表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/16

第12話 王都の乗っ取り計画、公開決算で粉砕 の公開

青紙、黒衣、譲渡交渉。――舞台は王都。数字と印影と座面で、笑って終わらせますの。


 王都の中央広場は、朝の鐘にまだ眠そうだった。

 わたくしたちは鐘を二度+微、ほんの息の遅延をかけて鳴らし、広場の半分を遊歩の場に変えた。


 設営はいつも通り――座面、日陰、洗い桶、呼出板、そして公開石板(大版)。

 大版の上段に、本日の議題を掲げる。


『本日の公開議題

 A案:譲渡(観光庁準備室・公共民間連合)

   =分配金+規格化 − 現地雇用 − 透明性 − 座面裁量

 B案:自営(哭き鍾乳洞+協力施設)

   =粗利+雇用+透明性+座面 − 助成

 提案:座面規格 v1.0(オープン条項)/静けさ指数・安全係数の公開実装

 ――印影照合は右上、偽ライブ対策済』


「式を先に出せば、話は喧嘩になりませんの」

 ノエルがうなずき、監査印の位置を示す。

「満足札は◎○△×、再訪意向は雫印で。返金規定は“恥ではない”」

「ぷる(座面よし)」

 ヌルは王都の石畳に新しい座面を並べ、香導線に薄い柑橘を少し。


 広場の端に、黒い外套の一団。評議会の黒衣――公共民間連合の代理だ。

 その先頭、青い封蝋の青紙を掲げる男が微笑んだ。

「譲渡交渉の場を整えてくれて感謝するよ、所長殿。効率のためだ。管理は中央で持つべきだ」

「座面は中央に置きませんの。人の隣に置きますの」

 わたくしは扇で広場の座面を示し、声を落とした。

「本日は公開で。印影と数字の言葉で話しましょう」


 濃紺の外套――ガレスが監察印の箱を持って到着した。

「本件、交渉は公開。封蝋は俺が見る。座面は俺が座る」

 彼は言い終えると、観客の間に座った。

 ――よろしい。秤は、座面と並ぶと倍に効く。


◇◇◇


 第一幕:青紙の中身。

 黒衣の男が青紙を広げ、朗々と条文を読み上げる。

「“運営権の譲渡。座面規格等の独占的実施権は連合に帰属。安全係数は中央評価。違反時、即時停止命令”」

 ノエルが静かに手を上げ、付則の下端を指した。

「小さな注記。“緊急時の定義は連合が判断”」

 ざわめき。

 わたくしは微笑んで青紙の印影を示す。

「印影、三連三角――倉庫七棟目に見られた供給網と同じですの」

 映写石が三連三角の映像を天幕に投射する。

 ガレスが一致の宣言を短く告げた。「印影一致。関所経由の供給網と同系」

 秤の音が、広場に落ちる。


「これは座面の話ではありませんの。止める権限と吸い上げの話」

 わたくしは扇を畳み、座面規格 v1.0の板を掲げる。

『座面規格 v1.0(案)

 1. 座るための高さ:腰−膝中間±2指

2. 背凭れ角:100–110°

3. 退避:三十歩圏に一基+蜂蜜水/救護箱併設

4. 表示:返金は恥ではない/音数三/半歩

5. 雇用:出退勤石/餌ポイント/提案箱

6. 測定:静けさ指数=(音数逸脱0・笑い非発声率・泣き0)/1.0

7. ライセンス:オープン条項――“誰でも使えますの。改変可。出典『哭き鍾乳洞』を明記、公開決算を添付”』


「独占は要りませんの。習慣にする規格は、開くしかない」

 カミラが客席から立ち、舞台脇の蜂蜜壺を掲げた。

「骸吼裂溝も座面規格に賛成。影絵小劇場として採用する。裏門は閉じたわ」

 黒衣の男の笑みが、髪一本分だけ薄くなる。


◇◇◇


 第二幕:公開決算の殴打。

 ノエルが大版石板をめくる。

『泣き雫・王都遠征 決算(速報)

 座面設営 24基/日陰 6/洗い桶 4

 雇用(臨時・王都) 座面守 8/衛生2 → 賃金 21,200

 来場 朝の部 386/満足指数 0.90/静けさ 0.94

 事故 0/返金 1(半額→再訪予約)

 収入(物販・寄付・配信) +72,400/支出 −44,300 → 粗利 +28,100』


「座面は慈善では赤字、と思われがちですけれど――運営にすれば黒になりますの」

 わたくしは式をもう一つ。

『再訪意向=税(案)

