第20話 アオの正体を知る
ワタシたちは革命軍のリョーカから、襲撃の様子を聞いた。
ここにいるのは、ワタシ、アオ、ビゼン、そしてヨクト、リョーカという革命軍の隊長、そして数名の副官たち。
悪魔、華姫、そしてロフ。
ロフは知っている。
チュウエイの仲間だった男だ。
寡黙であまりしゃべらなかったが、ただものではない気配があった。
あいつも、相当強かったのか。
リョーカから話を聞き終えた後、ワタシはアオのほうを見る。
「あの悪魔、あんたのこと知ってたみたいだけど、どういうこと? それと、不可侵契約とか言ってたけど、何? 隠してることがあるなら、ちゃんと話してよ」
「別に隠してないわよ。私たち四神は、四凶と関わらないという不文律みたいなものがあってね。まあ、厳密には彼らが勝手に言ってるだけなんだけど」
「四神? 四凶? なにそれ、分かるように言ってよ」
「だから、私が青竜でね。今、王都には究姫と凍子という二人の四凶がいるみたい。私にこっちに来るな、来るなら手を出すな、とか勝手に言ってるのよ」
「青竜? キュウキ? トーコ? 誰それ? 分かるように……て」
ん? ふと見ると、周りのみんながアオのほうを見て、凍りついている。
どうしたんだ?
「ア、アオ様……あなたは……青竜……様、なのですか?」
ビゼンが、彼女らしからぬ驚いた表情を浮かべている。
「そうよ。そういえば、言ってなかったわね。まあ、大したことじゃないでしょ?」
アオがにこりと笑う。
「「「えええええええ!」」」
ヨクトが立ち上がって驚く。
ビゼンが膝をついて、深く頭を垂れる。
リョーカさんが「嘘だろ……」と呟きながら、ゆっくりと平伏する。
「しかし、四神様や、四凶の名をかたる馬鹿なんていない…」
革命軍の副官たちも、恐れおののき、我先にと土下座する。
え? どういうこと? こいつ、そんなにすごい貴族だったの?
「ビゼン、どういうこと? こいつ、そんなにすごい貴族かなんかなの?」
「アビ……本当にお前、知らないのか?」
ビゼンがギギギとワタシのほうを見て、目を丸くして言う。
「四神様と四凶……合わせて八狂神ということもある。四凶というのは簡単にいうと悪魔の王、魔神ともいわれるが、両方、この世界の頂点だ」
ヨクトが、珍しく真剣な顔で言う。
「魔王でも勝てないといわれている。国がどれだけ栄えようと関係ない。機嫌を損ねれば、国ごと消されるとか。……本来、こんな会話ができるなんて・・・実際、四神様の怒りを買って、国ごと滅んだところもあるって話だ」
ヨクトが、アオをちらりと見る。
「……隊長、今もその『四神様』がそこに座ってらっしゃるんですが」
副官の一人が震える声で言う。
「わかってる……わかってるんだが……」
ヨクトの額に、じわりと汗が滲む。
「え? アオ……いや、アオ様? あんた、そんなすごいやつだったの?」
ワタシは思わず、アオをじっと見る。
神様? こいつが?
初対面でセクハラしてきたこいつが?
靴で頭をぶん殴ったこいつが?
湯桶をぶつけたこいつが?
