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Chapter 52


「…と、言う訳だから、俺と静流の答えは、「BLAST Recordsに、ずっと所属する」つもりだよ。今のメジャーは、俺達の肌には合わない。それこそ、今の音楽シーンが90年代のような時代なら、話は別なんだけどさ…」



俊哉はそう言いながら、タバコをくわえ、オイルライターでタバコに火をつけた。



『カチンッ。シュボッ…』



『パチンッ』



数秒間の無言の空間に、オイルライターの外装の乾いた金属音が響く。



「フゥー…」



俊哉は、長い金色の前髪を左手で掻き上げながら、煙を天井に向けて吐き出した。



「まぁ、俺も昔はバンドやってたから、君達の気持ちはよく分かるんだよ。俺も、正直、今の業界にも音楽にも、あまり魅力は感じられない。世間が流行に左右され過ぎてる。下らない、「子供のお遊戯」みたいな物ばっかりが流行ってしまって、本当に能力のあるメジャーのアーティストさん達や、魅力のある音楽が、一部のふざけたお遊びみたいな物達に埋もれてしまって、ホントに可哀想だよ」



富永さんはそう言いながら、ソファからゆっくりと立ち上がった。



彼の表情には、どこか淋しさが漂っていた。



「でもね?富永さん?」



俺は、俺達に背を向けて立ち上がった富永さんの背中に、静か語り掛ける。



「ん?何だい?静流君?」



事務所の窓に向かって歩き出していた富永さんは、俺の呼び掛けに足を止め、振り返って俺を見つめた。



「俺達は、信じてる。いつかはきっと、また実力が物を言う世界になる事を。そりゃ、流行り廃りはあるけどさ。結局、流行りなんて、一時的なもんでしょ?良い曲は、いつまでも変わらず聴いてもらえる。カラオケとかで歌ってもらえる。一時的に流行った物は、時間が経てば忘れ去られてしまうか、「あぁ。そんなのもあったなぁ…」程度で、きっと軽々しく扱われて終わりだと思うんだ。だからよく、「そう言えば、あのバンド消えちゃったね。どこ行ったんだろ?」、「さぁ?」って言う事が起こるんじゃないかな?ホントに技術があるミュージシャン達なら、解散してから長い時間が経ったり、世代が変わったりしても、「名前は知ってる」とか「あっ。この曲、どっかで聴いた事ある」って、言われるから。これが、ホントに魅力のある音楽であり、ミュージシャンなんじゃないかと思うんだ」



俺は、自分の思っている持論を率直に富永さんに語った。



そして、富永さんは俺の持論に対して、こう話しながら、窓の方へと静かに歩き出す。



「…確かに。静流君の言う通りかもしれない。流行りに乗るだけなら、簡単な事かもしれないね。仮に、流行りに乗っかって有名になれたとして、その先、自分達の知名度を維持し続ける事の方が難しくて、並大抵の事じゃないからね。大体は、流行りが終わった途端、完全に無かった事として、「流行りと一緒に時間の流れに飲み込まれて、フェードアウト」なんて事の方が多い世の中だしねぇ…」



富永さんはそう言い終わると、静かに窓のブラインドを上げ、外の景色を見つめていた。



「そうだよね…。だけど、俺達にとっては、それは絶対に避けなきゃいけない事なんだ。だから、自分達の作る曲に、一切の妥協は許されない。流行りだろうが何だろうが、そんな事には流されないで、常に上を見て、自分達の技術を磨いて、そして、遊ぶにしても、命懸けで遊ばなきゃ。じゃないと、聴く人の心には響かない。聴く側の立場に立って、心に響く音楽を作る。俺達が昔聴いて、影響をモロに受けた大物ミュージシャン達の音楽みたいに、今度は、俺達がそれを作って行かなきゃいけない。そして次の世代へ、また俺達の心や思いを繋げて行かなきゃいけない。こうやって、良い音楽は伝えられて行くんじゃないかな?」



俺の持論を、更に援護するかのように、俊哉の持論も続いて展開される。



「そう…。静流の言う事は間違いじゃない。だから、今の音楽シーンの大物ミュージシャン達や、解散して伝説にまでなっちまった化物バンドさん達は、それをやり続けたから…、自分達の追い求める音楽に妥協を許さなかったから…、そう成り得た。聴く人の心に響く音楽を作ったから。自分達の心が、思いが、聴く人に届いたから。だから、今でも、その人達の作った命が籠った曲達を聴く人は聴いてる。それも、半端じゃない数の人間がな…。仮に、過去に解散して伝説になったバンドが一回だけでも復活したとして、ドームでライブでもやってみろ?きっと、即日、SOLD OUTで、即満員だぞ?」