 =(再訪予約率×行列満足×安全係数)→観光税率の優遇に連動』

 ガレスが頷く。「恣意を削る式だ」


 黒衣の男が青紙を指先で弾いた。

「中央が評価しないと安全は守れない。緊急停止権は不可欠だ」

「評価は公開で守れますの」

 わたくしは監査印の箱を開け、緊急停止の代替式を出す。

『停止条件(案)

 ・事故→1件で仮停止(30分)+退避ポケット補充

 ・泣き→3連続で動線切り替え

 ・音数逸脱→阈値でを延長

 ――自動ログ+公開+監察同席』

「止めるを公開の手順に落とせば、権限は人質になりませんの」


◇◇◇


 第三幕:黒衣の急襲。

 舞台袖から、微かな金属音。

 ――針。

 ノエルが白手袋で押さえる。「三連三角、未使用。仕込み」

 映写石が舞台裏を映し、警備役に化けた男の袖口を白く縁取る。

 ガレスが前へ出る。「証拠保全。通行記録照会――倉庫七棟目」

 黒衣の代表が初めて笑みを崩し、低く言った。「演出の一部だ」

「音数が荒れましたわ」

 わたくしは静けさ耳を掲げる。小さな鐘が鳴らない。

「“座面規格”では、鐘が鳴らなければ演出に非ず。――印影、一致」

 ガレスの秤が、黒の上に重しを置く音がした。


 広場にざわめき。

 怒りが立ち上がる前に、わたくしは座面を指した。

「座ってくださいませ。怒りは座面で整流いたしますの」

 人々が座る。ざわめきは息になる。

 音数石は灯らない。

 ――秤と座面、そして印影。勝負は、もうついている。


◇◇◇


 第四幕:決着の式。

 ノエルが満足札と再訪の雫印を集計し、石板へ。

『広場投票(公開)

 ・A案(譲渡) ◎ 11%/○ 14%/△ 23%/× 52% → 指数 0.29

 ・B案(自営) ◎ 58%/○ 32%/△ 9%/× 1% → 指数 0.85

 再訪意向:B案支持者の雫印 76%

 静けさ:0.92/事故:0/返金:1(半額→再訪予約)』


 ガレスが王都監察室の通達を読み上げる。

「通達――“公共民間連合による独占的譲渡は保留。座面規格 v1.0をオープン条項で暫定採用。安全係数・静けさ指数は公開を条件に自治運営へ。監察は定期巡回。倉庫七棟目関連は別件送致”」

 拍手がひとつ、またひとつ。やがて波になる。

 ヌルがぷるぷるジャンプ、コウモリが低く旋回し、カミラが蜂蜜を垂らす。


 黒衣の男は青紙をたたみ、苦く笑った。

「“開く”か。効率は落ちる」

「再訪が上がりますの」

 わたくしは微笑み、最後の石を置く。

『“効率”=一度の速さ/“再訪”=何度も来る強さ

 観光は後者で勝ちますの』


◇◇◇


 その後は、いつものあと片付け。

 **公開決算(王都・交渉日)**を大版に記す。


『入場(広場) 1,140/物販 88,300/配信 52,700/寄付 31,400

 雇用(臨時) 21,200/設営 17,800/原価 24,900/税・雑 11,400

 粗利 +97,100

 満足 0.90/再訪意向 0.76/静けさ 0.93/事故 0

 転倒事故ゼロ日:10』


 ガレスが苦情箱に紙を落とす。

「“要望。座面規格の背凭れ、王都の高身長向けに+1指」

「採用。v1.0.1に」

 ノエルが即座に追記し、印影を押した。


 夕暮れ、広場の空に鐘を二度+微。

 間が伸び、王都のざわめきが一拍だけ、座面の上で呼吸を揃える。

 評議会の黒衣は人混みに溶けた。

 カミラが肩をすくめる。「次は舞台ね。王都プレゼン」

「模型とデータと体験で。――第13話で」


 断罪の代わりに、公開の約束を積み重ねた。

 乗っ取りは、座面と印影で消える。

 明日からは、規格を街へ――“座れるロード”を敷くのですの。


(第12話 了)


次回:第13話「王都プレゼン――ダンジョン観光庁へ」


模型×データ×体験で、政策に昇華いたしますの。秤は客席、座面は壇上。鐘は二度+微で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