表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドで死亡扱いされた私が、神と邪神に愛され最強で最高のダークヒロインになる。  作者: 黒木菫
桃園血盟~後宮~編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/61

第51話 ヴァナルガンド

「さあ!いよいよ最終戦です!5回戦、すべて勝利した挑戦者はここまでいません!ついにあの伝説の魔獣とそのテイマーが登場します!15分の休憩をはさんで登場です!そのままお待ちください!観客の皆さんはベットをお忘れなく!」


「おれはあのねえちゃんにかけるぞ!」


「伝説魔獣ってフェンリル様だろ!勝てるわけないだろう!」


「フェンリルなんかいるわけないだろ!」


会場がざわめく。


「フェンリルなんて本当にいるんですか?」


ヨクトがアオに聞く。


「少なくとも今ここにはいないね。」


「今ここには、というと?」


「フェンリルなら駆けてくれば間に合う距離に魔力は感じるよ。あっちの方向。」


アオは会場の一点を指さす。


ヨクトも視線を向けるが、何も見えない。


「ただ、今はこっちに意識すらないよ。関係ないんじゃない。」


「なら問題ないですね。」


「それよりヨクト、悪いけど今のうちにジュースとおやつ買ってきてくれる?」


「はいはい、わかりました。」


ヨクトはため息をつきながら売店に向かった。





「これで、私との勝負も金貨5000枚の負けだね。Jr.」


クロは目の前に山のような金貨を積み上げながら、人を小馬鹿にした笑みを浮かべる。


「次はオレが出る。オレにはフェンリルがいる。負けるわけはないよ。旦那。」


ウルファーJr.は余裕の表情を見せる。


ビーカが負けたのは予想外だった。しかし、問題はない。自分が出ればすべて終わるのだから。


ウルファーJr.は勝利を確信して闘技場に向かう。


「フェンリルねえ。」


クロはその背中を見送りながら呟く。闘技場にフェンリルの気配はない。


(なにを勘違いしてるんだか。)


(百歩譲ってフェンリルが来たところで意味はないけどね。)


どちらにせよ、ウルファーJr.は終わりなのだ。



「さあ、ここまで勝ち上がってきましたビゼン選手!しかし、最後の壁が立ちふさがる!この闘技場の主!最強のビーストテイマー、ウルファーJr.!そして魔獣フェンリルの登場です!」


実況がそう告げると同時に、ウルファーJr.が全長5メートルはある黒い狼を伴って入場してくる。


「「うおおおお!フェンリル様だ!」」


「「本当にいたんだ!」」


会場が湧き上がる。


「直接フェンリルを見るのは私も初めてです!これまで数々の冒険者を退けてきた伝説の魔獣!ビゼン選手はどう戦うのでしょうか!解説のプリンセスマスクさん!」


「あー、あれは厳密にはフェンリルじゃないよ。ヴァナルガンドだ。」


プリンセスマスクは静かに答える。


「え?違うんですか?」


「ヴァナルガンドが数百年生き、上位存在に認められ進化したものがフェンリルだよ。フェンリルの毛は白い。あいつはヴァナルガンドで、しかもまだ若いな。たぶんあいつの毛や爪を使ってさっきの連中の武具を作ったんだろうけどね。」


