第18話 奇跡と悪魔に邂逅する
ギルドの護衛たちとは、ここで別れることにした。
革命軍と一緒にいるところを見られたら、彼らにも迷惑が及ぶ。
「迷惑かけたわね。これ、チップよ」
ワタシはギルドマスターから貰った報酬の一部を渡す。
「こ、こんなに貰っていいんですか!?」 護衛たちは目を丸くして喜んでくれた。
まあ、命がけの仕事だったしね。
幸い、護衛団には死人は出なかった。
アオが「ただの水を回復薬に変える」というふざけたスキルを持っていたおかげだ。
私の以前の傷もあれで治したのだろう。
アオが魔力を込めた水を飲むだけで、革命軍の瀕死になっていた人たちもみるみる回復した。
ワタシたちはたちまち彼らに認められた。
アオは「聖女様」と崇められ、ヨクトに傷をつけたビゼンは英雄扱い。
そして、ワタシは――。
「アビさん、あの聖典にあるという『セクシャルコマンドー』ってやつ、俺たちも教えてくれませんかね?」
「あれは事故だって言ってるでしょ!!」
革命軍の男たちから伝説の武術の使い手だと誤解をうけたようだ。
どうやら「聖典に記されし伝説の格闘術セクシャルコマンドーでヨクト隊長を倒した女戦士」という不名誉な噂が広まっているらしい。
ヨクトのアホのせいだ。
まあ、残念ながら助からなかった人もいたわけだが、残念ながらしかたない。
しかし、不思議なことに私のスキル【翻訳者】はアオにはなにも反応しない。
上位スキルでもあっても、すくなくとも通常は解析不能とでるのだが。
私自身このスキルを使いこなせていないのだろう。
革命軍の馬車の荷台。ワタシとアオが隣同士で座り、向かいにはビゼンとヨクトが座っている。
「ああ。まずは王都近くに隠れてる野営地に向かう。そこで待機して、俺たち数人だけで王都に入る」
「王都の近くに隠れてるって……バレるんじゃないの?」
当然の疑問だ。革命軍なんて、見つかったら即座に討伐対象だろう。
「アオの魔法かスキルかなんかもたいしたもんだが、俺たちの魔法使いもなかなかだぜ。隠行の結界を張ってる。遠目じゃ絶対に分からねえよ」
ヨクトが自信満々に胸を張る。
(……それ、完全にフラグじゃない?)
ワタシは不安を覚えたが、口には出さなかった。
「まあ、とりあえず休むといい。オレは仲間たちの様子を見てくる」
そう言って、ヨクトは荷台から降りていった。
たしかに。
荷台で寝苦しい状態ではあったが、ワタシは目を閉じた、すると急に眠気が襲ってきた。
「おい、あんたち、おきてくれ!」
(ん……?)
馬車で寝ていたはずなのに、頭の下に何か柔らかいものがある。
目を開けると――目の前に、アオの胸と、にこやかな笑顔。
「い?」
ワタシは変な声を上げて飛び起きた。
「あら、おはよう」 アオはいつも通りの声で挨拶する。
「ご、ごめん! いつの間にか、もたれかかってたみたいで……」
ワタシは慌てて謝罪する。
一瞬あせったが、まわりの様子がただ事ではない様子にきがつく。
遠くで火の手があがっている。
あー、いやな予感があたったか。
ヨクトが数名の仲間をつれて、馬で先行するのが見えた。
「アオ、回復薬を作っておいてお願い。私はビゼンと先に行く。」
ワタシはビゼンと馬をかり、ヨクトの後をおった。
野営地に到着した瞬間、ワタシは息を呑んだ。
そこにあったのは、地獄だった。 倒れた革命軍の兵士たち。
明らかに息絶えている者もいれば――わざと、すぐには死なない程度に手足を引きちぎられている者もいた。
「うう……あ、ああああ……」
片腕を失った兵士が、苦痛に呻いている。
「くそっ……くそおおお!」
ヨクトが歯を食いしばり、生き残った一人の戦士に駆け寄る。
ワタシも馬を降り、その男の元へ走った。
「リョーカ! しっかりしろ!」
ヨクトが叫ぶ。
リョーカ と呼ばれた男は、片腕と片足を失い、血まみれで横たわっていた。
どう見ても、助からない。
(……どうやれば、こんなことに)
ワタシは拳を握りしめる。
これは、戦いの結果じゃない。
明らかに、わざとやっている。
「ヨクト……聞いてくれ……」
リョーカが掠れた声で呟く。
「後で聞く! 今は喋るな! もうすぐ、俺たちの新しい仲間が来る。アオっていうんだ。そうすれば、こんな傷、すぐに治る……!」
ヨクトが悔しそうに、それでも希望を込めて言う。
「いや……ダメだ。オレはもう……助からない」
リョーカが力なく笑う。
