12 オーパーツってなに?
――1975年。某、水中遺跡調査隊。
「船長、本当にいいんですかい?」
「はん、いいんだよ! あの野郎、安い賃金でこき使いやがって……!」
船長と呼ばれた男の手には“白銀色のキューブ”が握られていた。
「しっかし、何ですかねこれ。あんな古ぼけた遺跡にあったのに、傷一つ付いちゃいないとか」
「ははは、こりゃあ高く売れるぞ!」
安い賃金を嘆いていた男たちの顔に、強欲な笑みが浮かぶ。
――ゴゴゴゴォォォォ。
「うお、なんだ今のは!?」
船体が突如、海底から弾き飛ばされるように揺さぶられた。
船底が悲鳴を上げ、次の瞬間――。
船は海面に叩きつけられ、荒れ狂う水柱に飲み込まれてしまう。
隆起した海底が、周囲の海流を巻き込み破滅的な渦を生み出していた。
白銀のキューブは、甲板からこぼれ落ちるように海へと沈んでいく。
その表面が、淡く金色に光るが――それを目にした者はもはや存在しなかった。
◇◆◇
「神楽先輩! 与那国島の海底遺跡から発見された石板ですって!」
隣でまくし立てるのは、もちろん藤宮だ。声が大きすぎて、周りの客がチラチラ見ている。
今、俺たちは“大・世界の不思議展”なるイベントに来ている。
……言っておくが、デートじゃない。ROOTSの仕事でだ。
博物館には家族連れも多く、実際に展示物に触れられるコーナーでは子どもたちのはしゃぐ声も聞こえ、結構な賑わいだった。
今回の目的は、この展覧会に最近発見されたというオーパーツが展示されるらしく、それが危険な物ではないかを確かめるために来ている。
オーパーツ――正式には “Out Of Place Artifacts”。直訳すれば「場違いな遺物」。
要は、考古学的にその時代や場所には存在するはずのない“あり得ない物品”のことだ。
藤宮に言わせると、「古代文明の超技術の証拠! 宇宙人の関与の痕跡!」――だそうだが。
まあ、そういう話にワクワクするのは分からんでもないけどな……。
今回の調査対象は、昔に沈没した遺跡調査隊の船を調査中に、偶然見つかったという“白銀のキューブ”と呼ばれるものだ。
そして、この遺物には噂が一つ。
――“触れた者をショック死させる呪いがかかっている”という。
なんだよその物騒な噂は……。
オカルトマニアじゃない俺でも、さすがに腰が引ける内容だ。
「お待たせしました」
そこへ、落ち着いた雰囲気の丸眼鏡の男性が声をかけてきた。
「当館の館長をしております、遠藤と申します」
「先日お電話した神楽です。それと……」
藤宮に目を向けると。
「きゃー! これなんて黄金シャトルですよ! 写真でしか見たことなかったのに本物が……!」
藤宮は夢中で展示ケースにかじりついていた。
「……」
「ははは、古代遺物がお好きなんですね」
遠藤館長は藤宮を見ながら苦笑を浮かべる。
俺は慌てて藤宮を呼び寄せた。
「……すみません。藤宮といいます」
少しバツが悪そうな顔をしているが――反省の色は見えない。
「それで――今回は展示物の調査にいらっしゃったとか?」
「はい。今回展示されている“キューブ型の遺物”について、安全性に問題がないか調査に来ました」
俺の返答に、館長は少し困ったような顔をする。
「なるほど……やはり、あの“噂”ですか」
「ええ。微量の放電が確認されていると聞きましたが」
「確かに。ですがそのあたりは専門家に依頼し、すでに“問題なし”との結果が出ています」
「――ただ、実際に死者が出ていますよね?」
館長の笑みが一瞬だけ固まる。
「……確かに、あれは不幸な事故でした。しかし、原因は“ピースメーカー”の故障ですよ」
館長は一拍置き、わずかに目を逸らした。
「ですが――せっかくお越しいただいたのです。閉場後でよろしければ、ご自由に調査なさってください。それで“安全”が確認できれば、当館としても安心して展示を続けられますので」
柔らかな笑みを浮かべながらも、どこか探るような視線。
本当に安全だと信じているのか――それとも、何かを隠しているのか。
「ありがとうございます」
俺たちは礼を言って、いったん博物館を後にした。
◇◆◇
――そして夜。
俺たちは博物館の閉場を待って再び訪れた。
博物館の職員に案内されて館内を歩く。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、展示室の奥には“例のキューブ”が静かに鎮座していた。
職員に展示ケースを開けてもらい、観察を始める。
色は名前の通り白銀。表面は完全な鏡面で、触れれば切れてしまいそうな鋭さを放っていた。
「すごく綺麗ですけど材質は何なんですか?」
「調査では……鉄とのことです」
――本当か?
鉄が何千年も錆びずに、それも無傷なんて事があり得るのか?
藤宮も興味深そうにキューブを見ているが、珍しくはしゃぐこともなく大人しい。
「では、少し装置で調べさせていただきますね」
そう言って、俺はROOTSから渡された検査装置をバッグから取り出した。
スマホに似た端末をキューブにかざすと、画面にびっしりと数値や波形が浮かび上がるが、正直俺にはさっぱりだ。
データは自動でROOTSに送られ、専門家がリアルタイムで解析しているらしい。
しばらく、調査を続けていると不意に藤宮が呟いた。
『……なんで、怒ってるの?』
藤宮の声に振り返ると、虚ろな目で、ぼんやりとキューブを見つめていた。
「おい、藤宮?」
肩を掴み揺すると、ハッと我に返ったような表情でこちらを振り向く。
「え……? どうしたんですか、先輩」
どうしたって、今……。
だが藤宮は「ただ見ていただけ」と首をかしげるばかりだ。
ROOTSへ確認をとると「微弱な帯電反応はあるが、それ以外異常なし」との返答。
気にはなるけど、データも異常なし、藤宮もあれ以降は普通に調査を行っている。
あとで、一応ROOTSで調べてもらおうと思いつつ調査を続行する。
結論を言えば――オーパーツである可能性は高い。しかし現時点では内包するエネルギー量からみて危険性は低いという結果だった。
ただし、展覧会イベント終了後にROOTS本部で回収・精査することになった。
一通りの調査を終えて博物館を後にする。
夜風を浴びながら、俺はふと振り返る。
真っ暗な博物館。その窓の奥で、ほのかな黄金の光が見えた気がした。
……気のせいか?
目を凝らすが、それ以上光は現れなかった。




