Chapter 7
土曜日―。
夜の8時を回った頃に、竜也が静流を迎えにマンションに来た。
『ピンポーン』
「はぁい」
遥は玄関のチャイムを聞き、玄関へ向かう。
『ガチャッ』
遥がドアを開けると、ドアの向こう側で待っていた竜也が笑顔で口を開いた。
「こんばんは。静流、いますか?」
「あぁ。竜也君。いらっしゃい。ちょっと待っててね」
竜也を見て、遥も笑顔で返す。
そして、玄関脇の静流の部屋に向かって、大声で静流を呼んだ。
「静流ー。竜也君、来たわよー」
「あぁ…」
部屋のドアの向こう側から、気怠るそうな静流の声が返って来た。
「さぁ、入って」
遥は、笑顔で竜也を部屋の中へ通した。
「あっ、失礼します」
竜也は、遥に小さくお辞儀をして、静流の部屋のドアノブに手を掛けた。
『ガチャッ』
俺の背後で、部屋のドアが開く音がした。
俺がドアの方を振り向くと、そこには竜也が立っていた。
「おぉ、竜也。悪いな。まぁ、その辺に適当に座ってくれよ」
俺は微笑みながら、竜也に部屋の床の上に転がっていたクッションを渡した。
「あぁ、すまん。別に構わないぞ。どうせ、通り道だしな」
竜也は部屋の小さなテーブルの前に座り、タバコに火をつけた。
俺はテーブルの上の灰皿を、竜也に差し出しながら言った。
「まだ、時間あるからゆっくりして行こう」
俺は作業する手を止める事なく、微笑みながら竜也に言った。
「そうだな。…それにしても、静流の姉ちゃん、美人だよな?」
竜也はタバコをふかしながら、思い出したように呟いた。
「そうか?」
俺は、ギターの手入れをしながら、竜也の言葉に耳を傾ける。
「あぁ。それに優しいだろ?静流が羨ましいよ…」
竜也は、羨ましそうな目で俺を見た。
確かに、いろんな奴に言われる。
でも俺は、そう思った事は、一度も無かった。
俺は作業する手を止め、ギターをベッドに立て掛け、竜也の顔を見ながら言った。
「どこが?口うるさいだけだぞ?」
すると、突然、俺の背後で部屋のドアが開く音がした。
『ガチャッ』
俺がドアの方を振り向くと…。
そこには、ジュースが入ったグラスを2杯と、クッキーが盛ってある皿を乗せたトレーを持った姉が、静かに立っていた。
姉と目が合った瞬間、俺は背筋が凍りついた。
「…誰が口うるさいって?静流君?」
姉が只ならぬ気配で、俺を睨み付ける。
押し潰されそうな程の、異様なプレッシャーが俺に掛かる。
「い…、いえ、何でもないです…」
俺は思わずうつむいて、姉から目を逸らした。
(怖ぇ…)
怯える俺を横目で一瞥した後、気を取り直したように姉は、竜也に言った。
「どうしようもない弟だけど、よろしくね」
姉は満面の笑みを浮かべ、竜也を見つめていた。
「いえ、とんでもない。こっちこそ、迷惑掛けてるし…」
竜也は照れ笑いを浮かべながら、姉を見つめて答える。
「フフフ。遠慮しなくて良いからね?じゃあ、ゆっくりして行ってね」
姉は緊張する竜也を見て、微笑んだ。
「ありがとうございます」
竜也は照れたような微笑みを浮かべ、姉に小さくお辞儀をした。
「じゃあ、ごゆっくり」
姉はそう言うと、トレーをテーブルの上に置き、笑顔で俺の部屋を後にした。
「やれやれ…。なぁ、竜也?」
溜め息混じりに言いながら、竜也を見た。
「あぁ?」
竜也は出されたジュースを飲みながら、俺を見つめた。
「アレのどこが優しいんだ?見たろ?」
俺はうんざりした表情で、俺の背後にある、姉が出て行った部屋のドアに向かって、右手の親指で指を差しながらぼやいた。
「きっと口うるさいのは、お前の事が心配なんだよ。お前は、「たった一人の弟」だからだろ?優しいじゃねぇか。それに怒られるのは、大体、お前が変な事言うからだろ?」
竜也は、グラスをテーブルの上に置き、苦笑いを浮かべていた。