「『華姫』という悪魔と、『ロフ』という奴に……気をつけろ。特に華姫は……悪魔だ。人間じゃねえ。奴は俺たちの結界を見破って……襲撃してきた。仲間たちを……死なない程度にいたぶって……それで、笑いながら去っていった……か、敵わない……」
「おい、リョーカ! リョーカ!!」
ヨクトが男の肩を揺さぶる。 リョーカの残された左腕が、力なく地面に倒れた。
「くそっ……!」 ヨクトが拳で地面を叩く。
(……クソ)
ワタシも、歯を食いしばる。 その瞬間――。
後方から、眩い光が野営地全体を包み込んだ。
「――え?」
振り返ると、アオが上空に向けて魔法の光を放ち、生き残った兵士たちに次々と着弾させている。
「うおおおおおお!?」
ヨクトが叫ぶ。
「は、ああああ!?」
ワタシも目を疑った。
リョーカの欠損した四肢が――みるみるうちに、再生していく。
肉が盛り上がり、骨が伸び、皮膚が覆っていく。
「あ、あれ? オレは……死んだんじゃ……?」
リョーカが間抜けな声を上げる。
周囲のあちこちで歓声が上がっている。
瀕死だった兵士たちが、次々と立ち上がっていく。
「嘘だろ……」
「奇跡だ……!」
「聖女様……!」
革命軍の兵士たちが、涙を流しながらアオを見上げる。
(普通じゃない……)
ワタシのスキル【翻訳者】は、アオに何も反応しない。
まるで、スキルという概念すら超越しているかのように。
「アオ、あんた、いったい……」
そもそもいつ追いついたんだ。
驚くワタシに、アオは笑顔で答える。
「こうしないと、間に合いそうになかったので」
その瞬間――。 恐ろしい気配が、野営地に満ちた。
「あ~、あんたは出ないって約束じゃなかったの? えー!? マジ!? ちょっと待って、話が違くない!?ずるい!ずるい!ずるいいいいい」
軽い調子の声。 現れたのは、茶髪の若い女――いや、違う。
肌は白く、頭には羊のような角。その気配は、明らかに人ではない。
「こ、こいつだ! こいつが華姫と名乗った悪魔だ!」
リョーカが叫ぶ。
華姫と呼ばれた悪魔は、まるで散歩にでも来たかのような気軽さで、野営地を見渡している。
「あのさ、アオ? あんた、動かないって約束だったよね? ていうか、マジで動かないでくれる? 『アタシたち』、不可侵契約だっけ?結んでるんだよねえ~。きいてるよお。」
華姫が不満げに頬を膨らませる。
アオは布越しにそいつのようすをうかがっている
「ま、いいや。ここであんたとやり合う気はないよ。物資はすべて焼かせてもらったしね~。仕事はおわりおわり~」
華姫が軽く手を振る。
その瞬間――ビゼンが、問答無用で華姫に向かって薙刀を一閃した。
空気を切り裂く音。
だが――。
「……なに!?」
ビゼンが驚愕の声を上げる。 華姫は、ビゼンの薙刀を――片手で、軽々と掴んでいた。
「おっと、危ない~。まともに食らったら、アタシも結構ヤバかったかもね」
華姫が笑う。
「く……!」
ビゼンが薙刀を引こうとするが、びくともしない。
「あ、そうそう。これ、おかえしね。シャアア!」
華姫が魔力の塊を、至近距離からビゼンに向けて放つ。
「ビゼン!」 ワタシが叫ぶ。
ビゼンは薙刀を手放し、間一髪で回避した 。
魔力の塊が地面に着弾し、大きな爆発を起こす。
「させるか!」
ワタシも剣を抜き、華姫に斬りかかる。
だが――華姫は軽々と上空へ飛び上がった。
「アタシも、あんたとはやり合うなって言われてるからね。アオ、またね~!」
華姫が手を振り、そのまま姿を消した。
「……逃げた?」
ワタシは剣を構えたまま、周囲を警戒する。
「アオ、あいつは何者? 知り合いなの?」
ワタシはアオに問いかける。
「さあ。知らないんですよね……。不可侵契約というのはほんの少し、思い当たることがあるんですが、さっきの悪魔の人は関係ないので、ほんとにしらなくて。」
アオは少しこまったようにこたえる
(……まじか)
ワタシは疑問を持ったが、今はそれを追及している場合じゃない。
(それに、あの華姫って悪魔、明らかにアオのことを知ってた)
(「出ないって約束」って、誰との約束なんだ?)
(アオ、あんた、いったい――)
ワタシは気持ちをきりかえ、ヨクトに確認する
「ヨクト、被害状況は?」
「……ああ。確認する」
ヨクトが苦い表情で頷く。 ワタシは拳を握りしめた。
(華姫……覚えておく) ――この出会いが、後にどれほどの意味を持つことになるのか。 この時のワタシは、まだ知らなかった。
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