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異能警護 ―Re:d Box―  作者: Amie


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第4話 4号警備

 今日も会社で座学を受ける予定の斗黎は、エントランスへと足を踏み入れた。

 エレベーターを待つ間、ガラス越しに映る自分の姿をぼんやりと眺めていると、不意に背後から声がかかる。

 エレベーターの前で、スポーツウェア姿の蓮華と鉢合わせた。


 ――今日は制服じゃないのか……。


 「あっ、斗黎君! 今から研修?」

 軽く手を振りながら声をかけてくる蓮華は、スポーツウェア姿ということもあって、いつもとは違う印象だった。

 細身ながらも無駄のない引き締まった体つきで、黒色のタイツが脚線をはっきりと際立たせている。

 「斗黎君?」

 呼びかけられて、はっと我に返る。

 「あっ、あぁ……そうだよ」

 自分でも驚くほど間の抜けた返事になってしまった。

 蓮華の体を、ついまじまじと見てしまっていた。

 ――これも立派なセクハラだ。

 内心で自分を叱責していると、蓮華は気にした様子もなく、にこりと笑った。

 「そっか。じゃあ、頑張ってね!」

 そう言って軽やかに踵を返し、会社を出ていく。

 自動ドアの向こうへ消えていく背中を、斗黎はしばらく見送っていた。


****


 「兼高さん、蓮華ってどこに行ってるんですか?」

 「なんでだ?」

 「いや、さっきエントランスで会った時、スポーツウェアで出ていったので」

 「あぁ、黑田さんのところだな」

 黑田さん?

 聞き慣れない名前に、首を傾げる。

 「?」

 「蓮華はボクシングジムに通ってるんだ」

 「ボクシングジムですか!?」

 「アイツの戦闘スタイルは、ナックルを使った闘拳スタイルだ。RED BOXの“電撃”とも相性が良い」

 成る程、異能力に合わせた戦闘スタイルというわけか。――殴って感電させる、ってことか?

  「想と櫻子は、どんな戦闘スタイルなんですか?」

 ここ数日で、霧島と九篠妹を下の名前で呼ぶようになっていた。

 もちろん、二人の許可はもらっている。

 連絡先も交換したが、二回目ともなればやり取りもスムーズだった。

 「二人とも拳銃だ。櫻子は射撃が得意だが、接近戦はあまり向いていない。警護の際は後方支援に回ることが多いな。それでも――今のお前よりは強いぞ」

 あんなに華奢なのに、男よりも強いのか……。

 「霧島は片手に銃を持った近接戦を得意としている。尤も、アイツのは“戦闘”というより“喧嘩”に近いがな」

 銃を持っているのに近接戦……。


 ――一体どんな戦い方をするんだろう。


 「それじゃあ、今日の座学を始めるぞ」

 考えているのも束の間、話は次へと進んでしまった。

 「あっ、はい」


 ――


 「今日は、ヴェノームと身辺警護について話す」

 そういえば、俺がこれから行う身辺警護と、ヴェノームにどんな関係があるのだろう。

 これまで会話の端々にその単語は出てきたが、敢えて触れずにいた。

 「ヴェノームの出現以降、民間警備会社の需要は高まっている。人々は人的被害やテロ行為に、日々怯えながら生活している」

 ヴェノームのニュースを見ない日はない。

 むしろ、毎日のようにどこかで人が死んでいる。

 「日本政府は対抗策として、警察の警備部に特殊部隊STACKを編成した。通報があれば駆け付けて駆除はするが、被害を未然に防ぐための相談までは対応しきれていないのが実情だ」

 まぁ……いつ、どこに現れるかも分からないからな。

 「だから、街中に設置されているモノリスやドローンは、少しでも被害を減らすために政府が造ったものだ」


 モノリスは、日本政府が緋緋色金ヒヒイロノカネという特殊金属を研究し、その特異性を限定的に再現することに成功した装置だ。

 モノリスを中心とした半径八メートルの範囲では、緋緋色金ヒヒイロノカネが持つ『人間には知覚できないが、特定の異常細胞にのみ反応する特殊な熱』が常時発生しており、ヴェノームの細胞を焼却する。

 大体のヴェノームは熱を嫌がって近づかない。

 ヴェノーム発生時、政府はモノリスを中心としたサークル内への避難を推奨している。

 街の至る所に設置され、国民にとっての緊急避難所とされている。

 AIドローンは、ヴェノーム警戒アラートと連動している。ドローンが生体反応を検知すると、周辺住民や位置情報をオンにしている人々にアラートが届く。通報があった場合も同様だ。


 ――ここまでは、ニュースや特番で得た知識。いわば一般常識である。


 「それでも被害が“0”になることはない。いつ自分が被害に遭うか、怯えている人は大勢いる。」

 「そこで日本政府は、国の認可を受けた民間警備会社に対し、特定指定金属“緋緋色金ヒヒイロノカネ”を原材料とした武器・防具による武装を許可した。さらに、ヴェノームに関する情報と専門知識も共有されるようになった」

