第12話 ポポロン丘の情景
「っと、う~ん。 じゃあ、僕のこともレオンって呼んでくれないかな? 魔王さま」
「・・・・レオン。 ふん。 分かったのじゃ」
そんなやり取りをしながら、目的の場所についた。
黄金草の群生地、ポポロン丘である。
視界いっぱいに広がる黄金草。
いまは風が凪いでいるので星明かりだけが辺りを照らしていた。
「レオン。 まさかここがそうか?」
「うん。 さぁ、食べようか」
優しく笑いかけて、レオンは腰を下ろした。
ルーマから貰ったお弁当を鞄から取り出そうとすると、お弁当からとっても美味しそうな香りがしてきた。 その香りだけでご飯が進みそうだ。
ルーマさん。 ありがとうございます。
レオンがそう感謝を込めていると、その横でイリスは少しふくれていた。
星の明かりだけで、ほぼほぼ真っ暗。
お腹を空かせてやってきた場所が、こんな何もない場所とは・・・
残念そうに視線を落とすと、ある物を見つけた。
「ぬぅ? これは・・・黄金草?」
その時、風が吹いた。
視界の端から、黄金草が波打つように煌めき立ち、風はそのままイリスの髪を揺らして過ぎさっていった。
イリスの赤い瞳が、黄色に染まるほどの黄金の輝きが景色を埋め尽くしている。
「すごいのじゃ!! すごいのじゃ!! 全くもって素晴らしいのじゃ!!」
イリスは黄金草の中をはしゃぎながら走った。
その様子をレオンは笑顔で見ながら言った。
「うん。 すごく綺麗だね。 さぁ、イリ・・魔王さま、ご飯を食べよう」
「おぉぉ! そうであった!! 食べるのじゃ!!」
言って、イリスはポンッとレオンの横に座り込むと、瞳を星のように輝かせてお弁当を見ていた。
お弁当の蓋を開けると、そこには色とりどりの食べ物が入っていた。
二人とも、顔を近づけて美味しそうなおにぎり、唐揚げ、タコさんウインナーを見る。
「うぉ! まぶしっ!?」
まるで黄金草よりも輝いて見えるお弁当にイリスは本当に眩しかったのか目をつむった。
「これはね。 ルーマさんって人が作ってくれたんだよ。 さっ、一緒に食べよう」
「ほほぅ。 では、そのルーマとやらに感謝せねばならんの」
そして、二人は同時におにぎりを頬張り、幸せな時間を過ごした。
少しの時間を食事に費やして、食べ終わると、イリスはおもむろに立ち上がった。
お尻についた砂を払うと、お腹をポンポンと叩いて横にいるレオンに対して口を開いた。
「さて、腹も満ちたしのぉ。 助けてくれたこと、感謝する。 それとルーマとやらにも感謝を伝えといてくれ」
「え? 伝えといてくれって・・・・」
「ここでお別れじゃ」
イリスはそう告げると、背を向けた。
その背にレオンは慌てて声をかけた。
「お別れって・・・どうして・・・・」
「異なことを言うやつじゃな。 先ほども言ったが、我は魔王であるぞ」
そこでイリスは一度言葉を切り、力を込めて言った。
「我は魔族じゃ」
真剣な眼差しで見つめ言葉を続ける。
「魔族と人間が一緒にいる道理はなかろう? ま、行く当てはないが・・・・どうにかなるじゃろ。 我は魔王であり、天才じゃからな」
「行く当てがないって、それに魔族?・・・・君、その魔族に襲われてたじゃないか」
「うぐ! 痛いところをつく奴じゃな」
レオンの真っ当な言葉に、イリスは少し睨む。
だが、そう言うレオンもうすうす気づいてはいた。
イリスは自分の事を魔王と言っていた。
そして、あんなとんでもない魔法も使えるのだ。
とてもじゃないが、普通の子供ではない。
でも、レオンはイリスを見つめた。
雪のように白い銀色の髪。 白い肌。
なぜかぶかぶかのドレスのようなものを着て、そのドレスが風に揺らいでいた。
そして気丈に見えるが、その腕が、微かに振るえている。
見た目は本当に、子供のようであった。
そんな子供が魔族に襲われていた。
泣いて、逃げていた。
その姿を思い出す。
そうだ。 あんなすごい魔法が使えるのに、なんで・・・・
なんで襲われているのに魔法を・・・・
レオンはその思考のままイリスに問いかけた。
「君は・・・本当は魔法が使えないんじゃないか? 本当は困っているんじゃないか?」
「・・・・」
その問いに、イリスは答えなかった。
レオンは、憧れであるレリックの事を思い出す。