「ご、ごめん……色々と」
思わず謝罪していた。
「何が?」
アオが首を傾げる。
「い、いや……靴で頭を叩いたり、湯桶をぶつけたり……」
「別にいいわよ。むしろ、嬉しかったくらいだから。私にそんなことするのはクロくらいだったから」
アオがにこりと笑う。
(察するにクロってやつも四神か)
ワタシは遠い目をした。
「今までどおり、アオでいいわよ。みんなも、そんなに畏まらなくていいから、座りなよ」
アオに促されて、みんなが席につく。
それでも、ビゼンたちの視線はまだアオに向いたままだった。 ワタシだけが、まだ状況を飲み込めずにいた。
(四神様?) (この、キス魔の変態が……世界の頂点?) ---
「では、アオ……様、あなたに聞きたいことがあります」
ビゼンは緊張した面持ちで言う。
「アオでいいって言ったでしょ」
「で……では、あなたにお聞きしたい。私のこの青竜冷艶鋸は、私の祖先があなたからいただいたという伝説がありますが……本当ですか?」
ビゼンは自分の薙刀をアオに見せながら言う。
「ああ……数百年前だったかな。そんなこともあったような」
アオがあっさりと答える。
(……この薙刀、ビゼンが切れると思ったものは何でも切れるって言ってたやつだよな)
(数百年前……)
(こいつ、どれだけ生きてるんだ)
「では……私たち革命軍のリーダー、ヨクト様が勇者と呼ばれるさらに前、まだ駆け出し冒険者だった頃、祝福を授けたのも、あなただと伺っていますが、本当ですか?」
革命軍のリョーカさんが恐る恐る聞く。
「祝福というか、ちょっとコツを教えただけよ。まさか、あの子、魔王の一人まで倒しちゃうとはねえ」
アオがあごに手あてて話す。
「ただ……結局そのせいで、世界が余計に混乱した、と他の四神に言われてしまってね。しばらく数十年、あの町でおとなしくしていたんだけど」
「そんなすごいやつが、なんでここにいるのよ!?」
ワタシは思わず突っ込む。
「嬉しかったのよ」
アオが、静かに微笑む。
「アビ、あなたが私のことを知らなくても、助けようとしてくれたことが」
ワタシは、思わず言葉に詰まった。
「だ、だからって、チュウエイのやつに刺されることないでしょう!」
「それはね……あのチュウエイという男から、知り合いの魔力を感じたの」
アオの声はどこまでも軽い。
「確信を持ったのは、少し前にさっきいった凍子が来た時だけどね。どうやら、チュウエイには究姫がついているみたい」
「「「はああああああ!?」」」
またしても、周囲が悲鳴を上げた。
「あの凶神の究姫が……チュウエイの背後に……」
ビゼンが、信じられないという顔をする。
「つまり……俺たちの敵は、四凶を後ろ盾に持つやつってことか……」
リョーカさんが頭を抱える。 ワタシは、ぼんやりとアオを見つめた。
(嬉しかった、か)
(数百年生きた神様が)
(ワタシみたいな、異世界人に)
(……なんか、こっちが照れるんだけど)
「あー、誤解があってはいけないので、言っておくけど」
アオが指を立てる。
「究姫は、たぶんチュウエイの味方というわけじゃないわよ」
「え? どういうこと?」
ワタシは首を傾げる。
「究姫はチュウエイと一緒にいるだろうけど、味方はしないと思うわ」
「……意味が分からないんだけど」
「おそらく……究姫が何かチュウエイに借りを作ったんでしょうね。それで、お返しに力を与えた。それが思ったより面白いスキルだったか、チュウエイのことがちょっと気に入ったか……まあ、そんなところじゃない?」
「借り? そんなすごいやつが、チュウエイに?」
ワタシは信じられないという顔をする。
「おおかた、カードゲームとかで負けて、借金のかたにスキルをあげたとかじゃないかな」 「は? カードゲーム?」
「あの子、本当に弱いのよ。いつも負けてる」
アオは呆れたように言う。
「そうそう、ヨクト。あなたと会った時に、凍子が『究姫がカードゲームに誘ってる』とか言ってたのよ。まあ、タイミングが合えば、王都で会えるかもしれないわね。あの子、懲りないから」
「「「はああああああ!? あの時、四凶がいたああああ!」」」
ヨクトと革命軍の兵士たちが、一斉に悲鳴を上げる。
いちいちリアクションが大きい革命軍の人たち。
しかし、とんでもないやつがあの時いたとすると、仕方ないのかもしれない。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
リョーカさんが震える声で言う。
「じゃあ、あの華姫という悪魔は、究姫の手下なんでしょうか? 華姫は『コウロ公爵に召喚された』と言っていましたが……」
「そこの関係は分からないわね。私はあいつのことは知らないし。何か関係があるとは思うけど」
「しかし、アオ様が我々に協力していただけるのであれば、勝利は間違いないのでは?」
リョーカさんが、期待を込めて言う。