俊哉は独り言のようにそう言って、ソファの背もたれに寄り掛かり、天井を見上げ、溜め息と一緒にタバコの煙を吐き出した。



「そうだね。俊哉が言うように、良い物は時間が経っても良い物だもんな…。だからって言って、俺達は大物ミュージシャン達の音楽その物をパクってる訳じゃない。そりゃ、影響は受けてるから、多少、雰囲気なんかは似てしまうだろうけど…。俺達が、大物ミュージシャン達からパクるべきは、偉大なミュージシャン達の、「音楽への真面目な姿勢や生き様」なんだ。良い所は見習ってパクらないとね。そうしてれば、その内きっと、自分達のオリジナルの生き様なんかも、見えて来る気がするんだよね…」



持論を展開していく内に、俺の心の中に、「自分の生き様」のような物が、朧気ながら見えて来た気がしていた。



「君達は、大物ミュージシャン達と同じような匂いがするよ。俺には、君達が大物ミュージシャン達が過去に成し得た偉業を、同じように再現出来る可能性が感じられるんだ。音楽のセンスもある、技術もある、カリスマ性もある。そして、何より、自分達の追い求める音楽に、聴く側から見ても、妥協が一切感じられない。俺は、君達のそういう、「音楽に対して、純粋で一途」な所に惚れたんだよ」



窓の外を見つめながら話していた富永さんは、微笑みながら振り向いて、俺達を見つめた。



「でもな?富永さん?結局の所、最後に評価を下すのは、富永さんでもなく、俺達でもない。紛れもなく、俺達の音楽を聴いてくれる人達なんだ。だから、俺達は、自分達に自己評価をするなら、絶対に満点にはしない。俺達自身が満点にしちまうと、そこで終わりだからさ。仮にみんなが、俺達に満点を付けたとしても、俺達自身の評価は90点。ずっと上を目指し続けるのなら、それで良い。みんなの期待を、良い意味で裏切れるように、俺達は、常に満点を取っちゃいけないんだ。だからと言って、自己評価が低すぎても、自分達に自信が持てなくなってしまうし、それに自信の無い気持ちなんて、ファンにはすぐに感付かれてしまうからそれも駄目だ。ファンは、何でもお見通しだからな。ごまかしは効かない。だから、そう言う意味でも90点なんだ」



俊哉は瞑想するように、両膝の上に両肘をつき、両手を組んで、うつむくように自分の眉間を、組んだ両手に当てていた。



「俺達は絶対に、これからの音楽シーンの頂点に立ってやる。とことんまでやるからには、そのくらいの意気込みは必要だからね。だけど、俺達はそれでも止まらない。止まれない。まだまだ、今度は、俺達に音楽の楽しさを教えてくれた、生き様を見せてくれた大物ミュージシャン達を超えられるように…。その時は、俺達を引っ張ってくれた富永さん達に、いの一番に、良い景色を見せてあげるからさ」



