8 キャラ作りかよ!
そのグランピング施設は、白樺林の中にドーム型のテントが点在していた。
それぞれが独立しており、恋人や家族には最高のスポットだろう。
「わー! すっごいおしゃれ! 夜はこの天窓から星が見えるみたいですよ!」
藤宮がきゃぁ、わぁ……と、テンション高めで盛り上がっている。
「はぁ……遊びに来てるんじゃないんだぞ」
「わかってますよ! せっかく来たんだし、ちょっとくらい良いじゃないですか!」
藤宮が口を尖らせて抗議してくる。
「えりちゃんに聞いたんですけど、火球を見たときなんて、一瞬昼間と勘違いするくらい明るくなったって言ってましたよ」
ニュースによれば、火球はその大半が大気中で燃え尽きたが、一部はこのグランピング施設から少し離れた浜名湖に落下したらしい。
以来、この観光地には動画配信者や記者が押し寄せ、ちょっとした火球ブームがおとずれている。
「そろそろ暗くなってきたし、BBQの用意を始めないか?」
「りょうかーい!」
静かな空間にパチパチと薪の弾ける音が響き、頭上では星が瞬いている。
BBQを楽しみながら、明日の予定を話し合う。
「明日は火球の落下現場に行ってみないか? 清掃のおじいさんが言ってた“ヒメ”も気になるけど、今のところ手がかりもないしさ」
「そうですね、杉田さんが変わったのも火球の翌日って事ですし、何か関係あるかもしれませんしね」
――食後は近くの温泉で疲れを癒して、早めに休む予定だったのに……。
「うわぁ! すごく綺麗! 都会じゃ絶対見れない光景! 先輩もそう思いますよね!」
こっちは寝たいんだよ!
「あ、ああ……そうだな」と適当に返事をしたが――
たしかに、頭上に広がる星空は圧巻だった。
自分がいかにちっぽけな存在かを思い知らされるほど、果てしなく壮大で――。
◇◆◇
――翌朝。
タクシーで火球が落ちたとされる浜名湖へ向かう。
湖面に陽の光がきらめき、どこまでも広がる水の青さに心を奪われた。
普段は風光明媚な観光地なのだろうが、今は人で溢れ、屋台まで出ていて、まさに“火球フィーバー”といった様子だ。
「これだけ人が集まっていれば、杉田さんを見たって人がいるかもな」
俺たちはさっそく聞き込みを始めた。
まずは駐車場で誘導をしていた若い男性に、写真を見せながら聞いてみる。
「見てないっすね。正直、顔なんて覚えてないし」
「そうですか。じゃあ、何か最近変わった事とかは?」
「いや特には……ああ、そういや数日前に喧嘩があったな。何人か病院送りになったってよ」
「喧嘩?」
「なんか“盗った、盗られた”って騒ぎ――詳しく知りたきゃ、ネットに動画が上がってたから見てみろよ」
「関係ないかもですけど、見てみません?」
藤宮の提案に同意し、“浜名湖 喧嘩”で検索。
すぐに何件も動画がヒットしたので、その中で再生数の多いものを再生した。
時間は夕暮れ時、三人の男が口論をしている様子が映し出されている。
……杉田さんらしき人は映ってないか。
まあ、そんなに都合よくはいかないよな。
そう思っていたところで、藤宮が画面を指差す。
「ここの女性……ほら、手を上げてブツブツ何か言ってませんか?」
その部分を拡大してみる。
「この画質じゃ手を上げてるのは分かるけど、口元までは厳しいな」
「じゃあ、この動画をアップした投稿者に元データを見せてもらえないか頼んでみません?」
確かに、まだここに残っている可能性はあるか。
「そうだな。えーと、投稿者の名前は……“かわ太郎”か」
名前を頼りに探し回ったが――そう簡単には見つからない。
他の配信者から動画を見せてもらうことはできたものの、どれにも例の女性の姿は映っていなかった。
「やっぱり、もう帰っちゃったんですかね?」
そう言いながら、動画を確認していた藤宮が声を上げる。
「あっ! 新着動画がアップされてますよ!」
俺もさっそく動画を確認する。そこには数十分前に撮影したと思われる動画がアップされていた。
内容は、浜那湖の混雑ぶりを映しているだけの動画だったが、どこか違和感のようなものを感じる。
「先輩? どうかしましたか?」
俺が動画を見ながら、違和感の正体を考えていると藤宮が話しかけてきた。
「いや……この動画だけど、なにか違和感がないか? それが何だか分からなくてさ」
「違和感ですか?」
そう言って画面を覗き込んでくる。
「うーん……あ、もしかして場所とか?」
「場所? どういうことだ?」
「えっと、ここに映ってるのって、そこの駐車場ですよね? そうなると、撮影場所は湖側からってことになりませんか?」
確かに藤宮の言う通り、撮影された角度や高さから考えると、湖側の水面から少し高い位置から撮影したように見える。
「なるほど、確かにそう見えるな。船に乗って撮ったのか?」
「でも、それらしい船なんていませんし、周りにも見当たりませんね」
湖を見渡しながら藤宮が言う。
既にどこかに行ってしまったのか?
もう少し周囲を確認しようと、池の縁まで近づき池の縁に沿って目を滑らす。
すると……やつと目が合った。
水の中から頭だけを出し、こちらを見ている。
やつも俺を確認し、「やべっ」という顔をする。
その姿は忘れもしない……
「クソ、バカッパぁぁぁ!!」
ネットに俺の顔を晒しやがった、あのバカッパがそこにいた。
「よくも俺の顔を動画で晒してくれたな!」
「お前が勝手に映り込んだんだクワッ!」
「そもそもの原因はお前だろ!」
カッパと池の縁で口論を繰り広げる。
「ちょ、ちょっと先輩! それ……カッパじゃないですか!?」
「なんだ? この嬢ちゃんも、おいらが見えてるのか?」
そう言えば、藤宮にも能力があることをすっかり忘れていた。
たしか霊的な感受性や危険察知能力が高いって言ってたな。
「すごい! オニやテングと並ぶ日本三大妖怪の、あの超有名なカッパですよ!」
「お前と違って、こいつは見どころがあるクワッ!」
有名だと言われたのが嬉しかったのか、カッパが藤宮を褒める。
「ただのSNS依存症のバカッパだろ」
「SNS好きの何が悪いクワッ!」
――カッパと睨み合う。
はぁ、今はそんな場合じゃないか……。
「なあ、ひとまず休戦にしようぜ」
「ったく……しょうがないクワ」
「ちなみに、その“クワッ”って語尾、イラッとするんだが」
「配信者ってキャラ立ち大事じゃん」
「……キャラ作りかよ!」
俺たちのやり取りを聞いていた藤宮が、我慢できずに割り込んでくる。
「ねえ、カッパさん。名前は何ていうの? 私は藤宮 真琴よ」
いきなりフレンドリーだなおい!
「へえ、意外とノリいいじゃん。おいらは“ブッチ”クワッ!」
――カッパの名前はブッチというらしい。




