マジで神スキルだったわ
気がつくと、俺はぼんやりした場所に浮いていた。
ここは知っているぞ。確か転生の女神に会った場所だ。
「どうでしたか? 『ラッキーチャンス!』だったでしょう?」
目の前にはおっぱいが大きい金髪のきれいな女神様こと、転生の女神がいる。いや、改めてこうやって見るとやっぱりただのムチムチパツキンねーちゃんかもしれない。
「俺は、死んだのか?」
一応、俺は女神に確認しておく。
「ええ、それはもう立派な最期だったみたいね」
そうか、俺は死んだのか。
そう言われると何だかケイトやカイト、それに孫たちに会いたくなってきた。
「最期だなんて、生き返ったりできないのか? 『ラッキーチャンス!』なんだろう?」
「私は転生の女神よ。同じ人生を生き直すことはできないし、ましてや生き返るなんて無理よ」
流石に無茶だったか。あれだけ覚悟を決めたのに、やっぱり未練があるなんて少し俺は恥ずかしい。
「それでも、再抽選のチャンスはあるわよ」
「再抽選?」
転生の女神は、俺を見て微笑んだ。やっぱりおっぱいが大きいな。
「『ラッキーチャンス!』の最大の特徴はもう一度スキルを選択して、違う世界で生き直しができることよ。あなたが望むなら、今度はもっと違う世界で更にいいスキルを持って暮らしていけるかも」
もう一度、違う人生を送るだって?
「その『ラッキーチャンス!』は本当に違う世界に行けるのか?」
「あなたが望むなら、いくらでも。それから、スキルの選択の猶予は人間の時間で三日間よ。前回あなたは目一杯悩んだわね」
転生の女神は両手を差し出す。その手に掴まれば、また俺は違う世界に転生していくんだろう。
「ちょっと待て。今の俺の記憶はどうなるんだ?」
俺は前世の記憶をほとんど無くしていたことを思い出した。マリィの料理を食べたことでしっかり思い出したが、それまでは「前世があったのか」くらいの認識しかなかった。
「そうね、やり直す世界の邪魔になるからほとんどが消えるわ。でも、新しい世界でもっと強い力で楽しい方が何倍も楽しいでしょう?」
女神の清々しい笑顔が、俺にはとても邪悪なものに見えた。
「じゃあ、俺の、エリク・ヴァインバードとしての記憶は消えてしまうのか?」
「きれいさっぱりとまではいかないけど、ほとんどなかったことになるわね」
なかったこと……。
俺が真っ先に思い出したのは、美しいタウルス高原の春だった。そこにいる俺の家族と村のみんな、そして無数のバッファローたち。俺が築いてきたものを俺自身が否定していいはずがない。
「それはいやだ、もう『ラッキーチャンス!』は使わないよ」
それを聞いて、女神は驚いたような顔をした。
「あら、即答するなんてよっぽどこの人生が気に入ったのね。前回はスキルを選ぶのに三日間たっぷりかかったっていうのに」
それを思い出して、俺はまた恥ずかしくなった。
「それでは、あなたはエリク・ヴァインバードの人生を受け入れるってことでいいのね?」
「ああ、もうやり直しはしない。俺は十分生き抜いたから」
それを聞いて、転生の女神は両手を下ろした。
「それでは『ラッキーチャンス!』は終了します。これからは通常の死後の手続きに従って、あの世に行ってもらうわ」
「あの世?」
「そうよ。あなたはエリク・ヴァインバードの死後を生きる権利を与えられたわ」
「何だよ、死後を生きる権利って」
「死ぬと言うことは、思い出の国に行くこと。あなたは十分自分の人生を生き抜いたわ。だから、これからはあなたの思い出の中で暮らしていくの」
目の前から女神の姿が消えていく。これから、俺は一体どうなるんだろう。
「随分いい顔になったじゃない。よっぽどいい人生だったのね」
何だよ、人を顔で判断するなよな。
「前の人生はこれからって時に死んだからな。今はやり残したと思うことはたくさんあるけれど、思い残すことはない」
「そう、それならチャンスの意義があったのね」
「ああ、本当に楽しかった。いいチャンスだったよ」
次第に俺の漂っていた空間も、俺の身体もぼんやりと溶けていく。
「それと、あなたが頑張って人生を生き抜いたおまけを用意しておいたわ。これからも楽しい思い出の中で過ごしてね」
そうして、女神の声がどんどん遠くなっていった。おまけって、一体何だろう……?
