22:わたちがえんちょうでち
待ち合わせ場所には、既にブッチが待っていた。
月明かりが、水面の流れに合わせてゆらゆらと揺れている。
虫の声、そして遠くで響くカエルの合唱。
昼間とは違う、ひんやりとした静けさ――まるで別世界に迷い込んだみたいだった。
「じゃあ、さっそく里に案内するクワッ」
そう言うと、ブッチはピンポン玉くらいの小さな球体を取り出した。
「なんだそれ?」
「尻子玉クワッ」
その名前を聞いた瞬間、反射的にお尻がキュッと締まる。
ブッチが尻子玉をかざすと、朱色の光がふわりと溢れ出し、空間に渦が現れた。
「……これが、カッパの里の入口か?」
「そうクワ。長くは開いてないから早く入るクワッ」
渦をくぐり抜けた瞬間、視界が一気に開けた。
そこに広がっていたのは――
透き通った小川と、のどかなきゅうり畑。どこか懐かしさを覚える、穏やかな光景だった。
そして、空にはなぜか太陽がさんさんと輝いている。
「こっちの時間は、外とは逆クワ」
なるほど……不思議空間ってやつか。
もうこの程度じゃ驚かなくなってきた自分が怖い。
「じゃあ、淵長の家に案内するクワ」
そう言って歩き出すブッチに付いて里を進む。
道中、何匹かのカッパに出会う。みんな俺達を見ると、一様に口を開けて驚いた表情を見せる。中には、緑だけじゃなくピンクや黄色のカッパがいて、ブッチいわく、最近は体の色を変えるのが流行っているらしい。
……つまり、カッパ界隈のオシャレ文化ってやつか?
そしてしばらく進むと、池の中心に建つ一際大きな茅葺き屋根の家の前で立ち止まる。
「ここが――淵長の家クワ」
ブッチがそう言った瞬間、静かだった水面が「ポチャン」と音を立て、家の扉が開いた。
――そこかれ出てきたのは、白いちっちゃなカッパだった。
「よくいらっちゃった! ささ、なかにどうじょ!」
「淵長クワ!」
――白くて、小さくて、声高っ。しかも滑舌わるっ!
俺が心の中でツッコミを入れている隣では、藤宮が目を輝かせウズウズしている。
今にも飛びかかろうとする藤宮の肩を掴みつつ家の中に入る。
中は……うん、どこを見ても白、白、ピンク、フリル! ――甘々な空間が広がっていた。
俺が混乱している横で、藤宮はテンション最高潮。
「すきにゃところに、すわっちぇくだちゃい」
「あの、失礼ですけど本当に淵長さん……だよな?」
「ふぁい、|わたちがえんちょうの“ノサラ”でちゅ《私が淵長のノサラです》」
「淵長は毎回じゃんけんで決めるクワッ」
じゃんけん……って、この里、大丈夫か?
