表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/41

29:駄目なものは駄目なんです!

「藤宮、そっちのやつを頼む!」


「りょ、了解!」

 幽霊が苦手な藤宮もなんとか頑張ってるな。


「しかし、何匹いるんだ、キリがないぞ!」


 今、俺たちは――大混乱に陥った会場で“幽霊”と戦っている。


 さっきまで歓談していた会場は、今や阿鼻叫喚。

 宙を漂う半透明の影たちが、悲鳴を上げる招待客を次々と掴み上げては――キャッチボールのように投げ合っている。


 テーブルクロスが宙に舞い、ワイングラスが砕け散る。

 床下から顔を覗かせた幽霊が、テーブルに隠れていた客を驚かせては高笑いしていた。


「なんなんだよ、こいつら! ただ怖がらせて遊んでるだけじゃねぇか!」


「ええ……目的がわからないわ! 本当にただの嫌がらせなの?」


 俺の隣では、星乃社長が招待客を庇いながら身をかがめている。

 ドレスの裾が汚れても気にする様子もなく、冷静に状況を分析している。


 すると、星乃社長の後ろに隠れていた鏡見が話しかけてきた。


「神楽さん、少しの間――私に霊たちを近づけさせないようにしてもらえますか?」


「どうした。なにか、いい方法があるのか?」


「ええ。“邪”を払ってみます」


「邪を払う? ……わかった。まかせておけ!」


 そう言って俺は、鏡見を守るように前に立つ。

 すると、鏡見は静かに目を閉じ、胸の前で両手を掲げた。

 次の瞬間――鈴の音が、空気を震わせる。


 ――シャリン。

 ――シャリン。

 ――シャリン……。


 どこからともなく響くその音が、会場に響き渡る。

 冷たい霧のようなものが舞い降り、揺らめくシャンデリアの光が幻想的にきらめく。


 鈴が鳴るたびに、霊たちは顔を歪め、ひとつ、またひとつと――溶けるように消えていく。

 やがて、あれほど暴れていた影たちはすべて霧散し、会場には静寂だけが残った。


 ――シャリン……。


 誰もが息をするのを忘れたように、その場に立ち尽くす。

 静まり返った会場に響く鈴の音は、やがて歓声と拍手によって掻き消える。



 ◇◆◇



 会場の後片付けを、ホールスタッフたちが慌ただしく行っている。

 砕け散ったガラスの音がまだどこかで響き、焦げた照明の匂いがわずかに残っていた。


 大きな損害はシャンデリア一つ――騒ぎの規模にしては、奇跡的に少ない。

 負傷者も、逃げる際に転んだり、ぶつかったりした打撲程度で済んでいた。


 大惨事にはならなかった。それだけでも、ほっと胸を撫で下ろす。


「大変なことになりましたね」


 後片付けを見守りながら呟く。


「そうね。でも結果的に被害も大したことはなかったし、招待客からも“今後の活躍に期待している”なんて、逆に励ましの言葉をたくさんもらったわ」


「怪異の脅威を身近に感じて、危機意識が高まったんですかね」


「ええ。――言葉で聞くのと、実際に“見る”のとでは、やっぱり違うのよ」


 星乃社長は、遠くに残ったガラス片を見つめながら静かに言った。

 その決意のこもった横顔は、責任を背負う者の表情だと感じた。


「それで、早速で悪いんだけど……」


「犯人の捜索ですね」


「ええ、お願いできるかしら?」


「もちろんです」


 こうして、俺はSweepからの“二つ目の依頼”を引き受けた。

 正式な依頼は星乃社長からROOTSに出しておくと言われ、俺はさっそく調査に取りかかる。


「先輩、どこから調べます?」


「そうだな、確か招待客の中に霊媒師がいたはずだ。まずはその人に話を聞いてみるか」


 藤宮の問いに答え、ブッチに情報を調べてもらう。

 霊媒師の事務所は、パーティー会場だったホテルから数分の場所にあった。


 電話でアポを取り、俺たちは事務所を訪ねる。

 “霊媒師の事務所”なんていうから、どんな事務所かと思ったが、見た目はごく普通のオフィスという感じだ。


「漠然とした質問で申し訳ないんですが、今回の霊について何か気づいた点などはありませんか?」


 俺の質問に、スーツ姿の霊媒師は少し考え込んでから話し出す。


「そうですね……まず、幽霊が“集団行動”をとること自体が、そもそもあり得ません。明らかに不自然です」


「つまり、今回は異例だと?」


「ええ。考えられるのは――“幽霊を操る何者か”が背後にいるということです。そして、おそらく犯人は複数人」


 “複数”という言葉に、俺と藤宮は思わず顔を見合わせた。


「その根拠は?」


「まず数です。あの規模の幽霊を一度に操るには、相当な使い手でなければ不可能。

 ですが、やっていたことはあまりに幼稚で、目的も不明瞭……“ただ騒ぎを起こして楽しんでいるだけの素人”。そんな印象を受けました」


 霊媒師としての経験が、そう感じさせるのだろう。


「それに――現場で感じた“波長”がバラバラだったんです。幽霊と交信する際に感じ取る、周波数のようなものです」


「つまり、その周波数が一致していなかったから、操っていた者が複数人だと……?」


「はい。そして少なくとも――()()()()


 その言葉には、確信めいた響きがあった。


 その後も詳しく話を聞き、礼を言って事務所を後にする。


「さて、どうするかな。やっぱり……()()()に行くしかないか」


「ほ、本当に行くんですか? 私、お腹が痛くなってきました」


 藤宮が急にそんな事を言い出す。


「はぁ……オカルト好きなのに、なんで幽霊が駄目なんだよ」


「駄目なものは、駄目なんです!」


「鬼頭さんも言ってたろ。幽霊はいわゆる“精霊の一種”だって。ホラー映画の見すぎなんじゃないか?」


「じゃあ先輩は、幽霊怖くないんですか?」


「そりゃ怖いさ。だけど……能力に目覚めてから、そのへんの感覚がちょっと鈍いっていうか」


「ズルいです! ミーちゃん、私も何とかならない?」


 藤宮の腕にはまるミョルニルが、困ったようにチカチカと点滅した。

 俺は苦笑しながら首を横に振る。


「じゃあ――夜になったら行くぞ。“霊園”」


 霊媒師いわく、幽霊とコンタクトを取るならやっぱり“墓場が一番”らしい。

 藤宮の絶望した顔を横目に、俺は歩き出す。



 ◇◆◇



 ――日はすでに傾き、空は茜から群青へと変わり始めていた。

 夜の霊園へ向かうには、ちょうどいい時間だ。


「うぅぅぅ……」

 藤宮が俺の腕にしがみつき、不気味な声を発している。


「その声やめろよ、こっちが怖いんだが!」


「はぁ、こりゃ役に立ちそうにないクワッ」

 ブッチも呆れ顔でぼやく。


「お腹痛いって言ったじゃないですか!」


「そんな都合よく痛くなってたまるか! ちょっと前までホテルのスイーツ食ってただろ!」


「それとこれは別ですよ……」


 まったく、別腹みたいに言うなよ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