「なるほど!プリンセスマスクさん、さすがの解説です!」


「もっとも、人類にとっての脅威という意味では同じだから、同一視するやつもいるかもしれないけどね。」





「おい、貴様、降参するなら今のうちだ。命まではとらん。」


ウルファーJr.はヴァナルガンドの横で吠える。


「面白い。ようやく骨のありそうな相手が現れたな。」


ビゼンは静かに薙刀を構える。


「減らず口を!いけ、”サイクロン!”殺しても構わん!」


ウルファーJr.が合図をすると、サイクロンと呼ばれた巨大な狼がゆっくりとビゼンに近づく。


一歩。


また一歩。


そして次の瞬間、ヴァナルガンドが地を蹴った。


速い。


ビゼンとヴァナルガンドが交差した瞬間、ビゼンの姿が消える。


いや、吹き飛ばされていた。


しかし空中で体を捻り、受け身をとって着地する。


「おおおおおお!」


「なにが起こったんだ!」


「ビゼン選手吹っ飛ばされました!やはりこの戦いは無理があったか!」


しかしヴァナルガンドは追撃に向かわない。


「いや、なぜだ!ヴァナルガンドが追撃しない!これはいったいどういうこ――」


実況が言いかけた時、ヴァナルガンドの口元に気がついた。


犬歯が根元からたたき切られ、真っ赤な血が滴り落ちている。


闘技場の砂の上に、巨大な犬歯が転がっていた。


「な、なんと!ビゼン選手、あの一瞬でヴァナルガンドの犬歯を叩き切っていたああ!見えましたか!プリンセスマスクさん!」


「ヴァナルガンドは一噛みで終わらせようとした。しかしビゼンはその瞬間に犬歯を叩き切った。前足に吹き飛ばされたのはその余波だな。」


「ということは、相打ちということでしょうか?」


「それはどうかな。」


プリンセスマスクは笑って答える。


ヴァナルガンドは驚愕していた。


まさかダークエルフなどに傷を負わされるとは。一噛みで終わらせるつもりだったが、そう簡単にはいかないらしい。


ヴァナルガンドはビゼンを敵と認めた。


「あーっと!ヴァナルガンドの傷が回復し、牙が再生されていきます!」


ビゼンは再び青竜冷艶鋸を構えた。







闘技場よりはるか彼方。


雲を突き抜けた標高1万メートルの頂。人の足が届かぬその場所で、フェンリルは仕留めた怪鳥を静かに食らっていた。


眼下には雲海が広がり、遥か下方に人の世界がある。フェンリルにとってそれは、蟻の巣を見下ろすようなものだった。


その時、微かな気配を感じた。


(ほう、あいつが本気で戦うのか。何者だ。)


ヴァナルガンドの気配だった。普段は感じることのない、本気の殺気。


フェンリルは怪鳥から目を離し、遥か遠方に意識を向けた。


かつてフェンリルは、とある神の紹介で初代ウルファーという魔獣使いと出会い、気まぐれに獣魔契約を結んだ。世界各地を旅し、様々なものを見て、人の文化に触れた。その全てが、悪くはない時間だった。


その後、ウルファーが冒険者を引退し定住した地で守護獣として過ごしたこともあった。しかし戦いの機会はほとんどなく、フェンリルは退屈した。そこで二人は契約の在り方を変えた。とはいえ長き時を共に過ごした彼らにとって、契約などとうに親友同士の約束事に過ぎなかった。


ウルファーが政治の世界からも引退し、息子に跡を継がせた時、フェンリルも守護獣の役を若い眷属に任せた。万一の時はいつでも駆けつける。それだけの約束だった。


ここ数十年、自分が呼ばれたのはたった一度だけだった。


ぜひ一度戦ってみたいと思っていた相手だった。


四神の一柱、玄武竜クロ。


神にもっとも近い存在と言われた自分が、完膚なきまでに敗れた。敗北を知ったのは、生まれて初めてのことだった。


そして今、再び若い眷属が戦っている。


相手は明らかに神ではない。しかし何故か、神の気配も感じる。


(どういうことだ。)


フェンリルは立ち上がった。


その巨体が動くだけで、頂の岩盤が軋み、周囲の雲が渦を巻いた。


次の瞬間、フェンリルは天空を蹴った。


音速を超えた跳躍が大気を引き裂き、衝撃波が雲海を吹き飛ばす。眼下の人の世界など、フェンリルにとってはただの通過点に過ぎない。


眷属が戦う地へ向かって、神獣は空を駆けた。




「ウォオオオオオ!」


ヴァナルガンドが遠吠えをする。会場全体に響き渡るその咆哮に、観客たちが思わず身をすくめた。


「これは何かの合図でしょうか!プリンセスマスクさん!」


「全身の魔力で電気を張り巡らせたな。」


プリンセスマスクは静かに言う。その声だけが妙に落ち着いていた。


「ということは、触れるだけで感電するということでしょうか?」


「だな。だが全身に魔力シールドを張れば抵抗は可能だ。もちろんその分、魔力は消耗するがね。」


ビゼンはすでに全身の魔力を整え、抵抗を高めていた。



「でもあれじゃあ、触れることもできないんじゃ……」


ソウが不安そうに試合を見守る。


「まあ、あんなものじゃ冷艶鋸は防げないけどね。」


アオはポップコーンを頬張りながらジュースを一口飲み、あくまで冷静に言った。


「え、それって確かなんですか?」


ヨクトが思わず聞き返す。


「当たり前だよ。あの武器はヴァナルガンド程度の魔力など影響うけないからね。」


アオはそれだけ答えて、また口にポップコーンを放り込んだ。



再び、ヴァナルガンドがビゼンめがけて跳んだ。


5メートルの巨体が宙を舞う。その速度は先ほどより速い。全身に纏った電流が青白く輝き、着地の衝撃だけで闘技場の砂が吹き飛んだ。


しかしビゼンはすでに動いていた。


真横に大きく跳び、ヴァナルガンドの突進を紙一重でかわす。そして着地と同時に、薙刀を横に薙ぎ払う。


ヴァナルガンドは確信していた。


自分に触れた瞬間、この女は感電する。だからよける必要などなかった。


そして、その代償を支払うことになる。


ズバァッ!!


