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24:悪が栄えた試しなし

「あ! 先輩。ストップライト(三色頭)ですけど、明日また来るみたいですよ」


 ストップライトのライブ配信を見ていた藤宮が声を上げる。


「明日? 思ったより早かったな」


「なんか、テレビ局も来るらしいです。今ライブで言ってます」


「はあ? なんでテレビまで来るんだよ……」


「実はですねぇ!」

 藤宮が急に身を乗り出してくる。


「今度、“オカルト系”の新番組が始まるんですけど知りません?」


「あー……あれか。ネット広告で見た気がするな。確か“ヤバすぎオカルト伝説”だったか?」


「そうです、それです! 放送は来月からなんですけど、今ネタ集めの真っ最中らしくて」


「なるほどな。でも、なんでそんなに詳しいんだ?」


「ふふん、聞きたいですか?」


 得意げにこちらを見てくる藤宮。

 ……めんどくさいけど、これは聞かないとしつこそうだ。


「聞かせてくれ」


「実はですねぇ、私たちがお世話になってる“オカルト雑誌”の出版社が、その番組のスポンサーなんですよ! ――で、そこの編集さんに直接聞いたんです!」


 そう言えば、大学のオカ研の活動で記事を寄稿してるって言ってたな。


「それで実は……その番組の“最初の収録”、私たち招待されてるんですよ!」


 藤宮は「どうです、羨ましいでしょ!」とでも言いたげに、満面の笑みを浮かべている。

 まあ……俺としては、まったく羨ましくないんだが。


「すごいな、俺も行きたかったなぁ」と適当に話を合わせておく。

 ――角が立たないよう、早めに話を切り上げるための、俺なりの処世術だ。


「じゃあ、先輩も一緒に行きましょう! 収録見学!」


「……へ?」変な声が出てしまった。


「知り合いも連れてきていいって言われてるんです。よかったですね!」


「あ、いや……俺は……」


「遠慮しなくても大丈夫ですよ! 私が話を通しておきますから!」


「あ、はい……」


 こうして――藤宮に押し切られる形で、番組収録への同行が決定した。



 ◇◆◇



 翌日、俺たちは早めに河童淵まで来ていた。

 ストップライトの配信の影響なのか、相変わらず観光客であふれている。


「ストップライトなかなか来ませんね」


「確かテレビ局が密着取材してるんだろ?」


「はい、そうみたいですね」


「しかし、あんなやつら取材して、その番組大丈夫なのか?」


「一応有名配信者ですし、他にも都市伝説・オカルト系タレントや、人気アイドルもゲストで出るらしいですから」


 最悪、かませ役にでも使うつもりなのか?


