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7 夏だ湖だバカンスだ!

 ――車窓を流れる、広大な湖面。そして青く澄んだ空。


「プシュー」と音を立てて電車の扉が開く。


「わー! やっと着きましたねー」


 藤宮がホームへ飛び出し、両手を上げながら目を細める。

 俺たちは今、とある観光地へ来ていた。



 ◇◆◇



 ――事の始まりはこうだ。


 “口裂け女”事件から一週間ほど、特に事件もなく……俺は平和な大学生活を過ごしていた。

 ちなみに超能力も復活している。なぜか、普段は本を浮かせるくらいの力しか出せないけど……。


 一方の藤宮はというと、ROOTSに所属してからもオカルト研究会を続けている。

 本人いわく「え? オカルトは趣味なんで」だそうだ。


 ……まあ、個人の自由だし口出す気はないけどな。


「神楽先輩! 今からちょっと付き合ってくださいよ! 最近SNSで話題の“話す犬事件”のこと教えますから!」


 今どき人面犬か? 次は人面魚でも出てくるんじゃないのか。

 だいたい、なんで俺がオカルト話で釣られると思ってるんだよ。


 まぁ、即答で断った。

 なぜなら俺には、積みゲーを消化するという重大な使命があるからだ!


「またゲームですか? ゲームなんていつでもできますよ!」


 積みゲーの消化は人類永遠の課題だぞ。

 知らぬ間に積み上がっていくゲーム。

 セールには抗えない。それが、って――


「ちょ、ちょっと待て! 引っ張るなって……おい!」


 この藤宮という女、最近は俺に遠慮がなくなってきた。とことん俺のゲームライフを邪魔してくる。


「……で、どこに向かってるんだ?」


 今、俺たちは藤宮が最近免許を取って買ったという自動車に乗っている。理由を聞くと「オカルトスポット巡りに便利だから」らしい……。


「高校時代の友達がですね、相談に乗ってほしいらしいんです」


 ……絶対ろくでもない相談だ。嫌な予感しかしない。


 十分ほど走ると、有名チェーンのファミレスに入った。

 店内は平日のランチタイムを少し過ぎた時間帯で、客はまばら。奥の窓際に、一人の女性が座っていた。


 藤宮が小走りで近づき「久しぶり」と声をかける。

 相手の女性も挨拶を返し「今日はありがとね」と礼を言う。


 俺たちは席につき、自己紹介を交わす。

 女性は「時沢 えり(ときさわえり)」と名乗った。藤宮の高校時代の友達で、今は別の県の大学に通っているらしい。


「あの、神楽さんは真琴の彼氏さんなの?」


「違う違う! ただのゲームオタクの先輩よ」


 時沢の質問を藤宮が慌てて否定する。

 ゲームオタクの先輩ってなんだよ!


「俺はこいつと違って、オカルトオタクじゃないんでね」


「ちょっと! なんかバカにしてませんか?」


「そんなことはないが?」


 そんな俺たちのやり取りに、時沢は「クスッ」と笑った。


「それで、えりちゃん。相談って何?」


「じつはね……」

 そう言って時沢が語り出す。


 ――彼氏と一緒に、グランピングに行ったときのこと。

 偶然、少し前にニュースでも話題になった『火球』を目撃したという。

 ちなみに、彼氏の名前は杉田 祐介すぎたゆうすけと言うらしい。


 最初は興奮していた二人だったが、翌朝から彼氏の様子がおかしくなった。

 両手を上げてブツブツ独り言を言ったり、話しかけても上の空で、視点も定まらない。


 不安になった彼女は、彼を無理やり自宅へ連れ帰った。

 だが翌日、家を訪ねると――彼の姿は消えていたという。


 携帯には一応繋がるのだが「どこだ……さがす……」などと意味不明な言葉を繰り返すだけで、会話が成立しない。

 ただ、背後で流れた駅のアナウンスに「浜名湖(はまなこ)」という地名が聞こえた。先日グランピングに行った観光地の名前だ。


 警察に相談するも、本人が成人していること、一応連絡もつく。ということで取り合ってもらえなかったらしい。

 そこで、途方に暮れた時沢が、藤宮へ相談した――という流れだ。


 結果、彼女の話を聞き終わった藤宮の「私()()にまかせて」と言う一言で、なぜか俺まで捜索に参加することになった。


 女性から嬉しそうな顔で「ありがとうございます!」なんて言われたら断れない……よな?

