第19話 悪魔・華姫
アビやヨクトたちが革命軍の野営に向かうしばらく前……
「あー、ロフ。あっちの方に何かいるわ」
少女が、隣で馬に乗る男に話しかける。
しかし、その少女は明らかに人ではなかった。
カールのかかった茶髪。
だが頭には羊のような角があり、肌は雪のように白い。
そして極めつけは――空中を浮遊していることだ。
「華姫、よく見つけたな。オレも魔力感知は少し心得ているが、まったく気配を感じん」
ロフと呼ばれた男は、魔力感知に集中し、華姫が指さす方向に神経を研ぎ澄ます。
しかし、何も感じない。
「まあ、なかなか上手く隠してるけどね~。でも、アタシの眼はごまかせないんだ~。あー、これは革命軍とか言われてる反乱軍ね。どうする? 見逃す?」
「……面倒だな。相手をする価値もないが、後でチュウエイの奴に難癖をつけられるのも癪だ」
ロフは面倒くさそうに答える。
「じゃあ、せめて皆殺しにしとく? キャハ」
華姫は残忍な笑顔で答える。
「革命軍など、ほぼ民兵の集まりだ。殺すまでもない。物資だけ破壊すればいい」
「あー、ハイハイ。極力殺すなってことね。わかったよ!」
華姫がにこにこと笑う。
「じゃあ、死なない程度にいたぶるね~。手足が一本くらい無くなっても、死なないよね?」
「おい、待て! そういう意味じゃ……」
「じゃあ、バアアイ!」
ロフの制止も聞かず、華姫は風のように駆けていった。
「……くそ。あの女悪魔、また勝手な解釈を……」
「隊長! どうされますか?」
兵士がロフに確認する
「当然、追うぞ! 騎兵を先行させる! 歩兵は後で来い!」
ロフは兵に声をかけると、騎兵を率いて華姫を追った。
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災厄は唐突に現れた。
革命軍の野営の上空に魔力で閃光弾が放たれる。
「敵襲か!どこだ!どこからくる!」
陣営を巡回していた部隊長のリョーカは素早く部下に状況を確認する。
その時、上空から女悪魔が現れる。
「どうも~。人間のみなさん、初めまして~。アタシの名は華姫。コウロ君によって召喚された、かわいい悪魔だよ~。キャハ」
リョーカは冒険者出身の兵士で、Bランクの歴戦の戦士だ。
明らかに人ではない相手に対しても、十分備えはできていた。
「 魔法束縛鎖を発動しろ!」
魔導士たちに素早く指示を出す。
「ハッ!」
地面に魔法陣が現れ、魔力でできた鎖が華姫の身体を縛り付ける。
「やるじゃない。あらかじめ魔法陣を仕込んでおいて、呪文の詠唱をカットするなんてね! じゃあ次は何を見せてくれるのお?」
「強がりやがって! これでお前の魔法耐性はなくなったはずだ!」
「何ですって!?」
女悪魔が声を上げる。
魔法を発動した魔法使いたちは勝利を確信する。
魔法束縛鎖に絡まれた者は、魔法耐性が奪われる。
完全に魔法は発動した。 魔族にとって、これは裸にされるに等しいはずだった。
これで終わらない。
「電撃流!」
「炎弾!」
円陣を組んだ魔法使いたちが、魔力の鎖に繋がれた女悪魔に向かって一斉に魔法を放つ。
「きゃあああああ! やめてえええ! 痛いいいい! このアタシがあああああ」
華姫が苦しそうに叫ぶ。
「……よし!」
リョーカが拳を握る。
爆風が静まり、煙が晴れる。
女悪魔は沈黙している。
「やったか……?」
魔導士の一人が呟く。
しかし、違和感がある。
悪魔を仕留めたなら、魔法束縛鎖は解除されるはずだ。
だが、魔法はまだ発動している。
「……まだ、生きているのか?」
その瞬間――。
「なんちゃって! 喜んだ? キャハ!」
華姫が、何事もなかったかのように笑う。
「馬鹿な!!」
魔導士たちが声を上げる。
次の瞬間、悪魔を縛っていた魔法の鎖が――いとも簡単に、引きちぎられた。
「じゃあ! 行くよ!」
カキの右腕が変化し、悪魔の爪が現れる。
「シャアアアアア!!!」
カキが駆け抜けた瞬間、湿った布を裂くような鈍い音が響いた。
次の瞬間、リョーカの肩口から、骨ごと引き抜かれた右腕が宙を舞う。
断面から噴き出した血が、熱い霧となって頬にかかる。
「ぐわああああ!」
「うるさいなあ。死にはしないでしょ。キャハ」
カキは引きちぎったリョーカの右腕を、ゴミのように地面に投げ捨てる。
「隊長!」
「貴様ああああ!」
兵士たちが剣を取り、魔導士たちが呪文の詠唱に入ろうとする。
が――。
「シャアアアアアアア!」
カキが奇声を上げ、疾風のように兵士に襲いかかる。
「ぎゃあああああ!」
次の瞬間、ある者は目を奪われ、ある者は剣を持つ腕を失い、ある者は立つことすらできなくなった。
華姫が駆け抜けるたびに、兵士が断末魔の悲鳴を上げ、血飛沫が舞い上がる。
のたうち回る兵士たち。
「ああ、最高。もっと悲鳴を聞かせてよ」
カキは悪魔の爪についた血を舐めながら、恍惚とした表情を浮かべる。
(こいつ……わざと、俺たちを殺していない! なぶるつもりか!)
歴戦の勇士であるリョーカは、震え上がった。
その時――。 空から、炎の矢が降り注いだ。
「何だ! 貴様、何をした!」
リョーカが叫ぶ。
「これはアタシじゃないよ~。ロフ君が来たみたいね。じゃあ、アタシの仕事もこれで終わりか~」
そう言うと、華姫は再びリョーカに襲いかかる。
「死ねえ! シャアア! デビルショット!」
カキが叫ぶ。
「――なんちゃって!」
次の瞬間、カキはリョーカの左足にローキックを放ち、膝から下を吹き飛ばした。
「ぐわああああ!」
リョーカはそのまま顔面から地面に激突する。
しかし、その心は折れていなかった。
(こいつらを……目に焼き付けるんだ!)
(そして、なんとしても……ヨクトに伝えなければ!)
リョーカは血の涙を流しながら、敵の姿を目に焼き付けた。
ロフと呼ばれていた男も、人間とは思えなかった。
「ウォオオオオ!」
仲間が放った弓矢を受けているにもかかわらず、怒号をあげ、戟を小枝のごとく振り回している。
仲間が相打ち覚悟でロフに槍を突き立てているはずなのに、何事もないように、革命軍を吹き飛ばしている。
辺り一面はもはや火の海だった。 戦える者は、もういなかった。
それでもリョーカは、目に焼き付けた。
(華姫という悪魔……)
(ロフという化け物……)
(忘れない……絶対に……!)
「もういいだろう。引くぞ!」
ロフは部下に撤退の命令を出す。
「あー、ちょっと先に行っててくれる? アタシはまだ用事があるかもしれない」
「生き残りか? 放っておけ。そのうち死ぬ」
「違う、違う。ちょっと気になることがあるんだよね~」
「フン。好きにしろ。お前はオレの部下ではないからな」
そう言うと、ロフは兵を引いていき、悪魔は霧のように掻き消えた…… リョーカは願った。
(ヨクト……早く来てくれ……)
(オレの命が尽きる前に……)
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