第13話 右目と未来を奪われる
痛い。
痛い痛い痛い痛い。
声が、喉が、肺が、全部裂けそうなのに、叫びすら、まともに出せない。
いや、叫ぶものか。負けてなるものか。
右目があった場所から、何かが流れ落ちる。
熱い。
視界が、半分消えた。
「ぐ、ううう……っ、あぁあああ!」
焼けた鉄が肌を灼くような鼻を突く嫌な匂い。 残った左目の視界が、血の色に染まる。
自分の両手に、人間であることを放棄させる「罪人の刻印」が深く、深く、赤く刻みつけられていくのが見えた。
見なくても刻印が全身に刻めこまれるのが分かる。
それだけでは終わらない。 魔術の冷気が下腹部を走り、ワタシの中から 臓器が、無機質に取り出されていく。
血は全く出ていないのに、それだけが激痛とともに引きずりだされる。
視界の端で、ビゼンが喉を潰さんばかりに泣き喚いている。 強かった彼女が、あんなにボロボロになってワタシの名前を呼んでいる。
泣かないでよ。
「ハハハハハ! どうだ、小娘!」
目の前で、貴族コウロ=エンが下卑た笑い声を上げた。
「お前はもう人ではない!
道で襲われようが、誰も助けない!
お前は毎日、死の恐怖を味わいながら、人目を避けて生きるんだよ!」
笑い声が、耳に突き刺さる。
「安心しろ! もう子供が生まれることもない!
何しろお前はもう、"もの"なんだからな!」
ワタシは血の涙を流しながら、その男を睨みつけた。
この顔を、この声を、この笑い方を。 絶対に忘れない。
「――それでは、改めて申し付ける」
一段高い場所から、冷徹な宣告が下る。
「アビ=キョウカ。貴様はこれより『刻印持ち』となった。
今後、国は貴様を保護しない。
ただし、別紙目録の免罪金を納めるか、あるいは、このコウロ=エンが事件に関わっている証明をしたならば、
その時に限り、人間への復帰を認めるものとする」
意識がもうろうとするワタシを、アオが静かに抱きかかえた。 その腕は、驚くほど温かかった。
「……もう、いいでしょう?」
アオの声は、凪のように静かだった。
「コウロ。約束は果たしてもらいますよ。この子が条件を満たした時、あなたの権力でダークエルフの差別を撤廃すること。
そして、この子の身体を、返してもらうこと」
数日前まで。 ワタシたち3人は、笑っていたはずだった。
どうしてこうなった‥… コウロ…奴のせいだ。
「もし、約束が果たされない場合は……」
アオの瞳が、深淵のような色に変わる。
「この国から、すべての生命が消えると思いなさい。この四神・青竜と、そちらにいる四凶キュウキが、この契約の立会人よ」
なにか言ってるようだが、ワタシの耳にはもうとどかなかった。
彼女の声が、遠くなる。 意識が、血の海に沈んでいく。
最後にみたのはビゼンの泣き叫ぶ顔だった
――時計の針を、少しだけ戻そう。 ワタシがまだ自由で、体も心も欠けていなかった、あの日まで。
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