青竜冷艶鋸が高圧電流を無視し、ヴァナルガンドの毛並みと固い表皮を一閃した。


鮮血が舞う。


「グオオオオオオン!!」


ヴァナルガンドが絶叫する。思いもよらない痛みに巨体が揺れた。


ビゼンは止まらない。


薙刀を返し、左前脚を根元から切り飛ばす。さらに一歩踏み込み、左後ろ脚を薙ぎ払う。


ドォン。


巨体が傾いた。


「あああああ!ビゼン選手の凄まじい連撃!ヴァナルガンドがのたうち回る!再生も追いつかないようだ!しかし、この試合の選手はあくまでウルファーJr.選手!追い込まれたかあ!」


ウルファーJr.は言葉を失っていた。


あのヴァナルガンドが、成す術なく倒れている。


「この女……化け物か……!」


血に濡れた青竜冷艶鋸を提げ、ビゼンはゆっくりとウルファーJr.に向かって歩き始めた。


ヴァナルガンドの返り血が頬を伝う。それでもビゼンの表情は変わらない。


「さあ、次はお前か?」


静かな声が闘技場に響いた。


「「おおおおお!」」


「「すげえぞ!ダークエルフの姉ちゃん!」」


ビゼンに賭けていた観客も、ウルファーJr.に賭けていた観客も、もはや関係なかった。巨大な狼を仕留めたダークエルフの戦士を前に、会場全体が興奮に包まれた。



「すげえええ!ビゼンの姉貴、あの化け物を倒しちまいやがった!」


ソウが観客席で立ち上がり、拳を突き上げる。


「あ。」


その横でアオが小さく声を出した。


「どうしました?」


ヨクトが確認する。


アオは先ほど指さした方向を静かに見ていた。


「フェンリルが来るね。」


ポップコーンを持ったまま、何でもないことのように言った。



「これは勝負あったでしょう!見事でしたビゼン選手!」


実況がビゼンの勝利を確信して声を上げる。


「いや、それはどうかな。」


プリンセスマスクが静かに呟いた。視線は闘技場ではなく、会場の外のあらぬ方向に向いている。


「どういうことでしょうか?プリンセスマスクさん。ビゼン選手はあのヴァナルガンドに完全勝利しましたが。」


「フェンリルが来るな。」


「は?フェンリル?ヴァナルガンドではなくて、ですか?」


実況の声が上ずる。


「ああ。もう少し見てな。」


プリンセスマスクはそう言いながら、貴賓席のウルファーJr.に目をやった。その表情には、既に結末を予想する者の余裕があった。





「まさか、このヴァナルガンドが倒されるとは思わなかったぞ。」


ウルファーJr.はそう言いながら、のたうち回るヴァナルガンドに目をやる。ヴァナルガンドは生きてはいるが、自身の再生に集中し、もはや戦える状態ではない。


「おい、ビゼンとかいったな。オレのもとで働く気はないか?」


ウルファーJr.はビゼンに向けて手を差し出す。


「あいにく、私の主は決まっている。」


そう言いながら、ビゼンはアビの顔を思い出す。


(アビも元気でやっているだろうか。)


「そうか、残念だ。」


ウルファーJr.は笑みを消さない。


「お前はこう思っているだろう。もはやオレに手はないと。」


懐から小さな笛を取り出す。


「違うんだなそれが。」


ウルファーJr.はそれを口元に持っていき、思い切り吹いた。


しかし、音はしなかった。


…⁉


会場全体に奇妙な沈黙が流れた。何かが起きた。しかし誰もわからない。


「さあ、こい!神獣フェンリルよ!」


ウルファーJr.が高らかに叫んだ。



闘技場へ向かいながら、フェンリルは若い眷属の敗北を知った。


死んではいない。しかし生命力が大きく削られている。


(何者なのだ。)


そして今、自分だけに届く笛の音が聞こえた。初代ウルファーとの約束だった。万一の時は必ず駆けつける。その約束を、フェンリルは一度も破ったことがなかった。


音速を超えた。


大気が引き裂かれ、雲が渦を巻く。眷属が敗れた地はもう近い。


次の瞬間、闘技場の上空に巨大な白い影が現れた。


白銀の毛並みが天空に輝く。


これが、本物のフェンリルだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


続きが気になった方は、

ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!

SNSで拡散お願いします

やる気がでます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