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30:無邪気な無知

 ――夜の霊園は静まり返り、風が通り抜けるたびに、どこからともなく草の擦れる音が聞こえる。


 腕にしがみつく藤宮を半ば引きずるようにして、霊園の中央にある石碑の前まで進む。

 そして、霊媒師から譲ってもらったお香に火をつけた。


 ――香の香りに惹かれて、霊が寄ってくるらしい。


 煙がゆらゆらと夜の闇に溶ける。

 しばらくすると、空気の密度が変わり周囲がざわつく。


「来たみたいクワッ」


 ブッチの声に、藤宮の腕を掴む力が、ぐっと強くなる。


 その時――

 背後から、あの、定番の掛け声が聞こえた。


「う〜ら〜め〜し〜やぁ〜、う〜ら〜め〜し〜やぁ〜」


「はいはい、うらめしや」


 寄ってきた霊たちが、一斉に動きを止める。

 そして、まるで混乱したように――


「え? なにその反応?」みたいな雰囲気でザワついた。


「いや何か、予想通りっていうかさ」


「だから言ったでしょ園長! “うらめしや”はもう古いって!」


「い、いやでもさぁ、幽霊と言えば“うらめしや”が基本だろ!?」


「今は令和ですよ、令和!」


「いや、でも伝統って大事だし……」


 ――霊たちが、そんな“言い合い”を始めた。

 まったく、どうツッコめばいいんだよ……。


「あの、お取り込み中悪いんだけどさ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」


「邪魔しないでください! あなたのせいで今大事な会議中なんですけど!」


 いや、それは悪かったけどさ……。


「今日の昼に、この近くのホテルで幽霊騒ぎがあったの知らないか?」


 俺の質問に、話好きそうな金髪ウェーブの平成ギャルみたいな霊がすぐ反応した。


「ああ、あれねー、知ってるわよ!」


「本当か!」


「なんか最近、“幽霊狩り”ってのが流行ってるみたいなのよ」


「はぁ? 幽霊狩り?」

 おやじ狩りみたいに言うなって!


「強力な“魔術書”を使って、無理やり従わせたりするのよ。酷いわよね!」


 女の幽霊は体を揺らめかせながら、ご立腹だ。


「そいつらの居場所はわかるか?」


 俺はダメ元で聞いてみる。


「えっと確か……倉庫街の隣にある“工場跡地”だって話してたのを聞いたわ」


「ほんとうか!? 助かった。今度お供え物持ってくるから」


 俺は女幽霊に礼を言い、藤宮たちとともにその“工場跡地”へ向かった。



 ◇◆◇



 ――その工場は、街の外れに位置し隣接する倉庫街の明かりに照らされ、ひっそりと立っていた。

 だいぶ前に廃棄されたのだろう、かなり老朽化していて窓ガラスは割れ、壁には落書きがびっしり描かれている。


「本当に入るんですか?」


「当たり前だろ、嫌なら車の中でブッチと待っててもいいぞ」


「行きますよ! 先輩を一人で行かせたらチーム失格ですから!」


「はぁ、じゃあ……いい加減、腕にしがみつくの止めてくれよ……」 


 中は想像以上に荒れていた。

 放置された機械、散乱する空き缶、崩れた棚――そして、そこら中落書きだらけだ。


 さらに奥へと進むと、閉ざされた扉の向こうから仄かな光が漏れている。

 そこから、複数の話し声や笑い声が聞こえてきた。


 資材の影に身を潜め、耳を澄ます。


「あのおっさんの顔、見たか? いやぁ最高だったな」


「あーあ、私も“あかりん”見てみたかったわ」


「俺もバイトの面接受ければよかったぜ」


「お前みたいな髪型で、ホールのバイト受かるわけねーだろ。あはは!」


 ――楽しそうな笑い声。


 ホールのバイト? ……やっぱり、こいつらか!


