23:カッパはみんな癖が強い
現地に着くと――相変わらずの混雑ぶり。
まだ朝だというのに、すでに観光客で溢れかえっていた。
なんか昨日より人が多くないか?
そう思い周囲を見ると、前方にひときわ大きな人だかりを発見。
xなるほど、あの三色頭(赤・黄・青)のせいか。
近くの観光客に聞くと、前日の配信で「今日、現地で検証します」と予告していたらしい。
やがて黄頭が片手を上げ、「これから検証を始めます!」と叫ぶと、観光客の間から歓声が上がった。
赤頭が懐から黒い小袋を取り出し、包みを開ける。
中から出てきたのは、例の“妖怪飴”だった。
やつはそれを口に放り込み――バリバリと噛み砕いて飲み込む。
いや、噛むのかよ……。
そうツッコミを入れつつ眺めていると、赤頭が急に川面を指差す。
「いた! あそこに今、黒い影が見えた!」と叫ぶ。
周囲が一気にざわつく。そして静まり返る。
俺もすぐに赤頭の指差す方に視線を向ける。……が、カッパの姿なんてどこにもない。
ちらりとブッチを見ると、首を横に振った。
「やっぱり、嘘かよ」
思わずそう呟いた瞬間、赤頭がこちらを振り返る。
「――おいお前、今なんてった? 俺が嘘を言ってるってのか!」
さっきは無視しておいて、今度は地獄耳かよ……めんどくさっ。
赤頭は俺を睨みつけると、ニヤリと笑って言った。
「なら見てろ。――証拠を見せてやるよ」
そう言い放ち、大きなタモを持って川へと入っていった。
観光客たちが一斉にスマホを向ける。
子どもを肩車してスマホを構える父親、自撮りをしている若い女性。
みんな何か事件が起こることを、期待しているような目をしている。
川に入っていった赤頭が、タモを振り回して何かと格闘中。
……のように見せかけた、茶番を始めた。
「アホくさ。何を見せられてんだ……」
「ですね……」
隣を見ると藤宮も冷めた顔をしている。
ブッチもリュックの中から顔だけ出し、笑いをこらえるのに必死だ。
一方で観光客は大盛り上がり。
「どこどこ?」「え、ほんとにいるの!?」と声を上げながら、一斉にスマホを構えている。
「……いや、どうするよこれ」
すると今度は、黄頭が叫ぶ。
「おい、あそこにもいるぞ!」
そう言うなり、近くに転がっていた石を拾い、思いっきり川へ投げ込んだ。
――バシャッ! と水しぶきが舞い上がる。
観光客もそれを煽るように声を上げ、さらに盛り上がる。
それに気を良くした黄頭は、次々と石を拾っては投げ込み始めた。
観光客まで一緒になって……悪ノリにもほどがあるな。
俺はこっそり念動を使い、撮影する青頭のカメラに軽く干渉する。
――パチッ。煙を上げて、バッテリーが焼け焦げた。
撮影ができなくなったと知ると、赤頭は演技をやめて川から上がる。
黄頭も揃って三人でカメラを確認する。
「くそ、なんだよこれ撮れてねぇじゃん!」
青頭が慌ててカメラを確認し、赤頭が苛立ちを隠せず舌打ちする。
俺は、心の中で「ざまあみろ」と呟きながら、どうにか顔に出さないように平静を保つ。
「なんだ、何ニヤついてんだよ!」
おっと、顔に出てしまったようだ。
「いや、別に?」
赤頭は舌打ちをひとつして、三人で何やら言葉を交わすと、観光客の方へ向き直り、ぶっきらぼうに告げた。
「みんな悪い、機材トラブルだ! 改めてまたやり直す!」
そう言い残し、三人組は足早にその場を立ち去っていった。
群衆はなおもスマホを構え、去っていく彼らの背中を夢中で撮り続けている。
……まったく。再生数の為なら何でもやるのかよ。
ブッチを見ると、さっきまで笑いをこらえていた顔が、今では怒りに満ちていた。
まあ、自分の故郷を荒らされたら当然だよな。
迷惑な三人組がいなくなってから、俺たちは観光客から少し離れた所で話し合っている。
「さすがにあれはやりすぎだな」
「あの人たち、また来るっていってましたね」
「許せないクワッ!」
ブッチもご立腹だ。
――そんな時だった。
「ちょっといいズラか?」
振り向くとクビに手ぬぐいを巻き三度笠を被った、一匹のカッパが立っていた。
ブッチに聞くと、里のカッパで“ゴンさん”というらしい。
また、何か癖が強いな。カッパってみんなこうなのか?
するとゴンさんがスッと、俺に包みを差し出す。
「これ、下流に流れてきたズラ」
それは黒い袋に、銀色のルーン文字のような模様が描かれた包みだった。
これは……間違いない。――“妖怪飴”だ!
赤頭が川で騒いでいた時に落としたのだろう。
「ゴンさん、お手柄だ!」
「なら、よかったズラ」
そう言って片手を上げると、ゴンさんは里に帰っていった。
俺たちはすぐに、その“妖怪飴”をROOTSの夏目さんへ送った。
出勤停止中の俺たちの頼みでも、「内緒やで」と言って快く引き受けてくれた。
◇◆◇
翌日の夕方、さっそく夏目さんから連絡があった。
「まず、飴の成分なんやけどな――なんの変哲もない、ただの飴やったわ」
「え?! じゃあ偽物なんですか?」
手掛かりが消えるかと思って焦る俺に、夏目さんから意外な回答が返ってきた。
「まあ、焦らんといてや。大事なんは“中身”やのうて“包み”の方や」
「包み?」
「そうや。この包みに書かれとる模様やけど、簡単な魔術の様式になとるわ」
「魔術……?」
「せや。どうやら“一時的に潜在的な感知能力を引き上げる”効果があるみたいや。ただし効果は一般人なら一回だけやと思うわ」
夏目さんが言うには、「能力を無理やり引き上げる反動で、二度目以降はほとんど効果が無い」ということみたいだ。
しかし感知能力を引き上げる効果か。そんな物が量産されたら、世の中がパニックになりかねない……。
この効果が偶然だったのか、――それとも意図的だったのか。
製造元を調べてみる必要があるな。
俺は夏目さんに礼を言い、通話を切った。
「じゃあ、とりあえず製造元だけどなにか情報はないか?」
「任せとけ」そう言うとブッチは、どこからともなくノートパソコンを取り出し調べ始める。
「製造元は五十年前に創業した菓子メーカーみたいだクワッ。今回の妖怪飴は、創業五十周年の記念でパッケージデザインを公募したらしいクワッ」
「ってことは、製造元は効果のことを知らずにデザインを採用した可能性が高いな」
「ちなみに、そのデザインの応募者の名前だけど……“零”:女性って書いてあるクワッ」
「零、ね……」
まあ、ハンドルネームだろうけど、製造元に直接聞いても個人情報はまず教えてもらえないだろう。
個人レベルでの調査は、ここまでが限界か。
「先輩、これからどうします?」
「とりあえず、妖怪飴の方は限定商品だっていうし、被害はそのうち収まるんじゃないか?」
「そうですね。――あとはストップライトがまた撮影に来るって言ってましたけど、こっちはどうします?」
「あの感じだと懲りて無さそうだし、とりあえずは監視だな」
そうは言ったが……前みたいに迷惑をかけるようなら、きっちり後悔させてやるつもりだけどな。
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作品名:世界の見せる真実が、俺の想像を超えていく
カテゴリ:現代ファンタジー
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