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かつての魔王と、未来の勇者  作者: いぬ課長


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第10話 与えられし力

 レオン達に向かって襲い来る『傷持ち』。

 凄まじい勢いで突撃してくる『傷持ち』をどう迎え撃つ!?

 女の子を助けるのに剣を投げた為、レオンは丸腰だった。

 急いで周りに視線を巡らし、投げた剣を探す。

 さいわい近くに落ちてはいたが、もう拾う時間などなかった。

 くそっ! どうする!?

 レオンが呻いた瞬間、声が響く。


「左手を突き出せ! 早くせい!!」

「!?」


 声の主は、女の子だった。

 わけもわからずレオンは片膝を立て、左手を『傷持ち』に向かって突き出した、するとレオンの左手の甲に突然、紋章が光り輝き、目に見えない空気の膜が現れた。

 瞬間!

 空気の膜が揺らぎ、『傷持ち』の牙が空中で弾かれ体ごと吹き飛んでいく。


「な!? これは」

「ふふん。 どうじゃ。 凄いじゃろ? 魔法の盾じゃ」

「魔法の盾!? なんでこんな・・・」


 言いながら、レオンは左手の甲に現れた紋章に目を向ける。

 レオンの片膝に女の子が手を乗せて顔を出すと、ニヤッと笑った。


「ふん。 傷を治すついでにサービスしておいてやったぞ」

「サービスって・・・君はいったい・・・」

「しかも、驚け! 右手には・・・・わきゃ」


 女の子が喋っている途中だが、『傷持ち』が態勢を整えて再び向かってくる。

 それを見たレオンは急いで落ちていた剣を拾い、迎え撃つために身構えた。

 剣と爪が激突する。

 激しい唸り声を上げながら振り下ろされる爪にレオンはかろうじて反応できるだけで反撃することが出来ない。


「グルルルルルゥゥゥ!」

「速い! くぅ!!」

「やれ!! そこじゃ! あー! 何をやっておるんじゃ!」


 レオンが剣を振るごとになぜか女の子も腕をぶんぶんと振り回している。

 そして、ビシッと指をさして言った。


「ええい。 なんで魔法の盾を使わんのじゃ!! 左手をだせ!! こうじゃ! こう!!」


 そう言って自分の左手を前に何度も突き出している。

 レオンは言われたとおりに恐る恐る左手を前に突き出すと、再び紋章が輝きだした。

 すると目に見えない盾が『傷持ち』を弾き飛ばす。

 信じられない光景に、自分の左手に浮かぶ紋章を見つめると、その力を確信し大きくうなずいた。


「うん。 これならイケる!」

「当たり前じゃ! 我の魔法を授けたのじゃからな。 ふふふ。 それと右手には・・・あぁ! 最後まで聞かんか!!」


 イリスの言葉を最後まで聞く前に、『傷持ち』が牙をむく。

 魔法の盾を駆使しながら、レオンも反撃に転じるが『傷持ち』の方が数段素早く、そして強い。

 次第に戦いは防戦一方となり、盾がなければ勝負にもなっていなかった。


「ぐぁ!! はやい! 反撃する隙がない!!」


 レオンが身構え、剣を振るうときにはもうそこにはいない。

『傷持ち』は攻撃の跡、素早く後ろに跳躍すると一定の距離を保って隙を窺うように金色の瞳を光らせる。

 次第にレオンの息も上がりだして額の汗を手で拭うと、背中越しに声が響いた。


「えぇい! 話を聞くのじゃ!! よいか! 右手を天高く掲げるのじゃ!!」

「み、右手・・・」


 言われた通りにレオンは右手を天に掲げる。

 すると、右手の甲に紋章が現れて同じように光を放ちだした。

 同時に巻き起こる突風がレオンを中心に渦を巻く。


「うああああぁぁぁっぁぁぁ!!!」


 凄まじい魔力が右手に集中する。

 暴れる右手を必死に左手で押さえなければ弾けそうになるほどであった。

 レオンの赤い髪が風で舞い上がり、必死の形相で爆発しそうになる右腕を押さえ込んでいる。

 魔力の奔流が凄まじすぎてだれもレオンに近づくことも出来ない。

 唸る『傷持ち』をよそに、女の子は暴風に顔をしかめながらそれでも胸を張り、叫んだ。


「ふん!! うまくいったようじゃの!! 我の魔法を抑え込めるとはお主やりおるのぉ!! よし! そのまま右手を振り下ろせい!!」

「ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 レオンが勢いよく右手を振り下ろす。

 押さえられていた魔力が真下に放たれ、地面が割れ、陥没するほどの衝撃が地を伝う。

 次の瞬間、地面に巨大な魔法陣が出現し、稲妻がほとばしり、レオンを包み込んだ。

 レオンの瞳が、灰色から赤色へと変化していく。

 さきほどの暴風の渦が嘘のように静まり、魔法陣が消え失せると。

