表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

5 大ピンチなんですけど!

 ……気がつくと、目に飛び込んできたのは赤と黒の世界。


 頭がふらつく。身体は直立したベッドに固定され、器具もないのに一切動けない。

 首だけを動かすと、遥か眼下にはさっきまでいた学校と街並みが広がっていた。


 どこだよここ! それに――なんで裸に、こんな薄っぺらい検査着姿なんだよ!!


 頭が混乱する。


 身体は動かず、連絡手段も無い、状況は最悪だ。


 これは本格的にまずい!

 必死に脱出方法を考えようとするが、恐怖で頭が空回りする。


 そんな中、背後から脳天気な声が響く。


「うわぁぁ! 何ここ! すごいですよ!」


 藤宮のテンションが爆上がり中なようだ。

 ……完全にオカルト病が発症してる。


「はぁ……興奮してるとこ悪いけど、自分の格好を見てみろよ」


「え、格好……? って、えっ、な、なにこれ!? なんで私、こんな格好してるんですか!? しかも……うそ、下まで……」


 藤宮の声が裏返り、慌てふためく。


「これ、絶対なんかの実験じゃないですか! すごい! すごいけど……いや、怖い! きゃぁーーー!!」


 悲鳴混じりの絶叫が、赤黒の空間に木霊した。



 ◇◆◇



 ――藤宮がブツブツと独り言を言っている。


「昨日スイーツ二つも食べなきゃよかった……やっぱり運動不足かな……」


 絶叫の後はこの調子。テンション爆下がり中だ。

 その時――頭の上から「ポンッ」と電子音が鳴った。


「お目覚めですか。箱舟へようこそ」


 無機質な声が空間に響く。


「おい、俺たちをどうする気だ!」


「あなたたちは“救済”されたのですよ」


「はぁ? 口裂け女が救済?」


「それは、あなたたちが勝手にそう呼んでいるだけです」


「じゃあ正体は何なんだ!」


「私たちは『%$’ッ…@◆#%…ッ!?#』……人類の発音では“セイヴィア”。以前は“ノア”とも呼ばれていました」


セイヴィア(救済者)……ノア……!?」


『星々を巡り、絶滅の危機に瀕した種を調査・保存する。それが我々の存在意義なのです』


「絶滅の……危機って、おい……」


 人類が、絶滅寸前だとでも言うのか?

 何を言ってるんだこいつは。

 スケールがでかすぎて、脳がついていかない。


「私たちは、救済に来たのです」


「だとしても……これは、ただの拉致じゃねぇか!」


「あなたたちも、動物に同意など求めないではないですか」


 ……こいつらにとって、俺たちは動物同然ってことか?!


