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第4話 バッファローは秘密なんだけどな

 ここのところ、大会館の工事や道路の話で随分と忙しい。マリィとは毎晩仲良くしているけど、最近まったく牛舎に顔を出していないことに僕は気がついた。


「モルーカ、元気にしていたか? 寂しくなかったか?」


 僕が暇を見つけて牛舎に行くと、モルーカは呑気に草を食んでいた。


「モルーカは寂しくて寂しくて、餌を食べる量もいつもより少なかったんだぞ」


 僕の姿を見かけたルディがやってきた。ルディとのんびり話すのも、久しぶりかもしれない。


「そうだったのか、ごめんなモルーカ」


 僕がモルーカの額を撫でると、モルーカはふんと鼻を鳴らす。ああ、これは怒っているに違いない。ごめんよ、ごめんよモルーカ。僕はなんて情けない奴なんだ。


「へっ、嫌われてやがる」

「うるさい!」


 僕とルディがやいやいやっていると、ウォレスさんがやってきた。今日は長毛種にするために掛け合わせる牛の選定の日だ。朝から長毛種用の牛舎にウォレスさんは詰めていたようだった。

 

「やあ、エリク君」


 ウォレスさんとじっくり話すのも久しぶりだ。何分、今のところ牧場関連はルディとガレーさん、そしてウォレスさんを中心に運営してもらっている。僕と言えば連日道路工事の資材や大会館の建設費用の計算ばかりやっている。ランドさんやカーラに手伝ってもらっているけれど、やるべきことはまだまだ山積みだった。


「ところでエリク君、君とルディがヴァインバード牛の第一発見者、でいいんだよね?」

「そうですけど、何か?」

「もう少し彼らを初めて見たときの様子を教えてほしいんだ、気になることがあってね」


 ぎくっ


 そんな音が僕とルディの間からした気がした。僕らは思わず顔を見合わせる。


「な、何でですか……?」

「僕は学者だからね。このヴァインバード牛という牛の生態を明らかにしたいんだ」


 んー、そりゃそうか。


 ウォレスさんは開拓団員の中でも特殊な立場だ。動物学者ということもあって、それなりに牧場仕事はこなしている。しかし牛を育てて売るという仕事をしていたガレーさんと違って、ウォレスさんは純粋に「ヴァインバード牛」という生き物を調べにやってきているのだ。


「それでひとつ尋ねたいんだが、この牛たちは本当に野生の牛だったのかい?」


 ぎくぎくぎくっ


 更に僕とルディは追い詰められた。視線だけで「どうする?」とルディが囁くので「どうしよう」と僕もルディに視線で返事をする。


「研究に有利になるからあまり考えなかったのだけど、そもそも野生の動物を一晩で家畜化できるものなのか僕は非常に気になっている。つまり、ヴァインバード牛を家畜化する過程がわかれば他の動物に応用できるんじゃないかと思うんだけど、どうだい?」


 ああ、もうダメだ。そこを突かれると僕は弱い。

 動物学者相手に僕らの変な言い訳は通用しないだろう。


 こうなったら、正直に言おう。


「あの、あのですね……」

「こいつが手から出したんです」


 僕が話し始めると、ルディが被せるように説明してしまった。ウォレスさんはにこにこしたまま、表情を変えない。冗談を言っているんだろうと思っているのだ。


「だから、こいつが手から出したんです。信じられないでしょうけど」

「手から牛が出る、だって?」

「そうです、やってくれよ。今なら他に誰もいないだろうから」


 ルディに言われて、僕は辺りを窺う。確かに、僕らを見ているのは他にモルーカしかいない。


「それじゃ、扱いやすい子牛を……」


 僕は右手を突き出して、久しぶりに呪文を唱えた。


「バッファローさんバッファローさん、おいでください」


 するとやっぱり右手が光って、そこから生きの良い雄の子牛が飛び出してくる。


「うわあ!」


 ウォレスさんは驚いて尻餅をついてしまった。そりゃあ、そうだろうな。


「手、手、手から牛が!」

「ウォレスさん、これがヴァインバード牛の秘密なんです」


 ルディが早速子牛を捕まえる。僕はウォレスさんを立ち上がらせて、これまでのことを話す。


「どうにも、僕が呪文を唱えると手から牛が出せるみたいなんですよ。どういう仕組みかはよくわからないんですけどね」


 ウォレスさんは目を白黒させている。


「……内緒にしてもらえますか?」


 ウォレスさんはじっと僕を見て、生み出された子牛を見て、それからルディを見た。


「見てしまった以上、信じるしかないけれども……しかし、なあ」


 ウォレスさんは腕組みをして考え込んでしまった。それから、僕をまたじっと見て尋ねてきた。


「どうして今まで黙っていたんだい?」

「だって、その、恥ずかしいじゃないですか。手から牛が出るなんて」

「恥ずかしいかい? 手から牛が出たら」

「はい」


 すると、ウォレスさんは声を出して笑った。


「そうか、恥ずかしいか。確かに、恥ずかしいかもしれないな!」


 ひとしきり笑ったウォレスさんは、晴れやかな顔をしていた。


「僕の手から牛が出せたら、好きなだけそれで金儲けをすると思うけどな。肉を売っても買ってもよし、見世物としても優秀だ。それでひと財産築いてやろうって思うよ。そういうことは考えなかったのかい?」

「ええと……あんまり……」


 どうだったかなあ。僕はタウルス高原に来たばかりで寂しかったし、あのおっぱいが大きな女神様のことが気になっていたからそこまで考えてなかったな。


「ふふふ、やっぱり君はいい人なんだね。わかったよ、内緒にしてやろう」


 ウォレスさんの言葉に、僕はほっと胸を撫で下ろす。しかし、ウォレスさんは残念そうな顔をしている。


「家畜化の謎は一気に解けてしまったけれど、これは公表するわけにはいかないな」


 まあ、誰も「手から牛が出てきた」って信じるわけがない。だから今まで通り、何故かわからないけどやたらと人なつこい野生の牛がいたと言い張り続けるしかないわけだ。


 バッファローは家畜化したんじゃない、僕が手から出したから人間に懐いているんだ。何故かそういうことになっている。きっとそれも「ラッキーチャンス!」とやらの一環なんだろうと僕は考えている。


 でも、こんな辺鄙なところで暮らしていて一体何が「ラッキーチャンス」なんだろう。どうせならもっと楽な暮らしに楽しい生活をしたいものだ。手から牛を出せたって、いいことなんか特にないと思うんだけど。


 こうして、僕の秘密はルディとウォレスさんが知ることとなった。それからたまにウォレスさんに呼び出されて、いろんなバッファローを出すよう要求されるようになったのはまた別の話だ。

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