第四話「隣家の盗難」
お読みいただきありがとうございます!
そして第三話では、少年トムの失踪事件を解決。
探偵としての決意を固めました。
第四話「隣家の盗難」、どうぞお楽しみください。
トムの失踪事件から、二日が経った。
俺——エドガー・クロウの評判は、少しずつ広がっていた。
グレゴリー邸の盗難、トマスの冤罪、トムの救出——
三つの事件を解決したことで、村の人々は俺を「頼れる若様」と呼ぶようになった。
魔力ゼロの役立たず——以前はそう陰口を叩かれていたが、今は違う。
それは、嬉しいことだ。
だが——
俺には、まだやるべきことがある。
トムを誘い出した幻覚剤の謎。あれは、まだ解決していない。
誰が、なぜ、あんなものを森に置いたのか?
バーナード隊長が調査を進めているが、手がかりは掴めていないらしい。
俺も、独自に調べる必要がある。
*
午前中、俺は村を歩き回り、情報収集をしていた。
雑貨屋、パン屋、鍛冶屋——顔なじみの店主たちに、何か変わったことがなかったか尋ねる。
だが、有力な情報は得られない。
昼過ぎ、俺はクロウ家に戻ろうとしていた。
その時——
「エドガー様! エドガー様!」
後ろから、女性の声。
振り返ると、グレゴリー邸の女中——エミリーが息を切らして走ってくる。
「エミリー? どうした?」
「大変なんです! また、盗難が!」
「盗難?」
俺は眉をひそめる。
以前、エミリーがグレゴリー邸の宝石を盗んだ事件。あれは解決したはずだ。
「誰が盗んだんだ?」
「分かりません! 今朝、旦那様の書斎から、大切な書類が消えたんです!」
「書類?」
「はい。商会の重要な契約書だそうです。旦那様、大慌てで——」
エミリーは泣きそうになっている。
「また、私が疑われるんじゃないかって……」
「大丈夫だ。落ち着いて」
俺はエミリーを落ち着かせ、グレゴリー邸へ向かった。
*
グレゴリー邸の書斎。
グレゴリーが、頭を抱えて座っていた。
「エドガー君! 来てくれたか!」
「はい。詳しく聞かせてください」
グレゴリーは説明する。
今朝、書斎に入ると、机の上に置いていた契約書が消えていた。
契約書は、ある大口取引に関する重要なもの。それがなければ、取引が成立しない。
「昨夜、確かにここに置いていたんだ。朝起きたら、消えていた」
「書斎の鍵は?」
「いつも、私が持っている」
グレゴリーが鍵を見せる。
「窓は?」
「施錠してあった」
「では、誰かが鍵を使って侵入した?」
「だが、合鍵はない。この鍵は一つだけだ」
また密室——
俺は書斎を調べる。
窓、扉、机——
そして、気づく。
暖炉がある。
以前、エミリーが盗みに使った通気口とは違う。だが——
「グレゴリーさん、この暖炉は?」
「使っていない。夏だからね」
俺は暖炉に近づき、煙突を見上げる。
煙突の中——何か、引っかかっている?
「ロープを借りてもいいですか?」
「ああ、もちろん」
*
ロープを使って、煙突の中から一つの包みを引き上げた。
開けると——
契約書だ。
「これは!」
グレゴリーが驚く。
「なぜ、こんなところに!?」
「犯人が隠したんです。後で回収するつもりだったんでしょう」
「犯人? エミリーか?」
「いえ」
俺は首を横に振る。
「エミリーは、以前の件で監視されています。彼女には無理です」
「では、誰が?」
「まだ分かりません。ですが——」
俺は包みを見る。
包み方が、以前のエミリーの事件の時と似ている。
偶然か? それとも——
「グレゴリーさん、最近、他に盗難の報告はありませんでしたか?」
「他に? いや、私は聞いていないが——」
その時、執事のジェイコブが部屋に入ってきた。
「旦那様、報告です。村の商人ミラー氏が、『銀食器が盗まれた』と騒いでおります」
「ミラー氏も?」
グレゴリーが驚く。
「いつだ?」
「昨夜だそうです」
俺は——直感する。
これは、単発の事件ではない。
連続盗難事件だ。
*
俺はすぐに、ミラー氏の家へ向かった。
ミラー——村の織物商人だ。裕福な家庭。
「エドガー様、来てくださったんですか!」
ミラー氏が喜ぶ。
「はい。詳しく聞かせてください」
ミラー氏の話では——
昨夜、食堂の棚に置いていた銀食器が、今朝消えていた。
窓と扉は施錠されていた。
侵入の形跡はない。
「銀食器は、何点ですか?」
「フォーク、ナイフ、スプーンのセット。全部で十二点です」
「高価なものですか?」
「ええ。代々受け継がれてきた家宝です」
俺は食堂を調べる。
窓、扉——そして、やはり暖炉がある。
「ミラーさん、煙突を調べてもいいですか?」
「煙突? ああ、どうぞ」
俺は煙突を調べる。
だが——今回は、何も見つからない。
では、犯人はもう回収したのか?
