第32話 リョーカ、覚醒する
革命軍野営ーー
隊長のリョーカは空を見上げ、安堵していた。
(ああ、いい天気だ。)
この数日であのベヒーモスがいなくなったのだ。
食料は自分で確保していたようだが、あんなものが陣にいるだけで気が気でなかった。
凍子やアオがいるので、暴れることはなかったが、もし、彼女たちが去った場合、あの魔獣をコントロールすることなど自分にはできないのだから。
そんなことを考えながらリョーカは凍子とアオのご機嫌伺いに向かう。
「失礼します。よろしいでしょうか。」
「どうぞー。」
テントの外から声をかけると、アオの美しい声が聞こえてくる。
「失礼します。」
再度、挨拶をしながらテントに入る。
そこでリョーカは予想外のものを目にして思わず凍りつく。
牛の角をもち、全身が青黒く、筋肉隆々の岩のような巨躯。
四本の腕をもつ魔人が凍子とカードゲームに興じていたのだ。
どうみてもあのベヒーモスが人の形になったようにしか見えないが。
「凍子様、アオ様、その魔人様はいったいどちら様でしょうか……。」
リョーカは薄々気が付きながら、そうであってはほしくないと思いながら尋ねた。
「あー、この姿であうのは初めてだったね。あのベヒーモス君だよ。モス君と呼んであげてくれたまえ。」
凍子が上機嫌にいう。
どうやら、カードゲームで戦況がかなりいいらしい。
「がんばって人化の法をマスターしてもらったわけさ。できなきゃスキヤキにするといってね。」
リョーカは顔を引きつらせながら言う。
「で、ではなぜデュエル・ウィザーズを…?」
二本の腕をくみ二本の腕でカードを持ちながらベヒーモスのモスが答える。
「我は大きな誤解をしていたのだ……。我こそは最強だと思っていた。 我はあまりに無知であった。この数百年、ただの『井の中の蛙』に過ぎなかったのだ…… 。」
手札を確認しながら魔人は続ける。
「しかし、実際には偶然、自分より強いものと戦っていなかっただけなのだ。」
モスは目をつぶりながら話す。
(そりゃ、野生でAランクのモンスターより強いやつと出会うほうが難しい。)
「我は凍子様に敗れたが、なにかの間違いに違いないと信じたかった。だから、再戦を願いでた、その結果……」
モスはカードごと拳を握りしめる。
(あ、その今、握り潰したカードはオレのカードでは…!?)
リョーカはまたしても泣きたくなった。
「まるで、戦いにすらならなかった。三日三晩氷づけにされ、その後、そちらのアオ様にも挑んだが、今度は、ビンタ一発で木の葉のように吹き飛ばされ数日気絶していた。」
「よしよし」
そういって、アオがモスの頭をなでる。
(そうか数日、あいつが姿を消したのはそういうことか)
「我は凍子様に尋ねたのだ。あなたがたのような強さを身につければどうすればいいと。すると、凍子様は、このデュエルウィザーズの相手をせよと仰せられた!」
(要するに相手がほしかっただけだと思うが。)
リョーカはそう思ったが、デュエルウィザーズについて熱弁するAランクモンスターを前になにもいうことができなかった。
「確かに、この模擬戦は奥深い。なんどやってもお二方に勝つことすらできぬ」
そういって、モスはまたしてもリョーカのカードを握りしめる。
(たのむからレアカードだけはやめてくれ…!)
リョーカはこころの中で叫んだ。
「ハーハハハ、君では私たちの相手はまだ早いかもね!リョーカさん、ちょっと相手をしてやってよ!」
「へ?おれがですか?」
(なぜオレが?ベヒーモスとカードゲームをしなければならないのだ!)
リョーカがそう言おうとする前に、 モスの方から凍子に不満が出た
「凍子様、いくらなんでも我が人間にまけるわけがないでしょう!」
(おお、ベヒーモスいいぞ。おれもお前なんかとカードゲームはしたくない!)
リョーカはこころの中で密かにガッツポーズをする。
「あまい、あまいわね。モス、あなたはこのリョーカさんの足元にも及ばないよ。いろいろとリョーカさんに教わるといい。」
アオがそういってモスをけしかける。
(アオ様!なんてことを!)
「ぬう!アオ様までも!ならば勝負だ!人間め!馬鹿にしおって!我の力を見せてくれる!」
(馬鹿にしたのはおれじゃねえええ!)
こうして、リョーカは小国をも滅ぼすAランクモンスターをカードゲームで勝負することになった。
◇
「フハハハ!!見ろ人間!我はモンスター一体を生贄に我を召喚する!」
そういうと、モスはモンスターカード一体を生贄にベヒーモスを召喚した。
ベヒーモス:攻撃力2600
モスは強力なモンスターを並べて、リョーカを圧倒しているように見えた。
しかし、リョーカは違和感に気がついた。
(こいつ、トラップカードをまるで警戒していないのでは?)
「いけ!我よ!敵の雑魚モンスターを破壊せよ!」
モスはトラップカードなど一切警戒せずに攻撃を仕掛ける!