「さあ、ご覧なさい。これが“救済”です」


 その瞬間。

 部屋の壁も、床も、天井すらも消えた。


 ――そして現れた光景に息をのむ。


 そこは巨大な球状空間。

 俺たちは、空間の中心にぽつんと浮かんでいた。


 壁一面を埋め尽くすように、無数のカプセルが並んでいる。

 何百、いや何千……それ以上かもしれない。


 そのすべてに、生物が収められていた。


 透明な液体に満たされたカプセルの中で、さまざまな生物が静かに眠っている。

 人間もいれば、明らかに“人間ではない”存在もいた。

 目を閉じ、脈打つ管に繋がれ、淡く光っている。


 ……まるで“種の保管庫”かのような光景だった。


「あなたたちは調査に協力する代わりに、永遠の命を手に入れられるのです」


 感情のない声が響く。


 永遠の命。

 だけど、自由のない“檻”の中で――。


「では、おしゃべりはこの辺で終わりにしましょう」


 天井から影が降りてくる。

 空気がぐっと重くなった。


 現れたのは――まさに“ザ・UFO”としか形容できない平たい円盤状の機体。

 そこから伸びた四本の無機質なアームが、「カチリ、カチリ」と不気味な音を響かせる。


「では――まずは“メス(藤宮)”の脳から。開頭検査を始めましょうか」


 藤宮が小さく息を呑むのが聞こえた。


 ――キュィーン。


 金属が回転する音が鳴り響いた瞬間、藤宮の喉が引きつる。


「ひぃっ……いやっ! やめてぇっ……! 神楽さん、たすけてぇぇぇっ!!」


 涙声が張り裂ける。

 必死に助けを求める震えた悲鳴。


「怖がらなくても大丈夫ですよ」


 平然と返される冷たい声。


「痛みも感じませんし、検査後はちゃんと再生させますので。……おや、気絶してしまいましたか」


 ――ふざけんな。


 胸の奥が焼ける。


 怒りで、血が沸騰する。


 視界が、真っ赤に染まる。


 頭の奥で、「パキン」と何かが弾けた。


『……ふざけんなぁぁぁぁぁぁッ!!』


 視界が弾け飛んだ。


 あらゆる景色が、金の粒子にほどけていく。


 まるで、世界そのものが解体されていくかのように――。


 次の瞬間、俺の身体は――消えていた。


「ほう、これは規定外ですね」


 UFOから伸びたアームが、藤宮に迫る。


 だがその刹那。

 俺は――彼女のすぐ隣に現れていた。


「藤宮ッ!!」


 伸ばした腕で、彼女の細い身体を抱き寄せる。

 同時に――彼女を縛っていた不可視の力が「バチッ」と音を立て砕け散った。

 片手でUFOから伸びたアームを掴み、そのまま力任せに引きちぎる。


 ――ギギギィィィッ!!


 金属が悲鳴を上げるように裂け、内部から青白い火花が弾け飛ぶ。

 浮遊を制御できなくなった機体は大きく傾き、轟音と共に爆ぜながら球体の内壁へと墜落していった。


「先程のは高速移動ですか? ……いや、この数値。存在が一度消えて、急に現れたような……興味深いですね」


 無機質で抑揚のない声が、背後から聞こえてきた。


 振り向くと――頭部が異様に大きく、真っ黒な目には白目がなく、口は耳元まで裂けている“生物”。


「やっとお出ましか、化け物が!」


「容姿の良し悪しは、種族によって定義が異なるものですよ」


「見た目じゃねえよ。中身が化け物だって言ってんだよ!」


「……なるほど。下等生物には救済が理解できませんか」


 そう言って、ゆっくり右手を掲げた。

 次の瞬間、天井のハッチが開き、さっきと同型のUFOがわらわらと、まるで虫のように湧き出してくる。


 俺は意識を集中する。睨んだだけでUFOが一機、二機と破裂した。

 攻撃を瞬間移動で回避しつつ、集団の上方へ移動。四方八方から襲いかかるアームの一つを掴むとUFOの集団に投げつける。

 連鎖的に爆発が起こり、いくつもの残骸が落ちていく。


 だが――倒しても、倒しても、際限なく湧き出してくる。


 くそっ、キリがない!

 それに……俺の身体どうなってんだ?

 考えただけで、現実が動く。全能感が思考を満たしていく――。


 今なら思い描けば何でも出来る気がする。

 不可能なんて無いんじゃないかとさえ感じてしまう。


 そのとき――


「……神楽さ……ぅん……」


「目が覚めたか」


「え? ど、どういう状況ですかこれ!」


 そうだ、藤宮もいるんだ。

 早くなんとかしないと。


 やってみるしかないか……。


「もう少し我慢してろ」


 そう言って眼下に広がる街へと目を向ける。

 意識を集中させ、全身に力を巡らせる。


 ――集中する。

 ――集中する。


 校舎裏のイメージを、強く思い描く。


 ――よし、行ける!


 溜め込んだ力を、一気に開放した。


 次の瞬間――

 俺たちの姿は、その場から忽然と消えた。




「……逃げましたか。まあいいでしょう、実験体は他にもいる」


 裂けた口の化け物は、冷めた瞳で“三つのカプセル”を見つめながら呟く。



 ◇◆◇



 見上げた先には青い空。


「おい神楽! おい、聞こえるか!」


 遠くで、鬼頭さんの声が聞こえる。


 ――助かった、のか……?


 もうろうとした意識の中、俺はその声を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