11 ありがとうは流星で
巨腕がうねり、赤黒い粒子が舞い散る。
その攻撃を瞬間移動で避けるが、風圧だけで吹き飛ばされそうになる。
さらに、続けて反対の拳が迫る。
まるで眼の前に巨大なダンプカーが迫ってくるかのような迫力。
「うっわ、あぶな!」
叫びながら、ぎりぎりでかわしたかと思えば、背後の山肌が轟音とともにえぐり取られた。
その非常識な光景を見て背筋が凍りつく。
「あんなの一発でもまともに食らったらお終いだぞ!」
それでも隙をついて念動で反撃しようとするが、俺の攻撃はオニの体を覆う赤黒いモヤのようなものに弾かれる。
「じゃあ、これならどうだ!」
念動で大きな岩を浮かべ、投げつける。
しかしオニはそれを避ける様子もなく、その分厚い筋肉によって弾き返されてしまう。
しかし、そんな俺の攻撃にいらついたのか、オニが大きく咆哮する。
そして、急速に周りの大気を吸い込み始めた。
オニの体内にエネルギーが蓄積されていくのを感じる。
その圧倒的なパワーに体中の毛がピリピリと逆立つ。
「おいおい、それってお決まりのやつじゃないよな?」
瞬間。
――オニの口が十字に光った。
一瞬の静寂の後、黒い光線が赤い粒子を内包し甲高い音とともに放たれる。
「やっぱりかぁぁ!」
俺は予想が的中したことに絶望しながら、とっさに上方へ避けようとするが、光線は俺を追って方向を変える。
「やばい、間に合わない!」
力任せに念動で光線の進路を曲げようとするが、押し潰されそうな重みがのしかかる。
頭が燃えるように痛い。
念動を全力で使い続けた影響が出始めている。
「くそっ、重い!」
これはさすがに無理かも、そう思ったとき――隣りから声がした。
『ほれ、もう少しじゃ』
藤宮――いや、“ヒメ”の祈りが白い光となって俺の周囲を包み、重圧がフッと消える。
それに合わせて、さらに力を込る。
力が拮抗し、徐々に光線を押し返し始める。
そして、そのまま上空に弾き返す。
上空に放たれた光線が空へ消えていくと、赤い粒子がキラキラと舞い落ちる。
普段なら「綺麗だな」なんて感想も出るだろうが、今はそんな余裕はない。
『……そろそろ、頃合いじゃな』
ヒメが俺から離れ両手を掲げると、夜空に亀裂が入る。
そして、そこから金色の鎖のような光が舞い降り、オニの四肢を絡め取った。
――その光景は、まさに天に囚われた巨人。
(うっわ、神業って感じだな!)
内心でそんな事を思いつつ、俺は次の段階に入る。
動きを封じられたオニは、なおも俺を捕まえようと腕を前に出そうともがくが、すぐに金色の鎖に絡め取られる。
俺はオニの懐に入り、精神を集中する。
地霊を引き剥がす方法は、理屈じゃなく感覚でわかった。
オニの体内に渦巻く、赤い粒子。
その最も濃い部分に集中し狙いを定める。
俺の狙いに気づいたのか、赤い粒子が暴れまわる。
さらに限界まで力をためていく。
「もっとだ、もっと!」
しだいに体の感覚が薄れ、意識が世界に溶け込んでしまいそうになる。
『神楽先輩っ!』
藤宮の声が聞こえた気がした。
「くっ、そ、がぁぁぁぁぁ!!」
俺は意識を必死で繋ぎ止め、奥歯を噛み締める。
――そして溜め込んだ力を一気に解き放った。
渦巻く赤い粒子が悲鳴のようにうねり、抵抗してくる。
「離れろぉぉぉ!!」
『ドンッ!』
と衝撃が走り、赤黒い粒子の塊がオニの体から引き剥がされる。
それは悲鳴のような音を立てて一度脈打ち、やがて四散し暗闇に溶けていった。
オニの動きが止まり、いつの間にか角も消え、俺に掴みかかろうとしていた腕が力なく垂れ下がる。
次の瞬間、オニの目から光が消え巨体が轟音とともに崩れ落ちた。
「ふぅ、何とかなったな……」
俺は崩れ落ちたオニの前に立つ、ヒメの元へと近づく。
『坊よ、長らく待たせてしもうたな』
ヒメはそう言ってダイダラの骸に手をかざす。
すると、骸から光が溢れ出し二メートル程の人を形作る。
同時に藤宮からも光が溢れ、女性を形作った。
俺は、力の抜けた藤宮の体を支える。
光り輝く女性はダイダラの頭をそっと撫でる。
ダイダラの表情はわからないが、嬉しそうにしているのだろうと感じた。
まるで母親が子供をあやしている、そんな光景だ。
そして、ヒメがこちらを振り向く。
『世話になった。また会おうぞ』
――そう言い残して、光が絡み合い空に舞い上がっていった。
ったく。あんたらのまたって、いつのことだよ……。
そんな事を思い空を見上げる。
「先輩……」
「目が覚めたか」
そう言って藤宮の頭をそっと撫でた。
「もう、子どもじゃないんですよ」
藤宮は文句を言うが、大人しく撫でられている。
夜空には無数の星が流れていた。
まるで――ヒメから俺たちへの餞別かのように。
◇◆◇
あの後、ダイダラの骸は神主の手によって再度封印された。
駆けつけた鬼頭さんたちROOTSの隊員に事情を話し、後の処理は任せてきた。
鬼頭さんには「無茶をするなと」怒られたが、「よくやったな」と褒められた。
翌朝、礫島で杉田が気を失った状態で見つかったが、話によるとグランピングで火球を見てからの記憶が無いらしい。
さらに驚くことに、神社を訪れた鬼頭さんによると、古びた鳥居と苔むした参道が残されているだけだったと聞かされた。
そして、ブッチだが……俺たちが忘れてグランピング施設に帰ってしまった事を、ぐちぐちと文句を垂れていた。
(……お前が勝手についてきただけだろ)
心の中ではそう思ったが、今回はブッチの情報にも助けられたし。素直に謝っておいた。
◇◆◇
「よし、とりあえずこれで任務完了だな。帰ったら、打ち上げでも行くか!」
「いいですね!」
俺の提案に藤宮も乗り気だ。
「じゃあ寿司にしようぜ!」
なぜかブッチが提案してくる。
まあ、今回はブッチにも世話になったしいいか。
「じゃあ、お前は“かっぱ巻きな”」
「クワッ! カッパ舐めてんのか! トロだ、大トロ! あとエンガワな!」
「カッパは普通きゅうりだろうが!」
――こうして、俺と藤宮の初任務は幕を閉じた。
[調査報告書・抜粋]
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Case 02《Tears of Meteor》
|結 論
・本件における“ダイダラ”は、火球落下の衝撃により封印が緩んだ結果、地霊と同調し〈オニ〉へ変質したものと推定される。
・市杵嶋姫を名乗る存在の介入を確認。真偽は不明だが、神と呼ばれる存在である可能性が高い。
・被験者 S(杉田)は発見時、意識混濁状態。火球観測以降の記憶を喪失しており、地霊との接触が疑われる。
・現場に存在した角避比古神社は、後日調査で鳥居を残して消失。土地神との関与が推定されるが、詳細は不明。
以上をもって、本事案の一次調査を終了する。
記録者:ROOTS 捜査員 H.K/M.F
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作品名:世界の見せる真実が、俺の想像を超えていく
カテゴリ:現代ファンタジー
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