 ……もしかして、俺って押しに弱いのか?



 ◇◆◇



「先輩、行きますよ!」

「へいへい」


 適当な返事を返し、張り切っている藤宮の後ろに続き改札を出る。

 さすがに有名な観光地。結構な数の観光客が訪れている。


「私、一度は来てみたかったんですよね。浜名湖!」

 満面の笑みである。


 どうせなら、時沢たちが利用した場所に宿泊したほうが良いだろうという、藤宮の提案(願望)によりグランピングをすることになった。

 最初、時沢も一緒に行きたいと言い出したのだが、杉田が戻って来るかもしれないので、自宅待機してもらうことにした。


「先輩! 早くグランピング施設に行きましょうよ!」


 さっそく、移動を開始しようとする藤宮を引き止める。


「おいおい、ちょっと待て!」


「もうっ。何ですか先輩」


「何ですかじゃないだろ。まずは周辺で情報収集だ」

「あ、そうでしたね」


 こいつ完全にバカンス気分だろ……。

 まあ、一応はターゲットとの連絡もつくしそこまで緊急性はないかもだが、ちょっと気を緩めすぎだ。


「じゃあ、とりあえず駅構内で聞き込みをしようか」

「りょうかーい」


 駅員や売店の店員に話を聞いて回る。

 そこまで大きな駅ではないが、さすがにオンシーズンの観光地だ。人の数はかなり多い。

 しばらく写真を見せながら聞き込みをしてはみるものの、いちいち顔なんて覚えていないと言われてしまう。

 まあ、特徴的な見た目でもしていなけりゃ普通は覚えてないよな。


 その後も何人かに聞くが、結果は同じだった。

 最後に一人だけと思い、構内の清掃作業をしていた、おじいさんに声を掛ける。


「あの、すみません」


「ん? なんですかな?」


「ちょっとお聞きしたいんですが、この男性に見覚えはありませんか?」


 今回も無駄だろうなと、半分あきらめ気分で尋ねたのだが……。


「ああ、知っておるよ」


「そうですか、あり……えっ! 知ってるんですか?!」


 まさかの状況に素っ頓狂な声が出てしまった。観光客の視線がチラチラ突き刺さる。


「先日は夜勤の清掃をしておったんだが――そしたら、急に後ろから肩を掴まれて話しかけられてな」


 向こうから話しかけてきた?


「それでな、『ひめ……どこ……』なんて聞いてきたんじゃがな。知らないと答えると、また『ひめ……ひめ……』と呟きながら何処かに歩いて行ってしまったんだ」


「ひめ?」新しいキーワードだ……。


「それに、その時の様子がおかしかったんじゃ。話しかけても、どこか上の空でな。それで覚えておったんだよ」


 なるほど杉田で間違いなさそうだな。

 俺は清掃員のおじいさんに礼を言って離れた。


「“ひめ”って何ですかね? 私、えりちゃんにも聞いてみます」

 藤宮が時沢に連絡をとるが「私も初耳です」との事だった。


 時沢も聞いたことが無いか……。

 気にはなるものの、それ以上の情報も無い俺たちは、宿泊予定のグランピング施設に向かう。


 ――これが、俺と藤宮がROOTSに入って二人で受け持つことになる最初の事件。

 そして、この事件があんな結末を迎えるとは……この時の俺は考えもしなかった。

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