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かつての魔王と、未来の勇者  作者: いぬ課長


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第2話 冒険者ギルド『湖の時計塔』

 赤髪の少年レオン・ラインハートは、灰色の瞳を大きく見開き、その大きな門を眺めていた。

 冒険者が集まる町、このクロックレイクには大きな湖がある。

 名を、妖精の湖。

 どうやらこの湖には昔、妖精たちが住んでいて、よくここで遊んでいたという。 

 今ではもうほとんど見かけなくなってしまったが・・・

 そんな湖の真ん中にとても大きな時計塔が建っていた。

 妖精の湖には十字に横切るように橋がかけられており、その中心、橋が交差する場所に冒険者ギルド『湖の時計塔』がそびえ建っていた。

 ここが冒険者ギルド。


「うわぁ~! すごいな。 話には聞いていたけど、実際に見てみると想像していたのと全然違うや」


 感動に胸を打たれながら、レオンは辺りを見た。

 橋の上を、鎧やローブを着こなした『冒険者』たちが行きかっている。 

 ついにレオンは冒険者ギルドにたどり着いたのだ。

 期待に胸を膨らませて大きな門をくぐる。

 すると、レオンの視界に入ってきたのは、たくさんの冒険者たちだった。

 活気に満ちた人々の声。 

 冒険者同士がクエストの情報や、交渉、新たなモンスターの目撃情報など、尽きることのない会話がそこかしこで交わされている。

 圧倒されながら、レオンは部屋の中を見回した。

 天井には照明があり適切な光源が部屋の中を照らしてくれている。

 門の正面に受付カウンター。

 カウンターの中にはブラウンを基調としたチェック柄のベストと黒いタイトスカートといった服装を着た係員が何人もいて冒険者のクエスト案内や、情報伝達など慌ただしく働いている。

 正面から左に視線を移すと、簡易的な食堂。

 いくつもの丸いテーブルが規則正しく並んでいて、椅子も常備されている。

 たぶん50人ぐらいは入れるだろうか? なかなか大きな食堂だ。

 すでに何人かの冒険者が、テーブルを囲いながら食事を楽しんでいた。

 そして、右に視線を移すと・・・

 目の前に可愛らしい女性がレオンを見つめていた。

 メガネを掛けているが愛らしい茶色の瞳が奥から覗いている。

 肩で切りそろえられた髪の色は、瞳と同じ綺麗な茶色。 いや、少し髪の方が濃いだろうか。 16歳になるレオンは年相応の背丈なのだが、そのレオンより頭一つ小さな女性はブラウンのチェックのベストというギルドの制服を着ているからすぐにギルド関係者だということが分かった。


「ねぇ、君。 初めて見る顔だよね・・・もしかして、冒険者ギルドに来るのは初めて?」


 そう言って目の前の女性が近寄ってきた。

 たった一歩で、すごく距離を詰めてくる。

 いや、むしろ当たっている。

 胸が!!

 大きな胸が!!!

 自覚がないのかすごく大きな胸がレオンのお腹に当たっていた。


「わ、とっと、えっと・・・」


 いきなりの行動にレオンがとまどいっていると、お腹に当たっている胸がさらに押し付けられる。


「わぁ、綺麗な赤い髪だねぇ! 赤い髪って初めて見たわ! えっと・・・服装からして戦士? ん~でも、そんなに力があるようには見えな・・・あっ! でも、意外といい体してるんだ!」


 目の前の女性がレオンの髪や、体のあちこちを触り独り言をつぶやく。

 すると小さな背を一生懸命に背伸びすると、可愛らしい顔がレオンの顔にさらに近づく。

 それでもまだ背は小さかった。

 しかし、その茶色の瞳は喜びで輝き、レオンの手を問答無用で握ると受付カウンターの前に連れていった。

 そして、優しく笑顔を見せると。


「初めまして、私の名前はルーマ。 ルーマ・コルベールよ。 ここで受付嬢をしているの。 いきなり引っ張ってきちゃってごめんね」


 ルーマという女性は言いながら、手を合わせて謝ってきた。

 驚いていたレオンだったが、その可愛らしい受付嬢を見ているとなんだかおかしくなり笑顔でルーマに話しかける。


「ははっ、いきなりだったから少し驚きましたよ。 僕の名前は、レオン・ラインハートです。 こちらこそ、よろしくお願いします。 ルーマさん」


 レオンは挨拶を終えると、改めてルーマを見た。

 歳は21ぐらいだろうか?

