第7話 アオの唇と残り香を思い出しながら魔犬と戦う。
闘技場は、誰でも見物できるようになっている。
冒険者志望者の試験は、娯楽であり、見世物でもあった。
見込みがありそうな新人がいれば、
観客席から声がかかることもある。
スカウト、勧誘、あるいは――賭けの対象。
挑戦者が強そうなら歓声。
弱そうなら嘲笑。
死にそうなら――まあ、それも娯楽。
ひどい話だが、そういう場所だった。
中央に立った男が、偉そうに胸を張る。
「オレがお前の試験官、エンオウだ!
これより試験を開始する!
Eランクから順に始めるが、クリアした時点でやめてもかまわん!」
一拍置いて、男は口角を歪める。
「ただし!
死んでも保障はない!
やめるなら今のうちだが、どうする!」
「死んでも仕方ないって言うなら、 アンタも同じよね?」
ワタシは反射的に指を突きつけていた。
床に描かれていた魔法陣が光を放つ。
重い魔力のうねりとともに、
巨大な魔犬が闘技場に姿を現した。
デカい。
巨大な犬型の魔獣――
デビルドッグ。
全長は三メートルを優に超えている。
観客席がざわついた。
「おい、あれCランクの魔物だぞ」
「あの嬢ちゃん、殺されるぞ……」
まじか、こいつ、本気でワタシを殺すきだ。
「いけ、デビルドッグ! あの女を――ぶち殺せ!!」
完全にアウトな命令じゃないのか?
試験とはいったい?
何それ?
ワタシは歯を食いしばり、剣を構えた。
来るなら来い。
ここで逃げたら、全部終わりだ。
そのとき・・・・
アオの香りがした気がした。
そして、唇の感触を思い出す・・・
って、私は何を考えているんだ!
アホか、私は!
雑念を振り払い、魔犬に真正面から向かう。
……だが。
来ない。
デビルドッグは、数歩進んだところで止まっていた。
「……クーン」
え。
ワタシを見て、
明らかに怯えている。
ひょっとして――
私の気迫に押されて?
「さあこい!ワン公!」
ワタシは声をはり威嚇する。
「どうした、デビルドッグ!やれ何をしている!」
エンオウが魔犬をけしかける。
次の瞬間だった。
「――グルルルル……!」
低く、唸り声が響く。
だが、その威嚇の向きは――
ワタシではなかった。
デビルドッグは、
主人であるはずのエンオウを睨みつけていた。
「グアアアア!」
魔犬がほえる!
次の瞬間、 巨大な魔犬がエンオウに向かって跳躍する。
観客席が、一斉にどよめいた。
やばい!
その瞬間、さっき奪われた私の唇が熱くなる。
そして、体に魔力がみなぎる。
ワタシは驚きながらもデビルドッグに向かい魔法を放つ!
「突風波!」
その瞬間、かつてない暴風が発生し、魔犬を吹き飛ばし、壁に激突させる。
今だ!
さらに、剣を握る手が、いつもより軽かった。
ワタシはすかさず追撃し、魔犬の眉間に剣を突き立てたのだった。
「オオオオ!すげー!」
「あんな突風波みたことねえ!」
「いいぞ、嬢ちゃん!おれとパーティー組もうぜ!」
観客席が沸いていた。
なんだったんだあの力は。
さっきの、あの力は。
いつもの突風波とは、明らかに違った。
そして、またしてもアオの唇の感触を不覚にも思い出して、再度、顔が紅潮したのを感じた。




