第4話 初めての戦闘
試験官から聞いた話では、スライムを倒してブザーが鳴ると合格の合図らしい。
そんな事を思い出しながらレオンは廊下の先へと出た。
視界に広がるのは部屋の中ではなく、草木が生い茂った広場だった。
「レオン・ラインハート。 戦闘開始」
広場に踏み入ると突然、そんな声が響いた。
試験官の声だ。
試験が始まったのを知り、レオンは広場の隅々に視線を送る。
視界に入るのは草木や、花。
そして、ほんの少しの木が生えているだけだった。
隠れる場所はあまりなさそうだな・・・と考えながらゆっくりと歩いた。
見渡しのいい広場。
警戒しながら歩いていたレオンだが、『それ』を視界に納めると赤いコートの隙間から、腰に差していた剣を抜き放ち、正面に構える。
なぜなら、スライムがすでに目の前に現れたからだ。
剣を持つ手が少し震え、緊張からか息も上がる。
心臓の音が高鳴り始め、耳にうるさいぐらいだった。
手汗のせいで柄を握る手に、まるで力が入らない気がした。
緊張が、体を支配する。
「レオンくん! 落ち着いて!! 深呼吸!!」
ふとルーマさんの声が聞こえた。
後ろを振り向くと、廊下から小さな背で一生懸命飛び跳ねて声を上げているルーマさんの姿があった。
その必死な姿を見ると、レオンは少し安心したように微笑み、「ありがとう、ルーマさん」と呟いた。
再び、スライムへと視線を戻すが、先ほどまでとは違い、レオンは落ち着いていた。
深く息を吸い、そして吐く。
少しづつ、だんだんと鼓動も落ち着いていく。
そして、スライムをよく観察した。
魔族スライムの体は、液体でできおり、常に流動している。
半透明の体で、体当たりをしたり、身体に巻き付き装備品を溶かしたりしてくるのだ。
その半透明の体の中に、核が見えた。
『スライムの体は液体で出来ているから剣や、打撲などの攻撃はあまり効かないんだよ。 だけど、体のどこかに核があってそれを切ったり潰したりすると簡単に倒すことができるんだ。 あっ! いっけなぁーい!? これは教えちゃいけないんだった! ん~、みんなには内緒だよ?』
そう言って片目をつぶるルーマさんの言葉が脳裏に蘇り、レオンの灰色の瞳は核を見据えた。
そして、フッと短く息を吐くと、瞬時に動いた。
地面を蹴ると同時に剣を高く振り上げ、鋭く振り下ろす。
核をめがけて真っすぐに。
しかし、核に当たる直前、スライムの体は左右に分かれる様に広がり、すばやく剣を包み込むために収縮する。
剣を溶かすつもりだ。
意図を悟ったレオンは、剣をすぐに引いて体勢を立て直すために後ろに下がろうとする、しかし、予想外の攻撃がきた。
強い衝撃が背中に当たり、
「ぐぁ!?」
思わずうめき声を上げた。
前のめりに倒れそうになるのを必死にこらえる。
後ろにいる敵を目の端にとらえて油断していた自分を叱咤する。
スライムは一体ではない。 もう一体いたのだ。
敵が何体いるのか分からないのに、一体だけだと決めつけてしまっていた。
体当たりされ、体勢を崩したレオンに二体のスライムが同時に飛びかかってくる。
躱しきれない!