いや、待て。
俺は部屋をもう一度見回す。
そして——天井の隅に、小さな通気口を見つける。
「この通気口は?」
「換気用です」
俺は椅子を使って、通気口に近づく。
格子を外し、中を覗く——
何かが、引っかかっている。
手を伸ばし、取り出す。
布の包み。開けると——
銀食器だ。
「あった!」
ミラー氏が驚く。
「なぜ、こんなところに!?」
「犯人が隠したんです」
俺は包みを見る。
包み方が、グレゴリー邸の時と同じだ。
これは——同一犯だ。
*
俺はすぐに、バーナード隊長のもとへ向かった。
衛兵詰所で、事情を説明する。
「二件の盗難。どちらも、盗品は煙突や通気口に隠されていました」
「同じ手口……では、同一犯か」
「おそらく。そして、まだ他にも被害があるかもしれません」
バーナード隊長は頷く。
「分かった。すぐに村中に聞き込みをする」
*
その日の夕方。
バーナード隊長から報告があった。
さらに三件、同様の盗難が発覚した。
被害者は、いずれも裕福な家庭。
盗まれたのは、金貨、宝石、美術品、高価な食器など。
全て、煙突や通気口に隠されていた。
「全部で五件……」
俺は資料を見る。
五件の共通点——
一、被害者は全て裕福な家庭
二、盗品は煙突や通気口に隠される
三、侵入の形跡がない
四、窓と扉は施錠されている
これは——以前のエミリーの手口と似ている。
だが、エミリーは監視されている。犯人は別だ。
では——
エミリーの手口を真似た、模倣犯?
いや、それだけではない。
何か、もっと大きな計画があるような——
「バーナード隊長、これは組織的な犯行かもしれません」
「組織?」
「一人では、五件も連続で盗むのは難しい。複数人が関与しているはずです」
「では、盗賊団か?」
「可能性はあります」
俺は考える。
盗賊団——もしそうなら、これは大きな事件だ。
村だけでなく、近隣の町にも被害が及ぶかもしれない。
「エドガー殿、力を貸してくれ」
バーナード隊長が頭を下げる。
「この事件、どうしても解決したい」
「もちろんです」
俺は頷く。
これは、俺にとって初めての大きな事件だ。
連続盗難——その背後にある真実を、必ず明らかにする。
*
その夜、俺は自室で事件の情報を整理していた。
五件の盗難。
被害者のリスト、盗まれた品物、犯行時刻——
全てをノートに書き出す。
そして、地図に被害者の家の位置を記す。
五軒の家——全て、村の中心部に集中している。
そして、全ての家に、煙突か通気口がある。
犯人は、それらを使って盗品を隠している。
だが、なぜ隠す?
すぐに持ち去れば、証拠も残らないのに——
もしかして、犯人はまだ盗品を回収していない?
いや、グレゴリー邸とミラー邸では、盗品は見つかった。
犯人は、回収する前に俺が見つけてしまったのだ。
では、他の三件は?
俺は立ち上がる。
今から確認すべきだ。
犯人が盗品を回収する前に——
*
深夜。
俺は三軒の被害者宅の近くで、張り込んでいた。
月明かりの下、静かな村。
時折、犬の鳴き声が聞こえるだけだ。
俺は物陰に隠れ、じっと待つ。
もし犯人が盗品を回収に来るなら、今夜かもしれない——
一時間——
二時間——
そして、三時間が経った頃。
一軒の家の屋根に、人影が現れた。
小柄な人影。動きが素早い。
犯人だ!
俺は物陰から出て、静かに近づく。
人影は、煙突の近くでしゃがみ込んでいる。
何かを引き上げているようだ——盗品を回収している!
俺は——飛び出す。
「待て!」
人影が驚いて振り返る。
月明かりで、顔が見える——
若い男。いや、少年?
少年は一瞬躊躇し、そして——屋根から飛び降りた。
「くっ!」
俺も追いかける。
だが、少年は素早い。路地を駆け抜け、森の方へ——
俺は全力で走るが、距離は開く一方だ。
くそ、体力が——!
やがて、少年の姿は闇に消えた。
俺は、息を切らして立ち尽くす。
逃げられた——
だが、犯人の顔は見た。
若い男。おそらく十代後半。
そして——
俺は、屋根に残された荷物に気づく。
少年が回収しようとしていた盗品だ。
俺はそれを回収し、衛兵詰所へ向かった。
*
翌朝、バーナード隊長に報告する。
「犯人を見ました。若い男、十代後半です」
「顔は?」
「はっきりとは見えませんでしたが、特徴は覚えています」
俺は犯人の特徴を説明する
痩せた体型、素早い動き、黒い服——
「分かった。村中に手配する」
バーナード隊長が頷く。
だが、俺には疑問が残る。
あの少年——どこかで見たような——
いや、気のせいか。
「エドガー殿、盗品は全て回収できた。被害者たちも喜んでいる」
「ですが、犯人は逃げました。まだ事件は終わっていません」
「ああ。だが、君のおかげで、大きな前進だ」
バーナード隊長が微笑む。
「それに——逃げた犯人の特徴は分かった。必ず見つかるだろう」
「そうですね」
俺は頷く。
あの若い男——痩せた体型、素早い動き。
村のどこかにいるはずだ。
明日から、本格的に聞き込みを始めよう。
お読みいただき、ありがとうございました!
第四話から、いよいよ「連続事件編」が始まりました!
五件の盗難事件——そして、謎の少年犯人。
犯人の正体、犯行の動機、そして背後にある真実——
じっくりと解き明かしていきます。
また、エドガーの情報収集能力、観察力、行動力が描写されました。
探偵として、少しずつ成長していく姿を見守っていただければ幸いです。
次回、第五話「容疑者の聞き込み」では、
エドガーが村中を回り、犯人の手がかりを探します。
そして、意外な人物が容疑者として浮上——!?
ご感想、ご評価いただけると励みになります。
次回もお楽しみに!