 「警視庁の要請で、要人警護を共同で行う場合もある」

 そうなのか……。

 あまり聞かないが、需要は確実にあるんだろう。

 「じゃあ、俺も緋緋色金ヒヒイロノカネの武器や防具を装備して、ヴェノームと戦うんですか?」

 「そうだ。蓮華のナックル、想と櫻子の銃も緋緋色金ヒヒイロノカネでできている」

 「ということは、俺専用の武器も支給されるんですか?」

 「そうだな」

 少し、テンションが上がる。

 「だが、武器を携帯する場合はライセンスを常に携帯しなければならない」


 「ライセンス?」

 「“特別警備許可証”通称、SSL――『Special Security License』だ。特別認可企業での研修を修了し、認められた社員にのみ交付される。これがなければ銃刀法違反で逮捕される」

 成る程……。

 「話を戻す。近年のヴェノーム出現により、警備業法は大幅に改正された。その結果、一時は一万社を超え、飽和状態となっていた民警は、現在二百五十一社にまで淘汰されている」

 「ほとんどは個人事業だ。全国に事業所を持つ大手は五社だけで、その中でも警備の質で定評があるのが、俺たち九篠警備保障と、港区に本社を置く株式会社SEALDsだ」

 SEALDs――此処も広告やテレビでよく目にする名前だ。

 「この二社だけは、身辺警護課に潜在異能力者を雇っている。尤も、その事実は公にはされていないがな」

 「!?」

 「SEALDsにも異能力者がいるんですか?」

 「あぁ。現在、五人ほど在籍している」

 そんなに……。

 「SEALDsは、うちと違って身辺警護専門だ。人材探しにも相当力を入れている」

 身辺警護専門ってことは、体育会系な会社なんだろうか。


 ――


 「矢車……うちに来てくれて感謝する」

 その言葉に、素直に嬉しくなる。


 「最後に、特別認可企業について説明する」

 まだあるのか……。

 てっきり、これで終わりだと思っていた。

 「特別認可企業とは、ヴェノームに関わる警護、または関与が予測される案件を取り扱うことを許可された民間警備会社だ」

 講習室のモニターに資料が映し出される。

 「まず、“警備”には四つの種類がある」


 ①一号警備【常駐施設警備】

 ②二号警備【雑踏警備】

 ③三号警備【運搬警備】

 ④四号警備【身辺警備】


 「矢車。身辺警護と聞いて、何を思い浮かべる?」

 「アメリカのシークレットサービスとか、警視庁のSPですかね」

 「どちらも公的機関に属する公務員だ。警護対象も、前者は大統領、後者は内閣総理大臣や衆参両議長、国賓といった連中になる」

 兼高は淡々と続ける。

 「日本では、それ以外の民間人については、どれだけ要人であっても、基本的にSPや都道府県警所属の警護官が付くことはない」


 ――あんな売国奴のような政治家は護って、民間人は護らないのか。国民の税金で飯を食ってるくせに。


 「つまりだ。民間人を対象にした身辺警護は、要人警護とは言っても公的なものじゃない。その担い手になるのは民警だ」

 胸の奥に、説明のつかない重さだけが残った。


 「俺たちは警察の要請で合同任務に就くこともある。だから特認企業の民警のボディガードは“部外SP”とも呼ばれる」

 「部外SPって、なんか格好いいですね」

 「そんな良いもんじゃない。向こうには、こっちを快く思っていない奴もいる」

 兼高は呆れたように言う。

 「どうしてですか?」

 「要人警護は、警察内でも選び抜かれたSPの仕事だ。国家試験を通って警察官になり、その中でも優秀な人間だけがなれる。研修を受けただけの民警のボディガードが、同じ土俵に上がれば……いい気はしないだろ」

 「まぁ……確かに」

 「だが、気にするな。お前はボディガードとしての誇りを持って任務に従事しろ」

 「――はい!」


****


 座学を終え、オフィスのソファに身を沈めながら炭酸飲料を口に含む。喉を抜ける刺激に、張り詰めていた意識が少しだけ緩んだ。

 その時、兼高がゆっくりと近づいてくる。

 「帰らないのか?」

 「少し休んでから帰ります」

 兼高も向かいのソファに腰を下ろし、背もたれに体重を預けた。

 「兼高さん。この会社の名前と、九篠姉妹って関係あるんですか?」

 ずっと気になっていたことを、思い切って聞いてみた。

 「社長は九篠姉妹の親父さんだ。……俺の元上司でもある」

 情報整理が追いつかない。

 ということは、九篠姉妹は社長令嬢で……。

 「元上司、ですか?」

 「俺は元SPだ。社長の九篠征臣くじょう まさおみさんも元SPで、階級は警部だった」


 「この会社は元々、奥さんの親父さん――つまり九篠姉妹の祖父の代からの会社だ。前社長が退いたタイミングで、征臣さんは警察を辞め、社長に就任した」


 「小さな警備会社だったが、征臣さんの手腕で業界トップクラスの民警になった。……俺は、社長にスカウトされてここに入ったんだ」


 ――


 「俺の恩人だ」

 そう言って、兼高は少しだけ視線を落とした。

 過去を懐かしむような、その表情が印象に残る。


 ――


 「まっ、頑張れよ」

 立ち上がり、軽く手を挙げてから、兼高はオフィスを後にした。

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