「申し訳ないけど、それは難しいのよ」
アオが天井を見て言う。まあ、いつも通り目は布で覆われてるんだけど。
「問題は、彼女たちが『不可侵契約』だと思い込んでいることよ」
アオが溜息をつく。
「彼女たちの縄張りを犯すと、陰湿な嫌がらせをしてくるかもしれない。彼女たちは私たちにライバル心を持ってるからね」
「例えば?」
ワタシは恐る恐る聞く
「他の地域から持ってきた外来種の魚を、私が住んでる地域の池に放つとか……そんなことされたら、私にも分からないし、止められない」
「それは……まずい。地味な嫌がらせ過ぎるな…」
思わず声に出る。
魔神レベルの嫌がらせって、そういうことなのか。
「え? それくらい、別に大したことないんじゃ……」
ヨクトが言う。
あー、こっちの世界の人は知らないのか。
「ヨクト、それは甘いわよ」
ワタシは真剣な顔で言う。
「外来種の魚が、もともとそこにいた魚を食い尽くして、生態系が崩壊する。それは、その地域に住む人々の生活が破壊されることを意味するの。ワタシのいた世界じゃ、ちょっとした問題になってた」
「嘘だろ……たかが魚で……」
ヨクトが信じられないという顔をする。
「そう、人間の子供でもできる。だから私も止められない」
アオが静かに言う。
「異世界の知識やスキルを、こっちの世界で実験したり、面白がって嫌がらせに使うのよ。しかも、割と彼女たちなりに良かれと思うこともあって、たちが悪い」
「迷惑なやつらね」
「だから、私も回復薬を作る程度ならバレないかなと思ってたんだけど、今回はそれだと間に合わなそうだったからね。ちょっと強めの力を使った。そうしたら、やっぱりバレた」
「その、なんというか……あんたの力、ワタシの解析スキルに全く反応しないんだけど、どういうこと?」
「アビ、お前もそうだったのか。実は私もそうだった」
ビゼンも解析スキルを持っていたのか。
「それはスキルのランク差ね」
アオが説明する。
「あまりにスキルのランクに差があると、解析系のスキルには『解析不能』という反応すら出ないの。見えない、何も感じない……そういうことよ」
アオはビゼンと私の質問に答える。
「でも、あの華姫というのは、私の力を感じることができたでしょ? 特にアビは、自分のスキルをまだ何も使いこなせてないしね」
「え? そうなの?」
ワタシは驚く。
「まだまだこれからってことね、私の勇者様」
アオがクスクス笑う。
「なんなのその勇者って!」
ワタシは顔を赤らめて照れながら言い返した。
(……でも、本当に何も使いこなせてないのか)
(この【翻訳者】スキル……)
ワタシは、自分のスキルを見つめ直す。
---
「しかし、その四凶の話も大事だが、現実問題として物資をほぼ焼き払われてしまった。これでは、活動を続けられない。食料もほぼなくなってしまった。ヨクト、どうする?」
リョーカさんが深刻な顔で言う。
「ああ、確かにな。生き残った連中とオレの部隊の連中、およそ70名。食料だけでもなんとかしないといけない」
リョーカとヨクトが顔色を変える。
確かに、物資がないならどうしようもない。
ワタシはちょっと考えた後、
「アオ、あんたのアイテムボックスに預けてた、例のギルマスからもらった金貨、ここに出してもらっていい?」
「なるほど、そういうことか。私も仲間を助けるのに協力してくれるなら、異存はない」
ビゼンも協力してくれるらしい。
「分かったわ」
アオはそう言うと、目の前にギルマスからもらった金貨袋を並べる。
ドサッ、ドサッ、ドサッ。
重々しい音を立てて、金貨袋が積み上がっていく。
「おお……」
ヨクトが息を呑む。
「こ、これは……」
リョーカが震える声で言う。
「ギルドマスターから貰ったお金よ。ちょっと色々あってね」
ワタシは詳細は割愛して答える。
「まさか、これを俺たちに!?」
ヨクトが驚いて言う。
「貸すだけよ。出世払いしてね。私たちもすぐに要るってわけじゃないから」
「すまない……本当に、すまない……」
リョーカが、涙ぐみながら深く頭を下げる。
「ビゼンの仲間のためよ」
ワタシは笑って言った。
「アビさん、ビゼンさん、アオ様。何から何まで……」
リョーカさんが深く頭を下げる。
「じゃあ、こうしよう。俺とアビたちで先に王都に行って、物資の手配をする。リョーカ、お前はとりあえず、部隊を移動させてくれ。ここはもうダメだろう。あの悪魔や偵察隊がいつ来るか分からない」
「分かった。頼んだぞ」
リョーカが力強く頷く。
こうして、ワタシたちはいよいよ王都に乗り込むことになる。 ワタシは、そこに過酷な試練が待っていることも知らずに――。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ★応援クリック★や★ブックマーク★をお願いします!
皆様の応援が、執筆の励みになります!
次回もお楽しみに!




