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かつての魔王と、未来の勇者  作者: いぬ課長


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第9話 魔王の実力

 目の前でブラッディウルフが圧壊する。

 潰れて吹き出した血がイリスに降りかかる、しかし、イリスを中心に空気が揺らぎ血を弾いた。

 遅れて残りのブラッディウルフがイリスに飛びかかり牙を突き立てようとする。

 しかし、同じく空気が揺らぎその鋭利な牙はイリスには届かなかった。

 イリスを中心に魔力の盾のような膜が張られていたのだ。

 精一杯の力を込め、牙の隙間から唸りを溢し、全身をバタつかせ、どうにかして膜に牙を突き立てようとするが傷一つ付けることが出来ない。

 その様子を膜越しに、赤い瞳が見下したようにブラッディウルフを見つめる。


「貴様・・・さっきこやつに体当たりをした奴じゃな?」


 少年が体当たりをくらい力なく転がる姿を思い出す。

 人間がどうなろうと構わないのだが・・・だが、しかし、


「ふん。 不愉快じゃ。 同じ目にあわせてやろう」


 イリスが指を弾くと、その先にいたブラッディウルフが弾かれたように吹っ飛んだ。

 弾かれた体は地面に転がることもなく大木にぶつかると二つに割れ、血が激しく地面を濡らす。

 残りのブラッディウルフも同じように潰され、弾かれ、引き裂かれる。


「魔法を使うまでもない小物じゃったな」


 ぼそりと呟き、イリスは『傷持ち』を見た。

『傷持ち』は驚愕する。

 今のは魔法でもない、ただ魔力をぶつけられただけなのだ。

 魔王・・・・本物の魔王・・・・

 動けないでいる『傷持ち』を尻目にイリスは赤髪の少年に視線を落とす。

 すでに気を失い、動かない少年。

 微かに胸が上下に動くだけだった。


「ぼろぼろじゃな。 今にも死にそうではないか」


 人間は嫌いだ。

 人間は敵だ。

 だが、こやつは命を賭して助けようとしてくれた。

 ふん・・・人間に借りを作るのは、嫌じゃな。

 うむ。 そうじゃ。 これは借りを返すだけじゃ!

 うんうん、とイリスは頷き、辺りを見回した。

 暗闇の中、光を放つものがあった。

 さっき少年が投げた黄金草だ。

 黄金草は、潰せば薬草に、煎じれば回復薬になる。

 魔力で黄金草を引き寄せると、何枚もの黄金草が不規則に回転しだした。 

 縦に横に、上に下に。 徐々に回転の速度は増していく。


「ふむ。 治すだけではなく、少しサービスもしてやるか」


 イリスがさらに魔法の詠唱を唱える。

 黄金草は目を開けられないほど光り輝き、それでもなお光を増していく。

 その光に少年の体が包み込まれると、信じられないほどの速さで傷が回復していく。

 咬まれた傷が、引き裂かれた肌が、打撲の跡すらなくなっていく。

 おぉぉぉ。 さすが我の魔法は天下一品じゃのう!!

 鼻息を荒々しく吹き出すと、だんだん調子に乗ってきた。


「うむうむ! よぉぉぉぉし! ついでにこいつもサービスじゃぁぁぁぁ!!」


 泣きじゃくり、逃げまどっていたさっきまでの自分の尊厳を取り戻すかの如く、イリスは自らの力に酔いしれて惜しみなく少年に魔法を唱えていく。

 いくつかの魔法が少年の体に溶け込んでいく。

 その時、少年の瞳がぴくりと動いた。


 ◇◇◇◇


「う・・・・これは・・・・?」


 レオンは目を覚ますと、目の前の光景をただ眺めた。

 目の前の女の子が・・・さっき助けた女の子が何かを唱えている。

 すぐに状況が把握できず、とりあえず身体を起こしてみる。

 ・・・痛く、ない?

 ブラッディウルフと戦い、傷ついたはずの自分の身体を触るが、咬まれた傷も、打撲の痛みも綺麗に消えていた。

 再び、目の前の女の子に目を向けると、赤い瞳がレオンに気づく、


「ふん。 目を覚ましよったか。 どうじゃ? どこも痛くなかろう?」


 どこかいたずらっ子のような笑顔を見せて女の子は言った。

 たしかにどこも痛くない。

 いや、それどころか疲れすらも消え去っていた。

 何が起こっているのかまったく分からない状況でレオンは女の子に話しかける。


「これは・・・君が? 君はいったい・・・」

「おっと。 質問はあとじゃ、メインディッシュが残っておるのでな」


 そう言うと、銀色の髪を翻して女の子が『傷持ち』に視線を向けた。

 その視線を受け止め、『傷持ち』が震え上がる。

 その様子を見た女の子の表情は、いたずらっ子のような笑顔から、悪魔のように冷たい笑みに変わり赤い瞳が鋭さを増す。


「貴様。 よくも我をいたぶってくれたな。 万死に値する。 さぁ、どう死にたい? 先ほどのような、慈悲は与えんぞ。 貴様のような下等な魔族、我の魔法を使うほどでもないが・・・特別じゃ。 我の魔法で殺してやろう」