「フンッ」
俺は、ふてくされながら一言だけそう発し、タバコに火をつけた。
そして暫くの間、竜也と世間話程度の下らない話で盛り上がっていた。
すると、不意に竜也が自分のケータイを見て、話に終止符を打つように言った。
「そろそろ行くか?今、8時半を回ったぞ」
俺は竜也の言葉を確認するように、部屋の壁に掛けてある時計を見上げた。
「あぁ、そうだな。遅れると俊哉が、また怒るしな」
そう言いながら、俺達はゆっくりと腰を上げた。
俺はテーブルの上に置かれた、空のグラスと皿を乗せたトレーを手に取った。
それを一旦、キッチンへと運ぶ。
キッチンのカウンターテーブルの上に、空のグラスと皿を乗せたトレーを置きながら、姉に声を掛ける。
「じゃあ、姉ちゃん、俺達、出て来るから。多分帰りは遅くなる」
「分かった。気を付けてね。竜也君、またいらっしゃいね」
姉は食器を洗う手を止めて、俺達の方を振り向いて笑顔で答えた。
「ありがとうございます。ジュース、ご馳走様でした」
竜也は笑顔で、姉にお礼を言った。
そして、二人揃ってマンションを後にする。
来客用の駐車場に止められた竜也の車に乗り、ライブハウスへ向かう。
俺達は車の中で、これからのバンド活動についての事を話していた。
俺達の乗った車は9時になる10分程前に、ライブハウスに到着した。
俺達が来るのを見計らったようなタイミングで、俊哉と充も到着。
「よぉ。お疲れ」
そう言いながら、四人揃ってライブハウスの事務所へと入る。
「こんばんは」
俺は、事務所のカウンターの中に座ってテレビを見ているオーナーに声を掛けた。
「あぁ。いらっしゃい。おっ。その子が新しいギターか?」
オーナーは、俺達の方を見ながらゆっくりと腰を上げた。
「えぇ。そうです」
スタジオ使用の受付をしながら、俺は微笑みながら答えた。
「まぁ、気が済むまで練習していってくれ」
オーナーは、俺達に微笑みかけた。
「あれ?今日は土曜なのに、誰もいないんですか?」
俊哉は辺りを見回しながら、オーナーに問い掛ける。
「あぁ。珍しい事にな。他の連中はどうしたんだろうな?」
と、オーナーは溜め息混じりに、ぼやきにも似たような言葉を発した。
「まぁ、お前達だけの貸し切り状態。ゆっくりして行ってくれ」
そう言いながらオーナーは、カウンターの下から取り出したスタジオの鍵を俺に手渡した。
「ありがとうございます」
俺達は、オーナーから鍵を預かるとや否や、早速、2階のスタジオへ続く階段を上がる。
「なぁ、竜也?」
階段を上がりながら、俺は竜也に問い掛けた。
「なんだ?静流?」
「新曲、出来たのか?今、作曲中とかなんとか言ってたけど」
俺の問い掛けに、竜也はこう言った。
「あぁ。8割までは完成してる。後はギターソロだけだな。どうしてもギターソロで、タッピングをやりたくてな。なかなか良いのが、思い浮かばないんだ」
言い終わった竜也の表情からは、少しだけ不満が伺えた。
「こだわりがあるんだな…。出来たら、俺達に聴かせてくれよ」
「あぁ。良いぞ」
竜也は自信満々の笑みを浮かべて、俺を見た。
俺達は、2階のスタジオの前に立ち、ドアの鍵を開けて部屋に入った。
部屋の照明をつけると、たくさんの音楽用の機材が並んでいるのが見える。
それぞれの荷物を、適当に床の上に置く。
「じゃあ、さっそく、竜也の腕前を拝見しますかね」
俊哉は微笑みながら竜也を見つめた。
「あぁ。任せてくれ」
そう言うと、竜也はギターケースからギターを取り出し、音の微調整を始めた。
ギターの弦が、竜也の指で強く弾かれる。
「良し。こんなもんだろ」
そう言うと竜也は、自分の思いつくままギターを弾き始めた。
所々で目に付く竜也のギターの技術に、俺達三人は、目を奪われた。
