第12話 最大のピンチを迎える
夜・寝室
豪華すぎる寝室で、それぞれが割り当てられたベッドに向かい、用意されていたローブを羽織って体を沈めた。
「今日はもう、疲れた……」
よく考えたら、魔犬との戦いは命がけだった。
ベッドに横になったとたん、張りつめていたものがほどけ、眠気が一気に押し寄せてくる。
そのとき、気配を感じた。
「……は?」
視線をやると、なぜかアオがすぐ隣にいる。
距離が、近い。
吸い込まれるような瞳で、まっすぐこちらを見つめていた。
ローブをまとった彼女の体は、線の一つ一つが整いすぎていて、目を逸らすタイミングを失う。
「アビ……」
蜜のように甘い声で名前を呼ばれる。
アオの指先が、私の首筋をなぞる。
ひんやりとしているのに、触れられた場所から火がついたように熱くなる。
彼女の体からは、雨上がりの森のような、どこか懐かしくて陶酔を誘う香りが立ち上っていた。
視界が、彼女の青の瞳に吸い込まれていく。
まずい。意識が溶ける。このまま全部、どうでもよくなってしまいそう――。
彼女の息遣いが伝わり、胸の奥がじんわりと熱を帯びた。
まずい。
まずい、まずい、まずい。
流されるな、ワタシ。
「やめんかああああ!」
ワタシは渾身の力を込めて、彼女の額に頭突きをかました。
「いたああああ!」
額を押さえてのけぞるアオ。
「なにをするかあああ!」
思わず叫ぶ。
「まさか私の『魅了』に抵抗するなんて。
さすがは私の見込んだ、私の勇者様!」
半裸で悶絶しながら意味不明なことを言うアホ、いやアオ。
ワタシは彼女を抱えて部屋の外へ叩き出し、扉を閉めて鍵をかけた。
「ハア……」
思わず肩で息をする。
「……いいのか。
締め出してしまって」
唖然とした様子で、ビゼンが言う。
そういえば、彼女もここにいた。
衆人環視の中で襲いかかってくるとは、なんというやつだ。
いや、誰もいなければいいという問題でもないが。
「ほっときなさい」
そう言って、再びベッドに沈んだ。
翌朝
……柔らかい。
なにかが腕に当たっている。
嫌な予感がして、ゆっくり目を開けた。
「……」
いる。
なぜか、シーツにくるまったアオが、堂々と隣で寝ている。
しかも、まっぱで。
「なんで!!?」
飛び起きた。
「あら、おはよう」
「おはようじゃない!
どうやって入ったの!?」
思わずドアの鍵を確認する。
……開いている。
「ここは用心が悪いね。 こんな鍵、何の意味もないよ」
ベッドの上から人差し指を振る。
ガチャリ。
鍵が閉まった。
解錠・施錠魔法か!
……なんてやつだ。
こいつの本職は泥棒なのだろうか。
「もっと厳重にするよう、ギルマスに言っておくわね」
あのギルマスの泣き顔が、はっきりと思い浮かんだ。
朝食も、当然のように異常だった。
量も、質も、見た目も。
並べられた皿を見ただけで、胃が観念する。
「……これ、一週間分じゃないか?」
ビゼンが、半ば本気で呟いた。
「足りない?」
アオが首をかしげる。
「じゃあ次から、手土産とお弁当も用意するように、ギルマスに言っておくね。」
また、ギルマスを泣かせる気だ。
「いや、大丈夫だから。」
思わずギルマスをかばう。
食べながら、自然と話はこれからのことになる。
「で、アオ。あんたは、どうするの?」
「ついていくわ。」
即答だった。
……うれしいような。
正直、少し迷惑なような。
「チュウエイにはね。“昔なじみ”が関わってる気がするんだよ。」
ワインでも語るような軽さで、アオは言う。
「初めて会ったときから、ずっとそんな感じがしてて。」
「なにそれ。カン?」
意味がわからず、聞き返す。
「たぶん、人ならざる者が、彼についてる。だから、あのときは関わらなかったのよ。でも。」
アオは、こちらを見る。
「あなたたちが関わるなら、私も『アレ』を放っておけない。……今言えるのは、ここまで。」
真意は、まだ見えない。
だが、冗談ではないことだけは伝わってくる。
ワタシは、彼女をじっと見て、条件を出した。
「寝るときは、近づかない。 寝るときは、服を着る。」
「え。」
アオが、心底意外そうな顔をする。
「そんな!じゃあ、ビゼンが私の相手をしてくれるのね?」
「するか!」
ビゼンが、即座に切り捨てた。
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