもしれませんが……一応、名前を挙げておきます」
「分かりました。全員、話を聞いてみます」
俺は立ち上がる。
「バーナード隊長、彼らの住所を教えてください」
*
最初に訪ねたのは、パン屋のトマスだ。
決闘裁判の冤罪を解決してあげた人物だ。
「エドガー様! いらっしゃい!」
トマスが笑顔で迎えてくれる。
「息子さんに、少し話を聞きたいのですが」
「ピーターに? どうぞどうぞ」
トマスは奥へ声をかける。
「ピーター! エドガー様が来てくださったぞ!」
しばらくして、若い男が出てくる。
痩せた体型——確かに、昨夜見た犯人と似ている。
「初めまして、エドガー様。父から話は聞いています」
ピーターは礼儀正しく頭を下げる。
「ピーター、昨夜——夜中に、外に出ていたか?」
俺は単刀直入に尋ねる。
ピーターは驚いた顔をする。
「夜中? いえ、家にいました。なぜですか?」
「実は、連続盗難事件の犯人を目撃したんだ。その特徴が、君に似ていた」
「ぼ、僕が犯人だと!?」
ピーターは慌てる。
「いえ、まだ決めつけてはいません。ただ、確認したいんです」
「僕は、本当に家にいました。父も証明できます!」
トマスが割って入る。
「エドガー様、ピーターは昨夜、ずっと家にいました。私が見ていました」
「何時頃まで?」
「夜の十時頃まで、一緒にパンの仕込みをしていました。それから二人とも寝ました」
俺は考える。
犯人を目撃したのは、深夜一時頃。
十時に寝たなら、その後外出した可能性もある。
だが——
俺はピーターの手を見る。
パン職人の手。小麦粉で少し荒れているが、綺麗だ。
昨夜の犯人は、屋根に登っていた。手には、擦り傷や汚れがあるはずだ。
だが、ピーターの手には、そういった痕跡がない。
「分かりました。ありがとうございました」
俺はトマスとピーターに礼を言い、パン屋を後にした。
*
次に訪ねたのは、鍛冶屋だ。
弟子のマルコに話を聞く。
「俺が、盗難の犯人?」
マルコは不機嫌そうに言う。
「まだ決めつけてはいません。確認したいだけです」
「昨夜、どこにいましたか?」
「ここだよ。親方と一緒に、剣の修理をしていた」
親方——鍛冶屋の主人が頷く。
「ああ、マルコはずっとここにいた。夜の十一時頃まで働いていたよ」
「その後は?」
「二階の部屋で寝たよ」
マルコが答える。
「一人で?」
「ああ」
つまり、十一時以降のアリバイはない。
俺はマルコを観察する。
がっしりとした体格。筋肉質。
昨夜の犯人は、痩せていた。体格が合わない。
「分かりました。ありがとうございました」
*
三人目は、農家の息子、ハンスだ。
村の外れの農家を訪ねる。
「ハンス? あの子なら、畑にいるよ」
母親らしき女性が教えてくれる。
畑に行くと、若い男が野菜の手入れをしていた。
「ハンス?」
「はい、そうですが……」
ハンスが振り向く。
痩せた体型。年齢も合う——
だが、顔が違う。
昨夜見た犯人は、もっと鋭い目つきをしていた。
「昨夜、どこにいましたか?」
「畑の見回りをしていました。夜盗が出るので」
「一人で?」
「いえ、父と一緒です」
父親が近づいてくる。
「ああ、昨夜は二人で見回りをした。夜中の二時頃まで、交代で見張っていたよ」
二時まで——では、アリバイがある。
「分かりました」
*
三人とも、決定的な証拠はない。
だが、完全に疑いが晴れたわけでもない。
俺は最後の一人——グレゴリー商会の使用人、ルークのもとへ向かった。
*
グレゴリー邸。
以前、盗難事件を解決した場所だ。
門番に用件を告げると、中に通してくれた。
「エドガー君! また来てくれたのか!」
グレゴリーが出迎える。
「はい。実は、使用人のルークに話を聞きたいのですが」
「ルークに? 何か問題でも?」
「いえ、連続盗難事件の件で、確認したいことがあるだけです」
「そうか。ルークを呼ぼう」
しばらくして、若い男が現れた。
痩せた体型。素早そうな動き——
そして、顔——
俺は、息を呑む。
似ている。昨夜見た犯人に、非常に似ている。
「ルークです。何か御用ですか?」
ルークが礼儀正しく尋ねる。
「昨夜、どこにいましたか?」
「昨夜? ここの屋敷にいました」
「何時頃まで?」
「夜の十時頃まで、グレゴリー様の身の回りの世話をしていました。それから、使用人部屋で寝ました」
「一人で?」
「いえ、他の使用人と相部屋です」
グレゴリーが補足する。
「ルークは真面目な子だよ。盗みなんてするはずがない」
だが——
俺は、ルークの手を見る。
細かい擦り傷。爪の間に、少し黒い汚れ——
これは——屋根の煤?