俺はそう言いながら、力強く拳を握り締めた。



「ありがとう。楽しみにしてるよ。それに、静流君達がそうなったら、亡くなった静流君の彼女さんも、きっと喜んでくれるはずだから…」



「あぁ。富永さんの言う通りだな。俺達は、大切な人達の笑顔に会う為、大切な人達に元気と勇気をあげる為に、しっかりやらないとな。な?静流?」



富永さんと俊哉は、微笑みながら俺を見つめていた。



「…あぁ。俺は、俺に与えられた事を、ただ命懸けでやるだけさ」



俺は、二人に微笑み返しながら静かにそう言った。



「さてと…。じゃあ、用事も済んだし、帰るとするか?」



俊哉は立ち上がりながら、俺に合図を送るかのように微笑みかけた。



「うん。じゃあ、富永さん。また」



俺はそう言いながら、ゆっくりと立ち上がり、ソファに立て掛けた自分のギターが入ったギターケースを左肩に掛けた。



「あぁ。わざわざ来てくれてありがとう。二人共、気を付けて」



富永さんは、微笑みながら俺達を見送ろうと、俺達の後を付いて来る。



それに釣られるかのように、事務所のスタッフ達までも俺達に付いて来る。



「みんな、ありがとう」



俺と俊哉は、富永さんや、事務所のスタッフ達の見送りで、事務所を後にした。



エレベーターホールでエレベーターを待つ間、俊哉が俺に問い掛ける。



「静流?どうする?Lumierにでも寄って行くか?」



エレベーターに乗りながら、俺は俊哉の問い掛けに答える。



「あぁ。ついでに、三人にも招集掛けようぜ?どうせ、みんなあの辺にバイト先固まってんだからさ」



俺はそう言いながら、ケータイを取り出し、



「バイト終わり次第、全員Lumierに集合!!来ないと、俊哉兄さんの雷が落ちる、落雷警報が出てるぞ〜」



と、打ち込んだ。



「ら、落雷警報って…。お前なぁ…」



俺のケータイのメール画面を見た俊哉は、苦笑いを浮かべた。



「良いじゃん。これなら、一発でみんな来るしさ。ほら、昔から言うじゃん?「鶴の一声」ってさ」



俺は笑いながら、その内容のメールを、竜也と充、薫のケータイに一斉に送信した。



「これで良し…と」



そうこうしている内に、エレベーターは1階に到着した。



ビルの正面玄関から外へ出ると、ここへ来る前の曇り空と打って変わって、街は綺麗なオレンジ色の夕日に染まっている。



雨上がりの外の空気は、冷んやりしていて、ほんの少しだけ重く感じられた。



通りの路面が濡れている事を考えると、雨が降っていたという事実だけは分かった。



「ラッキーだったな…」



俊哉は、夕日を眩しそうな顔で見ながら、そう呟いた。



「俺の天気予報は、また当たったみたいだな」



俺は笑いながら、ビルの正面玄関の3段しかない階段を飛び降り、通りに出た。



「ホント、お前の天気予報は正確だよ。…降るか降らないかで言うとな」



俊哉は足下を確認するようにゆっくりと階段を降り、意地悪く微笑みながら、俺を横目で見た。



「さすがに、降る量までは分かんねぇよ…。もし、分かったとしたら、テレビの天気予報は要らねぇじゃん?」



俺は、苦笑いを浮かべながら、駅へ向かって歩き始めた俊哉の後を追った。



「ははは。まぁ、そうだな」



俊哉は、背中越しに笑いながら言った。



夕日を見ながら、俺達は、駅までゆっくりと歩いて行った。



電車に乗り、渋谷へと戻る。



俺達は、駅からLumierまでの道のりを脇目も振らず、歩いて行った。



Cafe de Lumier―。



「よっ。二人共、お疲れっ」



薫が、ウッドデッキの上から、通りを歩いていた俊哉に気付いて手を挙げる。



「おぉ。お前達早いな…」



俊哉は足を止めて、微笑みながらデッキの上にいる薫達を見上げていた。



俺が俊哉の声に反応し、ウッドデッキを見上げると、一番通り側の席に、既に竜也と薫が座っていた。



俺は二人を見るなり、デッキの上へ向かって小走りをした。



「俊哉、早く上がろうぜ!!」



カフェの入口で一旦立ち止まり、俺は俊哉の方を振り向いて叫んだ。



「あぁ」



俊哉はそう言って、俺の後をゆっくりと追うようにデッキの上に上がり、先にデッキに上がった俺達の元へと向かって来る。



「お前達は、集合掛けたらすぐに来るから優秀だな」



俊哉はそう言いながら、微笑んで薫と竜也を見つめた。



「そりゃ、あんなメール来たら、誰だって来るって」



