4 その推理ほんとうですか?
「ようこそ、オカルト研究会へ!」
藤宮に案内されて入った部屋には、二人の学生がいた。
本を片手にチラッとこちらを見る女子と、ノートPCでチャットに夢中の男子。
「紹介しますね。こっちが早紀ちゃん、で、こっちが宮本君」
「んっ」
「ども」
二人は軽く挨拶を返す。
「神楽です。よろしく」
俺も挨拶を返しつつ部屋を見回す。
部屋の壁にはUFOやUMAの写真がずらりと並ぶ。
――うん、想像通り“ザ・オカルト”な部屋だ。
「へえー、UFOの写真とか、まさにオカルト好きって感じだな」
「UAPです」
「えっ?」
突然の宮本の言葉に、疑問が声に出てしまう。
「今はUFOじゃなくてUAPって言うんです。……これだから素人は」
「ちょっと宮本君!」
「いや、UAPね。はは……(どっちでもいいだろ!)」
空気を変えようと俺はさっそく本題に入る。
「それで、口裂け女の情報って?」
「そうですね、宮本君お願いしてもいい?」
「了解」
宮本がPCの画面をこちらに向ける。
表示されているのは“オカルトクラブ”と書かれた怪しげなサイトだった。
「まず今回の噂の疑問点です」
内容はこうだ――。
・襲われている最中に冷静に撮影しているのは不自然。
・現場から事件の痕跡らしきものが発見されていないのが不自然。
・そもそも、だれがこの動画を公開したのか。
「そこから導き出される答えはこうです」
・AIによるフェイク動画の可能性が高い。
・今回の事件は失踪した三人の女子生徒、または近しい人物による自演。
・ちょっとした悪戯のつもりが、大事になり三人は身を隠している。
「現状、オカルト界隈の意見はこんな感じですね」
宮本は立ち上がり、得意げに鼻を鳴らす。
「……じゃあ“エラー”の件は?」
「エラーですか……確かに多少不自然な点もありますが、真実っぽく見せるための演出じゃないですか?」
宮本の返答は歯切れが悪いが、だからといって決定的な否定材料でもない。
ウォッチャーの事については話せないし、これ以上の追求はやめておこう。
藤宮が宮本に笑顔で礼を言う。
「宮本君ありがとね。えっと、情報はこんなところですけど……どうでした?」
「いや、参考になったよ」
その後、他の噂なども教えてもらい、俺はウォッチャーの事は伏せたままオカ研を後にした。
◇◆◇
オカ研を後にした俺は、鬼頭さんに今回の件を報告した。
「なかなか、面白い研究会だな」
……こっちは趣味のゲーム時間が削られて迷惑なんですけどね。
「まず俺の見解だと、あそこで何かがあったのは事実だと思っている」
たしかに学院長に聞いた話によると、騒ぎがあったのは本当らしいしな。
「だが本来、妖怪などの”怪異”は“能力持ち”の一部の人間にしか認識できない。まあ、カメラ越しとか、特殊な条件を満たすと映ってしまうこともあるがな」
なるほど、そりゃそうか。誰にでも見えてたら、もっと騒ぎになってるか。
「おそらく悲鳴は、スマホの画面越しに何かを見てしまったんだろう」
「でも、襲われてるのに、あんなに冷静に撮影できますか?」
気になった点を口にする。
「動画の撮影者が被害者じゃないんだよ」
撮影者が被害者じゃない?
「まさか!」
「そう、とうぜん動画の投稿者だよ」
「ウォッチャー……ですか」
「そうだ。おそらくウォッチャーの目的はこの事件に注目を集めさせて、何かを警告しているんじゃないかと考えている」
ウォッチャーが俺たちに警告?
――その時。
「ウォッチャーって何ですか?」
振り向くと、藤宮が立っていた。目を輝かせて首をかしげている。
「え? 何のこと?」
俺は咄嗟にとぼける。
「電話の相手、鬼頭さんですよね? いま言ってましたよね“ウォッチャー”って」
俺は言葉に詰まる。
「神楽さんの様子おかしいと思ったんですよ。追ってきて正解でした!」
マズった……完全に油断してた。
「相手は、例の藤宮か? 話を聞かれたのか?」
スマホ越しに鬼頭さんの声。
「……そうです」
「ウォッチャーや怪異の事は説明できん。まあ無視してもいいんだが……後々面倒そうだな」
「はい……」
「なら、今からもう一度学院を調べてくれ。もし藤宮が同行したいと言うなら、許可してやれ」
ちらっと視線を向けると、藤宮は「なになに?」とでも言いたげな顔でこっちを覗き込んでくる。
俺は鬼頭さんとの電話を切ると、内容を藤宮に伝えた。
最初はウォッチャーの事を聞きたいと駄々をこねたが、学院調査への同行を認めると、あっさり折れた。
◇◆◇
――許可証を受け取り校門をくぐる。授業中なのか生徒の姿は見えない。
受付で許可をもらうと、俺たちは動画の現場とされる場所へ向かう。
「こんなに簡単に許可がでるなんて、探偵ってすごいですね!」
何度頼んでも無理だった調査を簡単に許可されたことに、藤宮は感動していた。
……まあ、探偵じゃないんだけどな。
「あまり、うろちょろして怪しまれるなよ」
「わかってますよ!」
そう言って口を尖らせる。
校舎の横を進み、古びた物置がある裏手にまわる。
「ここが現場みたいだな」
辺りを見渡すが、普通の校舎裏という感じだ。
とくに怪しいところは無いように見える。
さっそく現場検証を始める。
藤宮を口裂け女役で立たせ、俺はスマホを構え撮影を開始する。
藤宮は意味もなく口裂け女のポーズをきめ、こちらにやってきては映りを確認したりする。
まったく、何しに来てるんだか……。
近くにあった、小型の焼却炉や物置も調べてみた。
すると中には――なんてこともなく、特に異常はない。
それから数十分かけて一通り調査をするが、やはり目新しい発見は無かった。
(でも鬼頭さん、なんで再調査なんて……?)
そんなことを思いつつ、そろそろ切り上げようと藤宮に声をかけようとした。
次の瞬間、空気が一気に冷たくなった。心臓が跳ね嫌な予感がした――。
周囲の音が消えていた。藤宮が俺の背後を指差し叫んでいるが、声は聞こえない。
急な異変。先日のウワバミ事件が脳裏をよぎる。
“巻き込まれ体質”……。
「!?」気配を感じ、ゆっくりと後ろを振り向く。
真っ赤な口が、耳までスローモーションのように裂けていく。
体が動かない!?
視界が鮮烈な赤に染まった瞬間、俺は意識を手放した。




