34 突然の神隠し
私は内心興奮しながらも、すかさずミーちゃんを銃に変形させて構えた。
「と、突然失礼します――お嬢!」
「ほえ?」変な声が出ちゃった。
すると、茜ちゃんが私とテングの間に割り込んでくる。
「真琴ちゃん、大丈夫。……こんな夜にベランダからなんてダメですよ! 彦さん!」
「すみませぬ。下の扉が開かなかったゆえ、やむなく……」
もしかして、“オートロック”のこと知らなかったのかな?
「茜ちゃん、このテングさん……知り合いなの?!」
「うん、名前は“彦左さん”。昔から実家の警護をしてくれてるのよ」
ほ、本物のテングだぁ……! これで日本三大妖怪コンプリート!!
私は、鋼の精神で興奮を表に出さないよう必死に抑えながら茜ちゃんに聞いてみる。
「ねえ茜ちゃん――触っても怒らないかな?」
「えっ? え、ええ……。彦さん、大丈夫よね?」
「かまわぬが……この娘子、目が怖いのですが……」
おぉ、これがテングの翼なんだ!(藤宮)
「それで、彦さん。急にどうしたの?」
思ったより手触り、普通だなぁ。(藤宮)
「それが――お館様が、その……何と言いますか……」
この羽、一枚だけもらえないかなぁ。(藤宮)
「はぁ。お父様がまた、わがままを言ってるのね?」
うわぁ! この服、何でできてるんだろ?(藤宮)
「まぁ、何と言いますか。……そうでございます」
あの鼻、触ったらさすがに怒るかなぁ(藤宮)
「…………」
「あ、あの……真琴ちゃん? そろそろ……」
「ん? あ、そっか。ごめん! 嬉しくてつい……あははっ」
しまった。ちょっと興奮しすぎちゃったかな。
「それで彦さん。事情は分かったけど、なんで電気まで消したの?」と、茜ちゃん。
「電気、でございますか? 儂ではありませんが?」
「え?」
――その時だった。
窓ガラスを突き破り、三体の羽の生えた“真っ黒な影”が部屋へ飛び込んできた。
キッキー、キシャァーーー!
え? 今度はサルなの?!
私は襲ってくるサルにミーちゃんの照準を合わせ、引き金を引く。発射された閃光とともに一匹が黒いモヤとなって霧散していく。
でも、その一瞬の隙を突いて――
別の一匹が、茜ちゃんへと飛びかかる。
「茜ちゃんっ!!」
すると、テングの彦さんが咄嗟に翼を広げ、茜ちゃんを包み込むように抱き寄せた。
「御免!」
短くそう言うと、二人の姿は白い渦に包まれ――瞬く間に、その場から消えてしまった。
その光景に気を取られた私は、油断してしまった。
残る一匹が、すでに私へ迫ってきていた。
――ダメ、間に合わない!
襲ってくるだろう痛みを想像して、思わず目をつむってしまう。
――でも、いつまでたっても痛みが襲って来ない。
恐る恐る目を開けると、窓の外には……鈴ちゃんを頭に乗せた神楽先輩が浮かんでいた。
片手を前に出し、念動で二匹のサルを宙に縫いとめている。
そして、そのまま握りつぶすと、サルは黒いモヤになって消えていった。
「大丈夫か?」
その声を聞いた瞬間、ホッとして私はその場に座り込んでしまった。
――そして、思い出す。
「茜ちゃんが! 彦さんと一緒に……どこかへ消えちゃったんです!」
「テングの神隠し、じゃな」
鈴ちゃんが静かに呟く。
「恐らく行き先は――茜の実家じゃろう。心配せんでも茜は無事じゃ」
「そっか……よかった……」
◇◆◇
――少し前。
まさか、やつらがあんなに大量に襲ってくるとは――完全に想定外だった。
誰かに指示されているように連携をとり、こちらと向こうでチームを分けて襲ってきやがった。
「黒いサル? こいつらがストーカーの正体か?」
「うむ。気配が毎回変わるので特定が難しかったのじゃが、複数いたとはの」
俺の頭に乗った状態でそんな事を言う鈴。
それは良いとして……なんで、しれっとひとの頭の上に乗ってんだよ!