竜也は苦笑いを浮かべながら、コーヒーを口に運んだ。



「あれは、勝手に静流が送ったんだ。俺は一切関係ねぇよ…」



俊哉は苦笑いを浮かべ、そう言いながら、椅子の背もたれに手を掛けた。



「またお前か…。お前は、絶対に俺を嵌めるよな?」



竜也は、しかめっ面で俺を一瞥した。



「あははは。まぁ、大事な話があったから、早い方が良いだろうって思ってさ」



俺は笑いながら、膨れっ面の竜也の横に座り、竜也の肩を軽く叩いた。



「ったく…。お前には、敵わねぇよ…」



竜也は、溜め息をつきながら俺を一瞥した後、苦笑いを浮かべてコーヒーカップに手を伸ばした。



ちょうどそこへ、瑞希が嬉しそうな表情でやって来た。



「いらっしゃい。待ってたよ」



瑞希は満面の笑みを浮かべ、俺と俊哉を見つめた。



「瑞希?俺達にもホットコーヒーをくれるかな?」



俺は、瑞希に微笑み返しながらコーヒーをオーダーする。



「うん。ちょっと待っててね」



瑞希は嬉しそうな表情で、店内のカウンターへ向かって行った。



「充はまだか?」



俊哉は席に着いたままそう言って、通りを行き交う人を見回した。



「あぁ。バイトがちょっとだけ延びるって言ってたぞ」



竜也はタバコに火をつけながら、俊哉にそう言った。



「そうか。じゃあ、もう少し待つか」



俊哉はそう言って席を立ち、店内のトイレの方向へ向かって行った。



「なぁ、竜也、薫?」



俺は、二人に声を掛けた。


「なんだ?」



竜也と薫が、俺の顔を見つめる。



「新曲出来たぞ」



俺は微笑みながら、ギターケースの中から、あのルーズリーフを取り出した。



そして、それを二人の手元に静かに置いた。



「見て良いのか?」



竜也と薫が声を揃えて、俺の顔を覗き込む。



「あぁ、もちろん。二人の感想を聞かせて欲しいんだ」



俺はそう言いながら、二人に微笑みかけた。



「じゃあ、静流がそう言うなら…」



竜也はそう言って、ルーズリーフを静かに開いた。



そして、二人は新曲のMinstrel Songが書かれたページを食い入るように覗き込む。



「…これって、麻紀ちゃんの事?」



竜也はそう言いながら、俺の顔を覗き込む。



「あぁ。俺の頭の中にずっと引っ掛かってたメロディと言葉を形にしたら、結局、麻紀の事になっちゃってさ…」



俺は、頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。



「お前、麻紀ちゃんの事、よっぽど好きなんだな…?」



竜也が、意地悪く冷やかすように俺に微笑みかける。



「良いじゃねぇか、別に…」



俺は、照れ臭さをごまかすように口を尖らせた。



「でもさ、静流の麻紀ちゃんに対する気持ちが籠ってて、すごく良いと思うよ。俺は、この曲、好きな部類の曲だな。ちょっと切なくて悲しいけど…」



薫は微笑みながら、薫自身のありがたい率直な感想を俺に聞かせてくれた。



「ありがとう。薫。でもさ、俺、いつまでも未練がましくて、恥ずかしいよね…?」



俺は、苦笑いを浮かべて薫を見つめた。



「バカだなぁ、静流は…。どこが未練がましいんだよ?それだけ、麻紀ちゃんの事、大切なんだろ?この曲は、静流の優しさの塊だよ。良い事じゃないか。女の子を泣かせたり、女の子を取っ替え引っ替えするようなヤツなんかより、ずっと立派だよ」



薫は、俺の気持ちを理解してくれたような微笑みを浮かべていた。



「ありがとう。薫…」



俺が、次の言葉を言い出す前に竜也が割り込んで来る。



「お前が、それだけ優しいから、麻紀ちゃんはお前を選んだんだろ?もっと自信持てよ?お前の気持ちは、誰よりも俺達の方が分かってる。そりゃ、俺達でも麻紀ちゃんには敵わねぇけどな。だけど、お前がそんなんじゃ、麻紀ちゃんが泣くぜ?もっとさ、楽に行こうぜ?お前の事をバカにしたり、変な目で見るヤツは、俺達が正義の鉄槌を食らわしてやるからさ。安心しろ。それに俺も、この曲気に入ったぞ?既に、どんなアレンジ加えてやろうかウズウズしてるんだ。帰ったら一緒にアレンジしようぜ?」



竜也は、満面の笑みを浮かべ俺に優しい言葉を掛けてくれた。



「そうそう。竜也や薫の言う通り。お前のフォローは俺達がしてやる。だから、お前は、お前の思う曲を、詞を作れば良い。お前に危害を加えるふざけたヤツがいるんなら、この俺様がブッ飛ばしてやるさ」



