第11話 二人の邂逅
疲れた体を押しながらレオンは女の子の方へ歩みを進めた。
あの子のおかげで、勝てた・・・・
よかった。 僕たち助かったんだ。
視線を落とし、両手を見る。
その手を握り、前を見据えた。
すると、綺麗な白い銀色の髪を風に揺らしながら、両手を腰に当てて女の子はレオンを待っていた。
その姿を見て、レオンは考える。
この子は何者なんだろう。
ただの旅行者ではないはずだ。
あんな・・・あんなとんでもない魔法は見たことがない。
いや、もともと魔法自体、見たこともなかったけど・・・・
それでも、あんなとんでもない規格外の魔法・・・・
それに、この手の紋章も・・・・
疑念がいくつも浮かび上がり、レオンは口を開こうとした、だが。
「お主は何者じゃ」
先に口を開いたのは、女の子の方だった。
レオンの開いた口が一度閉じ、再び開く。
「っと、そうだね。 自己紹介がまだだった。 僕の名前は、レオン・ラインハート。 冒険者をしている。 君は?」
「質問の答えになっておらぬ。 主は何者じゃ?」
レオンの質問に応えず、女の子がさらに問い詰めてきた。
警戒している女の子に、レオンは優しく微笑みかけて安心させるような声で言った。
「何を聞きたいのか分からないけど。 まずは君の名前を教えてくれないかな?」
「ふん。 我の質問はあと回しか。 人間のくせに生意気な」
女の子は赤い瞳をきつく尖らせると、睨むように目を細めた。
その赤い瞳に、レオンの灰色の瞳は目を逸らさない。
両者の間にすこし緊迫した空気が流れ、レオンは動じずに言葉を発した。
「名前も教えてくれない相手に、僕は応えることは出来ないよ」
その声には確固たる意志と、優しさが込められていた。
女の子は、その声を聞いて溜息を吐いた。
「ふん・・・頑固な奴じゃ。 しかし、まぁ我を助けてくれた恩もある。 ここは我が折れてやるか。 仕方ない奴じゃ」
そう言うと、やれやれと本当に仕方なさそうに首を振ると、ビシッと指をさして言った。
「我の名は、魔王イリス・フィーリエである!! 崇めよ! 称えよ! ひれ伏すのじゃ!! わーーーはっはっはっはっはっ」
イリスはまた腰に手を当てて、高々に笑った。
目の前で威張っているイリスに、レオンは頭を掻きながら困ったような顔をした。
「えっと・・・ま、魔王? それにイリス・・・・イリス・フィーリエって、レリックの話に出てくる魔王と同じ名前だったはず・・・あ、だから魔王か・・・」
言葉尻が細くなりながら、レオンは呟くように言った。
だが、そのレオンのレリックという言葉にイリスが反応する。
「むぅ? お主、レリックを知っておるのか?」
「え? まぁ・・・うん。 知っているよ。 レリックは昔話に出てくる・・・・」
「ちょっと待て!! 昔話じゃと!? そんな馬鹿な・・・・」
イリスは自分の手を見つめて、わなわなと震えている。
そんな様子を見て、レオンが話しかけようとすると、逆にイリスが詰め寄ってきた。
「今は何年じゃ!?」
「っと。 今は・・・星誕歴1621年だけど・・・」
「なぬ!?」
1621年じゃと!?
1000年・・・・1000年も経っておる・・・・!?
そう思いながら顔が青ざめていくイリス。
それを見て心配そうな顔でレオンが近寄ってきた。
「だ、大丈夫かい?」
そんなレオンを無視して、イリスは考えを巡らせる。
1000年の時が経ち。
身体は幼くなり。
魔力も使えなくなっておる。
記憶も定かではない・・・う~む・・・記憶・・・・
お! そういえば、さっきレリックの事は覚えておったな。
ふん、あの優男。 1000年たっても名を知られておるとは何をしよった?
おぉ、そういえばこのレオンという小僧、我の名前も知っておったな。
ふふふふ。 やはり我は1000年たっても有名であったか!!
ふふふふ。 うふふふふふ。
急ににやにやしだしたイリスを見て、レオンはくすっと笑った。
「む。 なんじゃ。 何を笑っておる」
「いや、ははっ。 イリスの顔が急に怒ったり、青ざめたり、笑ったり、ころころと表情が変わるから、つい・・・可愛くて」
「かわっ!? ふ、ふん! 人間風情が我の名を呼ぶでない! 我の事は魔王様と呼べ!」
可愛いと言われたイリスは、顔を真っ赤にしながら大声で叫んだ。
魔王。 またそう言った。
レオンはイリスを見る。
先ほどの大魔法。 自分の両手に宿る紋章。
そして、命を落とすほどの傷を治してくれた命の恩人であるイリスを見る。
どこからどう見ても、ただの女の子だ。
見た目は、8歳ぐらいだろうか。
そんな子が、こんな場所に一人で・・・・
イリスはレオンを見る。
この男、人間のくせに馴れ馴れしくしよって。
我を可愛いだと!?
そんなことは百も承知じゃ!!
はっ!? そういえばさっきの我の質問がまだ反故にされておるではないか!!
二人が同時に口を開いた。
「君は・・・」
「主は・・・」
『ぐぅ~~~~~』
二人のお腹が同時に鳴った。
そういえば、朝から何も食べていなかった。
二人とも、自分のお腹に目をやると、再び視線を合わせ、
レオンが言った。
「まずは、ご飯・・・食べよっか」
「・・・・ふん。 仕方ないのぉ」
照れながらイリスは応えたのだった。
つづく