 その中心にいたレオンの赤い瞳が右手を見つめていた。

 レオンの全身がほのかに赤く光り、ときおり稲妻が身体を迸る。

 さながら炎と雷に包まれているかのようだった。


「これは・・・・」

「よぉぉぉし! 成功じゃ! さすが我は天才じゃのう!!」


 その時、『傷持ち』が駆けだした。

 魔力の渦が消え、獲物の姿が見えたからだ。

『傷持ち』はイラついていた。

 容易く狩れると思っていた獲物が、予想外の反撃をしてきて手下は全滅した。

 今まで感じたことのなかった恐怖も与えられた。

 自慢の牙も、爪も、なぜか弾かれてしまう。

 我慢の限界だ!!


「ガルルルルルゥゥゥゥ!」


 怒りを声に乗せ、『傷持ち』は駆けた。

 瞬く間に距離を詰め、迫りくる。

 その様子を、レオンの赤色の瞳が見据えると、足を半歩ずらし身構える。

 同時に迸る稲妻が、地を這って空気を焦がす。

 レオンがそれに驚いていると、


「驚くのはこれからじゃ!! いけぃ!」


 女の子の声と共に、レオンも駆けだした。

『傷持ち』に向かって勢いよく走り出す。

 レオンの軌跡を追うように稲妻が迸る。

 レオンの赤い瞳が映し出す景色は、不思議な光景だった。

 何もかもが手に取るように分かるような全能感。

『傷持ち』の牙がこの後どう来るのかまで分かるようだった。

 その行動に合わせるように剣の一閃を放ち、牙と剣が激突する、すると両者の間に凄まじい衝撃波が起こりレオンの体は宙に浮いた。


「うわ! っと!?」


 赤髪をバタつかせながら後方に吹き飛んだレオンは、風を掴むように両手を広げて姿勢を整えると地面に着地する。

 さきほどの衝撃波。

 レオンの斬撃が予想以上の威力だった為、両足の踏ん張りが足りなかったのだ。

 浮足立っている足に一度視線を落としたが、すぐさま顔を上げ『傷持ち』に視線を向ける。

 視線の先、赤い瞳が『傷持ち』の姿を捉えた。

 同じように後方に飛ばされた『傷持ち』は、レオンとは違って傷つきボロボロになっていた。 前足は片方が皮一枚でかろうじて繋がっているだけで今にも千切れ落ちそうなほど傷ついており、傷ついた体でそれでも両足に力を込めて立ち上がろうとしている。

 片目の金色の瞳がまだ敵意の眼差しを向けている。

 戦意はまだ失っていない。

 レオンは再び剣を構えなおして、『傷持ち』に狙いを定める。

 しかし、『傷持ち』は視線を変えた。

 金色の瞳の先に、女の子がいた。

『傷持ち』は、傷を追うごとに力を増すその特性を活かし、最後の力を振り絞って女の子に狙いを変えたのだ。

 傷ついた体から力がみなぎり疾走する。

 皮一枚で繋がっていた前足が地面に落ち、それを置き去りにして『傷持ち』は走り抜ける。

 せめて! せめてコイツだけでも!!!

 男は信じられないほど強い!

 だが、コイツはもう魔力を失った!!

 せめてコイツだけでも!!!


「ガアアアアァァァァ!!!」


 凄まじい雄たけびを上げて『傷持ち』が吠える。

 銀色の髪をなびかせて赤い瞳はそれを見つめて、言った。


「やれ」

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 赤色の髪を逆立てながら赤い瞳がそれに応えるように叫ぶ。

 力の使い方を瞬時に理解し、剣を振り上げる。

 瞬間、振り上げた腕に幾重もの魔法陣が出現して、剣に向かって収束していく。

 レオンの赤い瞳がさらに輝きを増していき、呼応するように発生した稲妻が辺り一面に広がっていく。

 収束した魔法陣が幾重にも重なり剣を光り輝かせると、


「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」


 レオンは叫びにも似た声を上げ、力いっぱいに振り下ろした。

 斬撃は、稲妻と突風を巻き起こし、地面を空気を割りながら全てを斬り裂いていく。


「アァガ!?」  


 避ける暇もなかった。

 それほどの速度で飛びかった斬撃は瞬く間に直撃していた。

 女の子に駆けていた『傷持ち』はまともに斬撃を喰らうと全身ごと吹き飛び、黒い霧となり霧散していった。

 魔力の霧散、それは魔族の死である。


「はぁ・・はぁ・・・か、勝った・・・のか?」


 息を切らし、灰色に戻った瞳が、霧散していく『傷持ち』を見つめる。


 長い長い戦いは終わった。

 試験とは違う。

 初めての実戦。

 生死をかけた初めての戦いが幕を閉じると、レオンは静かに、ふぅっと安堵の息を吐いた。


 つづく  













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