Chapter 44
俺達は瑞希と別れ、一路、俊哉達の「寝ぐら」だと言う、貸マンションに向かった。
バスに乗る為、瑞希の働いている、カフェがある通り沿いのバス停へ。
バス停の時刻表を見ると、たった今、バスが出たばかりだった。
「次のバスまで後、15分あるな…」
俊哉は、コートのポケットからケータイを取り出し、時間を見ながら呟く。
「しょうがないから、そこのコンビニで、時間潰さないか?」
竜也が、バス停すぐのコンビニを指差した。
「そうだな。ついでに、酒でも買って帰るか」
俊哉がそう言うと、俺達は揃ってコンビニへ入って行った。
「いらっしゃいませ~」
俺達はまず、本棚の漫画を手に取り、パラパラとめくった。
暫く立ち読みをしていると、薫のケータイが、突然鳴った。
「あっ。瑞希だ」
そう言うと、薫は、瑞希からの電話に出て、暫く話し込んでいた。
俺達は、漫画を本棚に戻し、酒やジュースの入った冷蔵庫の前に立った。
「とりあえず、ビールが…。何本あれば足りる?」
竜也が、俺達に問いかける。
「500mlの6缶パック二つと、バラの500ml缶が二、三本もあれば良いんじゃないか?もし、足りなかったら…、誰か走れ」
俊哉は、微笑みながらも意地悪く言った。
「いやいや…。そこは、公平にジャンケンだろ?」
俺達は笑いながら、俊哉に反論し、カゴに缶ビールを詰め込んだ。
「当然、つまみもいるよな?」
そう言いながら、充は大量のポテトチップスや、焼き鳥の惣菜等を持って来た。
「また、お前は…」
俊哉が、呆れたように、頭を片手で押さえる。
そこへ、薫が現れた。
「なぁ?みんな?」
薫の呼びかけに、俺達は薫の方を見た。
「なんだ?」
「瑞希がさ。バイト終わったから、一緒に来たいって…。駄目かな?」
薫が、少し遠慮したように言った。
「別に、良いだろ?なぁ、お前達?」
俊哉の呼びかけに俺達は、
「あぁ。一緒に来ると良いよ」
と、薫に微笑んだ。
「ありがとう。みんな。もしもし?瑞希?」
薫は嬉しそうに、瑞希に話した。
「もう一本、バス遅らせるか?」
俊哉は薫を見ながら、
「やれやれ…」
といった表情で言った。
「まぁ、しょうがねぇよ」
俺は、そう言いながら、薫を過去の自分に重ね合わせて見ていた。
「…ったく、誰かと一緒だな」
俊哉が、俺を横目で見ながら、ため息まじりに微笑む。
「ほっといてくれ」
俺は、しかめっ面で俊哉を見た。
「あははは」
俺達が待っているコンビニに、瑞希が現れる頃には、日が完全に沈んで、辺りは暗くなり始めていた。
「お待たせ。ごめんね、みんな」
瑞希が、息を切らせてコンビニに入って来た。
「あぁ、大丈夫。じゃあ、後は…、瑞希の飲み物買ったら帰るぞ?」
買い物カゴを片手に、俊哉は再び、酒の入った冷蔵庫の前へ。
俺達も、俊哉に付いて回る。
瑞希は、酎ハイとカクテルを四、五本取り、カゴに詰め込んだ。
「良し。じゃあ、金払うぞ?もう他には、良いか?」
俊哉が、俺達を見る。
「もう十分だろ?」
俺は、いっぱいに詰め込まれた、二つのカゴを見た。
レジで会計を払う。
「俺も、出すよ」
俺は、財布から金を出そうとしたが、俊哉がそれを制止する。
「今日は、お前の復帰祝いだ。だから、お前は出さなくて良い。それに…、お前の辛い時に、傍にいてやれなかった…。俺達のせめてもの償いの意味も含めて…だ」
俊哉が微笑んだ。
「気にすんな。今日の主役は、静流だからな」
竜也と充、薫が微笑う。
「瑞希も良いよ。俺が出すから」
そう言って、瑞希の分まで薫が支払った。
「悪いな…。みんな」
俺は、申し訳なく思った。
「ありがとう。薫」
瑞希は、喜んで薫を見た。
「良いから良いから」
四人が、笑顔で声を揃えた。
「おっと…。忘れるとこだった…。タバコ、タバコ…」
思い出したように、俺は、レジ横のタバコ棚からタバコを取る。
それに釣られるかのように、
「あっ、俺も」