そんなツッコミを心の中でしつつ、俺は次々に襲い掛かってくるサルどもを葬っていく。
念動で動きを封じてそのまま握りつぶす。
その処理方法に最初は抵抗があったが、能力を使っているとそのへんの感覚が薄れることが最近判明した。
なんとかこちらのチームを片付けたところで、鏡見の部屋の窓が砕けるのが見えた。
頭に鈴を乗せたまま、念動で浮かび急いで部屋へ向かうと、そこに鏡見の姿はなく藤宮がサルの攻撃を受けそうになっていた。俺は、とっさに念動でサルの動きを止め、そのまま押し潰して霧散させる。
部屋に鏡見の姿が見えないのに焦ったが――鈴いわく、鏡見は“彦さん?”のおかげで無事とのこと。
藤宮も怪我は無さそうで一安心だ。
その後は、鏡見のマネージャーに連絡して後の処理をお願いした。その際に初めて知ったんだが、マネージャーは茜の実家の人間だったらしい。
同じマンションの住人は、迷惑そうな顔をして出来るだけ関わり合いにならないよう避けているようだった。
いわゆる、〈事なかれ主義〉ってやつかな。
……それで、結局“彦さん”ってのは何なんだよ……。
◇◆◇
――翌々日。
「ねえ先輩! 茜ちゃんの実家、楽しみですね?」
「なんか、結構な山の奥らしいな」
「実家で“油揚げ”も作ってるって言ってましたよね!」
「うむ。茜の作る“いなり寿司”は美味じゃ」と鈴。
「いなり寿司美味しそ〜」と藤宮。
「おいらも、いなり寿司は好きクワッ」とブッチ。
――俺たちが、どこでこんな会話をしているかというと、鏡見の実家へ向かう新幹線の中でだ。
昨夜の騒動から一夜明け、藤宮に鏡見から連絡があった。
鈴の言った通り、どうやら無事なようで、電話先では「あのあと大丈夫だった?」とか、「急にいなくなってごめんなさい」といった謝罪と気遣いの言葉が並んでいたらしい。
鏡見の話によると、どうやら“彦左”とかいう“テング”が焦って行動してしまったらしい。
……ていうか、とうとう“三大妖怪”をコンプリートしてしまったな。
そして――「私はしばらく実家から動けないから、もしよければ遊びに来て」と誘われた。
その際、鏡見の手料理をご馳走すると言われ、大喜びの藤宮に無理やり連れてこられた、というわけだ。
まあ、これも仕事だし、文句はないんだけどな。
ちなみに今回は、俺と藤宮の他に鈴、そしてブッチも一緒だ。
鈴はもともと鏡見のそばに戻る予定だったし、ブッチは――例の“バーチャルデビュー”の準備が一段落したとかで、勝手についてきた。
「なあ、鈴。襲ってきたサルに心当たりはないか?」
「……まぁ、無くもないがな。それについては――向こうに着いてから話したほうがいいじゃろう」
「それなら、それでいいけど。……鏡見の実家は安全なんだよな?」
「うむ、それは心配いらぬ。強力な結界で守られておるからの。茜が実家から出してもらえぬのも、その結界の中のほうが安全なためじゃ」
「前に鳥居をくぐったときに感じた“あの感覚”か……」
「おそらく、それよりも数倍強力じゃと思うがな」
――本日も、東海道新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、のぞみ○号、新大阪行きです。次は、京都に停まります。
「そろそろだな」
京で在来線に乗り換え、伏観稲荷へと向かう。
鏡見の実家は愛宕山だが――鈴がどうしても、伏観稲荷大社へ“ある物”取りに行きたいと言うので付き合うことにした。
せっかく京まで来たんだし、ちょっとくらい観光もしたいしな。




