第35話 呪いと裁き
「認める」
その声でコウロ、華姫、二人の笑いがとまる。
声は小さかった。
それなのに、広間の空気が変わった。
全員が、声の方を見た。
声のもとはチュウエイの後ろに控えていた金髪の女。
「究姫様…それはいったいどういう…」
コウロの顔から、血の気が引いた。
こいつが究姫。
四凶と呼ばれる邪神の一柱。
究姫はゆっくりとこちらに近づく。
それだけで、広間の温度が下がった気がした。
「私はその娘が気に入ったといったんだ。コウロ殿、あんたも自分に後ろ暗いものがないならいいじゃないか。その子のお願いきいてやりなよ。さすがあのアオの推しの子だ。」
「いや、しかし……私になんの得が…!」
「うるさい。」
その一言でコウロがだまる。
「私が認めるといったんだ。ただし、私が立会人になるんだ。ただというわけにはいかない。お嬢ちゃん、いや、アビ、あんたの右目を預かる。」
え…。
ワタシは一瞬、ことばの意味が理解できなかった。
「なに、アビ、あんたはあんたで、勝負に勝てば刻印の呪いも解かれる。右目も戻る。なんなら、なにか副賞もつけてやってもいいさ。」
究姫は笑っていた。
楽しそうに。
「ちょっと、究姫!あんた何、勝手なこといってんだよ!ひっこんでなよ!」
華姫が割り込む。
「そうだね。それに関しては同感だよ。」
その瞬間、光があつまりあいつが現れる。
「アオ!」
「アオ様‥‥‥!」ビゼンも声をあげる
「お前!あの時の!」チュウエイも反応する。
「なにものだ!お前は!なにをしている衛兵ども取り押さえろ!!!」
コウロがさけぶ
「やめろ。死ぬぞ。手を出すな。」
それを究姫がとめる。
「やあ、アオ、来るなと言ったのに来たんだね。」
究姫は笑っていう。
親しい友人に会ったように。
「あたりまえだ。究姫。こんな茶番はおわりだ。ごめんね。アビ、ビゼン遅くなって。凍子をだまらせるのにちょっと時間がかかってね。」
アオはいつものように淡々と答える。
「究姫様、こいつはなにものなんですか、い、いや、まてこいつはなぜ究姫様を呼び捨てにしたのだ。」
「こいつは青竜だ。絶対に手を出すなよ。手を出したら死ぬぞ。」
究姫がコウロにつげる
「セ、青龍様!!こ、この方が…!」
コウロが固まる。
「なにを言ってる、究姫。」
アオが静かに呟く。
「手を出したら死ぬ?」
ゆっくりと、目の布に手をかけた。
「ちがう、今から全員死ぬんだ。」
その目が、開かれた。
「アビとビゼン、それにアマンといったね。この3人以外は全員、消えてしまえ。」
そこには美しい死の女神がいた。
「究姫様!たすけてください!」
コウロが究姫に助けを求めるが‥…
「無理だね、彼女が本気になったら私でもとめられない。でも…、アオ、あんたがここにいる人間に手をだしたら、凍子がいっしょにいる人間を全員殺す。」
え・・・
「‥…それはどういうこと?」
ワタシは究姫に真意を聞く。
「どういうって、言葉どおりだよ。凍子っていうのが、あんたら、そう革命軍だっけ?そいつらと一緒にいるんだよ。おおよそ70名か。それにダークエルフが10名ほど。アオがこいつらに手をだしたら、私も仕返しくらいはさせてもらうさ。」
究姫はこめかみに指をやり何者かと会話をする。
「凍子、私が合図をしたらそこにいる全員をやってくれるか?」