「ほぅ。なかなかじゃないか。これならイケるな」
俊哉は満足そうな表情を浮かべながら、竜也のギターの腕前に唸っていた。
「とりあえず、みんなでやってみないか?」
俊哉の提案に、
「そうだな」
と全員の意見が一致。
一斉に準備に取り掛かる。
俊哉は、ベースをケースから取り出して、音の微調整。
充は、ドラムを叩いて腕馴らしと、ドラムの各部分を自分に合うように調整する。
そして竜也も、ギターの弦の再調整を始めた。
俺は呼吸を落ち着け、少しずつ声を出す。
「ア、ア~、アア~。うん。良し。調子は良い」
全員の準備が終わった段階で、俊哉が俺達に問い掛ける。
「何をやる?みんなが、知ってる曲が良いだろ?」
「GLAYなら、みんな知ってるしコピーした事あるだろうから、ちょうど良いんじゃないか?」
俊哉の問い掛けに竜也がそう答える。
「GLAYやLUNA SEAはコピーの定番だし、みんな知ってるしね。じゃあ、そうしようか」
俺は、竜也の意見に賛成した。
実際に演奏してみると、竜也にとっては、俺達B-Raveとは初めての演奏だったが、不思議と呼吸がピッタリと合っていた。
「うん。ピッタリだな。なんか、初めてだとは思えないくらいだな」
俊哉は笑いながら、竜也を見つめた。
「あぁ、そうだな。今度は、みんなでオリジナルの曲をやってみたいな」
俺は、竜也と演奏する俺達の曲がどういう風に化けるのか楽しみだった。
「俊哉?今、出来てるオリジナルの音源か、スコアを俺にもくれないか?」
思い出したように、竜也は俊哉に言った。
「そうだったな。竜也には、まだ渡してなかったな。ほら。これが音源だ」
そう言って、俊哉は持って来たバッグの中から、一枚のCDを竜也に手渡した。
「サンキュー。今度の練習までに覚えて来るよ」
竜也は、微笑みながらCDを手に取り、俊哉を見つめた。
「あぁ。頼んだぞ」
俊哉は、喜ぶ竜也に微笑みかけた。
「俊哉?今、スコアは無いか?とりあえず、すぐにでも覚えられそうな簡単な曲とかさ」
竜也は、思い立ったように俊哉に問い掛ける。
「あぁ、ちょっと待ってろ」
俊哉は、ついさっきCDを出したばかりのバッグの中を覗き込み、あるだけのスコアを取り出し、なるべく簡単な曲を探した。
「これなんかどうだ?ほぼ、コードだけだ。それにしても、一体、どうするつもりだ?」
俊哉は、竜也に問い掛けた。
その俊哉の手には、3枚綴りにされた紙があった。
「一時間、時間をくれ。今、覚える」
竜也は、俊哉からスコアを受け取るや否や、スタジオの椅子に腰掛け、すぐに譜面と睨めっこを始めた。
「分かった。なんなら、竜也の好きなように、アレンジ加えてもらっても構わないからな」
俊哉は、真剣な表情の竜也に微笑みかけた。
「ありがとう。ちょっと待っててくれ」
竜也はそう言うと、スコアを見ながら、一つ一つの音を拾い上げるように、ゆっくりとギターを弾き始めた。
「俺は竜也に、テンポとか教えるから、お前達は少し待っててくれ」
俊哉は俺と充にそう言うと、竜也の隣の椅子へ座った。
「充、少し外へ行かないか?」
俺は二人の邪魔をしないようにと、充を外へ誘う。
「あぁ、良いよ」
俺と充は、一旦スタジオを出る。
タバコを吸おうと、シャツの胸ポケットを探った。
「あっ。タバコ、一本しかねぇじゃん」
俺はタバコを箱から取り出し、空箱を握り潰した。
「コンビニ行くかい?」
充は、笑顔で俺を見つめながら言った。
「あぁ。散歩ついでに行ってみるか」
俺は充と一緒に、ライブハウスの近所のコンビニへ向かった。
「なぁ、静流?竜也すごいな」
買い物を済ませ、コンビニの駐車場に出た所で、充が俺に言った。
「あぁ。ギターの腕が、あそこまで上手いとは思わなかったな」