 もう少し近くで聞こうと、一歩を踏み出した――その瞬間。


 ――突然、倉庫の照明が一斉に点いた。


「……っ!」


「やっと来たのかよ、待ってたぜ」


「本当に来やがった、それも女連れでよぉ」


 姿を現したのは、数人の若い男女。

 年齢は俺たちと同じくらいか――中には学生服のままのやつもいるな。


「なるほど、霊園を見張らせておいたってわけか」


「そゆこと〜。で、あんたらはノコノコやって来たってわけぇ」


「なるほどな。……そんなことだろうと思ったよ」


 伝統だなんだと言ってた連中の中で、質問に答えた幽霊だけ金髪ウェーブだったし――それに、ここの情報を都合よく知ってるのも、明らかに不自然だろ?


「なに、余裕ぶっこいてんの? この人数、見えないの? あははっ!」


 ……五、六、七人か。想定内だな。


「一応聞くが――お前たちが、あの“パーティー”をぶち壊してくれた犯人で間違いないな?」


「うひゃっ、マジで最高だったよなぁ! 撮影しとけばよかったぜ」


「なんで、あんなふざけた事したんだ!」


「はぁ? なにマジになってんの? 面白いからに決まってんじゃん!」


 軽薄な笑い声が倉庫に反響する。

 悪意というより“快楽”の匂い――それが、余計に腹立たしい。


「あの力はどこで手に入れたんだ?」


「これのことかぁ?」


 リーダー格の男が、懐から一冊の本を取り出した。

 黒革の装丁に、銀の文字で刻まれた奇妙な紋章。


 ……あれが例の魔術書か?


 その瞬間――ぞわりと背筋を撫でる冷気。


 どこからともなく、三体の“幽霊”が現れる。


「……っ!」

 藤宮が息を呑むのが腕に伝わる。


「あれぇ? 彼女ちゃん、ビビっちゃってる? だいじょ〜ぶ〜?」


「あとで、楽しい動画撮らせてもらおっかなぁ〜」


 その言葉を聞いた瞬間、心臓の鼓動が激しくなり、怒りが込み上げる。


 男は笑いながら、幽霊たちを指で弾くように操った。

 その指の動きに合わせ、一体の幽霊が奇声をあげて藤宮へ迫る。


 俺は、ただ――一瞥(いちべつ)する。


 次の瞬間、幽霊の輪郭が揺らぎ、音もなく光の粒となって霧散した。

 まるで存在そのものが“否定”されたかのように。


「……はぁ?」

 男の顔から笑みが消える。


「それで終わりか?」


 俺は、心のこもらない声で淡々と呟いた。

 倉庫の空気が、静かに、冷たく張りつめていく。


「くそっ、全員でかかれッ!」


 男の号令で、他の仲間たちも一斉に魔術書を掲げる。

 黒い煙のような影がほとばしり、幽霊たちが次々と姿を現した。

 その数――十体を優に超える。


 呻き声が重なり合い、倉庫全体が凍えるような寒気に包まれる。


「行けえぇぇぇっ!」


 幽霊たちが一斉に飛びかかってくる。

 俺は、一歩も動かず――ただ視線だけを巡らせた。


 俺たちに襲いかかろうとする幽霊たちを、ぐるりと睨む。

 その瞬間、幽霊たちは抵抗の声すらあげられず、光の粒となって消えていった。


 ――残ったのは、静寂。


「な、なんだよ……これ……」


 リーダー格の男が、その場に膝をつき、震える声で呟いた。

 他の仲間たちも呆然としたまま、微動だにしない。

 

 俺は、一歩、近づく。


「あ、あぁ……ち、近寄るなぁぁぁ!」


 さらに近づこうとした、次の瞬間。


 ――パチ、パチ、パチ。


 倉庫に乾いた拍手の音が響く。


 入口の方を見ると、老紳士が音もなく立っていた。

 ――まるで気配を感じなかった、最初からそこに存在していたかのように。

・カクヨムにて先行投稿中!

・先が気になる方は下記からどうぞ。


作品名:世界の見せる真実が、俺の想像を超えていく

カテゴリ:現代ファンタジー

https://kakuyomu.jp/works/822139839811378629

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