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第2話 人生最大の賭け

 村長の座をかけて、俺とならず者たちのドレイルが賭けをすることになった。


 賭け、か。前世では人生で負け続けた俺が言うのもなんだが、俺は運が悪い。賭け事なんかやった日には目も当てられない結果になる。それは今のエリク・ヴァインバードでもそうだった。


 それなら、全力で俺が有利になる何かがないと村を乗っ取られてしまう。


「それなら、そっちの言うとおり村長の座を賭けようじゃないか。その代わり、賭けの中身はこちらで決めさせてもらっていいか?」


 俺は賭けの提案をしながら、必死に考える。俺が有利になること、俺が有利になること……。


「ふざけた賭けだったら、俺たちが内容を決めるぜ」


 奴らが笑う。俺は必死に考える。

 俺が有利になること。俺は少なくともこいつらより高原を知り尽くしている。


「それなら、高原を使った賭けにしよう」


 そして、俺は右手から無限にバッファローが出せる。


「夜の高原に一晩俺を置き去りにしろ。それで生き残れたら、俺の勝ちだ」


 俺の宣言に、野次馬たちから悲鳴が上がった。


「村長! それは無茶です!」

「自殺しに行くようなものですよ!」


 ドレイルたちはやっぱり笑っている。


「村長、血迷ったか!? 夜のタウルス高原に生身で生き残れるものか!?」


 このタウルス高原は、特に夜間に猛烈な風が吹く。その風は簡単に人間を吹き飛ばすほどのもので、防風林があるこの村の外に出ることはとても危険だった。


 風が吹けば人間が死ぬ。そういう世界で俺たちは生きてきた。だからこそ、俺の提案がとても滑稽なものに聞こえるのだろう。


「俺は本気だ。その代わり、俺が生きて帰ってきたら大人しくこの村を出て行くんだ」

「馬鹿馬鹿しい。村長の座はもらったようなものだな」

「葬式の準備でもしておくか」


 怯える村民に、笑うドレイル一味。

 でも、俺には勝算があった。


 何故なら俺は、右手から無限にバッファローが出せるのだから。


 もちろん、俺だって嫌というほど夜のタウルス高原を見てきている。

 だから、怖いものは怖い。

 でも、このまま村長として何もできないでいることがたまらなく嫌だった。


「エリク! 何馬鹿なことをやってるんだ!!」


 騒ぎを聞きつけて、ルディが酒場にやってきた。


「お前なあ! また勝手に変なこと思いつめたのか!?」

「別に、俺は高原に行くだけだ。よく一緒に行っただろう?」


 本当は足が震えるほど怖かったが、村長としてここで怯えるわけにはいかない。俺はルディにも強がって見せた。


「それとこれとは……そうか、わかった」


 バッファローの秘密を知るルディは、俺が何をしようとしているのかわかったに違いない。それでもいつもだったら「危ないからやめておけ」と必死に説得するだろうけど、今回は俺の男としての沽券にも関わってくる。


「村長は言い出したら聞かない。誰か高原のど真ん中まで送っていってやってくれ」


 また村民たちがどよめく。ルディが俺を突き放したと思ったんだろう。


「それは俺たちの仕事だな」


 ドレイルたちが喜んで前に進み出る。普段働きもしないくせに、こういうときは元気になるんだな。


「それでは、村長を丁重に送りだそうじゃないか」


 ドレイルたちによって、俺はいきなり縛り上げられて目隠しをされた。まったく、乱暴だな。


「旦那様!」


 おそらく馬車に押し込められた俺の耳に、マリィの悲鳴が聞こえた。彼女を安心させなければ。


「マリィ、俺を信じてくれ。俺はタウルス高原のエリク・ヴァインバードだぞ!」


 俺はマリィに向かって叫んだ。俺は馬車に揺られながら、必ず彼女の元へ帰らなければと心に誓った。


***


 どれほど馬車が走ったのかわからない。でも、随分と高原の真ん中までやってきたのだろう。


「この辺りでいいんじゃないか」


 ドレイルたちの声がする。それと同時に、馬車が止まった。


「男の情けだ。目隠しと縄は解いてやるぜ」


 拘束を解かれた俺は、馬車から降ろされた。見渡す限り何もない、ただの草原だ。空の色は次第に夜に近づいてる。この空の色は、あまりいい色ではない。今夜は激しい嵐になりそうだ。


「それじゃあ村長さん、達者でな」

「それより、君たちもさっさと村に戻れ。ここは危険だ」


 夜になると、ここに暴風が吹き荒れる。遮蔽物のない高原では風に飛ばされれば命取りだ。


「自分の心配をしたらどうだ?」

「村のことは俺たちに任せてくれよな」


 ドレイルたちはそう言い残すと、俺を置いてさっさと馬車で行ってしまった。


「さて……」


 高原にひとり取り残された俺は、夜に向かっていく空を見上げた。そして、ドレイルたちが完全に姿を消したと確信してから、右手を前に突き出す。


「バッファローさんバッファローさん、おいでください」


 俺の右手が光り、大きなバッファローが姿を現す。


「バッファローさんバッファローさん、おいでください」

「バッファローさんバッファローさん、おいでください」


 次々と俺の右手が光り、何頭もバッファローが俺の手から現れる。


「バッファローさんバッファローさん、おいでください」

「バッファローさんバッファローさん、おいでください」

「バッファローさんバッファローさん、おいでください」


 俺がイメージしているのは、全部大きな雄のバッファローだ。あっという間に、俺の周りには三十頭ほどのバッファローが出現する。


「さあ、来るなら来い」


 バッファローたちに囲まれて、俺はタウルス高原を睨み付ける。

 あとはなるようにしかならない。


 遠くから風の音が聞こえてくる。いよいよ、タウルス高原の夜が始まろうとしていた。


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