俺も、竜也の演奏するギターを目の当たりにして、あまりのレベルの高さに感心していた。
「一時間で覚えられるかな?」
充は、少し心配したように呟く。
「俊哉が付いてるし、竜也なら出来るだろう」
俺はそう言いながら、買って来たコーヒーを開け、駐車場の車止めの上に座った。
そして、そう言いながら心の中のどこかでは、竜也となら俺達B-Raveの夢を叶えられるような気がしていた。
「静流は、どうやって竜也を見つけたんだ?」
充は、俺の座っている横の車止めに座り、俺と竜也との出会いのきっかけを問い掛けた。
「あぁ。たまたま、同じバイト先だったんだ。この前バイト中にバンドや音楽の話をしたりしたから、こいつならって思ってさ…」
俺は充にそう答えながら、自分の直感は間違いじゃなかったと確信していた。
「ふーん。なぁ、静流?竜也となら、俺達の夢、叶えられそうじゃないか?」
どうやら充も、俺と同じ事を思っていたようだ。
「あぁ。俺達が、B-Rave組んだばっかりの時の、アレだな」
俺は充に微笑みながら、バンド結成当時の事を思い出した。
「そうそう。俺達が、「音楽の世界で新しい風を吹かせてやる」って、夢…」
無邪気な笑みを浮かべながら、充も俺達の夢の話を思い出していたようだ。
「とにかく、メンバーは揃った。後は、やるだけさ。やれる所までやってやろうじゃん。なぁ、充?」
俺は、充にそう微笑みかけた。
そして、心の中では、
「俺は、俺達の夢の為に突っ走るだけだ」
と、自分に言い聞かせていた。
「そうだね。今まで以上に、楽しくなりそうだな」
充は、俺達のこれから先の事を想像しているのか、嬉しそうな表情で夜空を見上げていた。
「まぁ、とにかく。俺達のやれる所まで突っ走ってやろうぜ?な?充?」
「そうだな。俺達の夢の為に頑張ろうぜ?な?静流?」
俺と充は微笑みながらそう言って、バンド結成時の夢の実現をお互いに再確認し合った。
そして、暫く俺と充は、夜風を浴びて夜空を見上げながら話をしていた。
ふと、時間が気になり、俺はケータイの待受画面の時計を見た。
竜也達が練習に籠ってから、既に、一時間は経っていた。
「そろそろ二人の所へ戻ってみるか?」
俺はゆっくりと立ち上がりながら、充に微笑みかけた。
「そうだね」
充も笑顔で立ち上がる。
そして、俺達は来た道を引き返してライブハウスへ戻り、2階のスタジオへと入る。
「どうだ?出来そうか?」
俺は、スタジオで休憩している二人に問い掛けた。
「あぁ。いつでも行けるぞ」
竜也と俊哉が、声を揃えて微笑む。
「じゃあ、やってみよう。行くぞ?」
俊哉の掛け声と共に、全員が一つになって、音を奏でる。
充のシンバルを合図に、竜也のギターがノイズの混ざった甲高い
『キュイーン、キュルキュル』
というメロディを奏でる。
そこへ俊哉のメロディアスながらも
『ヴゥーン』
とうねるベースの音色と、充のタムとスネアの疾走感溢れる、歯切れの良い
『タカタカタカタカ…』
という高速リズムと腹の底まで
『ドスンッ』
と、響く破壊力のあるバスドラの音色が絡む。
そして俺は、他の三人に負けないように、腹の底から出した時に激しく、時にクリアに澄んだ歌声を三人の魂の籠ったメロディに乗せた。
竜也が加わる以前の俺達には無かった、音の厚み、響き、そして、スタジオを全体を破壊するようなうねりを感じた。
ベースのネックを握ったまま、うつむいた俊哉の左手が震えていた。
「コレだ…!!」
そう、メンバーの誰もが確信した。
「行ける。俺達ならやれるっ!!」
心の中の歓喜の叫び声と共に、俺も自分の胸が高鳴るのを感じた。
暫く音の余韻に浸っていた俺達を、現実の世界に引き戻すかのように、
「あのさ…。俊哉って、メロディアスなベース多いよな?そのメロディアスな部分を残しながら、もっとうねらせてみたらどうだ?多分、もっとリズムがはっきりすると思うんだ」
