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27:幽霊も色々たいへんです

「藤宮、もう少し離れろよ!」


「イヤですよ。いいじゃないですか、女の子に抱きつかれるなんて。先輩、嬉しくないんですか?」


「はぁ……」


 今がどんな状況かと言うと、黒髪ロングの幽霊の向かいのベンチに座る俺、俺の腕にしがみつく藤宮、それをスマホで撮影中のブッチ。まあ、こんな感じのカオスな状況だ。

 ……SNSに上げるつもりなら没収な。


「なあ、ここの運営会社から“不気味な声にスタッフが怖がって仕事にならない”って苦情が出てるんだが?」


 幽霊に俺たちがなぜ来たのかを説明する。


「そんなこと言ったってぇ、私は勝手に連れられて来たわけだしぃ」


「どういうことだ?」


「もともと私は、ある“呪物タレント”が集めてた人形に取り憑いてたのよ。それを、このお化け屋敷の“雰囲気に合うから”って理由で、勝手に飾られて“チョベリバ”って感じよ」


「な、なるほど……それは、災難だったな」


「でしょ〜? それにここの先輩霊、ルールとかにうるさいんですよね」


「……じゃあ、その人形をどこかに移せば、お前も一緒にいなくなるのか?」


「まあ、そうなんだけどぉ……どうせなら“成仏”させてほしいかな。

 ――先輩、怖いし。“配属ガチャ失敗”ってやつ?」


「はぁ、わかったよ。聞いてみる」


「ほんと? やった〜!」


 そう言って抱きついてこようとする女霊の動きを、念動で止める。


 隣の藤宮はミョルニルを構え女霊を睨んでいる……。

 オカルト好きなくせに、どんだけビビってんだよ。


「もう、ちょっとくらい良いじゃない」


 いや、霊に抱きつかれるとか遠慮する。


 俺は、SweepではなくROOTSに連絡を入れる。

 事件が“怪異”だと判明した場合は、ROOTSに連絡する手筈になっているからだ。


「いま、連絡して除霊師を手配した。本当に除霊していいんだな?」


「ええ、いいわ」


「遊園地の経営者に話せば、元の場所に戻れるかもしれないぞ?」


「だって、ここの幽霊屋敷に来るのってカップルばっかなのよ。それでSNS用に二人で写真撮ったりして楽しそうにしてるのよ。それ見てたら、私なにやってんだろって思っちゃったんだよねぇ」


「ま、まあ……幽霊にもいろいろ悩みがあるんだな……」


 その後、手配した除霊師によって、女の霊は静かに成仏していった。

 去り際に――「彼女さんを大切にね」なんて、勘違いも甚だしい言葉を残して。



 ◇◆◇



「初依頼ご苦労さま。――初仕事で“当たり”を引くなんて、さすが噂どおりね」


 ……絶対、ろくな噂じゃないよな。

 この調子だと、毎回当たりを引くなんて事態が起こりそうで不安しかないんだが。


「一応、“変な声”の原因は“地下室のボイラーの振動でパイプが共鳴してた”ってことにしておきましたけど、大丈夫ですか?」


「ええ、それで構わないわ」


「なんとか、最初の依頼を無事にこなせてホッとしました」


「今後もよろしくね」

 そう言って星乃社長は微笑む。


「そうだ、急な話で悪いんだけど――来週、会社の創業感謝パーティーがあるの。あなたたちも招待するわね」


「え、俺たちも創業感謝パーティーにですか?」


「ええ。今回のパーティーは外部向けじゃなくて、関係者向けだから、気軽に参加してくれればいいわ。それに、ちょっとした“余興”もあるから――あなたたちはただ楽しんでちょうだい」


 創業パーティー、か……。

 なかなか経験でききるものではないし、少し楽しみだな。



 ◇◆◇



 俺はいま、アパートの前でパーティーの迎えを待っている。

 普段は着ないスーツなんて着てるから、そわそわして落ち着かない。


 隣には、いつものラフな格好とは違い――

 黒のタキシードに、緑の蝶ネクタイでお洒落に決めたブッチが立っている。


 今回のパーティーは、事情を知っている関係者だけの集まりらしく、ブッチも“普通に”参加OKだ。


「なあ、ブッチ。パーティーとか行ったことあるか?」


「ないクワッ」


「……だよなぁ」


 二人して、しばらく黙り込む。

 夜風が少し冷たくて、余計に落ち着かない。


 やばい。緊張してきた!