レリックは、困っている人がいたら『誰』であっても見捨てなかった。
いや・・・・
そこでレオンは首を振った。
いまはレリックは関係ない。
僕は・・・・僕が、『誰』も見捨てなくないんだ。
それが、たとえ『魔族』であっても。
もう一度、イリスを見る。
すると、黙っていたイリスが口を開いた。
「レオン。 主はなぜ我を助けようとするのじゃ? 我は魔・・・」
「僕が、守りたいと思ったんだ」
最後の言葉にかぶせてレオンは言った。
その言葉にイリスは顔を真っ赤にして怒る。
「守っ・・・!? 人間ふぜいが魔王である我を守ると言うか!!」
「ああ。 守る。 君がたとえ魔王であっても」
「いらぬお世話じゃ!! 貴様! 我を馬鹿にしておるのか!!」
そう言うイリスの瞳が、揺らいでいる。
いまにも泣き出しそうな顔をして、怒っている。
そんなイリスに、レオンは真剣な表情を見せて立ち上がった。
「馬鹿になんかしていない! 君が泣いていたから。 僕は、君を助けたいんだ」
そう言った。
そんなレオンの真剣な言葉に、イリスの頬に涙が伝う。
「我は、助けなどいらぬ・・・・」
「僕が助ける」
「我は、ひとりで・・・・」
「僕がいる」
「我は・・・我は・・・・」
「僕と一緒に、行こう」
そう言って、レオンは手を差し伸べた。
イリスは見る。
暖かいその手を。
その手を取ろうとして、しかし、それ以上手を伸ばせない。
イリスはレオンを見る。
人間は敵だ。
我は魔族だ。
それなのに・・・・なんでそんな目で我を見れるのだ。
不思議なことが起こっておる。
人間が魔族を助けるなど・・・・
再び風が吹き、黄金草の輝きが揺らめき立つ。
眉を寄せて考え込むイリスの顔を見て、レオンは思い出した。
ルーマさんのあの言葉を。
『ポポロン丘についたら、黄金草に水を振りかけてみて? すっっっごい景色が見れるよ!! その光景は、ルーベル大陸の三大絶景にも選ばれた事があるほどなんだよ? まぁ、いまでは誰でも見れる場所ということで三大絶景からは外されちゃったんだけどね・・・。 でも、でもでも、私はあの景色が大好きなんだぁ!! 嫌な気持ちだって吹き飛ばしちゃうんだから!!』
おもむろにレオンは水筒を取り出した。
手を引っ込めてしまったイリスがレオンの行動に疑問を投げかける。
「何をしているんじゃ?」
「まぁ、見てて。 それ!」
水筒を勢いよく横に振って、水を黄金草へと撒いていく。
それからの光景は圧巻だった。
光り輝いていた黄金草がたなびく景色だけでも、心に残るほどの感動があった。
だけど、これは・・・・これは・・・・
黄金草が水を吸ったとたん、空に光のカーテンが現れた。
ゆらゆらと揺らめき、色を変えながら壮大な光景を作り出している。
イリスの瞳に、オーロラが映っていた。
「綺麗じゃ・・・・」
自然と言葉が零れる。
そのオーロラを背に、レオンが思いをぶつける。
「一緒に行こう!」
手を差し伸べる。
イリスは、その手を・・・・掴もうとして・・・・
その手は頭へと移動した。
オーロラの輝きで、恥ずかしい三本のアホ毛が目立っていたからだ。
イリスはそのアホ毛がとても恥ずかしかった。
恥ずかしそうに髪の毛を隠すイリスに、レオンは優しい微笑を浮かべ、
「僕は、君のその髪の毛、かわいいと思うよ」
瞬間、昔の光景が頭をかすめる。
顔も思い出せない。 名前も思い出せない男性。
『ぼくは、君のその髪も、瞳の色も、大好きだよ』
声も、言葉も、姿も違うのに・・・・
その男性と、レオンの姿が重なった。
「我は・・・我は・・・・」
顔を赤らめながらイリスは、手を伸ばした。
レオンはその手を掴むと、言った。
「何度でも僕は言うよ。 一緒に行こう。 イリス」
眩しかった。
黄金草が・・・オーロラが・・・・
レオンが眩しかった。
まるで、それは、かつて・・・・
いや、昔のことは、もういい。
思い出せないことよりも、今じゃ。
レオンを見る。
信じられないほど自信に満ちて、まるでイリスが断るわけがないといった笑顔を見せている。
その笑顔がおかしくて、イリスは少し笑い、瞳を閉じた。
そして、赤い瞳を再び開くと、
「仕方のない奴じゃ!!」
笑顔を見せたのだった。
つづく




