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17 ヘビに睨まれたカエル

 矢島は地面に崩れ落ち、手から転がり落ちたキューブが月明かりに反射して淡く光る。


 その前に――2Eが立つ。

 赤いモヤをまとい、まるで現実の“縁”が滲んでいるかのようだった。


 2Eがキューブに手を伸ばした、その瞬間。

 キューブが金色に発光し、周囲の大気が帯電する。

 遠く離れていても、肌がチリチリとするほどのだ。


 キューブから金色の稲妻が発生し、2Eに襲いかかる――

 しかし、その体を覆う赤いモヤが全てを弾き返す。

 

 稲妻が撃ち出されるたびに弾かれ、アスファルトを焦がす。


 2Eがキューブを掴もうとする――。


 ――バァン! バァン!


 銃声が二発。


 一発はキューブを弾き飛ばし、アスファルトの上を転がす。

 もう一発は2Eの手のひらに命中――赤いモヤが吹き出すのが見えた。


 無機質な顔が、ゆっくりと矢島のほうを向く。


 ――バァン! バァン! バァン!


 続けざまに三発。

 矢島が倒れた姿勢のまま引き金を引く。


 だが、2Eはその全てを“見切る”。

 弾丸が触れる寸前、影のように体を揺らし、避けてしまう。


 次の瞬間、2Eの手刀が閃き、矢島の右肩に突き刺さった。

 呻き声とともに矢島の体が持ち上げられ、そのまま道の隅へ無造作に放り投げられる。


 そして転がった矢島の方へ静かに近づく。


「……まずい」


 鬼頭さんが車のドアを開ける。

 手にしていたのは、SF映画に出てきそうなライフル銃。


 ――キュイィィィン

 スコープの中心が2Eを捉えた瞬間。


 ズガァァァンッ!!


 耳を裂くような衝撃音。

 次の瞬間、2Eの左腕が吹き飛んだ。


 赤いモヤとともに、粒子を撒き散らす。


 キュラァァァァァァァァー!!


 咆哮。

 その声が空間そのものを震わせる。


 ――キュイィィィンッ……ズガァァァァン!!


 二撃目。

 閃光が走り、弾丸が2Eめがけて放たれる。


 しかしその瞬間、2Eの体が赤いモヤに包まれ、弾丸はそのまま“すり抜けた”。

 アスファルトがえぐれ周囲に火花を撒き散らす。


 2Eがゆっくりと振り向き、こちらを視界に捉える。

 無表情――だが、その瞳の奥に渦巻くのは、間違いなく“怒り”だった。


 ……まずい!


 そう思った瞬間、道端に転がっていたキューブが淡く光を放ち、ふわりと宙に浮かぶ。

 次の瞬間、閃光が走り、キューブは一直線に空へと消えていった。


 その軌跡を見上げていた2Eが、ゆっくりとこちらを振り向いた。

 赤い瞳が細く光った。


「――ッ!」


 体が、動かない。

 全身を見えない糸で縫い止められたように硬直する。

 

 その時、俺たちの目の前の空間が歪む。

 赤い渦が現れ、そこから2Eの姿がゆっくりと現れる。

 さっき吹き飛んだはずの左腕は――何事もなかったかのように再生していた。


「なぜ、邪魔をするのですか? 先に手を出したのは――あの人間の方なんですがね」


 低く響く声。まるで地の底から這い上がってくるような冷たさだ。

 一言で、空気が一気に張りつめる。


「お前の目的は何だ!」

 

