第52話 フェンリル
天空より白く輝く毛並み、神々しいオーラすらまとってフェンリルが舞い降りた。
「なんということでしょう!ウルファーJr.選手、本当に伝説の神獣、フェンリルを召喚してしまいました!」
「「おおおお!」」
「「フェンリルは本当にいたんだ!」」
「「すげーぜ、ウルファーJr.様!!」」
会場の一気にウルファーJr.コールが鳴り響く。
「ざまあみろ!これであの女もおわりだ!」
観客席からみていたビーカとその仲間も勝利を確信する。
フェンリルは全長10メートルはある巨体とは思えない身軽さで、ヴァナルガンドに近づき、そっとヴァナルガンドをなめる。
すると見る見るヴァナルガンドが回復していく。
「なんということでしょう!ヴァナルガンドが回復してしまいした!これではビゼン選手はフェンリルとヴァナルガンドの2体を相手にせねばなりません。」
ガルウウ(大丈夫か?サイクロンよ。)
クーン(申し訳ございません。フェンリス様、まさか、人間におくれをとるとは。)
“フェンリス”懐かしい名前だ、初代ウルファーに名付けられた名前である。
今そのように呼ぶもののは少ない。
グルルルル(フェンリス様が来ていただければあのようなもの、相手ではありますまい。)
「なるほど、これは格が違うな!だが!」
ビゼンは青竜冷艶鋸を構え、フェンリルに対峙する。
「馬鹿め!そんなものがオレのフェンリルに通じるか!」
ウルファーJr.はフェンリルの影にかくれながら勝利を確信する。
(「オレの」フェンリルだと?)
フェンリルはウルファーJr.に文句を言おうとするが、その前に、奇妙な気配を感知する。
(あの女がもっている薙刀から神の気を感じるだと?)
「まて、お前、なんだその剣は?」
フェンリルは人の言葉でビゼンに問う。
「驚いたな。お前、人の言葉がわかるのか。さすが本物はちがうな。これこそあちらにいらっしゃる、青龍・アオ様よりわが先祖が賜りし、神剣だ。」
そういって、ビゼンは観客席のアオのほうをちらりと見る。
「貴様にも通じるか試してやる!」
そういわれて、フェンリルは観客席のほうに目をやる。
「あ、こっちにきづいたね。」
アオはヨクトにそう言って、フェンリルに手を振る。
「ああああああああ!アオ様!」
フェンリルは思わず固まる
そう、初代ウルファーに紹介した神はアオだった。
(アオ様の剣を持つものと戦うなど、アオ様に逆らうもおなじではないか!)
フェンリルはおもわず、あとずさる。
そして、半神ゆえに人では気がつかぬ神の気配に気がつく。
貴賓席にクロの姿をみつける。
(あ、あ、あのお方は!?玄武竜・クロ様⁉)
いや、まだだ、まだ何かおかしい、思わず周囲を確認するフェンリル。
(フェンリス様?)
フェンリルの様子がおかしいことにヴァナルガンドも気がつく。
「あーっと、どうした?フェンリル、ビゼン選手を前にあとずさり、何やら周囲を警戒しているようだ!」
フェンリルはふと、実況の声の方を振り向く。
そして、そこにプリンセスマスクに扮した究姫の姿をみつける。
(あ、あれは究姫様まで!!ありえん!どういう状況だ!これは!)
(フェンリス様、どうされましたか?早くあのダークエルフをがぶっと!)
グァアアア!(このボケガアアアア!なぜ、気がつかん!)
フェンリルはヴァナルガンドを前足で踏みつける。
そして、フェンリルは、観客席、貴賓席、実況席にお辞儀のように頭をさげた。
「ど、どういうことだ?」
状況をつかめないウルファーJr.
…!?
そんなウルファーJr.を無視して、フェンリルはヴァナルガンドの首を加えるやいなや、大空に駆けあがって消えていった。
…!?