 ――俺たちがそんな話をしていると、遠くのほうがざわつき始めた。


「どうやら来たみたいだな」


 しばらくすると、テレビ局のクルーらしき人たちと一緒に、ストップライトの三色頭が姿を表した。

 すれ違いざま、赤頭が横目で俺を睨んでくる。


 ……なんだよ、完全に根に持ってんな。


 テレビ局のクルーと少し話したあと、赤頭が観光客(ファン)に向かって声を張り上げる。


「待たせたみんな! 今日こそはカッパを捕まえるから期待してくれ!」


 そんな大声出したら、カッパも逃げるだろ……。

 チラッと見たブッチも呆れ顔だ。


 赤頭は前回と同じように妖怪飴をかじり、タモを手に川へと入っていく。

 周囲をキョロキョロ見回しながら、少し芝居がかった動きをしていた。


「この辺にはいないみたいだな、少し下流に行ってみよう」


 そう宣言すると、観光客たちを引き連れ移動していく。


「なあ、テレビの視聴者はこんな茶番見せられて面白いのか?」


「うーん……『見える』って言われたら、やっぱり期待しちゃうんですよ。私も見えなかった時なら、たぶん期待してましたし」


「はあ……そんなもんかね」

 もともとオカルトに興味がない俺には、よくわからないな。


 視界の端では、赤頭が前回と同じように「岩の陰に何かが見えた!」だの「足に何かが触れた!」だのと騒いでいる。

 ……が、正直もう付き合うのも馬鹿らしくなってきた。


 そんなことを思っていた矢先――

 今度は黄頭が、またしても川に石を投げ込み始めた。

 しかも、今回は前よりデカい。二十センチはありそうな石を両手で持ち上げて、次々と放り込んでいく。


 女性観光客から「キャー」と悲鳴が上がるがお構い無しだ。

 その様子を笑いながら撮影する観光客もいる。


 はあ、結局こうなるのか……。


 俺はため息をついて、黄頭が持ち上げようとする石に念動で下向きの力を加える。

 黄頭は急に重たくなった石に困惑した様子で必死に持ち上げようとするが、持ち上げられずに唸っている。


 すると、次の瞬間――それを見た赤頭が苛立ったように、岩陰を指さして叫んだ。


「い、今……何か聞こえたぞ!」


 ――ガワッ! ――ガワッ、ガワッ! ――ガワァァァッ!


 鳴き声のような音が、辺りから響く。


「本当に聞こえた!」

「うそ! まじかよ?!」


 観光客たちが一斉にざわめいた。


 テレビのリポーターも興奮気味に、カメラに向かって喋っている。

 まさか、と思いブッチを見ると、リュックの中でぷるぷる震えながら言う。


「カッパは“ガワッ”なんて言わないクワッ! カッパ舐めてんのか!」


 ……いや、確かにそうだな。

 カッパは普通に喋るし、ブッチの“クワッ”はキャラ作りのためだしな。

 まあ……それも、どうかとは思うけど。


 すると、赤頭が「うわぁ!」と言って急に転んだ。

 そして、「な、何かに足を掴まれた! うわっ、まただ!」と叫びながら、必死に河原へはい上がってくる。


 すぐにテレビカメラが駆け寄り、赤頭は息を切らしながらカメラに向かって力説していた。


 「鳴き声が聞こえたと思ったら、水の中から緑色の手が出てきたんだ! 引っ張り込まれそうになった!」


 はぁ……お前は、劇団なんちゃらにでも入団するつもりか?

 俺たちは呆れ顔でその様子を見ていたが、なぜか赤頭がこちらを振り向き、ドヤ顔で近づいてくる。


「どうだ? カッパが見えないお前でも、さすがにあの鳴き声は聞こえただろう?」


 え、これ……どう反応すりゃいいんだ?

 チラッと藤宮を見ると、ポカーンと口を開けて固まっている。


『見てみろ。お前の連れは、驚きのあまり言葉も出ないようだな』


 まあ、多分“呆れてる”だけだけど思うぞ。


「あれは、本当にカッパの声なのか?」


 俺はあえてそう聞いてみた。


「こっちは足を掴まれて、川に引きずり込まれそうになったんだ、当たり前だろ!」


 ――その時だった。


 ――ガワッ! ――ガワッ、ガワッ! ――ガワァァァッ!

 ――ガワァァァッ!

 ――ガワッ! ――ガワァァァッ!


 再び、あの妙な鳴き声が響き渡る。

 川面の向こうを見ると……三度笠を被ったゴンさんが、スマホを珍しそうにいじっているのが見えた。


 え! ゴンさん!?


 すると突然、スマホが大音量で「ガワッガワッ」と鳴り出し、ゴンさんは驚いてスマホを放り投げ、林の中へ走って消えていった。


 ――ガワッ! ――ガワッ、ガワッ! ――ガワァァァッ!


 赤頭の足元にポトッと落ちたスマホが、虚しく鳴り続ける。

 鳴り止むまでの数秒間、その場にいた全員が固まっていた。


 静まり返る河童淵。

 空気が完全に止まる。


 そして俺は、ゆっくりと赤頭に向き直って言う。


『今度はお前が、驚きのあまり言葉も出ないみたいだな。演技、ご苦労さま』


 そして赤頭の肩をポンッと叩く。


 赤頭の顔がみるみる赤くなるのがわかる。


「こ、これは違うんだよ! みんな信じてくれよ!」


 赤髪が必死に弁明するが既に遅い。

 完全に場は白けていて、誰も赤頭の言葉を信じる人はいない。


「おい! お前たちも何とか言えよ!」


 赤頭が仲間に援護を求めているが、既に二人ともその場に膝をつき茫然自失状態。

 それを見た赤頭も、力なく膝から崩れ落ちる。


 そして、その姿を必死に撮影する観光客たち。


 カッパを()りに来て、自分たちが()られる側になる三人。


 きっとこの動画は、すぐにネットで拡散され炎上するんだろうな……。

 俺はその様子を眺めながら、そんな事を考えていた。

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