「茶番だ。見苦しい。」アオはそれを無視して手をかざす。
「アオ!まって!やらなくていい。コウロも約束を果たすといってる。私が取引に応じればいい!」
「アビ、君はほんとうにやさしいね。でも、こんなの茶番だよ。凍子はこいつの言うことなんか聞かない。」
「でも、万が一ということもある!コウロ!あんたも約束はまもるよね!」
「は、ハウ…!」
コウロが涙目でうなずく。
「わかったよ。アビ。」
縛られたままのワタシを、アオはそっと抱きしめた。
温かかった。
「でも、わすれないで、私はずっといつまでもあなたといるから。」
ワタシはアオの胸元に顔をうずめた。
◇
「さあ、やって!どうすればいい!」
ワタシはアオから離れる。
そして、両手を縛られたまま、ワタシはコウロに向かって叫んだ。
「どこまでその威勢がもつかなあ。」
コウロが残忍な笑みを浮かべる。
「おい!用意しろ!」
「ハッ!」
その声とともに、魔道士が各位置につく。
「お前はその中心によこになれ。」
言われた通り、横になる。
「いいか、今から激痛とともにお前の身体全身に、刻印の呪いが刻まれる。そして、お前の下腹部から、臓器が摘出される。」
ワタシは奥歯を噛み締めて聞きたくもない言葉を聞く。
「安心しろ。出血はしない。ただし、痛みはそのままらしい。もっとも痛みで死ぬやつはいないらしいがな。ククク」
コウロの笑い声が耳障りだ。
「じゃあ、アビ、あなたの右目から預かるわよ。」
究姫の感情が読めない声が聞こえる。
「まって。」
「どうした怖気づいたのかかい?いいのよやめても。」
「アンタも立会人の約束を果たしなさいよ!」
ワタシは再度、究姫に約束させる。
「安心しな。このコウロが約束を違えた場合は、アオが出るまでもなく、ワタシがコイツをころしてあげる。」
「き、究姫様、それは…!?」
コウロがあせる。
「これはそういう話だ。それともここまできて、アンタはワタシやそこにいるアオの顔も潰すのかい?なら、ワタシはあいつも止める義理はない。」
「ぐぬぬぬ、やれ、貴様ら!この小娘に地獄を味わわせてやれ 。」
やつがそう合図するやいなや、全身が焼かれる痛みと臓腑が切り裂かれる痛みが 襲ってきた。
そして…
「じゃあ、アビ、悪くおもうなよ。」
究姫がそういうや、右目に激痛がはしる。
視界が、半分消えた。
あああああああああ!
叫びそうになるのを必死に堪える。
そして、ワタシの右目が宙に浮き、消えた。
両手に、両足に、人間であることを放棄させる「罪人の刻印」が深く刻まれていくのが見える。
そして、下腹部からブチブチとなにかが引きちぎるおとがして、臓器が取り出され、消えていく。
ビゼンの泣き叫ぶ声が聞こえる。
コウロと華姫の笑い声が聞こえる。
しかし、ワタシは叫ばない。
負けてなるものか…‥!!
(お前たちの喜ぶことはしてやるものか)
それだけを、考えた。
「ハハハハハ! どうだ、小娘!」
目の前で、貴族コウロ=エンが下卑た笑い声を上げた。
「お前はもう人ではない!
道で襲われようが、誰も助けない!
お前は毎日、死の恐怖を味わいながら、人目を避けて生きるんだよ!」
やつがワタシに近づく!
やつが、ワタシの顔を覗き込んだ。
「安心しろ! もう子供が生まれることもない!
