Chapter 47
その日の、夕方。
「ただいま。あぁ〜、疲れた〜」
そう言いながら、竜也は、俺がいるリビングに入って来た。
「おぉ。良い所へ帰って来た。竜也、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
「ん?なんだ?静流?」
俺の唐突な質問に、竜也は、不思議そうな表情を浮かべた。
「実はさ…。昼間、瑞希に言われてさ。薫が、まだ何も言ってくれないって。あたしには、脈が無いのかもって言ってたんだよなぁ…」
俺は、昼間に瑞希と話していた事を竜也に話した。
「はぁ?アイツ、まだ瑞希に告ってねぇの?俺達がけしかけたのに…」
竜也は、呆れた顔で俺を見た。
「そうそう。だからさ、薫について色々聞きたい。今度は、俺が薫を煽るからさ」
薫は、「超」が付く程の奥手という事と、恋愛に対しては、かなりの臆病という事が分かった。
「なのに、あんなにヤキモチ焼きなんだな?」
俺は、竜也に確認を取る。
「あぁ。カフェで、昨日見ただろ?あんな感じだ」
「ふぅーん、なるほどな…。さて…と。なんか良い方法無いかな…?」
俺は頭を落ち着けようと、テーブルの上のタバコに手を伸ばした時、リビングのドアが突然開いた。
「おぉ。お前達、何してんだ?」
「あぁ、俊哉。良い所へ帰って来た。実は…」
「何なんだ?一体…」
俺は俊哉に、昼間、瑞希と話していた事と、薫を瑞希に告白させようとしている事を話した。
「何?アイツまだ、何のリアクションも取ってねぇのか?」
俊哉も、竜也と同じ反応だった。
「あぁ。だから、薫の口から瑞希に告白させる為にさ?みんなから、薫の事を聞きたいんだ」
「良し。そういう事なら…」
そう言うと、俺達の話に、俊哉も加わった。
「アイツ、かなり嫉妬深いんだったらさ?瑞希が、誰かに取られそうっていうのを匂わせたらどうだ?これなら、普通の男なら誰でもムッとして、食い付くぞ?」
俺は、二人の顔を見た。
「いや…、でもな?普通の男ならともかく、薫は女の前じゃ、かなりの臆病者だからなぁ…。食い付きはするかもしれんが、実際、行動に移すとなると微妙かもしれんぞ…?」
俊哉は、俺の意見に、やや否定的だった。
「うーん…。でも、アイツ、瑞希の事になると人格変わるからなぁ…。ムキになって、勢いだけでってのもありそうだしなぁ…」
竜也は、俺の意見に賛成のようだ。
が、結局意見はまとまらず、
「うーん…。なんか良い方法は無いか…」
と、暫く、三人で頭を悩ませる。
「薫は、瑞希の事好きで、瑞希も、薫が好きなんだろ?普通なら、話は早いはずなんだけどな…。ん?待てよ?だったら、瑞希も、薫の事が気になってるって言えば…」
「残念ながら、静流。それは、既に言った後だ…」
俊哉が、眉間にタバコを持った右手の親指を当てながら言った。
「八方塞がりか…。どうすれば…」
俺は、頭を抱えた。
「もう、俺達が強引に言わせるしかないかもな…」
なかなかまとまらない話の内容に、竜也は、やけくそになっていた。
「じゃあ、煽って強引に言わせるか?薫を呼びつけてさ…。で、俺達は、陰から薫がちゃんと、瑞希に気持ちを伝えるかどうかをしっかりと見といてさ…」
俺達は、ああでもない、こうでもないと言いながら、話し合ったが、結局、何も解決策は見つからなかった。
「とにかく、薫をここへ呼ぼう。話はそれからだ」
最終的には、薫を呼びつける事で、三人の意見はまとまった。
俊哉が、薫を呼ぶ為に電話を掛ける。
「もしもし?あぁ、薫?今すぐ、ウチに来い」
俊哉の命令に、薫は、
「分かった」
とだけ言ったようだ。
30分程して、薫が俺達のマンションに到着。
「来たか…」
俊哉は、薫を見るなり、
「まぁ、座れよ」
と、ソファに座るように促し、コーラが注がれたグラスを薫に渡した。
「まぁ、飲めよ」
「一体、何なんだ?俊哉兄?何かあるのか?」
薫は、不思議そうな表情で俺達三人を見た。
「薫は、瑞希の事をどう思ってんだ?」
俺は、薫に気持ちを聞こうと問いかけた。
