第38話 怪文書
アマンは副官のホウコウとともに王都にばらまかれた怪文書を見ていた。
奴隷商人カクの家の焼き討ちはダークエルフ誘拐犯のコウロが証拠隠滅のために行ったものだということ。
そして、それにかかわったものをコウロは証拠隠滅のために皆殺しにするつもりであるということ。
しかし、それを正直に話したものの身柄の安全は保証すること。
これらがショウ=エンの名前でばらまかれたのだ。
「クククク、よくできているなこれは。」
アマンは怪文書を見て笑う。
「アマン様、笑い事ではございません。ショウ閣下はお怒りでしょう。」
ホウコウ、アマンの相談役でもあり右腕ともいえる男である。
「ああ、怒っているだろうよ。これをやったのはおそらくはアビだろうな。」
アマンは心底愉快そうに怪文書をよむ。
「こんなことをされては、コウロもこれ以上、関係者を粛清できない。それではここに書いてある文書が本当のことだと自ら言うようなものだからな。」
「では、それが目的だということですか。」
「それだけじゃない。当事者からすれば、カクの館が焼かれたのはもう見ているからな。次は自分たちだとおもうかもしれない。」
「では、そいつらにとっては真実にみえると。」
「そうだ。当然、ショウの奴はこんなものは知らない。しかし、一方で、奴は奴で自分を頼ってきたやつをコウロに売ることもできん。そんなことをすれば、今後、コウロから寝返るやつがいなくなる。」
「では、コウロ公はショウ公にこれを追求するのでは?」
「しかし、ショウは知らないのだから知らないというしかない。実際、こんなもの、ショウのやつは知らないのだから、いくら調べてもショウがまいた証拠などでてこない。」
「では、そのアビは我々の手でコウロをしとめさせようと?」
「さすがにそれはないだろうよ。これから本人がくるので直接聞いてみるがな。」
「え?刻印持ちがアマン様に直接連絡を?」
「こちらから、連絡はできんからな。ホウコウ、貴様も同席するといい。」
◇
作戦はうまくいったようだ。
仲間たちに協力してもらって、王都にショウ=エンの名で文書をばらまいた。
「これで、ショウの力を利用して、ダークエルフ誘拐の実行犯が勝手にあぶりでるわけだ。」
ヨクトが感心してくれる。
「あと、目下の課題として、この80名にもなった『アビ傭兵団』の駐留場所を探さないといけない。」
実際、今の世の中、傭兵隊を受け入れてくれるところは結構あるのだ。
アマンの後ろ盾、ショウ公爵のもとに全員いっても構わない。
おそらくは受け入れてくれるはずだ。
「とりあえず、アマンのもとへ向かおうと思う。」
ワタシはみんなに切り出す。
「大丈夫か、言ったとたんに逮捕されるんじゃないか?」
ヨクトが心配する。
「その可能性がゼロではないけど、念のためにアオも来てもらうよ。そうすれば、力づくでどうこうというのは絶対にないとおもう。お願いできるよね?アオ。」
「もちろんだよ。いうこと聞かなければアマンを消し飛ばせばいいのね。」
「ちがいます。」
ワタシは素早くつっこむ。
「目的はこの怪文書作戦の成果の様子をみにいくこと。そして、私たちの受け入れだよ。消し飛ばしてどうするの!」
こうして、ワタシとアオとビゼンの3人はアマンのもとに向かった。
◇
アマンとの面談は驚くほどすんなりできた。
警備隊の詰め所にくるなり逮捕されるんじゃないか心配だったが、実際は逆だった。
「アビ様ですね。アマン隊長がお待ちです。」
入り口で告げられて、ワタシとビゼンはあっさりと応接まで通された。
なるほど。彼はすべてをお見通しというわけだ。
「先日は、力になれず申し訳なかった。」
会うなり彼はワタシに謝罪した。
「アマン殿、あなたの責任ではないでしょう。それよりずいぶんあっさりとあってくれたわね。」
「例の件は、あなたの仕業だろう。ならば、次は私に会いに来るだろうことは想像に難くない。」
話が早くて助かる。
「それに関してはノーコメントということにしておきましょう。今回は、前回話してくれた傭兵の件、受けようと思ってきたのよ。ここにいたほうがコウロの情報が早く入手できると思ってね。ただし、人数はおおよそ80人、可能な限りでかまわないけど、どう?」
「人数はいくらいても構わないし助かる。ショウ公もお喜びになるだろう。」
80人をすんなり受け入れるのだから、ショウってやつの勢力もたいしたものだ。
「条件というわけではないが、早速、やっていただきたいことが二つある。」
「何?」
「一つは後宮を中心としたキョウ王女ならびにカイ王子の護衛だ。これはアビ、あなたにしかできない。」
後宮、王のプライベートな場所。