 整った顔立ちの背の小さなルーマが同じようにレオンを見つめている。

 愛らしい笑顔でレオンを見ているので、素直にかわいいなと思った。

 するとルーマの唇が動く。


「へぇ、レオンくんって言うんだ。 いい名前だね!! その格好からして・・・うん、やっぱり冒険者になりたくてここに来たのかな?」


 さりげなくレオンの装備に目をやってルーマが質問をしてきた。

 その問いかけに一度頷き、


「はい。 冒険者になりたくてテテラ村からやってきました。 憧れのレリックのような冒険者を目指して!!」


 言いながらレオンは目を輝かせた。

 だけど、その話を聞くとルーマは、うーんっと顔をしかめる。


「レリック? それって昔話にでてくる勇者の名前だよね?」

「はい! レリックは勇者なんですけど、最初は冒険者で数々の功績を称えられて勇者と呼ばれるようになったんです!!」


 レオンが興奮して前のめりになったので、ルーマはくすっと笑う。


「ふふ。 知っているわよ。 わたしもレリックの話、大好きだもん。 そっかぁ、レオンくんはレリックに憧れて冒険に・・・・」

「あぁん!? レリックだぁ!? おいおい、お前! そんな子供が読むような昔話を真に受けて冒険者になるってのかよ!! 聞いてあきれるぜ! がはは!!!」


 品のない大きな声がルーマの声を遮った。

 レオンは後ろを振り返ると自分よりふたまわりも体の大きな男が馬鹿にした笑顔を浮かべてレオンを見下ろしていた。

 にやにやと不快な笑みを浮かべ、高そうな装備に身を固めていかにも戦士という風格の男がそこに立っている。


「ちょっと、ガーロックさん! 失礼ですよ!!」

「なにが失礼なもんか! それにテテラ村だぁ!? あんなド田舎から来たってのかよ。 とんだ笑い話だぜ!!」


 ルーマの制止に聞く耳も持たず、ガーロックと呼ばれた大男は手を広げ、より大きな動きで大げさに笑い声をあげた。

 ゴテゴテに装飾された鎧のせいか動くたびに耳障りな音がする。

 レオンは立ち上がり、何も言わず男を鋭く見据える。

 その視線に気づきガーロックもまた睨み返してきた。

 お互いの額がつきそうなほど近寄り視線を交差させると、ルーマさんが二人の間に割って入る。


「ちょ! ちょっと待ちなさい! ここは冒険者ギルドですよ。 ここでの争いごとはご法度です」

「あ~? うるせぇ女だな。 けっ。 ならこういうのはどうだ? 俺は今から試験だけどよ。 お前も新人ならいまから受けるんだろ。 どっちが試験を早く終わらせるのか勝負ってのはよ」


 前に立ったルーマを突き飛ばしガーロックが再び詰め寄ってくる。

 倒れそうになったルーマをレオンは瞬時に手を伸ばして支えた。

 そして、どこまでも失礼な態度のガーロックにレオンの灰色の瞳は決意の光を宿し、何も言わず頷くだけで返事を返した。

 こんな奴に負けたくない。

 そして、何よりも我慢できないことが出来た。


「はっ! こんなひょろひょろのガキのくせに勝負を受けやがった。 いい度胸してるじゃねぇか。 お前が負けたら、これからずっと俺の荷物持ちをしてもらうから覚悟しろよ!!」

「ああ、わかった。 だったら俺が勝ったら・・・」

「お前が勝てるわけねぇだろうがぁぁぁぁ!!!!」


 激しい怒鳴り声と共にガーロックが近くにあった椅子を蹴とばす。

 激しく蹴り飛ばされた椅子はどこまでも音を立てて転がっていく。

 だが、レオンはガーロックから視線を外さずに言葉を続ける。


「俺が勝ったら、ルーマさんに謝れ」

「あ?」


 レオンの思いもしない言葉に、ガーロックはあっけにとられる。

 そして、突然自分の名前が出たことに驚いたルーマは、レオンを見つめた。

 我慢できなかったこと、それはルーマさんに対する失礼な態度と、突き飛ばした事だった。

 しばらくの沈黙。

 外野にいた冒険者たちがざわつき始めたころ、ガーロックが口を開く。


「やっぱり辞めました。 なんてのは無しだぜ?」

「わかった」


 両者が強い視線でにらみ合う。

 ルーマはおろおろとレオンを見て慌てふためいてる。

 しかし、レオンの次の言葉に、その場にいた誰もがあっけにとられた。


「ところで、試験って・・・なんのこと?」

「・・・・あん?」


 一瞬の静寂の後、ガーロックが息も出来ないほど大笑いをした。


「がはははははは!!! まじかこいつ! こりゃ~もう勝ちはもらったようなもんだぜ!? がはっはは!! ひーぃぃぃっはっはっは。 試験のことは、そこにいる奴にでも教えてもらいな! じゃあ、先に試験会場に行って待ってるぜ」


 ガーロックはルーマを指さししながらその場を去っていった。

 しばらくは外野がうるさくざわめいていたが、すぐに興味をなくしたのか誰もいなくなっていく。


「レオンくん・・・・」


 心配そうに見つめるルーマと、レオンを残して・・・・


 つづく


読んでくれてありがとうございます。


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