 鬼頭さんが鋭く詰め寄ると、2Eはわずかに肩をすくめた。


「私()()はあなたたち“人類のため”に、危険な遺物を封印しようとしているのです」


「人類のためだと? 埠頭で強盗を襲ったのは、お前じゃないのか!」


「なぜ私がそんな無駄なことをしなければならないんですか?」


 2Eの声は不愉快だ言わんばかりに、冷たく静かだった。


「私ではありませんよ。あれは人が欲に呑まれた結果です」


「欲に呑まれた結果だと? なにか知っているのか?」


「ええ……もっとも、教える義理はありませんが」


 その言葉にはどこか嘲る響きがあった。


「どの時代でも、人間は同じ過ちを繰り返す。だから、過ぎた力は封印すべきなのです」


 その声に嘘の響きはない。

 ただ、こちらの理解を諦めたような冷淡さだけが残る。


「さて、目的のモノも逃げてしまいましたし、今回はこのへんで失礼します。――次に邪魔をするようであれば、相応の代償を払っていただきますよ」


 そう言い残し、2Eの姿は赤い渦の中に溶けて消える。


 直後、全身を縛っていた見えない力がふっと解けた。


「はぁ……はぁ……」

 肩が震え、息が荒くなる。


「ふぅー。……あれはヤバいな」


 鬼頭さんがタバコをくわえ、火をつける。

 オレンジの光が照らす横顔には、疲れの色が見える。


「ですね、あの目に睨まれただけで、体が動かなくなったし……それに、吹き飛んだ腕が治ってました」


 藤宮を見ると、車にもたれかかり辛そうに口を開く。


「憎悪、軽蔑、嫌悪、そして蔑み。全部の負の感情が混ざり合っているような、そんな感じでした……」


 その言葉を聞いた瞬間、あの真紅の瞳が脳裏に焼きつく。

 思い出しただけで、背筋が凍り、体がこわばる。


「おい、それより――あのおっさんは、あのままでいいのか?」


 ブッチが矢島の方を見て言う。


「そうだな。全員、車に乗れ」


 鬼頭さんがタバコを消し、運転席に乗り込む。



 ◇◆◇



「矢島警部補、大丈夫ですか!」


 駆け寄って声をかけると、矢島は「……ああ」と小さく呟き、そのまま意識を失った。

 肩口の傷が痛々しい。


「ちっ、携帯が圏外だ。車に運べ」


 停電のせいで信号はすべて消え、交差点では車が立ち往生していた。

 サイレンの音が遠くから響き、闇に赤い光が明滅する。


 少し離れた病院に矢島を搬送し終えると、鬼頭さんがROOTSへ報告を入れる。

 俺たちは待合室のソファに腰を下ろし、ようやく息をついた。

 体の芯まで疲れが染み込むような、重い静けさがあった。


 診断の結果、矢島は方の傷は深いものの命に別状はないという。ただし精神への極度の負担によるショック症状のため要安静だと聞かされた。

 その報告に、俺はようやく胸を撫で下ろした。


「上と連絡がついた。お前たちはいったん、家に帰れ」


 鬼頭さんがスマホをしまいながら言う。


「鬼頭さんはどうするんです?」


「俺もいったん支部に寄ってから休む。――悪いが、帰りはタクシーでも呼んでくれ」


「わかりました」


 俺はうなずき、隣を見る。藤宮も静かにうなずいていた。

 ブッチはというと、「おれっちも家に帰るクワ!」とのこと。

 どんな家か少し気になったが――今はとにかく、ベッドに倒れ込みたい気分だった。


 藤宮を家まで送り届けたあと、俺も自宅へ戻る。

 部屋に入るなり、服も脱ぎっぱなしでベッドに倒れ込む。

 

 スマホを手に取りSNSを開くと、タイムラインは停電の話題で持ちきりだ。


「UFOだったらしい」「隕石じゃね?」「金色の光が空を飛んでいった!」

 ……などと、いつものように好き勝手な憶測が飛び交っている。


 ほんと、ネットって便利なのか混乱のもとなのか……。


 そんな書き込みを眺めているうちに、まぶたが重くなっていった。

 意識がゆっくりと沈んでいく。



 ◇◆◇



 ――はあ、怖かったなぁ。


 私は家に戻るとすぐにシャワーを浴び、ベッドに潜り込んでいた。

 天井を見つめながら、今日の事を思い返す。


 あの2Eって……ほんと何者なんだろ?

 “人類のため”なんて言っていたけど、感じたのは憎しみと軽蔑――負の感情ばっかだったし……。


 それに、あの時わずかに感じたキューブの感情。

 あれは多分、助けを求めてるような、そんな感じだったよね。

 はぁ、考えてもよくわからないなぁ。


 スマホを伏せると、布団に顔を埋めた。

 そのまま、いつの間にか眠りに落ちる。


 ――その夜、私は夢を見た。


 ここどこだろう?

 眼の前には高い煙突が建っていて煙がモクモク出ている。


 視線を下に向けると大きな蛇がいた。


 神楽先輩と私。遠くで鬼頭さんが倒れていて、その近くにブッチくんの姿もある。


 うーん、私たち蛇と戦ってるのかな?

 それに私の手、なんで光ってるんだろう?


 なんか変な夢……。


 ――ただ、その夢はものすごく鮮明で、まるでその場を実際に覗いているみたいだった。

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