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かつての魔王と、未来の勇者  作者: いぬ課長


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序章2 はじまりのロリ魔王

「うひゃぁぁぁ!!!?」


 イリスは、すっとんきょうな声を上げながら目の前にまで迫ってきていた『傷持ち』の牙を寸でのところでしゃがんで躱した。

 頭上でブラッディウルフの牙が上下に咬み合い、ガチンッと破壊的な音が響く。

 しかし、攻撃はそれだけでは終わらない。

 続けざまに左右に展開していた手下が爪を振り上げて迫ってきていた。


「あわ、あわわわわぁぁぁっ!!」


 イリスは這うようにして走り出す。

 こ、このままでは食べられてしまうぅぅ!!

 心の中で叫びながらイリスは慌てて逃げだした。

 走りながらも自分の右手を見つめる。


「な、なんでじゃ? なんで魔力が・・・ん? んんんん~?」


 イリスは自分の手に違和感を感じた。

 それは自分の知っている手ではなかった。

 白く、綺麗で、しなやかな肌。

 ん? 

 いやいや、うんうん。 それは元々そうであったか。

 ふふふ。 やはり我が腕は何度見ても美しいのぉ。


「って、ちがーーーう! そうではない! なんじゃ! この小さな手は!?」


 走りながらイリスは叫び、手をマジマジと見つめた。

 白く、綺麗で、しなやかな肌。

 ここまでは一緒だ。

 だが、すこしぷっくらとしていて、とても小さい。

 それはまるで小さな子供のような手だった。

 そんな自分の手を見つめながら走っていると、


「きゃふんっ! うぬぅ・・・今度はなんじゃ・・・」


 何かを踏んずけしてまったイリスは、かわいらしい悲鳴を上げて転んでしまった。

 その何かに目を向けると、それは自分のドレスの裾だった。

 でも、あきらかにおかしい。

 このドレスは身体のサイズに合うように作らせたものだ。

 袖はなく、体のラインが分かるマーメイドドレスで、胸には自分の瞳と同じ赤い、深紅の宝石が飾り付けられていた。

 そのドレスがなぜか明らかにサイズが合っていないのだ。


「なんじゃ? これは・・・なんでぶかぶかになっているんじゃ?」


 いや、ドレスがぶかぶかになっているのではない。

 腕が、足が、身体が小さくなっているのだ。

 イリスは自分の頬に触れる。ぷっくらとして柔らかい。

 胸を触る、ぺったんこになっている。

 おっと? これは元々か・・・


「って、うるさいわい!」


 そう言って、イリスが一人ツッコミすると、胸の宝石がドレスから外れて地面に転がった。  

 その深紅の宝石が眼に入ると、ふと、忘れていた昔の光景が蘇る。

 イリスの雪のように白い銀髪に手を当てて微笑む男性。

 しかし、イリスには特徴的な三本のアホ毛があり、それがとても恥ずかしかった。

 恥ずかしそうに自分の髪の毛を手で押さえるイリス。

 だけど、その男性は笑いながらこう言ってくれた。


「ぼくは、君のその髪も、瞳の色も、大好きだよ」


 男性は、イリスの手の中にそっと深紅の宝石を渡してくる。

 その宝石はイリスの瞳と同じ色をしていた。

 ありがとう。と顔を上げ男性の顔を見ようとして、

 しかし、その顔を思い出せなかった。


「グルルルルッ!」


 ブラッディウルフの唸り声が近づいてきた。

 イリスが走ってきた道をたどり、枝が折れる音が迫ってくる。

 ハッと我に返り、イリスは宝石を拾い上げると再び走り出す。

 ドレスの裾を胸の前にまで持ち上げ、よたよたとよろめきながらも思案する。

 分からないことだらけだが、はっきりと分かったこともある。

 一つ、どうやら直近の記憶が曖昧であること。

 二つ、魔力が全く使えなくなったこと。

 三つ、


「まさか、我が小さく・・・いや、幼くなっておる!?」


 思いもしない事態に、イリスは我慢できずに叫んでしまった。

 どこをどう見ても身体が小さい。

 ぶかぶかのドレスを持ち上げて、イリスは右へ左へと木々の間を走り抜ける。


「ふぬぅぅぅぅ!!」


 近づいてくるブラッディウルフの追跡を必死に躱しながら再び思案する。

 いったい、我に何があったんじゃ・・・?

 どうしてこうなった? なぜ我が幼くなっておる!?

 器用に木々の間を走り抜けながら自問するが、やっぱりわからない。

 そして、ついに、追いつかれてしまった。

 視界が明けたその先に、『傷持ち』が待ち構えていたのだ。

 イリスは走るのをやめて、立ち止まる。

 魔王となって、いや、生まれてこのかた疲れというものを感じたことすらなかった。

 しかし、いまは息が上がり、呼吸すら満足にできないほど疲れを感じていた。

 だが、疲れていてもなお、その赤い瞳はまっすぐに『傷持ち』を見据えている。

 赤い瞳の主の姿は、とても幼い。

 だけど誇り高く、幼さを感じさせぬ高貴さがそこにはあった。

 だけど・・・『傷持ち』の恐ろしいほどの雄たけびがイリスの高貴さを・・・


「グルルルルルゥゥゥゥ!(観念したかメシィィィィ)」

「きゃぁぁぁああああぁぁぁっっっ!」


 簡単に打ち消してしまった。

 またかわいらしい悲鳴を上げ、一目散に逃げだした。

 足がもつれて転びそうになりながらもイリスは無我夢中で走る。

 しかし。

 どう頑張ってもブラッディウルフの方が速い。

 さらに最悪なことに手下も追いついてきている。


「ううぅぅぅ。 やばいのぉやばいのぉ、やばい、のぉぉぉぉぉぉぉおおおお」


 言いながら、イリスはジャンプする。

 地表に顔をだした木の根っこを飛び越える為だ。

 そこを一瞬遅れて、追いついた手下の牙が空を切る。

 ひぃぃぃぃぃぃ!?

 悲鳴を飲み込みながら必死に走る。

 しかし、その時は唐突にやってきた。


「きゃふんっ」


 また可愛らしい声と共に転んだ。

 こんなに走り回ったことのないイリスはすでに体力の限界が来ていた。

 慌てて起き上がろうとするが、足ががくがくと震えて言うことを聞いてくれない。

 それでも必死に逃げようと尻を擦りながら逃走を試みるが、すぐに大木に背中をぶつけて逃げられなくなってしまった。


「う、うそじゃろ・・・」


 顔を蒼白にさせていると、『傷持ち』がゆっくりと獲物を値踏みするように現れた。

 すぐに手下も追いつき、その口からは大量のヨダレが零れ落ちている。

 両者の間に緊迫の時間が流れる。

 その時、イリスはバッと『傷持ち』の前に手を突き出して口火を切った。


「ま、まままままま待て! 待つのじゃ! こ、交渉をしようではないか!」


 イリスはブラッディウルフに文字通り交渉を持ち込んだ。

 しかも、とんでもない交渉を。

 すっっっっごく顔を引きつらせながら・・・・


 つづく。


寒くなってきましたね。 雪の一粒ずつに感謝の正拳突き!!

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