闘技場が静寂に包まれる。
「な、なんということでしょう!事情はわかりませんが、なんとフェンリルは戦いを放棄し、去ってしまいましたああああ!」
ざわざわざわ
ざわつく観衆、そして波のように起こる。
「「おおおおおおおおおおお!」」
「すげーぞ、フェンリルが逃げ出したぞ!」
「ビゼン!ビゼン!ビゼン!」
巻き起こるビゼンコール。
(どうやら、アオ様に救われてしまったか。)
ビゼンは心の中で自嘲しつつ、アオのほうに頭を下げる。
(しかし、まだ戦いは終わっていない。)
ビゼンは再びウルファーJr.のほうをむく。
「さあ、どうする。このまま死ぬか、降伏するか、好きなほうを選べ。」
ウルファーJr.は何がおこったかさっぱりわからなかった。
「ふ、ざけるなあああ!無効だ、無効!こんな試合!実況!いますぐ、試合の無効を宣言しろ!」
ウルファーJr.は実況に試合の無効を命令する。
「え、え、えっと‥…」
どうしてよいかわからず固まる実況。
しかし、その時、一人の初老の男が実況からマイクを奪い取る。
「あ、あなたは?」
実況が思わず声をもらす。
「いい加減にしろ!この馬鹿が!」
その声を聞き、ウルファーJr.が固まる。
「お、親父!なぜここに⁉」
「まずは会場のお集まりの皆様にお詫びを申し上げます。私、ウルファー=ロキと申しまして、あそこにいる愚息の父でございます。」
ざわざわ。
「あれが初代か。」
「貫禄が違うな。」
ざわつく観衆。
「愚息ではありますが、むざむざ殺されることは忍びない。このたびの戦い勝敗は誰が見ても明らか!私が責任をもって、愚息の私財からビゼン選手にお支払いする金貨26000枚回収し、この試合の外ウマの賞金もすべて愚息の私財で清算し、不足分は私が埋め合わせいたします!」
「「おおおおお!」」
「すげーぜ!」
「さすがだ!」
会場がさらに沸き上がる。
「親父!ふざけるな、オレはどうなるんだ!」
ウルファーは息子に毅然としていう。
「お前は勘当だ!なお、私が払った不足もきっちり回収するから冒険者でもして返すんだな!」
「そ、そんな。」
ウルファーは膝から崩れ落ちた。
「なお、ビゼン殿、そしてお連れ様方、後ほど改めてご挨拶に伺います 。」
「「おおおおお!」」
会場はビゼンコールでわき、ビゼンはフェンリルが逃げた戦士として名を残すことになった。
◇
「お久しぶりです。アオ様。そしてこのたびは申し訳ございませんでした。」
アオと合うなり、アオとビゼンに頭を下げるウルファー。
「久しぶりだね。何十年ぶりかね。」
こたえるアオ。
「そして、このたびの戦い、見事でしたビゼン殿。」
そういってビゼンの健闘をたたえる。
「どういう関係なんだ、この人と。」
ソウが目を丸くしてアオに聞く。
「ウルファー君がね、駆け出し冒険者だったころ、一緒に冒険してたことがあってね。その時にこのフェンリルにウルファー君を守ってくれと頼んだんだよ。」
そういって、ウルファーのよこに控える中型犬を指さす。
「このフェンリルって‥‥?」
ソウが中型犬に目をやる。
「お久しぶりです。アオ様。先ほどは失礼いたしました。」
「「しゃ、しゃべったああああ!」」
ヨクト、ビゼン、ソウの三人が声をあげる。
「久しぶりだね、フェンリス。」
そういって、アオはフェンリルの頭をなでる。
「か、勘弁してください、アオ様、我は犬ではありませぬ。」
フェンリルはそういって、ウルファーの後ろに隠れる。
「おいおい、フェンリス隠れることはないだろう。」
そういってウルファーは笑う。
「うるさい!ウルファー!だいたいお前が子供の教育をちゃんとしとかないのが悪いんだぞ!」
「しかし、ビゼン殿、あなたには改めてお礼を言わねばなりません。これであのバカ息子も多少は懲りたでしょう。」
「うむ、そうだな。あの”サイクロン”も自分より弱いものばかり相手をして調子にのっていた。いい薬になるだろう。」
