第3話 新人冒険者試験
「もう!! なんであんな勝負うけたのよ!?」
冒険者ギルドにとても可愛い声が響いた。
声の主は、ルーマ・コルベール。
冒険者ギルドの受付嬢をしている彼女だが、今はとても怒っていた。
少し濃いめの茶色の髪に、眉根を寄せてプンプンと怒りながら可愛いらしい瞳が赤髪の少年レオン・ラインハートを見ていた。
はははっ、っと苦笑いを浮かべながらレオンはルーマに頭を下げる。
「ご、ごめんなさい。 でも、許せないことがあって・・・」
「許せないこと?」
うん、とレオンは頷き、続ける。
「ガーロックが・・・ルーマさんを突き飛ばしたのを見て、ついカッとなってしまって・・・」
「わたしを・・・突き飛ばしたから?」
「はい。 ルーマさんに酷いことをしたから。 許せなくて」
真っすぐな瞳でそんな事を言われ、ルーマは一瞬何を言われたのか理解できなかった。
だけど、だんだん顔を赤らめていく。
「な、ななな、なな!! えっえっええええぇぇぇぇ!?」
上ずった声を上げながらルーマは混乱した。
ど、どういうこと!? え? これって何? 好き? 私のこと好きってことぉ!?
でも、でもでもレオンくんとは、今あったばっかりだし!
それに歳だってレオンくんの方がだいぶ若く見えるし?
それにそれにまだお互いのことあんまり分かってないよぉぉぉ!?
そんなルーマをよそにレオンが言葉を切り出す。
「レリックは・・・」
「れ、れれれ、レリック?」
「はい。 レリックは物語の中で、いつも誰かを守るために剣を振るい。 困っている人がいたら『誰』であっても見捨てなかった。 だから僕も・・・・『誰』かを守るために剣を振るおうと思っているんです」
レオンがとても真剣な眼差しで前を見ていたので、ルーマは少しドキッとしてしまった。
な、なーんだ。 そっか。 そうだよね。
と焦っていた心を落ち着かせて、ルーマも改めてレオンを見つめる。
「じゃあ、勝たなきゃね! 勇者レリックは誰にも負けなかったんだから!」
「はい!」
それじゃあ、とルーマは切り出し、勝負の舞台である試験について説明を始めた。
「えっと・・・そうだ。 さっきは話の途中だったからまだ説明してなかったよね」
そう言いながら、ルーマは受付カウンターの向かい側に移動して、席に着いた。
同じようにレオンも椅子に座る。
「では、試験の説明を始めます。 ここ冒険者ギルドでは、新人冒険者たちが冒険に出て、生きて帰れる力があるのかを見定めるために、ある試験を催しているの」
「試験ですか・・・?」
「そう。 魔族との戦闘だよ」
魔族。
ルーマはそう言った。
冒険者はただ世界をめぐる冒険だけではなく、クエストと呼ばれる依頼を受けて、探索、地域調査、魔族討伐など、多岐にわたるクエストを受けて生計を立てている。 もちろん職を持ち趣味で冒険に出かける人もいるが、冒険者のほとんどが前者である。
そして、その冒険の途中で命を落とす者もいる。
死因も様々だ。
だが、やはりというべきか、そのほとんどが魔族との戦闘で殺されてしまう人が多かった。
だから、冒険者ギルドは試験とうたって力のないものを振るいに落とすのだ。
無駄に命を落とさぬように。
ルーマから説明を受けて、レオンは唾をのんだ。
自分もその冒険者を目指しているのだから。
魔族との戦闘は避けられない。
「大丈夫。 試験、がんばりますね」
「うん。 がんばってね。 レオンくん」
そう自分を鼓舞するようにレオンは言い切った。
そんなレオンをルーマは優しい声で応援するのだった。
◇◇◇◇
ギルドの廊下を進みながらルーマが説明を続けていた。
「ここをまっすぐ行くと試験会場があるの。 そこで最下級魔族スライムと戦うことになっているわ」
「スライムですか?」
「そう。 本でもよく出てくる魔族だから知ってるかな?」
そう言い、ルーマはレオンに一度視線を送る。
さらにこう続けた。
魔族の中でもスライムはとても殺傷力が低く、最悪死ぬことはない。
しかし、スライムのある特性が試験にうってつけだということで採用されたらしい。 その特性というのが、装備だけを溶かしてしまうのだ。
冒険者を目指すのはいいのだが、憧れだけでここに来る人が多い。
実力もないのに装備だけいい物を着こなす者が後を絶たないのだ。
「憧れだけではダメなのだよ? レオンくん」
「はい。 勝って合格します」
しばらく歩くと、広い部屋にでた。
出入口は三つ。 一つはいま入ってきた廊下への道。
そして、残った二つも別れるように違う廊下へと続く形になっていた。
それぞれの廊下の前に試験官が立っていた。
そして、その前にはいまから試験を受ける志願者たち。
当然、その中にガーロックもいた。
ルーマさんに聞いた話だと、ガーロックはこのクロックレイクでもかなり有名な金持ちの息子だという。
素行も悪く、わがまま放題に育ったのだが、恵まれた体格のおかげで冒険者を目指し始め、期待のルーキーと持ち上げられているらしい。
ガーロックはレオンを見つけると嫌味な笑みを浮かべた。
しかし、レオンは相手にせず試験に集中する。
部屋の中に10人ほどいた志願者たちは、順番に呼ばれ、廊下へと消えていく。
二人ずつ、順番に。 一人、また一人と。
そして、ついにレオンとガーロックだけが残る形となった。
両者が互いに向かい合い。 そして、それぞれの道へと向き直る。
「勝つのは、俺だ」
「勝つのは、僕だ」
二人は同時に言葉を発し、歩き出したのだった。
つづく




