6 ただいま日常!
――目を覚ますと、真っ白な天井が見えた。
頭を横に向けると、すぐそばに栗色のつむじ。
藤宮がベッドに突っ伏して眠っている。
「ここは……病院か?」
「……むにゃ……ぅん……ふぁぁ」
俺の声に反応して、藤宮が目をこすりながら顔を上げる。
「起きたか?」
「神楽先輩? よかった……。丸一日眠ったままだったから心配したんですよ!」
神楽“先輩”? あれ、今まで“さん”じゃなかったか?
「私、先生を呼んできますね」
そう言って部屋を出ていった。
――地上に戻った直後、気を失ってそのまま一日寝てたってわけか。
だけど気になるのは、あの時の“力”だ。
何でも出来そうな、あの全能感……。
あの時、世界が俺の意志に応えてくれるような――そんな感覚だった。
近くのコップを動かそうと念じてみたが――ピクリとも動かない。
夢じゃないはずだが、今はまるで使えない。
考え込んでいると、扉が開いた。
先生に続いて、鬼頭さんも入ってくる。
「よう、目ぇ覚めたか」
「はい、おかげさまで」
「いやー、二人が拉致られた時はマジで焦ったぞ。……ま、無事でよかったな」
鬼頭さんが肩をすくめて笑う。
「え? 現場検証の時、あそこにいたんですか?」
「ま、まあな」
「歯切れが悪いですね。何か隠してません?」
すると横から藤宮が口を挟む。
「神楽先輩の巻き込まれ体質を利用して、証拠を掴もうとしてたらしいですよ」
「は?」
鬼頭さんは目をそらす。
つまり俺は……囮にされたってことかぁ!?
「あんたって人は!」
「いやいや! まさか本当に拉致られるとは思ってなくてだな」
こっちは、生きたまま解剖されるところだったんだぞ!
「でも私たちが消えてから、鬼頭さんずっと探してくれてたんですよ。地上に戻った時に真っ先に駆けつけてくれたの、鬼頭さんだったんですから」
……鬼頭さんなりに責任を感じてたってことか。
「はぁ、それはもういいです。それより聞きたいことがあるんです」
俺は、ずっと気になっていた“力”のことを尋ねた。
「ああ、それは――世間一般で言う“超能力”ってやつだ。お前の“巻き込まれ体質”とも無関係じゃないだろうな」
やっぱり超能力か……あんな現象、他に説明のしようがないよな。
「もしかして……俺に超能力があること、知ってたんですか?」
「……まあ、何かは持ってるだろうとは思ってたがな。まさか瞬間移動に念動までとは思わなかったけどな」
「でも今までは全く使えなかったんですよ?」
「きっかけ一つで使えるようになることはよくある」
「それにお前の体質、ここ最近強くなったんだろ? おそらく無意識に溜め込んできた力が、限界に達して噴き出したんだ。……そりゃ、敏感な連中が寄ってくるって話だな」
「じゃあ……力が使えなくなったのはガス欠ってことですか?」
「まあ、そんなとこだな。少し休めばまた使えるだろ。安心しとけ、“チート君”」
チート君ってなんだよ……。
「……そう言えばあいつら、人類が滅びるって言ってましたけど」
俺はもう一つの疑問を聞いてみる。
その問いに、鬼頭さんは気怠そうに答える。
「まあ、いつかはどんな文明も滅びるもんだ」
「それは、そうでしょうけど……」
「それにな――奴らの言う“いつか”ってのは数年、数十年じゃない。数千年、数万年のスケールだ。今の俺たちが気にしても仕方ない」
数千年、数万年ってなんだよ……。
「さすが、巻き込まれ体質だな。ハハハ」
こっちは笑い事じゃないんですよ……!
「はぁ。俺たち、そんな途方もない話に巻き込まれたんですね……」
「ほんと、いい迷惑ですよね」
今まで黙って聞いていた藤宮も俺に同意する。
「それから、藤宮にはうちで働いてもらうことになった。これからはお前とペアで動いてもらうからな」
「えっ?」
「よろしくお願いしますね。神楽せんぱい」
そう言って、一歩前に出る。
「それから……あの時は助けてくれて、ありがとうございました!」
「巻き込んだのはこっちだし、気にするな」
「あの時の神楽先輩、かっこよかったですよ!」
藤宮がニコッと笑う。
その笑顔に、気づけば心臓の鼓動が耳まで響いていた。
「なんか、安心したらお腹が空いてきました!」
「スイーツは一日一個にしておけよ。……またお前を運ぶのは大変なんだからな」
からかうように言った途端、藤宮の顔がみるみる赤くなる。
「なっ……! そ、そういうこと言う!? ばかぁぁぁぁ!」
パァンッ! 次の瞬間、俺の頬に想像以上に重い一撃が走った。
「いってぇぇ……!」
思わず頬を押さえる。
「じ、自業自得ですから!」
藤宮は真っ赤な顔でぷいっとそっぽを向いた。
……いや、マジで手加減なしかよ!?
[調査報告書・抜粋]
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Case 01《Red-Mouth》
|結 論
・本件における“口裂け女”の正体は、セイヴィアと呼称される存在が使用した擬態であると推定される。
・セイヴィア(ノア)と呼ばれる存在の目的は“種の保存”とされるが、真偽は不明。
・セイヴィアが聖書に記される“ノア”と同一かも不明。
・失踪した三名の行方は依然不明。同存在による拉致の可能性が高いと推測する。
・ウォッチャーに関しては、新規情報なし。
以上をもって、本事案の一次調査を終了する。
記録者:ROOTS 捜査員 H.K
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作品名:世界の見せる真実が、俺の想像を超えていく
カテゴリ:現代ファンタジー
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