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第1話 悪い奴もやってきた

 俺がタウルス高原に来て、随分年月が経った。長毛種の数も順調に増え、今や毛織物「バッファロー」はコートや毛布として大人気だ。特にコートの人気が高く、「バッファロー」がコートの代名詞になるのではないかというくらいの人気となっている。


 もちろんそれに合わせてタウルス高原も発展した。最初はぽつぽつと建つ小屋と大会館だけだった集落も、立派な村になった。牧場の周辺には毛織物関連の建物や毛皮、食肉用の建物が並んでいる。道も整備されて、家々が立ち並ぶ住宅地に加えて病院や学校、商店などが並んでいる。


 まさかタウルス高原に店ができるとは思わなかったな。ブルームホロウまであのガタガタ道を買い出しに行っていた頃が懐かしい。


 ランドさんは村長の座を数年前に俺に譲り、今は牛を見ながらのんびり暮らしている。ルディはタウルス高原の牧場主として、タウルス村の主産業を担う大事な仕事をしてもらっている。村の建設関係はレインさんから代替わりして、カーペンター家の娘のアビーの夫が中心になっている。


 カイトは大学を卒業して、本当にセレスティア本国へ渡ったようだった。商業の勉強をしたらしく、カイトは本国でも毛織物の「バッファロー」の流通を試みている。そして向こうで嫁さんを見つけて、それなりに楽しく暮らしているらしい。遠く離れてしまってなかなか会えないが、俺はカイトが幸せならそれでいい。


 そういう俺は、村長の仕事で手一杯だ。村も広くなったし、やることも増えた。もう開拓団の監督という肩書きはあってないようなもので、アレックス兄さんとのやりとりも「監督殿」から「村長殿」になってしまった。副村長はカーラに頼み、最終的には俺の仕事を任せようと思っている。ケイトの結婚相手のマイル君にも俺の仕事を振って、ゆくゆくは仕事を継いでもらいたい。


 それから、タウルス高原の更なる調査のために自然に詳しいソルテア族を積極的に移住に誘うことにした。開拓初期に比べて随分と人間と牛の領土は広がったが、高原の奥にはまだ謎が多く残っている。アルドリアン領の風土に関しては、やはりソルテア族のほうが詳しい。何より、ここは元々彼らの土地なのだ。


 最悪な人生を過ごして異世界転生してきた俺が言うのもおかしな話だが、やっぱり自分が生まれた土地には愛着があると思う。だからアルドリアン領のことはソルテア族に暴いてほしい、と俺は思ってしまう。


 たまに「村長はソルテア族を差別しないんですね」などと言われるが、今となっては俺はこの世界にただ一人の余所者だ。差別されるなら、真っ先に余所の世界からやってきた俺に違いない。できるだけ、俺は他人に優しくしていきたい。ある程度身分が保障できる立場になってから、それは強く思う。多分この感覚は、前世の記憶がもたらしているんだろう。


 そうやって俺の思惑があったりなかったりして少しずつ村が村らしくなってきたのだが、そうすると今までと違った悩みが生まれることになった。


***


 ある日の夕方、ひとりの住民が俺のところに血相を変えてやってきた。


「村長、また喧嘩です!」


 人が多くなれば、その分諍いも生じやすくなる。発展してきたタウルス高原だったが、最近では事件も多く起こるようになった。ちょっとした喧嘩なら俺が仲裁に入っていたが、この前は全く収拾がつかなくて大変だった。


「ドレイルの奴らか?」

「はい……」


 俺は渋々立ち上がって、仲裁に向かう。


 ドレイルとは、先日五人組で入植してきた男たちのリーダーだった。見るからに悪党面であったため俺も入植を断ろうと思ったくらいだ。でも、今まで開拓団は誰でも受け入れる精神でやってきた。俺はドレイルたちを快く歓迎した。


 しかし俺の思った通り、彼らはろくでもない人間であった。当初の約束の牧場の仕事は一切やらず、酒場でひたすら酒をせびり続けるだけだった。そして気に入らないことがあればすぐに銃をちらつかせる。人間の風上にも置けない連中だ。


 でも、どうして至って真面目に生きてきた俺がそんな奴らとも対等に相手をしなくてはいけないんだろう……世の中、不公平だ。


 俺が酒場に着くと、相変わらず店の中がめちゃくちゃになっていた。ドレイルの一味が暴れたのだろう。


「何だ? 村長さん。文句でもあんのか!?」


 ドレイルの仲間が俺の姿を見て威嚇してくる。文句は大ありだが、これ以上刺激をするわけにはいかない。


「とにかく、これ以上迷惑をかけないでくれ」

「迷惑をかけないでくれ、だってさ」


 ドレイル一味は俺の真似をして笑う。


 ああ、こういうときどうすりゃいいんだ? もっと前世の時にアニメでも見ておけばよかった。異世界転生なんかでよくあるシチュエーションじゃないか! 最強スキルでやっつけるとかさあ……でも、こんなところでバッファローは出せないしなあ。ああ、あのとき力か知恵のスキルをもらっておけばよかった!


「村長さん、俺たちはアンタに歓迎されて村民やってんだ。人口の増加って奴に加担してやってるんだからもっと丁重に扱えよな!」

「牛のうんこの片付けなんかやってらんねーんだよ!」

「毛を運ぶって聞いていたが、あの重いのは何だ? 詐欺で訴えるぞ!」


 ドレイル一味は好き勝手なことを言う。


「しかし、最初に交わした村民になる契約を違えることになるのはそっちだぞ」

「そんなもん知るか! 村に入っちまえば、こっちのもんだ!」


 くそ、ああ言えばこう言う。

 本当にどうすればいいんだ?

 下手に追い出せば、報復にくるかもしれない。

 かといって、このまま奴らをのさばらせておくわけにもいかない。


「契約か……よし村長、ひとつ賭けをしようぜ」


 ドレイルが笑いながら言う。


「賭け?」

「それ次第で、村長の座をよこせ」


 いきなりむちゃくちゃを言ってきた。


「何がしたいんだ?」

「村長になりてえに決まってんだろ。これからバッファローのコートをたくさん作る村の村長なんて、誰だってなりたいに決まってるぜ」


 こいつ、俺のことを完全に舐めてやがる。


 どうする? このままだと、本当に村ごと乗っ取られてしまうかもしれない。もちろんこいつが村長になるなんて事態にはならないだろうけれども、こいつらを起点に悪い奴らが続々とバッファローを利用しに来るかもしれない。ここでビシッとこいつらを追い払わないと……俺はどうすればいいんだ?

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