と、竜也は俊哉のパートについて、竜也なりの考えを提案した。
「なるほどな。それは良いかもしれないな。少し変えてやってみよう。そう言えば、竜也?ギターソロの部分は、もっとノイズを効かせても良いぞ。きっと、俺のベースに絡まって良い感じになると思うんだけどな…」
「じゃあ、こんな感じでどうだろう?」
そう言うと竜也は、軽々と自分流にアレンジを加えたギターソロの部分を奏で始めた。
俺達は、その激しく、攻撃的で、そして甲高くて速いノイズの入り交じったメロディに耳を傾けてじっくりと聴いた。
「おぉ。良いじゃないか!!素晴らしいっ!!」
俊哉は拍手をしながら、興奮した様子で椅子から立ち上がった。
「…で、ギターソロみたいにこんな感じで、ラストサビの辺りくらいからエンディングまで、派手に『キュルキュル』言わせたらカッコ良くないか?」
竜也は、子供のような無邪気な笑みを浮かべ俊哉を見つめた。
「あぁ。もうその辺りは竜也に任せる。完成した時には、良い曲になってるはずだからな」
すっかり竜也の腕を信用した俊哉は、笑顔で竜也を見て言った。
「じゃあ、もう一回やってみようぜ?」
竜也は、笑顔で俺達に言った。
「あぁ。やってみよう。充?イントロから派手にぶちかましてくれないか?ビートはお前に任せる。好きなように叩いてみてくれ」
俊哉は充のドラムに激しさを求めたのか、充に充なりの自由奔放なドラムを求めた。
「分かった。いつもよりちょっとだけ速く叩いてみるよ」
充は俊哉に、
「自分の好きなように叩け」
と言われた事が嬉しかったのか、はしゃいだ様子でスティックを両手に持ち、ドラムを無茶苦茶に叩き鳴らした。
充のドラムの音が鳴り止むのを待って、俺は俊哉に問い掛けた。
「俊哉?所々でシャウトしても良いか?その方がきっと迫力出るぞ?」
「ふむ…。それも、良いかもしれないな。良し。歌の事は静流に任せた。静流の好きなように歌ってみてくれ」
俊哉は微笑みながら、俺を見て言った。
「あぁ。任せてくれ」
俺は親指を立て、得意気な表情で俊哉に微笑んだ。
俺達はお互いに、意見を出し合って、納得の行く曲になるまで繰り返し音を出し続けた。
スタジオ全体が揺れて、今にも崩壊してしまうような錯覚すら覚えるとてつもない音圧に、身体の芯から震えた。
「完璧だ。これなら、俺達の、理想の音楽にきっと届く」
俊哉は、今までにないくらいの満足気な表情で呟いた。
それは、俊哉だけではなく、この場にいて実際に音を出した俺達全員が確信していた事だった。
俺が三人の顔を見渡すと、誰もが満足感で満たされたような表情をしていた。
「充、今の曲、前と後で、ちゃんと録音してあるか?」
俊哉は、余韻に浸る俺達の目を覚まさせるかのように言った。
「あぁ。バッチリだ。ちゃんと取れてるよ」
充は嬉しそうな表情で、CDを録音用の機材から取り出しながら答える。
「良しっ。じゃあ、これは帰って新しいCDに焼き付けて、またお前達に渡すからな?」
俊哉は微笑みながら、録音したばかりの音源を手に、俺達に言った。
「今日は、もう遅い。それに、十分な収穫があった。次の練習まで、みんな、ちゃんと覚えておいてくれ」
「分かった」
俊哉の締めの言葉を合図に、俺達はいそいそと帰り支度と、スタジオの後片付けを始めた。
俺達は、夢へ向かって大きな一歩を踏み出した。
竜也と言う、強力な仲間を得て。
俺達の音楽は、まだまだ進化するだろう。
音楽が低迷しつつあるこの時代に、俺達が一つに集まったのは、運命なのか、それとも、神の悪戯なのか…。
新しく生まれ変わり、大きく前進する事になった、俺達「B-Rave」の初の音合わせは、大きな成果をもたらして終了した。




