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31:偽りの観察者

 なんだ?! 今までまったく気配を感じなかったぞ。

 入口に立つ老紳士から、得体の知れない雰囲気が漂っている。


 ブッチのやつ、何やってんだよ……見張ってろって言ったのに!


「いやぁ、さすがは噂の“期待の新人”といったところですね」


「お前……は、確かパーティーの時に話しかけてきた……」


「覚えていてくださいましたか。私の名前は“ロキ”。あなたがたが“2E”と呼ぶ、私たちの仲間と同じ組織の一員ですよ」


「なっ……“2E”だと?!」


 たしかパーティーで話した時、対外的には“キューブ事件”として報道されていたのに、こいつは“ミョルニル事件”と呼んでいた。

 その時、違和感を覚えはしたが……そういうことか。

 

 俺は周りに注意しながら、いつでも戦えるように構えをとる。

 藤宮もミョルニルを銃形態に変え、俺の横に立つ。


「おっと、あなたがたと争うつもりはありません」


 ロキと名乗った老紳士は両手を上げて見せる。その仕草に緊張はなく余裕を感じる。


「私は、そちらの方々に“お貸しした”魔術書を、返してもらいに来ただけです」


 ロキはスッと倉庫の奥を見て、口元に笑みを浮かべる。

 しかし、瞳に感情はまるで映らない。


「こいつらに力を与えたのは……お前か!」


「“霊が見たい”と言うので、本を貸し与えただけです。あのパーティーも――“鏡見 茜が来る”と教えたら、あとはあの方たちが勝手に楽しんだだけのこと」


 その声音には、悪意の気配すらない。


「ふざけるな!」


 俺の怒鳴り声が、静まり返った倉庫に響く。

 だがロキは――口元に笑みを浮かべたまま、こちらを見つめるだけだ。


「――ほぼ、調()()()()()といったところですね。さて、あなたの力も確認せてもらいましたし、今日はこのへんで失礼いたします」


 次の瞬間、ロキの姿がふっと揺らめき、消えた。


 目を離したつもりはない。

 なのに――その存在そのものが、世界から消えたような感覚だった。


 俺は倉庫の奥で倒れている犯人たちを見る。

 全員が意識を失っているようで、手に持っていた“魔術書”も消えていた。


「先輩……」


「……ああ、わかってる」


 胸の奥に、冷たいものが流れ込む。

 明らかに――“人”とは違う存在。



 ◇◆◇



 その後、犯人たちは、俺が呼んだROOTS職員によって、警察に引き渡された。

 罪状は不法侵入と不法占拠、ほかにも窃盗などの余罪がいくつか見つかったらしい。


 取り調べでは、「廃工場で心霊配信をしていたら、それを見たリスナーから本が送られて来た」らしい。しかし、それ以降の記憶が――まるっと消えていたという。


 そして、車で待っていたブッチはというと――寝ていた。

 本人いわく「ロキに眠らされた」らしいが、まあ……そういうことにしておく。



 ◇◆◇



 約束どおり霊園にお供え物を持っていくと、例の俺たちをチクった金髪幽霊が、髪を黒く染めて土下座で謝ってきた。

 園長からこっぴどく怒られたらしく、しばらく「うらめしや担当」をさせられると“うらめしそう”にしていた。


 ……なんだよ、“うらめしや担当”って。


 それに、……結局“うらめしや”は、止めないのかよ!

 どうやら、伝統は今後も受け継がれていくらしい。


 全ての報告を終え家に帰る途中。

 ロキ……そして、“2E”。

 二人が所属する組織のことを考える。


 また、必ず相対することになる。

 そんな“予感”が、確かに胸に残る。


 ふと夜空を見上げると――

 漆黒に染まる空には、いつもと変わらない無数の星々が輝いていた。




[調査報告書・抜粋]

 ――――――――――――――――

 Case 05《Good and Evil》


|結 論

 ・Sweepからの初任務、お化け屋敷事件は、原因幽霊の成仏という形で無事に完了。

 ・Sweep創業パーティーにおいて、複数の幽霊が出現する事件が発生。

 ・原因は、“ロキ”と名乗る人物から渡された“魔術書”を使用したことによる暴走と断定。

 ・犯人らは拘束後、記憶の一部を喪失。手にしていた魔術書も消失している。

 ・ロキの証言から“2E”および“ロキ”は同一組織に所属していることを確認。

 ・該当組織の掲げる目的は「人類のために危険な遺物を封印すること」とされるが、実際の行動原理との整合性は不明。


 ・Sweepには報告済み。


 以上をもって、本事案の一次調査を終了する。


 記録者:ROOTS 捜査員 H.K/M.F

 ――――――――――――――――



 ◇◆◇



 ――某高層ビル最上階。


 外界を遮断するように、窓ひとつない会議室。


「それで――どうだったの、ロキ?」

 美零が老紳士に問いかける。


「なかなか面白かったよ。感情で力が変動するタイプだね」


「へぇ、変動型なんだ」


「今はまだ力にムラがあるけど、今後が楽しみだよ」


 そう言うと、老紳士の体を黒い霧が包み込み――次の瞬間、金髪の少年がそこに立っていた。


「あら、私はその格好も好きだったのに」


 黒いドレスの裾を揺らしながら、美零が妖艶な笑みを浮かべた。


「はん、爺さんが趣味かよ」

 男が銀の短髪をかきあげ、吊り上がった口から犬歯がのぞく。


「あんたよりは、何倍も魅力的なのは確かね」


「はん!」


「それで――これからどう動くの?」


「ああ、ちょっと南の方で“遺物”らしい反応を見つけたんだ。そこを調べてみようかな」


「じゃあ、次の遺物は俺様に行かせてくれよ!」

 銀髪の男が、犬歯をのぞかせながら身を乗り出す。


「わかったよ。じゃあ――よろしくね、“フェンリル”」

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