「後宮は知ってのとおり男子禁制なのだ。宦官以外では女性しか入れぬ。そして、現在、王は病に伏しておられる。それゆえに現在は宦官どもが好き放題やっている。」
アマンは目に怒りを灯しながら話をする。
「王の名でだされる勅命も実際のところ、どこまで王の意向なのか、もはや確認すらも難しい。」
そういって、彼は副官に資料を用意させる。
「今の、後宮の状況を説明しよう。まず、ほしいままにしているのが十二常侍という宦官どもだ。」
「でも宦官に武力なんてないでしょう。いざとなれば武力で抑えてしまえば。」
ワタシは我ながら物騒なことをいう。ハクエイにこれだから脳筋だといわれるわけだが。
アマンはうなずいて答える。
「だから、やつらは恐るべきことに後宮に悪魔を召喚している。もともと、あの華姫も宦官が召喚したものだ。」
まじか。
「そして、後宮に入り込んだ間者はすべて悪魔によって始末される。だからあそこにはうかつに手が出せん。もっとも悪魔も契約により、通常は後宮からでれん。だが、コウロは宦官に大量の賄賂をはらうことで、あの華姫を自分の陣営につけたのだ。」
「そもそも宦官はどうやってあの華姫を召還して、味方につけたの?あんな強力な悪魔相当の生贄をはらわないと契約なんてできないとおもうけど。」
まあ、アオにいとも簡単にころされたらしいけど。
「アビ、あなたも当事者だから話そう。刻印とは悪魔への生贄をつくるために宦官どもに作られた制度だ。」
「うそ。」
おもわず声が出る。
「もちろん建前上は刑罰のひとつだ。だが、実際の狙いはちがったのだ。人を悪魔への生贄にするなど、たとえ奴隷でも問題になる。しかし、悪魔の生贄になろうが、行方をくらませようが問題のない人々を意図的につくったのが刻印なのだ。」
ワタシが悪魔のえさ?
怒りがわきでる。
「そして、華姫が死んだ今、おそらくコウロはもう一度、悪魔召喚を十二常侍に要求するだろう。そんなことは止めねばならん。そして、それが成された場合、今度は宦官どもは悪魔にキョウ王女を襲わせるかもしれん。」
「なぜ?宦官がキョウ王女を?」
「キョウ王女は聡明な方だ。まだ幼いカイ王子が即位されたほうが宦官にとっても都合がいい。だから、アビ、あなたには申し訳ないが、キョウ王女の表向きは奴隷として仕え、王女を守ってほしい。」
「ワタシ、ひとりだけ?ビゼンは?」
「ビゼン殿にも申し訳ないが、後宮にはダークエルフもエルフもはいれん。あくまで人間だけだ。しかし、戦力は安心してほしい。あなた以外にも数人、さらにその中には、強力な護衛がいる予定だ。」
「では、もう一つのやってほしいことと言うのは?」
「奴隷商人カクの身柄の確保だ。」
「どこに潜伏してるとか、もう分かってるの?」
「想像はつく。砂漠の歓楽都市『オアシス』だろう。あそこしかない。」
「『オアシス』って?」
「そうか、あなたは知らないか。この王都の南方に、自治都市がある。自治都市といってもこの国が自治を認めているわけではない。勝手に自治をしている。だが、なにものも、かつての魔王軍すらもあの都市には近づけなかったのだ。」
アマンは隣のアオをみながらいう
「軍勢をつれてあの町に近づくと、空より朱雀竜様が現れ、すべて焼き払うのだ。あそこには四神、朱雀竜様がいると言われている。」
あー、またアオの知り合いか。
「アオ、そうなの?」
「アカっていうんだけどね。あの子、面倒を嫌うのよ。だから軍隊らしきものが近づくと、とりあえず、攻撃してるみたいね。」
呆れるようにいう。
まじか、こいつの知り合いには碌な奴がいないな。
ワタシは心の中で思った。
「しかし、小人数ならば、問題なくたどりつけるのだ。それにアオ様ならばあの朱雀竜様とも交渉可能だろう。それにあそこならばもし数十名の行き場のないものたちがたどりついても、我々は何も手だしできぬだろう。」
全てお見通しというわけか。
「そしてもう一つ、あの街には伝説の魔獣フェンリルを守護獣としているといううわさだ。」
「フェンリル?」
「そうだ。ランクでいうとSランクの魔獣、神に近い存在と言われている。遭遇したら一国の全軍であたらねばならん。朱雀竜様に、魔獣フェンリル。どちらも軽々しくふれることもできん。しかし、小人数ならば潜入できるのだ。」
「わかった。キョウ王女の護衛はワタシが引き受ける。宦官どもの好きにはさせない。刻印もちを悪魔の餌になんかさせるものか。」
「では、私が必ずカクを歓楽都市であぶり出してみせる。」
ビゼンがワタシを見て言う。
「オアシスはギャングと呼ばれる組織が支配する無法都市だ。十分、気をつけてくれ。」
アマンがビゼンに釘を刺す。
次の方針は決まった。
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