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第4話 長毛種をつくろう

 開拓団で家族を持っているのはフロンティア家とカーペンター家、そしてゼルタス家の三家族だった。もちろん他にも開拓団員はいて、男性と女性でそれぞれ独身者用の小屋が用意されている。


 男の人が四人に、女の人が三人。フロンティア家が三人にカーペンター家が三人、ゼルタス家が四人で僕とミネルバ、あとウォレスさんで仮集落に住んでいる開拓団員は現在二十名だ。まだまだ発展途上の村とも呼べない集まりだけど、僕はヴァインバード家からやってきた監督としてバッファローでこの村、そしてタウルス高原をアルドリアン領に知らしめたいという気概が湧いてきた。


「そのためにも、この牛をどうにか生かせないかな」


 僕はルディと牛舎の前で集落の今後について考えていた。とりあえず今の時点で、人が住む最低限の基盤である住居、水と食料の確保と仕事については何とかなりそうだった。


「今でも十分生かせていると思うけど?」


 ルディが返事をする。確かにバッファローは僕たちの生活を一変させた。このタウルス高原では強風のせいで平地の牛は飼えないため、まともな牧畜はできないだろうと言われていた。せいぜい屋内にしまえる鳥を飼えるくらいだと思っていたが、タウルス高原の強風に耐えることができるバッファローの登場で僕たちはその認識を改めることになった。


「生きていくためだけなら、多分このままでいいんだと思う。でも僕たちは開拓しに来たんだから、この村をもっと大きくしないといけないんだ」


 僕の考えに、ルディは呆れたような顔をする。


「難しいこと考えるんだな」

「それが僕の仕事だからね」


 新しい村としてアルドリアン領政府から認められるには、最低五十人の人口が必要とされている。村として認められると、ここまでやってくる道の整備や交易なんかもやりやすくなるはずだった。


「それなら、人を呼ぶ魅力的な何かを作らないと」


 ルディが牛を撫でながら言う。


「例えばこの毛皮とか、俺は最高だと思うな」


 確かに、バッファローの毛皮は手触りがよくて今まで触ったことのないようなしっかりとした手応えを感じる。


「でも、毛皮って牛一頭から一頭分しかとれないじゃないか」

「何を当たり前のことを」

「毛皮をとるために牛を殺して、それで肉も消費してってなると少し勿体ないよ」


 バッファローはとても大きく、肉も脂肪もたっぷり取れる。そのため毛皮をとるためだけにバッファローを殺していくと、その肉をどう処理するかという問題が発生する。捨てるのは勿体ないし、皮を剥いだバッファローの死骸の処理も面倒になる。


「そうか……生きたまま毛皮が取れればいいんだけどなあ」


 ルディがむちゃくちゃを言ったので、僕は笑った。


「そんな馬鹿なことを……生きたまま毛皮をとる、だって?」


 僕の頭にある考えが閃いた。


「そうだ、生きたまま毛皮を取れればいいんだ!」

「どういう意味だ?」


 僕はルディに思いついたことを率直に打ち明けた。


「毛の長い牛と牛を交配させたら、長い毛を持つ牛が生まれるだろう? その牛と牛たちを交配させ続ければ、もっと長い毛を持つ牛が生まれる」

「つまり……もっと毛の長い品種の牛を作るっていうことか?」


 ルディは僕の話に興味を持った。


「そうだ。この牛の毛皮はしっかりしているけれど、しっかりしすぎて重すぎる。たくさん売るなら軽い毛織物だ。だけど、今の牛では一頭から取れる毛の量もたかが知れている」


 僕は思いつきを話しながら、次第にワクワクしてきた。それはルディも同じようで、一緒にワクワクした表情をする。


「それなら、毛がたくさん生える牛を作るべきだ!」


 ルディは手を叩いて、僕と一緒に叫んだ。それから僕の肩をがたがた揺さぶった。


「すごいじゃないかエリク! 毛の長い牛か! それは考えてなかったよ!」

「痛いよルディ……でも、すごいだろう?」


 僕はバッファローをタウルス高原の産業にするにあたって、何を一番の宣伝にするかをずっと考えていた。まずバッファローの乳はまずくはないが、平地の乳をとるのに特化させた牛には敵わない。大きな身体を生かして肉はどうかと考えたけれど、バッファローをどこで解体するのかを考えると、高原で解体しても麓へ届けるのに時間がかかるし麓までバッファローを大量に移動させる道もない。


 そこで運びやすくて商品にしやすい毛皮はどうだろうと考えていたけれど、バッファローの死骸問題があって大きな産業にするには躊躇われた。その点、長い毛のバッファローであれば毛を収穫しても毛は何度も生えてくる。平地で買われている羊のように飼えば無闇にバッファローを殺さなくてもいいし、何より毛織物は軽い。このタウルス高原から持ち出すのも楽だろう。


「しかし、毛の長い牛なんてよく思いついたな」

「なければ作ればいい、開拓団の精神に則っただけだよ」


 僕はタウルス高原へ来てから「なければ作ればいい」を実感していた。家、畑、服に食料。僕が都会でぼんやり生きてきた中ではわからなかったことがどんどん僕の中に入ってくる感じがする。


「ところで、君が毛の長い牛を出せば解決しないか?」

「そうだね、やってみよう」


 ルディの思いつきを僕は試してみることにした。とにかく毛が長いバッファローをイメージして、呪文を唱える。


「バッファローさんバッファローさん、おいでください」


 しかし出てきたのは、ごく普通の毛並みのバッファローだった。


「……これ以上毛が長いのは出せないみたい」

「そうか、それじゃあ品種改良が出来ることを祈ろうか」


 ルディは僕の失敗をなじらず、前向きにとらえてくれた。僕は彼のこういうところが好きだ。


「よし、早速ウォレスさんに相談しよう。エリク、君も来るんだ」


 こうして僕らはバッファローを品種改良して、長い毛の牛を作ることにした。それには途方もない時間がかかりそうだったけど、ルディと一緒に、この開拓団でするなら何でも出来そうな気がしていた。

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