「ルーク、その手の傷は?」
「え? ああ、これは……昨日、荷物を運んでいて、壁にぶつけました」
「爪の汚れは?」
「……掃除をしていて」
ルークの表情が、微かに強ばる。
俺は——確信する。
この男が、犯人だ。
だが、証拠がない。
アリバイも、一応ある。
どうする——
その時、俺の頭の中で『記憶宮殿』が展開される。
情報が、整理されていく。
五件の盗難事件。全て、グレゴリー邸の近隣——
いや、待て。
確認した被害者リスト——
グレゴリー邸、ミラー邸、そして——あと三軒。
その三軒は、全てグレゴリー商会と取引がある家だった。
つまり、ルークは——仕事で、それらの家に出入りしていた可能性が高い。
だから、家の構造を知っている。
煙突や通気口の位置も、知っている。
そして——
俺は、もう一つ気づく。
グレゴリー邸で最初に盗難が起きた時、犯人はエミリー(女中)だった。
エミリーは、煙突を使って盗んだ。
ルークは、その手口を見ていたのかもしれない。
そして、模倣した——
「ルーク」
俺は静かに言う。
「君が、犯人だ」
ルークの顔が、一瞬青ざめる。
「な、何を——」
「君の手の傷と汚れ。屋根に登った痕跡だ」
「それに、被害者の家は全て、グレゴリー商会と取引がある。君が出入りしていた家だ」
「さらに、君はエミリーの盗みの手口を知っていた。だから、同じ方法を使った」
グレゴリーが驚く。
「ルーク、本当なのか!?」
ルークは——沈黙する。
そして——
「……すみません」
彼は膝をつく。
「全て、僕がやりました」
グレゴリーが、愕然とする。
「なぜだ、ルーク! お前には、給金を払っていただろう!」
「すみません……でも、母が病気で……薬代が必要で……」
ルークは泣き出す。
「給金だけでは、足りなかったんです……」
俺は——複雑な気持ちになる。
ルークの動機は、エミリーと同じだ。
家族のため。
だが、盗みは盗みだ。
*
ルークは、衛兵に引き渡された。
グレゴリーは、ルークの母親の治療費を出すと約束した。
そして、ルークには寛大な処置を求めると——
俺は、グレゴリー邸を後にした。
*
夕方、俺は自室で今日の出来事を整理していた。
連続盗難事件、解決。
犯人は、ルーク。動機は、母親の治療費。
だが——
俺は、すっきりしない。
ルークもエミリーも、追い詰められて盗みに走った。
この世界には、病人を助ける仕組みが足りない。
貧しい者は、高額な治療費を払えない。
だから、犯罪に手を染めるしかない——
それは、間違っている。
制度が、間違っている。
だが、俺一人では、制度は変えられない。
今できることは——
一つ一つの事件を解決し、少しずつ、この世界を変えていくことだ。
コンコン。
扉がノックされる。
「若様、バーナード隊長がいらっしゃいました」
「通してくれ」
バーナード隊長が入ってくる。
「エドガー殿、見事でした。ルークが全て自白しました」
「そうですか……」
「あなたのおかげで、連続盗難事件は解決しました。村の人々も、安心していますよ」
バーナード隊長は、俺の肩を叩く。
「それと——少し相談があるのですが」
「相談、ですか?」
「ええ。実は、隣町で不可解な事件が起きているという報告がありまして……」
バーナード隊長は資料を取り出す。
「ある商人が、密室で死亡しているのが発見されたそうです。自殺か、事故か、それとも——」
「殺人、ですか」
「可能性はあります。隣町の衛兵隊長から、もし推理に詳しい者がいれば協力してほしいと」
俺は資料を受け取る。
密室——
これは、もしかしたら、初めての本格的な殺人事件かもしれない。
「分かりました。詳しく調べてみます」
「ありがとうございます。では、また明日」
バーナード隊長が帰った後、俺は資料に目を通す。
被害者:商人のレオナルド。四十代。独身。
発見場所:自宅の書斎。内側から鍵がかかっていた。
死因:不明。外傷なし——
興味深い。
俺は、資料をノートに書き写し始める。
明日、隣町に行く必要がありそうだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
第五話では、エドガーが聞き込みを重ね、犯人を特定しました。
今回のポイントは、エドガーの「観察眼」と「論理的推理」でした。
手の傷、爪の汚れ、被害者と犯人の関係——
細かい情報を集め、繋げて、真実に辿り着く。
それが、探偵の仕事です。
また、犯人ルークの動機——母親の治療費。
これは、エミリーと同じでした。
エドガーは、この世界の制度の問題に気づき始めています。
次回、第六話からは、少し小休止。
エドガーの日常と、新たな小さな出来事を描きます。
焦らず、丁寧に、物語を紡いでいきます。
これからも、どうぞお付き合いください。
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次回もお楽しみに!