「へっ?み、瑞希?み、瑞希は…、えっと…別に…。その…」
薫は、しどろもどろになりながら答える。
「瑞希の事、好きなんだな?」
俺は、薫の顔を覗き込んだ。
「えっと…」
薫は、俺達三人の顔色を伺う。
「どうなんだ?」
「す、好き…だよ」
薫は、うつむきながら小声で答えた。
「瑞希には、ちゃんと薫の気持ちを伝えてやったのか?」
俺は、薫に静かに問いかけた。
「いや…、俊哉兄達から散々言われてたし…。俺も、自分から瑞希に連絡取ったり、瑞希と一緒に遊んだりしてるよ。だから、俺、瑞希ともう付き合ってると思ってるんだけど…」
薫は、俺達に正直に白状した。
「告白はしたのか?」
俺は、薫に肝心な所を聞いた。
「うーん…、ハッキリとは言ってないかも…」
薫は苦笑いを浮かべた。
「あ、あのなぁ…。薫…」
俺は、苦笑いをしながら話を続けた。
「瑞希が、昼間に言ってたんだけどさ。薫からまだ告白してもらってないってさ…。ちゃんと言わねぇと、薫の気持ち伝わらねぇよ?」
「えっ?でも、瑞希は、分かってくれてるもんだと…」
薫の話を遮るように、竜也が割り込む。
「甘いな、薫。女は、薄々感付いていてもな?あえて知らんぷりしたりするんだよ。なんでか分かるか?」
「さぁ…?」
「告白と言う、イベントを一番大切に思ってるからだよ。ただ、なし崩しに、既成事実をちょっとずつ作って、なぁなぁで「いつの間にか付き合ってました」よりもな?相手の気持ちを、ちゃんと確認した上で、初めて付き合おうって…。女にとっちゃ、それは大切な事なんだ」
竜也が、いつになく真剣な表情で語る。
「そ…そうなのか?」
薫は、困惑した表情で、俺と俊哉を見る。
「そうそう。言わなきゃ、自分の気持ちなんて、伝わらねぇし、仮に伝わったとしても、曖昧に伝わってたんじゃ意味ねぇよ。以心伝心じゃあるまいし。それに、そんな関係、今は良いかもしれないけどさ。多分、いつかは崩壊しちまうぜ?」
俺も、薫には「酷だな」と思いながらも、毅然とした口調で淡々と話した。
「あぁ。大体、ちゃんと伝えてねぇんだ。誰か、他の男に、瑞希取られても文句なんか言えねぇよな?仮に、文句言ったとして、「ちゃんと告白されてないから、付き合ってたって思ってなかった」って言われてみろ?何も言えねぇだろ?」
俊哉は、うつむく薫を見ながら言った。
「ま…、まぁ、確かに…」
薫は、俺達の話は理解しているらしい。
「だったら、やる事は一つだ。瑞希に早く、自分の気持ち伝えて来いよ」
俺達は、薫の背中を押した。
「自信がねぇなら、俺が、瑞希の所まで付いて行ってやろっか?ただし、薫が瑞希に気持ちを伝える時は、俺は、外させてもらうけどね。そんなプライベートな内容に、赤の他人の俺が噛むなんて、野暮だろ?」
「うーん…、別に、誰かが付いて来なくても平気だし、自分から言えるけどさ…」
「だったら、早い方が良いぜ?昼間に瑞希が言ってたけどさ。瑞希の事、好きだって言う男がいるらしいからさ。しかも、瑞希、その男に告白までされたらしいぞ?」
俺は口から出任せで、薫の気持ちを煽った。
「ウソ?マジで?それはヤダ。絶対無理。なんで、他のヤローが…」
「だったら、さっさと言うしかないだろ?今から一緒に行くか?」
焦る薫を、俺は更に焚き付けた。
「いや、大丈夫。俺だけで、行くわ。瑞希のトコ。他のヤローに、瑞希取られたんじゃ敵わねぇよ」
薫はそう言うと、勢いよくソファから立ち上がり、足早に玄関へ向かった。
「やれやれ…。ったく、世話の焼けるヤツだよ…」
俊哉は、呆れた表情で苦笑いをしていた。
「とりあえず、今度は上手く行きそうだな」
竜也は、タバコに火をつけながら呟く。
「まぁ、後は、薫次第かな…?アイツが、本気で瑞希が好きなら絶対に言うさ」
俺は、駆け足でバス停に向かう薫の姿を、ベランダから目で追った。
外は、すっかりと夕日が沈みかけて、全ての物がオレンジ色に染まっていた。
「もう、16時半か…。アイツ、瑞希に、上手く自分の気持ち言えるかな…?」
俺は、ケータイを見ながら、タバコに火をつけて、暫く夕日を眺めていた。