「いえ、最後はアオ様に助けられたようです。私はまだまだです。なんとお礼を申し上げていいか。」
そういってビゼンはアオのほうをみる。
「あらそう?じゃあ、それは別の形でもらうわね。」
アオは意味深な笑いをする。
「ところでアオ様がいらっしゃったということは、この町に用があったのでは?」
ウルファーはアオにたずねる。
「実は‥…」
ビゼンはこれまでの経緯を話す。
奴隷商人カクがこの町に潜伏していないか、朱雀竜アカをみつけて、革命軍が来ても攻撃しないように頼みたいことを。
◇
「なるほど、奴隷商人カクですか。わかりました。すぐに手のものに探させましょう。そちらはご安心ください。しかし、朱雀竜様は‥‥‥」
「聞いたことはないか?」
ヨクトも再度確認をする。
「あのお方は…ご存じでしょうが、見たものが自分の顔を忘れるようにされているので。何か気がつき次第情報はお届けしますが、」
「だよな…」
ヨクトがうでをくむ。
「さっきまでここに、クロと究姫がいたよね。あいつらどこにいったしらない?」
アオがウルファーに聞く。
「え?あのお二人もいらっしゃったのですか?」
「たぶんね、クロのやつはアカの行方は知っているというか、しょっちゅう会ってると思うんだけどね。究姫はプリンセスマスクとか言って解説してたじゃないか。君のところで雇ってるんじゃないの?」
「は?あれが究姫様だったのですか?私も経営は一線を引いていたもので…まさか究姫様がそんなことをされているとは夢にもおもわず‥‥‥」
「あと、もうひとつ、頼みたいんだけど。」
「なんでしょうか。私にできることなら・」
「この子、ソウっていうんだけどね。君のところでやとってやってくれない?」
そういってアオはウルファーにソウを紹介する。
「ま、まあ、そんなことでしたら。」
「ちょ、ちょって待ってくれ!」
そういってソウが止める。
「オレ、あんたらの仲間にしてくれよ!アオ様、ヨクトの兄貴、ビゼンの姉貴!」
「私は構わんが、私たちの一存では…」
ビゼンがとまどう。
「まあ、いいじゃねえの。アビのやつもきっとこいつを気にいるよ!」
ヨクトがソウの肩を叩く。
「兄貴!」
そういってソウが目を輝かせる。
「まあ、そういうことなら、ウルファー君、今のはなしで!」
アオがウルファーに断りをいれる。
「わかりました。では、奴隷商人カクとやらは見つけ次第、ご連絡します。なに、この町で私にわからないことなどありません。数日おまちいただければと思います。
◇
「破滅だ…。オレはどうすれば…」
ボロボロになりながらウルファーJr.は路地をさまよっていた。
ウルファーから勘当されたことはすでに知れ渡っていた。
もう自分を守ってくれるものは何もなくなった
先ほどもチンピラに絡まれ、わずかに所持していた金、貴金属を全て奪われた。
階段に座り込む。
(これからどうすればいい。)
そう考えた時、目の前に1人の女がたった。
「力を取り戻したいかい?」
目線を上げると、どこかでみたような金髪、金色の瞳の美女が立っていた。
「お前は…!いや、あなた様は究姫様!生きておいででしたか!」
「いや、さっきも会ってただろ。」
そういって、究姫はプリンセスマスクをかぶる。
「あああああ!プリンセスマスクも究姫様だったのですか!」
そういって、ウルファーJr.は跪き、頭を地面にこすりつける。
「どうか!私をお救いください!究姫様!」
究姫はわらって頭に手をやる。
「あんたには、面白い仕事をさせてもらったからねえ。きっかけはやるよ。」
そういって、究姫はウルファーJr.に力を与える。
「この力、どうなるかはアンタ次第だ。私を楽しませてくれよ。またな」
究姫の姿が消え、ウルファーJr.が頭を上げた時、自分の体の中に何かの力が入っているのを感じた。
ここにあらたな魔人の種がまかれたのだ。
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