 そのとき、アパートの前に黒塗りの高級車がゆっくりと止まった。

 ボンネットの先には、妖精のようなマスコットが光を反射してきらりと輝く。


 ぼんやり眺めていると、運転手がドアを開けてくれるので乗り込む。


「し、失礼します……」


 車内は全て革張りで、柔らかな照明が灯っている。

 車の価値はわからないが、間違いなく“庶民には縁のない世界”の代物だった。

 

 俺たちが乗り込むと、車が静かに動き出す。

 窓の外では、同じアパートの住人たちが、物珍しそうにこちらを覗いていて少し恥ずかしい。


 車は大通りに出て、二十分ほど走ったところで止まる。


 運転手が降りて扉を開けると――。

 黒のブラウスにグレーのワンピース、シルバーの太めのヒール。

 少しぎこちない足取りで、藤宮が乗り込んできた。


「あ、先輩、ブッチ君こんばんは! 何ですかこの車! すごいですね!」


「ああ、俺もこんなの乗るの初めてだ」


 二人と一匹で今日のパーティーについて話しているうちに、車は目的地に到着する。

 パーティー会場はホテルのホールを貸し切って行われていた。


 受付を済ませて会場に入る。天井からは巨大なシャンデリアが光を放ち、円卓の上には軽食とシャンパンが整然と並んでいる。


 招待客たちは全員フォーマルな装いで、テレビでよく見るパーティーそのものの雰囲気だった。

 すでに歓談が始まっており、奥には星乃社長が来賓たちと話している姿が見える。


「先輩……なんか緊張してきました」


「ああ、俺もだ」


「何だお前たち食わないのクワッ?」


 ――ブッチは皿に料理を取り分け、すでにパーティーを楽しんでいるようだ。


「失礼ですが、そちらは……カッパかな?」


 近づいてきた老紳士に声を掛けられた。


「見りゃわかんだろ! カッパ舐めてんのクワッ!」


「ちょ、ブッチ! すみません、口癖みたいなものなので……悪気はないんです。たぶん」


 無礼な物言いのブッチの代わりに、俺が慌てて頭を下げる。


「お前は初対面のやつに、いきなり“お前は人間か?”なんて言われたらどう思うクワッ!」


 ……まあ、言い分はわからなくもないけどな。


「これは失礼しました。配慮が足りなかったのはこちらです。申し訳ない」


 そう言って、逆に謝られてしまった。

 どうやら気を悪くしていないようでよかった。


「カッパと一緒にいるということは……あなたたちが噂の“期待の新人”ですかな?」


「え? 俺たちのこと、知ってるんですか?」


「“ミョルニル事件”では大活躍だったとか。一度お会いしてみたかったんですよ」


 ……結局、出勤停止になったけどな。


「おや、それが例の“ミョルニル”ですか。――美しいお嬢さんに、お似合いですね」


 老紳士の視線が、藤宮の腕に光るミョルニルに向く。


「あ、ありがとうございます! 先輩、今“美しいお嬢さん”って言われましたよ!」


 ……嬉しいのはわかるけど、完全に社交辞令だからな。

 老紳士はそれを見てニコニコと微笑んでいる。


「それでは、私はこのへんで。有名なお二方とカッパ殿にお会いできて光栄でした」


 そう言って、老紳士は軽く一礼し、他の招待客の方へと歩いていった。


 ――しばらくすると、会場のライトがゆっくりと落ち、ざわめきが静まっていく。

 天井のシャンデリアの光が消え、代わりに舞台中央へと一本のスポットライトが当たる。


 その光の中に、Sweepの社長・星乃が姿を現す。


 白いドレスに銀のアクセサリーを纏い、凛とした立ち姿でマイクの前に立つその姿は、まるで舞台女優のようだ。


「――皆さま、本日はお忙しい中、Sweep創業パーティーにお越しいただき、誠にありがとうございます」


 その一言で、パーティーが始まった。

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