と、男連中は一斉に、タバコに手を伸ばす。
そんな様子を、「クスクス」と笑いながら、瑞希は見ていた。
買い物が終わり、店を出ると、ちょうどバス停にバスが止まっていた。
「おいっ、急げっ!!置いてかれるぞっ!!」
竜也の掛け声に、全員が慌てた。
間一髪で、全員がバスに乗った。
…はずだった。
「あれ?充は?」
「あっ…。そう言えば…」
充が、どこにもいない。
バスは、今、出たばかり。
充は叫んだ。
「待ってくれぇ~っ!!」
「あの、バカ…」
俊哉は、呆れた顔をしながら、右手を頭に当て、掻きむしった。
バスは、みるみる速度を上げる。
俺達は、バスの後部座席の後ろの窓から、外を見る。
充が、必死に追い掛けて来るのが見えたが、どんどん引き離され、やがて見えなくなった。
「あーぁ。やっちゃったよ、充のヤツ…」
俺は、ため息をつきながら、コートの左ポケットに入ったケータイを取り、充に電話を掛けた。
「次のバス停はすぐそこだから、早く来いよ?」
俺は、車内に貼られた、バスの路線図を見ながら、充に言った。
「ハァハァ…。分かった…。うぅ…苦しい。横っ腹痛てぇ…。うぇっ…」
「汚ねぇなぁ…」
俺は言葉を失い、ただ苦笑いするしかなかった。
次のバス停で、俊哉が運転士に事情を説明し、少し待ってもらう事に。
幸い、バスの乗客は俺達だけで、それ以外には誰もいなかった。
充を待っている間に、事情を知らない乗客が、何人かバスに乗り込んで来た。
「早くしろよ…。充…」
俊哉が、イライラしながら、小刻みに足踏みをする。
するとそこへ、充が息を切らせてバスに飛び乗って来た。
「ハァハァ…。やったぁ…。間に合った…。俺、多分、世界で一番速く、さっきの場所から、このバス停までの間を走ったぞ」
充は、汗びっしょりになりながらも、なんとも言えない自信を滲ませた。
「そんな訳ねぇだろ…。ったく、お前ってヤツは…。大体、なんで乗り遅れた?急に、フラッといなくなりやがって…」
俊哉は、充に説教を始めた。
「また始まったか…。俊哉兄さんの説教タイムが…」
「あぁ…。充は、懲りないからなぁ…」
俺と竜也は、失笑しながら、口々に言った。
薫と瑞希は、俊哉と充の、日常茶飯事のやり取りを、ただ呆然と見ていた。
「いやぁ、トイレに行ってたんだよね…。でも、まぁ、追いついたんだから良いじゃん」
「良くねぇよっ!!ちゃんと言えって、いつも言ってるだろ?大体、お前はいつも…」
俊哉と充の、言葉の応酬。
「まぁ、いつもの事だから、気にしなくても良いぞ?」
「そうそう。アレがないと、逆にどっか具合でも悪いのかって心配になるくらいだからな…」
俺と竜也は、失笑しながら、薫と瑞希にフォローを入れた。
「ちょっとうるさいけど、慣れたら面白いぞ?あははは」
俺と竜也は、顔を合わせて笑った。
「おーい…。そろそろ、二人共休戦しろよ?他の人に迷惑だからさ…」
さすがに、周囲の目が気になり始めた、俺と竜也は、俊哉達の間に割って入った。
そんな俺達を、薫と瑞希は笑って見ていた。
バスは、ゆっくりと走って行く。
賑やかな俺達を乗せて。
バスは、俊哉達の寝ぐらから、歩いて5分程離れたバス停に到着した。
「もうすぐ、着くからな」
俺達を先導しながら、俊哉は言った。
俺は、朝から歩き通しだったが、仲間達との再会や新しい仲間との出会い、見る物全てが新鮮で、新しい世界だったので、長旅の疲労は感じていなかった。
おそらく、一番疲れたのは、置いてけぼりを食らって、バスを追い掛けた充だろう。
それも、充の自業自得だが…。
薄暗くなった道を、六人は、歩幅を合わせて、暫く歩いた。
白壁の6階建てのマンションの前に差し掛かった辺りで、俊哉が歩みを止めた。
「着いたぞ、静流。ここが、俺達の寝ぐらだ」
「へぇ…。静かで良いトコだな」
俺は、マンションの辺りを見回した。
俊哉達のマンションの周囲は、閑静な住宅街といった雰囲気だった。