そう思ったレオンは瞬時に足の軸を反らすだけで体を安定させ、回し蹴りの要領で足を突き上げる。 後ろにいたスライムの核を足のかかとが捉えた。
そのままの勢いで核が体外へと弾き飛ばされ、天高く舞い上がる。
核を失ったスライムの体は魔力を安定させることが出来ず、黒い霧となって霧散した。
残る一体が飛びかかりながら体から何本もの触手を生やして攻撃してくるが、レオンの灰色の瞳はその攻撃に目を反らすことなく見据える。
レオンは低く低く身を沈めて躱したが触手の何本かは赤い髪を掠めていった。
しかし、触手の攻撃はまだ終わらない。
だが、レオンは触手の攻撃をわざと生身の部分で受け、その攻撃の反動を利用して体を回転させると、剣を下から上へと振り上げた。
レオンの剣はスライムの核を見事に斬り裂き、さらに、さきほど蹴り上げて落ちてきた核も同時に斬り裂いた。
二体のスライムは核を失い、黒い霧となって霧散していく。
そして、その場に綺麗な魔石が音を立てて転がった。
魔族は、魔石に魔力をまとわせて肉体を形成している。
肉体が滅びると魔力がまるで黒い霧のように霧散して元の魔石へと姿が戻るのだ。
広場にブザーの音色が鳴り響く。
その音を聞きながらレオンは落ちた魔石に視線を落とし、ふぅっと安堵の息をこぼした。
「レオン・ラインハート 試験合格!」
試験官の声を聞きながら、レオンは廊下に振り向くとルーマが満面の笑顔でレオンを向かい入れてくれた。
「やったね! レオンくん!! 本当におめでとう!」
まるで自分のことのように喜んでいるルーマさんを見て、レオンはくすっと笑う。
ああ、本当にいい人なんだな。
と、素直に思った。
広場のぎりぎりにまで近づきルーマは手を何度も振っている。
レオンはそんなルーマさんに近づき、言った。
「合格しました。 ルーマさん」
「うんうん! 合格おめでとう! レオンくん!」
お互い見つめ合い、喜びを分かち合う。
笑顔のふたり。
そして、油断した。
広場の草陰に隠れていたスライムが突如飛び上がりルーマの身体に巻き付いたのだ。
「え?」
「へ?」
突然のことで、なにが起きたのか分からなかった。
だけど、みるみるルーマの衣服は溶かされていく。
「へ? へ?」
上着が溶け、下着が溶け・・・
レオンの目の前に、裸のルーマが・・・
「る、るる、ルーマさん! 胸が! ち、ちく・・・」
「見ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
スライムの攻撃にも耐えたレオンの身体が宙に浮くほどのビンタを貰い。
この試験は幕を閉じたのだった。
◇◇◇◇
ひりひりと痛む頬を押さえながら、レオンは正座をしていた。
試験会場から出た渡り廊下で叱られているのだ。
目の前に新しい制服に着替えたルーマが茶色の瞳でレオンを見下ろしている。
可愛い声がとても怒りに満ちていた。
「見たよね?」
「いいえ。 何も」
「ん~~ん。 絶対見たよね?」
「・・・見てません」
眉根を寄せて、むむむっと怒った顔になると、
「うそうそうそ!! 絶対見てるもん!!」
「うわぁぁぁぁ~~~!?」
涙目になりながらレオンの頭を鷲掴みにすると左右に揺らした。
レオンが目を回しているのを見てルーマはぼそりと呟いた。
うぅ~誰にも見られたことないのに・・・・責任とってよね・・・
「え? なにか言いました?」
「ふーんだ。 レオンくんなんかずっと正座していたらいいんだよ」
「そんなぁ~・・・」
二人がそんなやり取りをしていると、ふとレオンの脳裏に何か引っかかるものを感じた。
あれ? なにか忘れているような・・・・
「ちょっと! レオンくん聞いてるの!?」
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
ルーマの声と重なるように野太い叫び声が廊下に響き渡った。
とっさに視線を向けると、裸になったガーロックが手で股間を隠しながら走っていた。 しかも、こっちに向かって。
そして、過ぎ去ろうとした瞬間、立ち止まり。
固まったように振り向くと、
「・・・す」
「す?」
ガーロックの言葉にレオンがオウム返しをすると言い淀みながらガーロックの顔が赤みを増していく。
「すみませんでしたぁぁぁぁぁ!! うああああぁぁぁぁぁ!!」
謝りながらガーロックは泣いて走り去ってしまった。
そんな後ろ姿を見て、ルーマとレオンはポカーンと一瞬かたまり、
そして、理解した。
ガーロックはスライムに装備を溶かされたのだ。
そっか。 勝負してたんだっけ・・・
忘れていた勝負のことを思い出し、
「はははっ。 そういえば勝負してたんでしたね・・・胸のことですっかり忘れてました。 あはははっ・・・はっ!?」
レオンは赤い髪を搔きながら、つい言葉を滑らせてしまった。
そして、汗が頬を伝う。
目の前に・・・鬼が・・・いるから・・・
「や・・・やっぱり見たのねぇぇぇぇぇ!!!」
「ご、ごめんなさぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!!!」
再びレオンは怒られるのであった。
つづく
読んでくれてありがとうございます。




