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第3話 みんな幸せになれないかな

 俺は明日結婚するルディと、夜の高原へ散歩に来ていた。


「広いな、高原は」


 ルディが呟く。俺たちは村を大きくしてきたつもりだったが、タウルス高原はまだまだ広がっている。


「俺たちが知ってる高原なんて、ほんの一部なんだろう」

「もしかしたらこの奥地に、ヴァインバード牛より立派な牛がいるのかもしれないな」


 特に俺の前世の記憶が戻ってから不安だったことを、ルディは口にする。タウルス高原には強風のせいで大型の獣がいない、とは言われていたけれど人間がまだ足を踏み入れていない奥地には存在していたかもしれない。そこに俺がこっちの世界では得体の知れないバッファローなんて生き物を放逐したとして、どんな影響を与えているかわかったものではない。


 もしかしたらこの高原にしか存在しない草を食べ尽くしてしまったかもしれない。そのせいで餌や住処を奪われて滅んでしまった生き物もいるかもしれない。最初の頃は調子に乗ってバッファローを増やしてきたけれど、この高原自体にどんな生態系の変化を与えてしまったのだろうか。


「その牛たちがいるなら、住処を奪うような真似をしてしまって悪いことをしたな」


 俺は素直にそうルディに告げる。


「牛たちというかタウルス高原からすれば、俺たち人間だって似たようなものだ」


 ルディの言葉に、俺はどきりとする。


「開拓なんて、全部人間のエゴだ。自然と人間の言い分を聞いて、人間が入り込んでいくなら自然に迷惑をかけないっていう選択肢は全く存在しないんだ」


 ルディは続けた。 


「昔、父さんから聞いた話だ。まだ父さんが駆け出しの森林監察官だったときに、近くの村に狼が出るから退治してくれっていう話が出たんだ。だから父さんたちは狼を見つけ次第殺していった。大人の狼も、子供の狼もみんな。すぐに狼たちはいなくなった。そうしたら、どうなったと思う?」


 急に不思議な話を始めたルディに、俺は首を傾げた。


「どうって……狼がいなくなってよかったんじゃないか?」

「ところが、森の中で狼のエサになっていた鹿が狼に食べられなくなったものだから大繁殖。増えるに増えた鹿の食事をまかなえるほど、森は広くなかった。そうして、ついに森の中にエサがなくなった鹿たちはその村までやってきて、農作物を食べ始めたんだ」

「それじゃあ、今度は鹿を?」

「結局鹿を撃つしかなくなった。森からは狼も鹿も消えてしまった。今度は鹿が食べていた木の実や草が茂りに茂って、森の環境が悪くなった。父さんたちは余所から似た鹿を森に放したけど、その頃にはすっかり森は荒れ果てていたんだ。森が荒れると土地が悪くなる。土地が悪くなると、作物がとれなくなる。結局その村は森からの恩恵を受け取れなくなってしまった」


 俺はルディの話に言葉もなかった。前世でも生態系の保存みたいな話は聞いたことがあったけれど、ランドさんの実体験というこの話は今の俺に重くのしかかってきた。


「だからさ、もう人間が住んでいる限り自然を守ろうとかうまく調整しようとか無理なんだ。俺たちがここにいるだけでこの高原の生態系は変わっている。多分牛だけのせいじゃない。建物を建てたり、防風林を植樹したり、そういう行動全てがタウルス高原にとって何かを得て失っている形になるんだ」


 俺はラクシさんが「セレスティアの木が風を防いでくれている」と防風林の植樹をする計画を進めているのを思い出す。元々タウルス高原に木はなかった。しかし、セレスティア人が持ち込んだ種か何かがここで芽吹き、今では俺たちを護る立派な森になっている。元々ここで育っていた植物はどうなってしまったんだろう。開拓が始まる前から、俺たちは生態系を破壊していたんだ。


「なんだか、やっぱり僕たちは申し訳ないことをしてきたのかもしれないな。自分勝手に家を立てて、そこに住んでいた動物や植物を追い出してしまった」


 ふとラクシさんの顔がよぎった。セレスティア人もおんなじだ。前から住んでいたソルテア族を追い出して、自分たちの街を作っているんだと思うとなんだか腹が立ってきた。そんなことを考えて俺が落ち込んでいると、ルディが俺の背中を叩く。


「それでも、そのエゴの塊の開拓のおかげで俺はいい友人に恵まれた」

「なんだよそれ」


 ルディが笑ったので、俺も笑った。笑い声が、星空に吸い込まれていく。


「もう起きてしまったことは仕方ない。これからどう上手く付き合っていくか、だろう?」

「そうかもな」


 ルディの言葉に、俺は安心した。

 今なら、俺の話をルディは聞いてくれるかもしれない。

 俺はルディを信じることにした。


「あのさあ、もし、女神様が俺たちを結びつけたとしたら信じてくれるかい?」


 いきなり変な話をし始めた俺に、ルディは変なものを見るような顔で俺を見る。


「女神様? もしかして、その女神様はおっぱいが大きいか?」

「ああ、ものすごく」


 よかった、ルディは俺の戯れ言を覚えてくれていた。


「俺はその女神様に選ばれて、牛を手のひらから出せるようにしてもらって、このタウルス高原にやってきたんだ」

「随分と壮大な話だねえ、一体何の冗談かな?」

「いや、本気の話だ」


 ルディの顔から笑みが消えた。


「ちょっと恥ずかしいけれど、頑張って話してみようと思う。俺が何故手から牛を出せるのか、どうしてタウルス高原に来たのか、そもそもエリク・ヴァインバードは何者なのか」

「……わかった、好きに話せよ」


 それから俺は、異世界転生の秘密をルディに教えた。俺が実は記憶だけ他の世界からやってきた人間だということ。前世の俺は母親以外誰にも頼れない貧しくて可哀想な子供であったこと。あっけなく死んでしまい、俺を哀れんだ女神によってスキルをもらい、この世界に生まれたこと。そして俺のスキルを発揮できるこの高原にやってきたこと。


 思いつく限り、俺はルディに自分の境遇をぶつけた。ルディは立ったまま、俺の話を聞いてくれた。時折涙する俺をルディは励まし、そして一緒に泣いてくれた。


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