 慈悲。 たしかに慈悲といった。

『傷持ち』は亡骸となった手下を見た。

 潰れて原型も留められないほど壊れてしまった手下を見て、この死が慈悲だと言ったのか・・・・自分にはどんな凄惨な死が待っているというのだ!?

 今まで幾度もの獲物を引き裂いてきた牙と爪を持った『傷持ち』が震え上がっていた。

 そして、『傷持ち』は駆けだした。

 逃げるのではない。 魔族としての誇りでもない。 ただただ目の前の強敵を殺す。

 体中の傷はそうやって出来たものだ。 

 いつもそうやって最後には勝ってきたのだ。

 片目である『傷持ち』の金色の瞳が、光の線を引きながら駆けだした。


「ふん。 バカめ! 最後の悪足掻きじゃな! 喰らうがよい我が魔法を!!」


 目の前で女の子が詠唱を始める。

 そんな中、レオンは状況を理解しようと思考を止めずに周りを見渡した。

 辺りには黒い霧となって霧散していくブラッディウルフ。

 目の前で詠唱を唱える女の子。

 さっきの口ぶりから、どうやらこの女の子が傷を治してくれたみたいだ。

 そして、なりふり構わず全速力で迫りくる『傷持ち』。

 詠唱を唱えるごとに空中に魔法陣が展開していく。


「これは・・・魔法陣!?」


 レオンは魔法を見るのは初めてなのだが、本で見た魔法とはかなり違っていた。

 本で知った魔法は、詠唱を唱えて、魔法陣から魔法が放たれる。

 そんな簡易的なものだった。

 しかし、目の前で起きているコレは・・・


「なんだ・・・これ・・・すごい・・・・」


 目の前に、いや、視界いっぱいにいくつもの魔法陣が展開していき、景色を埋め尽くしていく。


「ふん! 驚くがよい! 多重立体魔法陣から放たれる魔法の威力に!!!」


 両手を勢いよく広げるとさらに広域に魔法陣が展開する。

 女の子の勝ち誇った顔から言葉が放たれ、魔法が発動・・・・


「死ぬがよい!! レイ・ク・レイ・・・・」


 ぷすんっ・・・・

 発動しようとして、なにか腑抜けた音がした。


「・・・ん?」


 間の抜けた声を上げ、女の子は自分の手をぺちぺちと叩く。

 しかし、魔法は発動しない。

 それどころか何も起きない。


「あれ? レイ・ク・レイン!!! んんん? レイ・ク・レイーーーン!!」


 諦めずに今度は魔法陣に手を振りながら大声を上げるが、気持ちとは裏腹に魔法陣が次々に消えていく。

 それを眺めてレオンに振り返ると、苦笑いを浮かべながら言った。


「う~む・・・・打ち止めみたいじゃ」


 その時、全速力で走る『傷持ち』が目の前にまで迫ってきていた。

 低く飛びかかるように爪で攻撃してくる。


「あぶない!!」

「うきゃぁぁぁぁぁぁ!?」


 間髪入れずにレオンは女の子に飛びかかり難を逃れる。

 爪でえぐりとられた地面がその威力をものがたる。

 レオンと女の子は地面を転がり、ようやく止まると女の子を見ながら言葉を発する。


「大丈夫か!? 怪我はない!?」

「怪我があったのはさっきまでのお主じゃ! ええい! 忌々しい! どうやら魔法が使えるのは限度があるようじゃな・・・調子に乗りすぎたのぉ」


 女の子は気落ちしながら、とほほっと唸った。

 しかし、今はそんな空気ではなかった。

 対面を変えて距離をとっていた『傷持ち』が再び身構えていたのだ。

 力を溜め、さっきと同じ攻撃が来る。

 魔法陣が消え、魔法が放たれないことを知った『傷持ち』に、もはや怖いものはなかった。

 殺す!! 殺す!! 喰い殺す!! 

 本能がそう叫び、再び『傷持ち』は地を蹴った。

 凄まじい勢いで、鋭利な刃となった爪がレオン達に襲い掛かってきたのであった。


 つづく

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