第16話 男を助け、悪魔はひそかに観察する
さて、こいつ――ヨクトとかいったか。
どうしたものか。
そう考えていると、ビゼンが静かに、口を開いた。
「では、とどめを刺すぞ」
薙刀が、死神の鎌のようにゆっくりと振り上がる。
「ちょっと、待って。ストップ! 」 思わず声が出た。
「なぜ止める?」
ビゼンの瞳から放たれるのは、温度を欠いた冷徹な視線。
「いや……こいつ、どうも心の底まで腐ってる奴じゃない気がして。
あんたの素顔を見たとき、一瞬、動きがとまった。まずは縛り上げよう。生きてる革命軍も、まとめて。」
しばしの沈黙。ビゼンの放つ殺気が、じりじりと肌を焼く。
「……アビが、そう言うのなら」
不承不承といった様子で、薙刀が下ろされる。
ヨクトは泥を噛んだまま、意識を失って転がっている。
「アオを呼んで、護衛を起こそう。賊は全員縛り上げる。……そういう流れで行こう」
戦いは終わった。
だが――私の喉の奥には、ひどく苦い何かが、澱のように残っていた。
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その様子を、アオは馬車の影から、薄氷のような静寂を纏って見つめていた。
「ねえ、あの子って本当に『良い子』だね。」
いつの間にか隣に、ショートヘアの少女が腰を下ろしている。 凍子。
アオはその名を、そしてその正体を知っている。
「じゃあ、王都では不可侵ってことで、いいよね?」
凍子は無邪気な笑顔を浮かべる。
だが、その背後に漂う気配は、もはや人の領域を越え、概念的な「災厄」に近い。
「それはあなたたち次第だよ」 アオが微笑む。
目元を覆う布の奥、その瞳だけは決して笑っていない。
「こわいこわい。怒らないでよ。私は見てるだけ。今回だって究姫にパシリにされたんだから。」
凍子は軽く肩をすくめた。
「王都でまた会おうね。例のゲーム、究姫は次こそ負けないってさ。……あ、クロにも声かけといたから」
「クロも来るのね」
「――楽しみだよ」
凍子はくすくすと笑い、次の瞬間、風すら残さず掻き消えた。
「アオ、無事!? ちょっと手伝って!」
アビが、まだ何も知らずに駆け寄ってくる。
アオは、たった今、悪魔と交わした会話など、最初からなかったかのような穏やかな顔で歩き出した。
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