「トラップカードオープン、スキルカード、カウンターパリィ発動!相手のモンスターの攻撃をそのまま相手の別モンスターに移すことができる!おれはモス殿のモンスター、クレイジーバッファローに攻撃を移す!」
「な、なにい!我の攻撃力2600が、我が配下のモンスターに向けられるというのか クレイジーバッファロー 攻撃力は1500、我のHPは残り1000!これでは!ぐわああああ!!!」
本当にダメージがはいったかのようなリアクションをするモス。
リョーカはベヒーモスに勝利したのであった!
カードゲームではあるが。
「おのれ、人間!小賢しい手を使いおって!もう一戦だ!偶然はこれまでよ!」
その後、5戦やってモスはわずか1勝だった。
「こ、こんな馬鹿な。我が人間に…!」
モスはこの世のおわりのように落ち込んだ。
偶然でこの勝率はありえない、この人間は前の戦いでは何らかの事情でおそらく手を抜いていたのだろう、モスは勝手にそのように解釈した。
「ね、モス君、このリョーカさんは私の弟子だが、なかなかやるだろう。」
(いつから、私は弟子になったのだろうか……)
リョーカは心の中でそう思ったが、そのとき、モスの目がクワッと見開かれる。
「人間、いや、リョーカ殿、貴殿は凍子様の弟子だったのか!では我にとっては兄弟子ではないか!これまでの無礼!お許しいただきたい!」
モスは深々とリョーカに頭を下げた。
「いや、まあ気にしなくていいですよ。モス殿。」
リョーカはAランクモンスターに頭をさげられ恐縮する。
「では、もう一戦胸をお借りできますでしょうか!」
「ははは、いいですよ。」
リョーカは軽く答えた。
しかし、それが悲劇だった。
◇
数分後、リョーカは模擬戦用の剣を構え、四本腕で二本の模擬戦用の剣を構えるベヒーモスと対峙していた。
(なぜ、こんなことに…!?)
リョーカは当然、カードゲーム、デュエルウィザーズのことだと思っていた。
しかし、モスから手渡されたのは模擬戦用とはいえ剣、そして、モスは今、四本の腕で上段と中段の構えを同時にとっている。
「あの魔人はベヒーモスらしいぞ。」
「リョーカ隊長は、あの魔人から4本もとったらしい!」
「まじか!」
リョーカの意思と無関係に期待があがっていく。
「さあ、どっちが勝つ!はったはった!」
凍子が博打を始める!
「おれは、あの魔人にかけるぞ!」
「なにいってる!リョーカ隊長が負けるはずないだろう!」
とてもおりるという雰囲気ではなくなってきた。
(なぜこんなことになってしまったのだ!)
「リョーカ殿!参りますぞ!」
モスが上段の構えから剣を振り下ろす。
しかし、これを防いだとしても中段から横薙ぎの攻撃が来るという人では通常防げない必殺の攻撃である。
もっとも、上段の攻撃も防げる威力でもないし、その突撃スピードはとても回避することなどできないが。
(こんなところで死んでたまるかアアア!)
その瞬間、奇跡がおこる!
数日前、凍子に授けられた力が開花した!
「ほう・・・」
凍子は思わず目を細める。
リョーカはスキル【カウンターパリィ】を獲得する。
上段の攻撃をパリィでそらし、そのまま威力を中段の攻撃の方にぶつけた!
「おお!」
おもわず、モスはのけぞり、自分の攻撃の威力で二刀の模擬刀を落としてしまう。
「「おおおおおお!」」
湧き上がる兵士たち。
むろん、モスが本気になればリョーカなど素手でもひねり殺すことができる。
が、しかし、
モスは勝手に戦慄する!
(これはまさに先程のカードゲームの再現ではないか!)
(リョーカ殿はあの時すでにこの形を想定していたのか!)
一方、リョーカはーー
(なんとか初撃はこらえたが、もうだめだ…お母さん、育ててくれてありがとうございました)
スキルを発動させたが、すべての力を使い果たし、剣を落とす。
「なんと!リョーカ殿、今度は素手でこの我を倒そうというのか!!」
(ち、ちがう、ひ、否定せねば)
「ち、ちがいます、これは…」
そう言おうとしたとき、見張りの兵士から緊急の連絡がはいる。
「Bランクモンスター、コカトリスが数体が現れました!」
「コカトリスの群れだと!全軍であたらねば!」
隊に緊張が走る
「いかん、すぐに戦闘準備に…!」
リョーカが声を出そうとしたそのときーー
「おのれ!鳥の群れなどリョーカ殿の手をわずらわせるわけにはいかぬ!我が狩って、焼き鳥の材料にしてくれるわ!」
そういうとモスはコカトリスの群れに一人向かっていった。
「おお、ベヒーモスを顎でつかうとは。さすがリョーカ隊長!」
「リョーカ隊長!万歳!」
「リョーカ隊長はなにもいわずに立っているぞ!」
「なんて奥ゆかしいんだ。」
リョーカは立ったまま意識を手放していたのだった。
「どう?リョーカさんもなかなか筋が良いだろう?」
凍子はアオに同意を求める。
「そうね。」
しかし、アオはそんなやりとりを見ながら、遠視でアビとビゼンが警備隊の詰め所をでて二人で話しているのを見ていた。
(私を差し置いて、ふたりで楽しそうなことをするなんて、あの二人はひどいね。)
「ちょっとリョーカさんのためにコーヒーを入れてくるよ。」
そういって、アオは物陰に隠れるやいなや転移したのであった。
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