「それで、今の騒動で困ってるって話だけど?」
「しょれなんでちけど……」
「ここからは、私が代わりにお話ししますハイ。私、淵長の弟で“ノワン”ですハイ」
「あ、ハイ……」
今まで静かに座っていたノサラ淵長の弟、ノワンさんが話を引き継ぐ。
ノワンさんの話によると、観光客の増加とともに“迷惑行為をする人間”が増えてきて、困り果てているとのこと。
きっかけは、里の若いカッパがいつものように河童淵で水浴びをしていたときのこと。
動画配信者がスマホで撮影をしながら現れて、何やら“飴玉”のようなものを口にしたかと思うと、急にこちらを見て、騒ぎ出したという。
そして、拾った石をこちらに向かって投げてきたらしい。
それに腹を立てた若いカッパが、水鉄砲で反撃した結果、配信者が足を滑らせて怪我をしてしまったらしい。
その動画がSNSで拡散され――話題となった。
それをきっかけに、淵を訪れる人間が急増。騒いだり罠を仕掛けたりと迷惑行為が増えたらしい。
俺もその動画を確認してみたけど、配信者が騒ぎながら草むらで動く何かに向けて石を投げている――そんな内容だった。
幸いその動画にはカッパの姿は映っていなかったけど……話題になるにはそれで十分だったらしい。
以降、カッパたちは里に籠もるようになったけど、観光客は減るどころか、むしろ日ごとに増え続けている現状。
それに困り果てて――ブッチに相談したってわけだ。
「なぁ藤宮。この動画に映ってるのが“妖怪飴”てやつか?」
「はい、そうですね」
「……何とかして手に入ればいいんだけどな」
「販売元に電話してみましたけど、記念商品らしくて再販は今のところ無いみたいです」
カッパの里で話を聞いた俺たちは、とりあえず騒ぎの原因に関係ありそうな“妖怪飴”を調べることにして、宿に戻った。
――宿に戻った俺たちは、妖怪飴について話し合っていた。
「妖怪飴の“評価”ですけど、何かが見えたって言ってる人が三割くらいいますね」
「三割か……偽情報が混ざってるにしても少し多いな。やっぱり実際手に入れて調べるしかないか」
「フリマサイトには出品されてますけど……」
『否だ!』
今まで転売ヤーの買い占めにより幾度となく被害を受けてきたゲーマーとして、転売での購入は断じて“否”なのだ!
「で、ですよね……じゃあ明日、河童淵で観光客に情報を聞いてみます?」
「まあ、それしかないな」
◇◆◇
翌朝。
俺たちは昨晩の話し合いどおり、観光客から“妖怪飴”の情報を集めるため、河童淵へ向かおうとしていた。
宿のロビーに降りると――なんだか、やけに騒がしい。
「うわぁ、やっぱりカッパを捕まえに来たんですか?」
「まぁね。今日はこの“妖怪飴”も持ってきたからな!」
「いいなぁ〜。それ、今買えないんですよねぇ」
そんな話し声が聞こえてきた。
「……妖怪飴って聞こえたけど、誰か有名人でも来てんのか?」
気になって声のほうへ目を向けると、赤・黄・青の髪色をした三人組が、観光客らしき人たちに囲まれて談笑していた。
「あっ! あれ、例のストップライトっていう配信者ですよ」
赤・黄・青って、まんまストップライトかよ!
「動画を上げて、妖怪飴を広めたってやつらか?」
「そうです」
話を聞いてみようと、観光客と話していた赤頭の男に近づく。
「あの、すみません。少し聞きたいことがあるんですけど……」
「…………」
ん? 声が小さかったか?
「あのー! すみませーん!」
「…………」
こいつ、聞こえてるはずなのに俺のことを完全にスルーした?
すると、他の女性ファンが質問する。
「私ファンなんです! 妖怪の動画見ましたよ! あれ本当なんですか?」
「もちろん! でも、信じるか信じないかは君次第だよ」
赤頭が笑顔で答える。――どこかで聞いたことのあるフレーズだ。
この野郎……女の質問には答えるのかよ。いい性格してんな!
藤宮に視線を送ると、「うん」と頷いて一歩前に出る。
「あの、妖怪飴って本当に妖怪が見えるんですか?」
「もちろんだよ。まぁ個人差はあるけどね。今から妖怪飴を使った検証をするからさ、きみも見に来いよ!」
そう言って立ち上がると、“観光客”――いや、ファンたちを引き連れて宿を出ていく三人組。
「俺、嫌いだわ」
「おれっちも嫌いクワッ!」
そういえば昨日、ブッチも宿に来てたんだった。
ぬいぐるみモードで藤宮のリュックにIN中とはいえ、怒りオーラだだ漏れだ。
それに気づいていないあたり、あの三人――どうやら能力者ではなさそうだな。
「とりあえず、ついて行ってみるか」
俺たちも呼んでおいたタクシーに乗り、河童淵へ向かった。
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作品名:世界の見せる真実が、俺の想像を超えていく
カテゴリ:現代ファンタジー
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