***
気がつくと、見覚えのある場所に俺は立っていた。
「ここは……タウルス高原か?」
そこはタウルス高原のど真ん中だった。空を仰ぐと、満天の星空がきれいに見えた。一瞬生き返ったのかと思ったが、それまで常にあった身体の痛みが一切無いことで俺はやっぱり死んだのだと思った。
「村に行くにはあの赤い星を目印に……」
俺は村の方へ向かって歩き出した。とても身体が軽い。でも、俺ひとりでは少し寂しい。
「バッファローさんバッファローさん、おいでください」
俺が右手を突き出すと、一頭と言わずたくさんのバッファローが現れた。俺はたくさんのバッファローたちを連れて村の方へ向かった。バッファローたちは俺を背中に乗せると、村までひとっ飛びで走ってくれた。まるで夢のような心持ちだ。
村に着くと、ちょうど朝日が昇ってきた。そして、俺は驚いた。
まだ村は発展していなかった。大会館はひとつだけだし、ようやく牧場ができあがったばかりの集落がそこにはあった。そして、そこから人影が俺の方に向かって走ってくる。
「もう、遅いですよ旦那様」
マリィが俺の胸に飛び込んできた。おばあちゃんではない、若い頃のマリィだ。俺も気がつくと、すっかり若返っている。
「ごめんよ、待ったかい?」
「いいえ、ちっとも」
俺がマリィと抱き合っていると、その後ろからルディが現れた。
「ようエリク、向こうで牛は元気にしてるか?」
「ああ、みんなしっかりやっているよ」
俺はマリィとルディに連れられて、大会館へ向かった。
「エリク君、久しぶりだな」
ランドさんがコーヒーを持って、俺を出迎えてくれた。
「まあ随分と立派になったのね、可愛いエリク」
「何を言ってるんだ母さん、こいつはまだ半人前だ」
俺の父さんと母さんも一緒にコーヒーを飲んでいる。二人とも、仲が良さそうだ。
「エリク坊ちゃま、はやくしないとコーヒーが冷めてしまいますよ」
ああ、ミネルバもいる。他にも、俺が会いたくてたまらなかった人たちがたくさんいた。みんな俺の歓迎会だって言って、たくさんのご馳走を並べてくれた。俺はマリィの作ってくれたクッキーをたくさん食べた。
これが思い出の中で暮らすってことなのか。俺の中で大好きな人が生きていたように、俺も大好きな人の思い出の中できっと生きていくのだろう。
ああ、本当に人生って生きてみないとわからないものだ。
俺は本当に幸せ者だよ。女神様に感謝しないとな。
***
ふと、俺は思い立って大会館を出ると長毛種用の牛舎へ向かった。そこではやはり、モルーカがのんびり干し草を食んでいた。
「やあ、モルーカ。久しぶりだね」
俺はモルーカに話しかけた。やはり、彼女は美しくて気高い。本当にただの牛だったのだろうか。そう疑問に思うほど、モルーカは特別な牛だった。
『だいちゃん、よう頑張ったな』
モルーカの心の声が響いてきた。
エリク・ヴァインバードの知らない、とっても懐かしい声だった。
でも、俺が会いたくて会いたくてたまらなかった人の声だ。
「お母さん」
俺はモルーカの前で泣いた。モルーカはただ俺を優しく見つめていた。
お母さんは、ずっと俺のことを見ていてくれたんだな。
女神様の言っていた「おまけ」って、モルーカのことだったのか。
ああ、またマリィに泣き虫って言われてしまう。
でも、これは嬉しくて泣いているんだよ。
お母さん、俺を生んでくれてありがとう。
〈了〉
ここまでお読みくださりありがとうございました(´▽`)
エリクはこれからもみんなと思い出の国で楽しく暮らしていくと思います。
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それでは、またどこかでお会いしましょう(*´︶`*)ノ"