何しろお前はもう、"もの"なんだからな!」
ワタシは激痛の中、身を起こす。立ち上がる
そして、にらめつけた。
コウロは顔は笑いながらも後ずさる。
「――それでは、改めて申し付ける」
一段高い場所から、コウロの部下から冷徹な宣告が下る。
「アビ=キョウカ。貴様はこれより『刻印持ち』となった。
今後、国は貴様を保護しない。
ただし、別紙目録の免罪金を納めるか、このコウロ=エンが事件に関わっている証明をしたならば、その時に限り、人間への復帰を認めるものとする」
アオがワタシを支えてくれた 。
「……もう、いいでしょう?」
アオの声は、凪のように静かだった。
「コウロ。約束は果たしてもらいますよ。この子が条件を満たした時、あなたの権力でダークエルフの差別を撤廃すること。
そして、この子の身体を、返してもらうこと」
アオの声が沈む
「もし、約束が果たされない場合は……」
アオの声が遠くなる
「この国から、すべての生命が消えると思いなさい。この四神・青竜と、そちらにいる四凶究姫が、この契約の立会人よ」
なにか言ってるようだが、ワタシの耳にはもうとどかなかった。
最後に視界を端にみたのはビゼンの泣き叫ぶ顔だった
ワタシはたったまま意識を手放した。
◇
究姫がアビを支えるアオに近づく。
「まだなにかあるの?」
アオが無表情に究姫に問いかける
「なにも。ただこれくらいわね。」
究姫がアビの顔を優しくなでる。
すると、アビの右目の出血がとまる。
「大した子だよ。アンタが惚れるのもわかる。」
ふたりのやり取りに周りの人間たちは声を出すこともできず見ている。
(立ったままなお、膝をつかぬか。)
アマンは無表情に、しかし燃えるような瞳でアビを見つめる。
(この女)
チュウエイはかつて手にかけた女を驚愕しながらみた。
その沈黙を破ったものがいた。
「ちょっと究姫!なにやってんのよ!」
華姫が二人の間にはいる。
「なんてばかなのかしら。他の人間なんてほっといて、逃げればよかったのに。まあ、ワタシからもご褒美をあげるよ。」
そういうや否や、華姫の瞳が黒く光る。
「シャア!」
華姫の爪がアビの顔に迫った。
その瞬間、アオの手が華姫の腕を掴んだ。
「お前!」
華姫が怒りでアオを睨みつける。
「究姫、君はさっきこういったな。私がここにいる人間に手をだしたら、アオの仲間を殺すと。」
「ああ、言った。」
究姫は一歩下がってこたえる。
「じゃあ、その中にはこの悪魔は入ってないよね。名前もしらないけど。」
アオは冷たく華姫を見る。
「あー、それはそうだね。アンタには手を出すなといっていたのに、私もかばいようがない。」
「ふざけ……!」
そう言おうとした瞬間。
華姫は気づいた。
自分の四肢が、動かない。
見下ろすと、足元から、ゆっくりと、白く凍りついていた。
「こ、これは…!?」 目を見開く!
「これは本来一瞬で相手を終わらせる術なんだけどね、お前はゆっくり反省して死ね 。」
「こ、こんなもの…!」
華姫は必死に術の解除を試みる。
しかし、全く抵抗すらできない。
首から下が、完全に氷の塊になっていた。
「そんな馬鹿なああ!ああああああ!この私がああああ!」
絶望の声をあげる華姫。
が、しかし…!
「なんちゃって!」
勝利の笑みを浮かべる。
「今回は負けということにしてあげるよ。でも次あったときは、そのアビって女は確実に殺してあげるね!」
華姫は余裕の笑みを浮かべる。
しかし……
「お前、勘違いしているようだけど、復活できないよ。」
アビが冷たく答える。
「え」
笑いが、止まった。
「お前達悪魔は死んでも蘇るけどね。だから魂ごと凍りつかせる。つまり、死んだままお前の魂は停止する。」
華姫は無言で究姫を見る。
助けを求める目だった。
「だから言っただろ。手を出したら殺されるって。」
究姫は冷たく突き放す。
華姫の顔が驚愕と絶望で白くなる。
「う、うそ、究姫、究姫様、助けて…。私、死にたく…」
それが華姫の最期の声となった。
『お前の刻は凍りつく(アブソリュート・ゼロ)』
パキィィィィィン!!
アオが指を弾くと、華姫は粉々に砕け散った。
命乞いを断ち切る、無機質な音。
王都の夜を恐怖で支配した華姫は、一片の氷塊となり、アオが指を弾いた衝撃で、キラキラと輝く星屑へと変わった。
不死身のはずの悪魔が、ただの砂利のように、コウロの足元へ降り注いだ。
「ば、ばかな。華姫が、私の最強の不死身の悪魔が…、こんなにあっさり、虫を殺すように」
コウロが恐怖に凍りつく。
「コウロ」
アオが冷たく語りかける。
「はいいいいいい!」
「もう一度言っておく。アビとの約束違えた場合は、お前だけじゃない。この国の人間全てがこうなると思え。」
コウロはアオに見つめられただけで失禁してしまった。
「じゃあ、ビゼン、帰ろう。みんなのところに。」
アオはビゼンに優しく微笑む
そういうと、アオ、ビゼン、アビの三人は光の中に消え去った。
後には恐怖で失神したコウロたちだけが残された。
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