俺の目の前には、夕日に照らされた笑顔の俊哉が立っていた。



「みんな…。ありがとう」



俺は麻紀がいなくなってからというもの、どうも涙腺が緩んでしまったようだ。



知らず知らずの内に、生温い雫が頬を伝っていた。



「別にいじめてんじゃねぇんだから泣くなよ…」



竜也は、俺を笑わそうとわざとらしく意地悪を言った。



「はは…。そうだね」



俺は涙を手の甲で、



『ゴシゴシ』



と拭い、三人に微笑んだ。



遠くから様子を伺っていたように、タイミング良く瑞希が、二人分のコーヒーを俺達の所へ持って来た。



「静流?新曲出来たんだって?あたしにも聴かせてよ?」



瑞希も微笑みながら、俺を見つめる。



「あぁ。分かった。じゃあ、充が来たらみんなに聴かせるよ」



俺は微笑んで、四人の顔を見た。



四人が俺を見つめる顔は、どこか温かくて優しさに満ちていた。



俺はきっと、他の誰よりも恵まれているのかもしれない。



俺が生まれた時から、全ては始まっていて、本当の親に捨てられた事は不幸では無く、幸せの始まりだったんじゃないか。



こうして、俺には困った時、辛い時に支えてくれる仲間がいる。



そして、短い時間だったけど、麻紀は俺にたくさんの「愛」をくれた。



俺に、「人を愛する事」を教えてくれた。



願わくば、麻紀とずっと一緒にいたかった。



俺の全てが朽ち果てるまで、麻紀の笑顔を見ていたかった。



けれど、それは決して叶わぬ夢であり、現実はとても厳しい物だった。



地獄に落とされた気分に陥って、暗闇で一人もがき続けた。



それでも、俺を見捨てずに手を差し伸べてくれた人達のおかげで、今の俺は地獄から少しずつ這い上がり、そして、幸せの方へ向いて歩き始めたのかもしれない。



今の俺がここにこうしていられるのは、ここにいる俊哉、竜也、薫、瑞希…。



それに、バイト中の充に、どこかでサボっている、Lumierのマスター、地元で俺を応援してくれている、姉や巧兄…。



俺達を引っ張ってくれた、BLAST Recordsの富永さんと事務所のスタッフ達…。



そして、誰よりも一番、俺の心の中で、俺の傍でずっと俺を支えてくれている麻紀と…。



俺は、いろんな人に助けられてここにいる事を実感した。



きっと、



「ありがとう」



と、何万回言った所で言い足りないくらい、俺は、いろんな人達に助けてもらっている。



こんな弱い俺を見捨てずに、温かく見守ってくれている人達の為に、



「俺の恩返し」



と、



「ありがとう」



を込めて…。



俺は、胸を張って朽ち果てられるように…。



「みんな、ありがとう。俺、不器用だけど、またみんなの足を引っ張るかもしれないけど、頑張って生きるから。恩返し出来るように生きるから。だから、みんな…。これからも、よろしくね」



俺は、ありのままの気持ちを、大声で伝えた。



四人は、初めは目を丸くしていたが、



「ぷっ…。くっ…。あははは…」



と、嬉しそうに笑いながら俺を見つめていた。



「俺、なんか変な事言った?」



四人の笑顔を見た俺は、何故笑われたのか理解出来ず、自分の頭の上に「?」が飛んでいるような気がした。



「何を今更「ありがとう」なんて言ってんだよ?「ありがとう」なんか要らねぇよ」



俊哉は笑いながら、俺の頭を軽く叩いた。



「そうそう。俺達は、仲間なんだ。遠慮は要らねぇ」



そう言いながら、竜也まで俺の頭を叩く。



「静流?俺達は兄弟みたいなもんだ。困ってる兄弟を見捨てる程、俺は冷酷じゃないぜ?」



薫は俺に肩組みをして、耳元で囁く。



「そうそう。困った時はお互い様。それに静流は、あたしの大切な友達だし、憧れの人でもあるんだからね?ほらっ。笑って?」



瑞希は微笑みながら、俺を上目遣いで見つめた。



「悪かったよ…。みんな…。俺、もっと強くなるよ。強くなって、みんなに心配掛けないようにするから」



俺は、苦笑いを浮かべながらも心の中は、すごく晴れやかな気分で満たされていた。



「みんな、ホントにありがとう…」



俺は、心の中でそう呟いた。



ビルの谷間に沈みかけた夕日は、俺達五人の笑顔を暖かなオレンジ色に写し出した。



暖かい夕日の温もりと、温かい人の温もりを、自分の心と肌で感じていた。



優しい夕日に照らされて、幸せに向かって、俺達は、ゆっくりと歩き始める…。




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